とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第十五話
「駄目」
「いくー!」
「駄目駄目」
「やー、やー!」
「じゃあ、俺に勝てたら――」
「ドーン!」
「ぬわっ!?」
「1、2、3――カンカンカーン」
「何で唐突にレフィリーやってんだ、シュテル!?」
「フォール負けで秒殺ですよ、お父さん……」
「不意打ちは汚いぞ、正々堂々と戦え!」
「剣士ともあろう父が、真剣勝負の妙を語るとは情けないぞ」
「パパ、ナハトにはよわよわだよね」
「ぐっ、これぞ家庭内暴力」
宮本家における真剣勝負とはギブアップ、ノックアウト、場外カウントアウト(規定時間内に家に帰らない事)、反則勝ち(家族が悪質な反則であると判断する事)等が挙げられる。
反則行為を犯した者がレフェリーに反則カウントを取られたり、悪質な反則であると判断されると、反則を犯した者は即反則負けとなる。
これぞ我が家の真剣勝負であった。
「かったー!」
「待て、男の真剣勝負は三本勝負だぞ」
「見苦しいぞ、父よ。敗北を受け入れるべきだ」
「お前達、ナハトヴァールを危ない場所へ連れて行ってもいいというのか」
「キリちゃんとアミちゃんの故郷をそんな風に言っちゃ駄目だよ、パパ」
「ぐっ、いつの間にかレヴィがアミティエ達と友好を深めていやがる」
俺の上に乗っかって大はしゃぎするナハトヴァールに、俺は歯噛みする。何とか必死で抵抗するが、生憎と賛同を得られなくてレヴィ達が冷たい目で俺を見下ろしている。家族の絆とは一体何だったのか。
発端としては単純だ。惑星エルトリア出向に向けて、いよいよ家内人事に取り組んだというだけ。誰を連れて行くか、誰を留守番させるのか、いよいよ家族にメスを入れなければならなくなったのだ。
まずユーリは選抜した、必要な不可欠な存在である。ユーリの実力はミッドチルダでも随一であり、生命操作能力はエルトリアの開拓計画に欠かせない存在だ。キリエ達の両親も治療しないといけない。
シュテルは自ら率先して名乗りを上げた。父上の居ない日々は理性を狂わせると謎の脅しをかけてきやがったので、渋々受け入れた。まあ、CW社の開発メンバーは必要だからな。
ディアーチェは選ばれて当然とばかりに、胸を張っている。この子については聖地の統治もあって悩んだのだが、ヴィヴィオが留守番役を引き受けたので承諾した。
レヴィは最初から選んでいる。こいつは明るくて良い子なのだが、放置しておくと何するか分からない暴走娘である。悪さをするタイプではないが、イタズラは余裕でするので放ったらかしに出来ない。
なので末っ子のナハトヴァールを留守番させようとしたら、フォール負けしてしまった。
「そもそもナハトヴァール一人を留守番させるのは可哀想ではありませんか、父上」
「こいつは一人でも平気な顔して遊び回るじゃねえか」
事実である。日本中を旅していた俺の気質を受け継いだのか、ナハトヴァールは好き勝手に遊び回る行動力があった。好奇心旺盛で、誰とでも仲良くなるので毎日遊び回っている。
異世界でも精緻に留まらずに遊び回っており、各地で友達を作っては事件に巻き込まれて解決したりしていた。誰からも愛される我が子は天使であり、旅人だった。
必ず家には帰ってくるのだが、泥だらけだったりすることも多くユーリに怒られたりしている。子供らしいと言えばそれまでなのだが、そのうち勝手に旅にでも出そうな子であった。
とはいえ、シュテルの言っていることも理解できる。小さい子を何ヶ月も留守番だなんて、育児放棄だ。
「しかし先程も言ったけど、惑星エルトリアは過酷な環境なんだぞ。凶悪なモンスターが多数いると聞いている」
異世界と言えばモンスターなのだとゲーム好きの月村忍は当初興奮していたが、実際のところミッドチルダにはそんな存在は居なかった。当然である、時空管理局や聖王教会による治安は優れていたのだから。
綺堂さくらが異世界を異国だと表現していたが、ある種しっくり来る。魔法なんぞという現実離れした力はあるが、その魔導が人々の生活を守り豊かにしている。
だからこそこの現実が守れられているのであり、現実を侵食する幻想なんてない。魔龍や異教の神と戦いこそしたが、あいつらにも理性や知性は確かにあった。
しかしながら惑星エルトリアには、治安なんてものは存在しない――見捨てられた地、なのだから。
「ナハトならモンスターだってぱくりと食べちゃうんじゃないの、あはは」
「普通に齧りそうだから怖い」
「過酷な環境にしても、むしろ我々よりも適応が早いかもしれませんよ」
「ナハトヴァールは無限再生機構であるからな、どのような環境下に置かれても機構が働く仕組みとなっておる」
レヴィは気楽に笑っており、シュテルやディアーチェも知性的な観点で保証する。彼女達の言いたいことは理解できるが、感情が納得できないのはやはり父親であるからだろうか。
危険な真似をしてほしくはないという願いは、剣士にとっては致命的な矛盾だ。なぜならその危険な剣を取り、危険な行為をして人を斬るのだ。危険を唱えるのであれば、真っ先に剣を捨てるべきだ。
ナハトヴァールには道理を説いておきながら、同じ我が子のディードには剣を許したりしている。矛盾しているではないかと指摘されれば、本当にその通りだ。
人間というのは、厄介な生き物だと思う。大人に近づければ近づくほど、単純な理屈では生きられなくなってくる。
「大丈夫ですよ、お父さん。お姉ちゃんである私が、ナハトヴァールを守りますから!」
「だってさ、ナハト」
「お、おー」
