とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第四十四話




 ――連邦政府主星にある、グローバル都市。経済的、政治的、文化的な中枢機能が集積しているこの都市は、成都とは呼ばれていない。


主要各国を含めた宙域的な観点による重要性や影響力の高い都市であり、多国籍企業とグローバル・マネーの形成が本格化した都市であると言える。

国際的な企業や法人本部、連邦政府を支える活動の複合体を擁する都市。大統領を頂点と定義する連邦政府の中枢が君臨するこの都市を、人々は称賛を込めてこう呼んでいる。


"世界都市"――世界の名を関する偉大なる中心である。


「ファンタジーの次はサイエンス・フィクション――元幽霊のあたしが霞んでしまうわ」

「廃墟で出会った頃とは嘘のような差だな」


 海鳴町に流れ着いてからまもなく一年になるが、魔法のある異世界へ連れて行かれ――今後は宇宙船が飛んでいるSF世界へ出向する羽目になってしまった。

新しくて古い。遡ればどこまでも古く、人類の想像力の始まりの地点。学的手法の性質と重要性の十分な知識に基づいた、可能な未来の出来事に関する現実的な世界が目の前に広がっている。

物語で読むことのできるサイエンス・フィクションの手軽で簡潔な定義が、連邦政府主星において現実社会として展開されている。価値観の転倒による驚きを、アリサと一緒に味わっていた。


人間離れした宇宙人は生憎と存在していないが、宇宙船は普通に飛んでいて見上げてしまう。


「天下を取るとか時代錯誤な奴に付き合ってみれば、異星にまで連れて行かれるんだもの……
あたしなんかよりよほど奇特な人生を送っているわよ」

「そもそもお前が仕事をしろと言い出してから、トントン拍子にここまで来てしまったんだが」


 科学的知見が盛り込まれたこの世界で、人間が当たり前のように生活している。宇宙に基づいて構想された世界を目の当たりにすると、星天の上にまで昇っていくような感覚を覚える。

世界経済をリードしている、都市の規模。大きいという傾向にあるが、それだけでは表現が十分ではない。地球という遠く離れた世界の住民から見れば、架空を夢見る人々を惹きつける魅力があった。

奇妙な話だとは思うが、科学技術を織りまぜる事で現実性はより高められるという皮肉な状況。国際ビルが規律正しく建てられている都市の有様は、日本人から見ればSFよりも海外を連想させる。


多種多様な人口が多く点在していて、人々を惹きつける仕事で成り立っており、国際都市に生きる情熱と気迫が世界都市のバイタリティーを高めている。


「改めて遠き主星にまで足を運んで頂き、誠にありがとうございました。歓待の準備が出来ておりますので、ご案内させて頂きます」


(こういった場合、日本人らしくお構いなくといえばいいのかな)

(日本人のいない世界だから)

(無慈悲すぎる)


 ミラココア・ムルティプラ、ポルトフィーノ家のメイドで俺達を迎えに来てくれた女性。商会ポルトフィーノの商隊を率いる実力者であり、エルトリアのモンスター襲撃時も先頭で戦っていた人である。

メイドと聞くと清掃や洗濯、炊事などの家庭内労働を行う女性使用人をイメージしてしまうが、彼女は立派な良家の子女である。身元のしっかりした家庭に奉公する事もまた、貴族同士の関係の一環として成り立つ就職先であった。

行儀見習いや花嫁修業、見聞を広める手段として階級的な名家に奉公する例は少なくないと、以前俺の婚約者である貴族のヴァイオラに聞いた事がある。ポルトフィーノ家ともなれば、メイドであっても紹介者を求められるのだ。


単なる奉公人ではなく、リヴィエラ・ポルトフィーノの右腕が直接出迎えてくれたのだ。ポルトフィーノ商会がCW社を決して軽く見えていない証拠である。


「コロニー移住先として主星の住居区を提案されていたのですが、これほどの大都市とは……商会さんも誠意を尽くしてくれてはいたのですね」

「未練はありますか、アミティエ嬢」

「それこそまさかです。剣士さんのおかげでエルトリア復興の夢は叶えられ、お父さんとお母さんの治療にも芽が出てきています。
閉ざされた可能性を憂うのではなく、開かれようとしている未来に全力ですよ、チンクさん」


 エルトリア代表者として主星に来日したアミティエは、護衛のチンクと語り合っている。世界都市のスケールに圧倒されず、自分自身の役目を果たすべく奮起していた。

俺はCW社の社長兼エルトリアの代理人として来ているが、代表者はあくまでアミティエである。彼女自身破格の強さを誇るが、精鋭を護衛につけるのは彼女の立場からすれば当然だった。

