とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第二十八話
……考えてみれば白旗のリーダーだからといって、惑星エルトリアの代表にまでなることはなかったのではないだろうか。
別に永住するのではないので、アミティエやキリエに任せてアドバイザーにでも回ればよかったのだ。あの二人は体力自慢だからといって、別に頭が悪い訳ではない。
今更言っても後の祭りだが一応二人に確認してみたのだが、姉妹揃って俺なら安心だと言わんばかりに和気藹々と拒否された。何であれほど全幅の信頼を寄せているのか、よく分からん。
投げ出すわけにもいかないので、渋々アリサより渡された書類を持って通信設備から交渉へ応じる。
『貴様、どういうつもりだ』
『これは代理人殿、お疲れ様です』
出会い頭に怒鳴り声を浴びせられたが、世界会議では夜の一族の姫君達に冷笑を向けられたことも数知れずあるので、この程度は余裕である。
人生経験になっているのかどうかは微妙なところだが、こういう政治的場面では鍛えられているので複雑である。教養も学歴もない俺には一生無縁だったはずなのだ。
日本ではありえないことなので、異世界ならではの経験と言えるかも知れない。忍が好きなゲームや映画等だとこういう場合主人公には特殊能力が与えられているのだが、俺は思いっきり等身大である。
銀河の果てで連邦政府の代理人からクレームされても、どうすればいいのだと頭を抱えるしかない。
『呆けた振りをしても無駄だ、このペテン師め。事と次第によっては、立法府へ訴えることも辞さない』
「私は貴方との契約通り、フローリアン夫妻を惑星エルトリアから退去させました。お互い約束を果たしたことは確認済みですよね」
「あくまで白を切るつもりか。代理人である私が、何処ぞと知れぬ貴様を鵜呑みにするとでも思ったのか。惑星エルトリアを監視させていたのだ。
蓋を開けてみればどうだ。フローリアン姉妹を退去させたその瞬間から、惑星エルトリアのテラフォーミングが行われているではないか。
立ち退きが決まった惑星に対し、手を加えることは立派な犯罪だ。惑星エルトリアは連邦政府より脱退すると考えてもいいのか」
……住民を強制退去させておきながら、環境改善を行ったら連邦諸国の一員を匂わせるなんてどうかしている。お前らが勝手に見捨てたくせに。
そもそも見捨てたのなら既に惑星として成り立っていないのだと暗に認めたのだと同じなのだから、放置していても問題ないんじゃないだろうか。意味が分からん。
ただまあ、荒唐無稽だと一蹴する気はない。惑星エルトリアには危険なモンスターだっているし、環境だって危ういのだ。
退去させて本当にそのまま放置すれば、無法地帯になりかねない。連邦政府として一定の監視が必要だというのは、まあ理解できなくもない。
俺だって放置されていた廃墟に居座った事だってあるからな――アリサとかいう幽霊がいたけど。
「いいえ、むしろ代理人殿。私は貴方との関係を考慮して、今もこの惑星で活動しているのですよ」
『どういう意味だ、白々しいぞ』
「簡単な話です、代理人殿。
この惑星エルトリアには、自浄作用が機能していたのですよ」
『自浄作用、だと……?』
――多分別室で聞いているアリサも、自浄作用とか何いってんだあいつとか頭を抱えているに違いない。俺も実は適当に喋っている。
アリサと話し合って幾つか言い訳は考えついたのだが、あまりピンとくるものはなかった。その場しのぎはなんとでも出来るのだが、どうしたって後が続かないのだ。
なぜならこちらは惑星アルトリアに村の概念を構築し、移住民を大量に集めている。その上住居者が人外とくれば、どう見たってエルトリアは魔境にしか見えないだろう。
だったらいっそのこと開き直って、真実と虚実を並べ立てるしかない。
「既にご存知だと思いますが、惑星エルトリアには幾つかの古代遺跡があります」
『遺跡は把握している。だがどれも機能していない筈だ』
「機能しないのではありません。機能する条件が整っていなかったのです」
『むっ、どういう意味だ』
「ここから先は今の状況を顧みた私の推測ですが、的を得ていると自負しております。
あの遺跡は惑星エルトリアの古代人が、今の衰退を予測して残した遺跡だったのではないかと」
『ふむ、疑問はあるが……とりあえず続けろ』
「惑星エルトリアは当時より環境が酷く、人類の住まう星ではありませんでした。当時より発展したヴァリアントシステムやナノマシンといった高度な技術もございますが、限界があります。
そこで人の住めない環境となった時を見計らって、自動で洗浄する機能をあの遺跡に搭載したのでしょう」
『何を馬鹿馬鹿しい妄想を働かせている。だったら何故、今になって起動したんだ。
惑星エルトリアの環境は我々連邦政府が何度も観測や現地分析を繰り返し、その上で苦渋の決断として退去を命じたのだ。その間、一度だって自浄作用は働かなかったのだぞ』
「人が住んでいましたからね、当時は」
『……フローリアン夫妻とその子供達か』
「実際、彼らが退去した時から惑星エルトリアの全遺跡が稼働しています。何でしたら、遺跡のデータを提供させていただきますよ。
遺跡の発動とフローリアン夫妻の退去は同タイミングだと、すぐにお分かりになる筈です」
当然である。退去させたのはこの俺で、ユーリとイリスに遺跡を発動させたのも俺なのだから、同じタイミングなのは当たり前だ。