「どうしてドモッたの、ナハト!?」
――イリス事件ではユーリを守るべくベッタリだったナハトだが、事件解決した後はどこ吹く風と言わんばかりにユーリから離れている。
別に仲が悪くなったのではなく元通りの家族となっただけなのだが、より一層仲良くなれたのだと思っていたユーリはションボリしていた。姉妹の距離なんて今くらいが適切だと思うが。
今も頑張ってお姉ちゃん風を吹かせているユーリだが、努力が実ることはなさそうだった。可愛そうだが、口出しするのはやめておこう。
ナハトヴァールだって、ユーリが大好きなのだから。
「仕方ない、ナハトヴァールも連れて行くか」
「やったー!」
「予防接種は受けさせるからな」
「やー!?」
こうして我が家は全員、惑星エルトリアに出向となった。
「……プレシアママが、帰ってこいって」
「そりゃそうだろ」
「申し訳ありません。帰郷を命じられておりまして、此度の件は私も御暇させて頂きます」
「残念だが、仕方ないな」
ものすごくションボリしているのは、俺の守護霊を気取っているアリシア・テスタロッサ。自分は大本命だと思っていただけに、完全に落ち込んでいる。
そもそもアリシアが俺の所へ来ていたのは本人の希望もあるが、プレシアは俺への恩返しでリニスと一緒に送り込んできたのである。
実際に二人は力になってくれていたのでありがたかったが、聖地動乱からイリス事件解決に至るまで一切合切便りの一つも送らなかったので、プレシア・テスタロッサが激怒してしまったのだ。
いいから帰ってこいと言われて、アリシアはめでたくお留守番になった。
「大丈夫ですよ、義理の娘よ。私がこの子を守りますから」
「あんたも一緒にアリシアと行くんだよ」
「ええ、貴方は母を追放するというのですか!」
「イリス事件の大ボスだったくせに、何言ってやがる。事件が風化するまで、世間様の前に顔を出すんじゃない」
若く美しい肉体を手に入れて絶頂期のオリヴィエママを、俺は容赦なく突き放した。当然だ、こいつのせいで事件が大事になってしまったのだから。
オリヴィエは聖王教会にとって絶対の神であり、同時に最大の禁忌だった。何しろ聖王教会は今、俺という御輿を担いでいるのである。正真正銘の本物が現れたら一大事である。
時空管理局にとっても、目の上のタンコブだった。事件の主犯ではないが、世界の崩壊を招いた人物。本来ならば即刻封印となるが、相手は古代ベルカの生き証人だ。
こんな存在を世に出せないという両者の移行により、容赦なく俺に預けられた――なんでやねん。
「でしたら、私もあなたと共に異教へ参ればいいではありませんか。新しき国を今こそ作りましょう」
「絶対そういうと思ったから、惑星エルトリアには連れて行かない」
「なんですって!?」
確かに世間の目から隠れるのであれば俺と同じく惑星エルトリアに行けばいいだけの話だが、未開拓惑星なんて見せたらこいつはこう言うに決まっている。
めでたく肉体を手に入れて正気に戻るのかと思いきや、怨霊の頃に引きずっていた想念が未だに残っていやがる。俺が幕引きとして戦ったのがまずかったらしい。
悲劇を止める役目を俺が担ってしまっただけに、強い運命を感じたようだ。やはり我が子に違いないと、オリヴィエは大喜びで俺の親を気取っている。
ということで鬱陶しいかつ邪魔なので、プレシアと同じく島流しにあってもらおう。
「そもそも肉体と魂がまだ完全に定着していないんだ。静かな環境で休んでいてくれ」
「そうだね、わたしも精霊となったばかりで修行しないといけないし、オリヴィエママも付き合ってよ」
「そ、そこまで私のことを考えて……なんていい子たちなのかしら」
アリシアは俺の守護霊としてオリヴィエと長く一緒にいただけに、本当の親子のように仲良くしている。プレシアが聞いたら嫉妬しそうだが、あいつも魔女なので怨霊と同じようなものだ。
それに惑星エルトリアの開拓は一大事業だ、申し訳ないがオリヴィエという悩みのタネを連れて行く余裕はない。もう怨念はないだろうが、惑星の汚染は懸念されてしまうからな。
静かな環境で安らかに暮せば、狂気だって晴れるかもしれない。時空管理局や聖王教会についても、流刑地に自ら進んでいくのであれば特に反対しないだろう。
本人達は残念そうだが、留守番が決定した。
「フェイトはCW社のアルバイトとして、一緒に派遣されるんだよね。妹のこと、よろしくね!」
「良い社会勉強になると思います。フェイトも張り切っていますので、どうかよろしくお願いいたします」
「こっちとしても優秀な人材はありがたいからな」
フェイト・テスタロッサ、CW社の魔導殺し実験に参加してくれる彼女も同行することになった。
裁判を終えたばかりで保釈された彼女にとっても、ミッドチルダはまだいづらいのか、惑星エルトリアへの派遣はむしろ積極的だった。
アルフも行きたがっていたのだが、残念ながら過酷な環境に適応できそうになかった。使い魔としては頑強なのだが、環境適応能力となると厳しいらしい。
そういう意味では、ザフィーラが留守番なのも結果的にはよかったかもしれない。
「でもでも、姉を差し置いて妹と仲良くするのは禁止ね」
「適切な距離を保ってくださいね。道徳教育を忘れてはいけませんよ」
「全然信用してないじゃねえか、てめえら!?」
こうして着々と、メンバーが出揃っていった。
後は――イリスとイクスヴェリアだな。
肝心要の二人を迎えに行くべく、俺は会場隔離施設へと出向いた。
<続く>
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