戦闘機人の武装であるシェルコートを身に着けたチンクは小柄でこそあるが、凄腕の護衛としての雰囲気を醸し出している。工作能力を持つ彼女は護衛としてうってつけだった。


武装のシェルコートはステルス機能も持っているので、荒事が起きればあらゆる局面でも対応できるだろう。


「連邦政府を構える主星ともなると、都市の規模は相当だな…時空管理局地上本部があるミッドチルダとも比肩しうる」

「陛下が収めるのに相応しい地」

「セッテ団長がなにか企んでる!?」


 チンクとは違って明白な子供であるセッテはスーツ姿のトーレとは違って、騎士正装のスタイルである。聖王騎士団の団長として任命されて、寡黙な彼女が俄然張り切って仕立てたのである。

セッテの武装であるブーメランブレードは長いブーメラン状の刃で目立ちすぎるので、持ち歩いてはいない。彼女はブーメランブレードを手元に呼び寄せる簡易転送の技能を持っているからだ。

エルトリアの開拓では俺達の周辺を守るべく構えていたが、敵陣の主星に乗り込むとあって彼女も張り切っている。トーレはいつもどおり冷静沈着だが、大きな戦いを予感して襟を正していた。


真面目なコンビではあるが、護衛の妹さんと並んで頼りになる人達なので安心して任せられる。


「よろしければ日取りさせて頂き、後日改めて主星を案内させて頂ければと存じます。長旅でお疲れでしょうから、ホテルまでお連れいたします。
事前に説明させて頂きましたが、これから向かうホテルは当商会が運営しておりますので、どうぞ気兼ねなく何日でもお寛ぎなさって下さい。

皆様のお名前をお出し頂ければ、今後も無料でお部屋を提供させて頂きます」


 社名を出すだけで高級ホテルに宿泊!? まさかの贅沢な接待ぶりに面食らってしまう。名刺一つで世の中を動かせる権力者が居るというフィクションを信じてしまいそうになる。

クアットロめ、どれほどド派手に宣伝しやがったんだ。あくまで研究者として説明しにいけと行っただけなのに、気がつけば技術革命なんぞかましていやがる。大商会様がここまで下手に出ないぞ、普通。

大体、シュテルの奴は何していやがったんだ。クアットロの暴走は予見できていたから、冷静沈着なあいつのツッコミを期待していたんだぞ。何をどうしたら、連邦の政府研究所なんぞ用意させられるんだ。


リムジンも真っ青な高級車に載せられて、宇宙ステーションセンターからホテルまで直送してもらう。


「これからご案内するホテルはリゾート地ではございませんが、文化的な中心地となっております。
博物館や劇場、レストランやスポーツ、ナイトライフなどが充実しているので、気兼ねなくお過ごしください」

「デスティネーションということですね。ビジネスの場でありながら、観光客にとっても魅力的に映すことで経済効果を高める」

「グローバル都市では領事館やシンクタンク、国際会議場などを有する土地は政治的影響力もございます。リヴィエラ様自ら交渉に乗り出して土地を購入し、都市部を発展させました。
国際的なハブであり、グローバルな連結性が高いので、都市圏にメジャーでございますね」

「グローバル都市に必要な先見の明をお持ちのようですね、リヴィエラ様は。先程あたし達が訪れた国際空港を拝見して思ったのですが、こうして都市部を見渡しても生活の質が高い。
公共交通機関に加えてクリーンな生活環境、治安のよさにヘルスケア等一つ一つ見ても、政府の効率性などが発展しているのが分かります。

そうした政府の公共事業にもポルトフィーノ商会が関わっていると、お見受けいたします。実に素晴らしい手腕ですね」

「ありがとうございます。リョウスケ様ご本人は勿論ですが、アリサ様も非常に優れた経営眼をお持ちでいらっしゃる。頼もしい限りです」


 ……すいません、あなた達の言っていることはほとんどボクは理解しておりません。才女達の交渉な会話に、営業スマイルで頷くことしか出来なかった。何言っているか、分からないもん。

田舎者からすれば都会ってすげーなとしか思えないのだが、建物一つ見ても都市部の自由度が高い事が伺えるらしい。デジタルコミュニケーションの高さとトレードの制限の低さらしいが、なるほどとしか思えない。

ただ話を聞いている限りだと単純な行商だけではなく、連邦政府の公共事業――つまり世界都市の発展にまでポルトフィーノ商会は貢献しているらしい。


リヴィエラ・ポルトフィーノという女性は少なくともカレン達、夜の一族の姫君に匹敵する商才を持っているようだ。味方にすれば頼もしいが、敵に回すとただ恐ろしい。


「到着いたしました。当ホテルでは執事サービスが完備されておりますが、リョウスケ様はリヴィエラ様の大切なお客人でいらっしゃいます。
当ホテルご滞在の間は僭越ながら私がお世話役をさせて頂きますので、御用命ございましたらご遠慮なく申し出てくださいませ」


 ――ホテルと聞いてボーイの一人でも出てくる宿かと思っていたのだが、桁が全く違っていた。まずその執事サービスって何なんだ!?