自浄作用だってユーリが生命操作能力を発動し、イリスが遺跡を中継してユーリの力を惑星全土に流しているので、俺の仕業と言い切れる。
だがそのどちらも、現場にいなければ絶対にわからない。代理人や連邦政府が外から観測したって、把握なんて出来ようもないのだ。
事情を知っているから言いたい放題言えるのである。
『いや、待て。人が住めない環境が遺跡発動のトリガーだとすると矛盾が出る。貴様らがいるではないか』
「我々は外から来た人間で、異邦者です」
『遺跡はどうやってそれを判断している』
「遺跡には遺伝子を分析する機能がございます。この機能についても解析済みですので、後ほど代理人殿に共有いたしますよ」
『むむ……』
これは本当である。子供の頃のキリエが初めて遺跡を訪れた際にイリスと出会ったのだが、その時にイリスは遺伝子分析をしてキリエという人間を把握している。
ヴァリアントシステムやナノマシンは人体の構造に関わる機能なので、この手の分析能力はお手の物らしい。
遺伝子改良も出来るらしく、イリスが自分も俺と同じ遺伝子にも出来ると顔を赤くしながらゴニョゴニョ言っていた。
気持ち悪かったので笑ったらイリスにぶっ飛ばされて、イクスヴェリアに呆れられた。娘の考えることはよく分からん。
『そのデータとやらを見てみなければ何とも言えないが、貴様の言い分が正しいのだと仮定しよう。
エルトリアの環境が改善されつつあるとは言え、立ち退きが決まっている事には今のところ変わりはない。
何故こちらに何の申し立てもなく、貴様はエルトリアに留まって勝手な行動をしている』
「放置すれば環境がどうなるのか分かりませんが、それでもよろしいのですか。遺跡任せにすると、危ないのでは?」
『だからといって、何も貴様が居座ってやることではないだろう』
「私も一旦はそう思ったのですが、代理人殿の事を考えて思い留まることにいたしました」
『私だと……?』
「はい、考えても見てください。貴方と私が取引をしたその途端に、惑星エルトリアの環境が劇的に変化されたのです。
フローリアン夫妻の退去がトリガーになったのだとすれば、それすなわち退去を命じた連邦政府の責任となります。
突然の責任問題に発展した立法府は当然困るでしょう。となれば最終的に責任が向けられるのは――」
『――退去を命じた代理人の私、ということになると言いたいのか』
「ですので、事情を知る私が何とかコントロールしなければと思い立った次第です。幸いにも遺跡のコントロールが難しくなく、環境の暴走は防げています。
勝手に人員を投入したことは謝罪いたしますが、これも全ては退去という判断が責任問題に発展しないように苦慮した結果と受け止めてもらえれば助かります。
ご安心ください。私が雇ったスタッフは皆優秀で、連邦政府の意向にも従う者達ばかりです。此度の件を大事にしないように、釘を差しております」
『ふん……貴様、胡散臭い商人の類かと思ったが、なかなかどうして政治のイロハを分かっているようだな』
ほんとかよ、おい。結構俺は適当なことを言っているんだぞ、そんな真剣に受け止めても良いのか。子供の言い訳レベルだと思っているんだが、案外感心されてビビってる。
世界会議でも口の達者な日本人だとカレン達に色々言われたが、デマカセ並べているだけなのでただのハッタリでしかないんだよな。
今並べた言い訳も、現場の状況を顧みてからの分析でしかない。最終的に良い結果となったから言えるだけで、ユーリ達が失敗すればやばかった。
代理人も難しい顔こそ崩さないが、最初に怒鳴り散らした怒りは少なくとも消えていた。
『とにかくまずその遺跡のデータと、貴様が雇ったスタッフのリストを見せろ。当然だが、今の惑星エルトリアの環境データもだ』
「承知いたしました、すぐにでも。それで、我々はやはり退去しなければいけませんか」
『……いや、本当に貴様の言っていることが事実ならば逆に退去されるのはまずい。今は貴様が責任者となって、作業を続けろ。
こちらも退去という判断を下したことも含めて状況を整理し、立法府へと掛け合っておこう』
「ご理解いただけて何よりです」
『私は理解したが、立法府がどのような判断を下すのか予測はできんぞ。前代未聞の事態だ。
もしもエルトリアの遺跡に惑星を自浄作用する機能があるのだとすれば、叡智の産物だからな。
貴様にも招集がかかるやもしれん、覚悟はしておけ』
「承知いたしました、準備はしておきましょう」
『どうやら貴様とは意外にも息の長い付き合いとなりそうだな。一応、名乗っておこう。
私は連邦政府の代理人、"ニーヴァ・ブラックウッド"だ』
「ご丁寧にありがとうございます、私も改めて名乗りましょう。宮本良介、異星人です」
こうしてクレーム対応は終わった。
どうなることかと思ったが、ひとまず猶予は与えられた。この隙に村を構築して、退去命令が出づらくなるように状況を整えておこう。
既成事実を積み重ねれば、連邦政府だって無慈悲な真似はできまい。立ち退きは住民が少ないからこそ強行できるのであって、多ければ多いほど強弁は出来なくなる。
ただ連邦政府に招集命令が来る可能性があるのか……
「まあさすがに連邦政府という政治の場に、カレン達のような怖い女がいないだろうな」
日本の政治なんておっさんばかりだしな、アハハ。
俺は笑い飛ばして、人外連中のいる村へと手伝いに戻った。
<続く>
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