リヴィエラがオーナー権を持つこのホテルは世界都市でも評価が高く、非常に人気があるらしい。予約するためには4年間の会員権を購入する必要があるセレブ御用達らしいが、無料で貰えました……そろそろ申し訳なくなってくる。

政府の重鎮や政財界のお偉いさんが利用するらしく、世界都市が360度見渡せるパノラマビューにガラスのシャンデリアが光っている。4つのスイミングプールやウォーターパーク、娯楽施設類はいつでも使い放題らしい。


案内された部屋には高級ピアノまで完備されていて、仰け反ってしまいそうになった。金持ちの趣味が全くわからん……


「お部屋はこちらとなります。上限6人までの宿泊ではありますが、12のベッドルームとバスルームをご提供させて頂いています。
お気に召して頂ければ、リョウスケ様専用として常に優先させて頂きますので、ご希望あればおっしゃって下さい」

「あ、ありがとうございます……機会があれば、あはは」


 ちなみに付属としてルセデス・ベンツやロールスロイスも真っ青な高級車に加えて、ヘリコプターを使った送迎サービスを受けることが出来るらしい。さすがはSFの世界だぜ、何もかもスケールが違いすぎる。

しかも一番意味わからんのが、部屋についているガラス張りの専用エレベーターである。いいか、よく聞けよ。スパとかドライサウナとか目じゃないぞ、専用のエレベータなんだぞ!?

お金持ちともなれば、エレベータまで専用で乗り回せるのか!? そんなの専用してどうするんだ。ちくしょう、脳みそが一周して面白くなってきやがったぜ。アヒャアヒャヒャヒャ。


そうして荷物をおろし、メイドのミラココアさんが退室されて一息――俺は、立ち上がる。


「じゃあそろそろ帰ろうか、アリサ」

「貧乏な暮らしに逃げようとするんじゃないの」

「よーし、エレベータのボタン押し逃げしちゃうぞー!」

「誰も乗ってこないから、果てしなく無意味な遊びねソレ」


 こんな贅沢な暮らしをしていて、金持ちは頭がおかしくならないのだろうか。富裕層ってこういう生活をしているのか、そりゃ権力者もド汚い事しまくるわ。

一年前まで民宿に泊まる金もない浮浪者生活だったのに、まだ十八歳になろうという男が専用エレベータのある高級スイートルームで転げ回っているんだ。どういう人生を送っているんだよ、俺は。


いや、ちょっと待て。軽く流されていたけど、問題があるぞ。


「あれ、12のベッドルームとか言ってたけど、俺達全員一緒の部屋に滞在するのか」

「そりゃそうでしょう」

「いやいやいや、俺以外全員女じゃねえか。性欲あふれる青少年になんて、女性陣からなにか言葉はないのか」


「剣士さんのことは信頼していますので、別に」

「陛下なら平気」

「高尚な貴方様が、そのような無体をなさるはずがございません」

「寝室は別なんだから、大丈夫よ。だいたいそんなの今更でしょう」


 照れ笑いのアミティエを筆頭にセッテやトーレ達に加えて、アリサまでオチをつけてくる。コイツラの頭の中には羞恥心という言葉はないのか。

水でも飲もうかと思ったけど、冷蔵庫を開けてみれば高級酒が余裕で並んでいる。ラッパ飲みでもしてやろうかと思ったが、あいにくと今晩は晩餐会らしい。

是非ともおもてなししたいと、オーナーのリヴィエラご本人たっての希望だった。ドレスコードまでしてのディナータイムで、主賓は俺らしい。


頭を抱えていると、部屋の扉が突然開いて――


「ようこそお越しくださいましたわ、陛下。どうです、見事な営業戦略でしたでしょう!」

「父上の名を高めるべく、愛娘に恥じない働きをしてまいりましたよ。ささ、健気な娘に対してなにかお褒めの言葉はないのですか!」


「ウエスタンラリアート」

「ジャーマンスープレックス」

『のおおおおおおおおおおおおおおおお』


 部屋に押し入って図々しく手柄を主張するバカ共相手に、俺とセッテのコンビ技が芸術的に炸裂した。

俺が営業として接待するはずだったのに、どうしてこうなった……


期待値を思う存分高められて、今宵の晩餐会に挑む。















<続く>








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