とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第十一話




 地球に限らず、管理外世界からミッドチルダのある第1管理世界への渡航は厳密な制限が課せられている。

日本から海外腫瘍各国への渡航と同じ、もしくはそれ以上にどのような目的であろうとも自由に行き来する事は出来ない。移民問題を始めとして、異種民族との共存はハードルが高い。

文明に限らず価値観などが異なるのは勿論だが、世界線を超えると世界観まで異なってしまう。考え方の違い一つで死人が出る事だってあり得るのだから、無理もないと言える。


厳密な制限が課せられていた管理外世界、地球に対して昨年風穴が開けられた――海鳴である。


「入国管理局――何の変哲もない建物にまさか、これほどの窓口を開いていたなんて。役所が追求しないのは、手を回している為ね」

「異世界から侵略している訳じゃないよ。合法的な手続きは行っている」

「昨年日本に新たな貿易路を開拓したディアーナ様に口利きしたのね……
出来れば、私を経由してもらえるかしら。事後承諾されると手続きが面倒になるから」

「その点は申し訳ない。手っ取り早いとかで、おたくの姪っ子がやってくれたんだ」

「……私に説明するのが面倒になったわね、あの子。まったく……」


 それよりもいつの間にか日本に貿易路を展開していたという、ロシアンマフィアの手口が恐ろしいんですけど。女ボスになってからやりたい放題やっているな、ディアーナは。

急激かつ急速な経済発展を遂げる海鳴は現在、恐ろしい勢いで拡張を広げている。海鳴に帰ってくる度に都市が発展していくのが、怖すぎる。浦島太郎になった気分だった。

海鳴は元々国際都市で外国人の利率は比較的高かったのだが、今では比較的なんていう代物ではない。やたら日本に友好的なアメリカ人やロシア人が多数見かけて、占領下に置かれた感じがしてならない。


本来なら急激な国際化は地域住民との衝突が起こるのだが、よほど徹底した選抜がされているのか外国人達が非常に愛想が良く地域に馴染んでいて、海鳴住民に受け入れられている。


「他国への渡航は何度も経験があるけれど、世界線を超えるのは初めてよ。手続きは全て貴方に任せればいいと聞いていたけれど、身元確認なども必要ないのかしら。
一応自分の身元証明になる書類は用意してきたのだけれど」

「手続き自体は必要だけど、こちらでやれば簡略化できる。忍やノエルは、今ではほぼ顔パスになっているな」

「あの子達、というより貴方の顔が利いているのね……どんな立場になっているのか、気になるわ」


「渡航してから説明するよ――では改めてようこそ、異世界へ」


 海鳴の入国管理局からベルカ自治領の渡航施設へと、転移。魔法理論が組み込まれた転移装置は一瞬での移動ではなく、刹那を感じる転換といった方が正しいかもしれない。

初めて足を踏み入れる異世界への一歩は転移装置の中で、綺堂さくらは目を白黒させていた。空間転移の感覚は酩酊に等しく、一瞬であれど目眩を感じるのは無理もない。

渡航後の手続きは実は渡航前よりも単純である。何しろベルカ自治領の渡航施設を管理している施設員は聖王教会の信徒であり、俺の顔を見るなり最敬礼なので怪しまれる素振りさえありはしない。


その事実に困惑こそしていたさくらだったが――施設を出た瞬間、息を呑んだ。


「――ここが、異世界」

「魔法文化が最も発達している世界だ」


 月村忍曰くファンタジーをあまり感じさせない世界と表現した、次元世界。聖王教会や時空管理局が大きな影響を持つ、第1管理世界。

魔法文化が最も発達している世界と俺は言ったが、正確に言えばミッドチルダ式魔法の発祥の地である。ベルカの名を関する自治領であれど、古代魔法の発祥はここではない。

ミッドという略称がよく使われている世界だが、実のところ多岐に渡った世界の構築がされている。首都のある中央と、周囲の東西南北の5地域に大別された、巨大な世界であった。


海外渡航歴の多い綺堂さくらは驚愕と感動こそあれど、混乱はなかった。


「お伽噺の中に入ったという感覚はないわね。異世界というより、異国へ来た感想に近いわ」

「間違ってはいないな。異世界なんぞという表現こそしたが、ここは自治領だ。政治があって経済も成立する、立派な国だよ」

「外国人が多いという認識はむしろ筋違いね。日本人である貴方が一番目立っているのではないかしら」

「西欧の血をひくさくらの方が、よほどこの異世界に馴染んでいるかもしれないな」


 政府などの行政機関の存在については正直常に時空管理局や聖王教会を通しているだけに、具体的な政治体制については不明に近い。

主要機関はあるが、管理局の影響がやはり強すぎる。ロストロギアなどの強大かつ禁忌な代物が存在するだけに、世界を管理する組織が圧倒的な権力を有しているのだ。

ベルカ自治領は管理局の影響こそ薄れつつあるが、その分聖王教会が幅を利かせている。聖王のゆりかごと聖王、そして予言の聖女を有した宗教組織は全盛期を謳歌していた。


そのような世界へ足を踏み入れたさくらは驚愕を抑えて、大きく息を吐いた。


「車を用意している。本来忍が就職を望む企業へ真っ先に向かうべきだが、まず異世界について詳しく説明したい」

「よろしくお願いするわ。あの子が将来この世界への移住を考えているのであれば、徹底的に聞かせてもらうわよ」

「分かった、車を回してくれ」


「……異世界と聞けば、移動手段は馬車をイメージしていたわ私」

「ははは、鉄道もあるぞ。あいつは不平不満を漏らしてた」

「あの子の気持ちも少しは分かるわね。失礼かもしれないけれど、情緒がないというか」


 案内されたのも高級車なので、異世界へ来たという感覚が若干足りないかもしれない。海外渡航歴がなければ違う感想もあったかもしれないが。

車で案内する中で、綺堂さくらが真っ先に問うてきたのはやはり治安だった。当然である、海外だって治安の悪い場所は十二分にあるのだから。

俺がかつて行ったドイツだって、武装テロだのなんだのと様々な困難に遭ったのだ。撃たれて死にかけたことだってあるのだから、笑えない。


綺堂さくらへの礼儀を込めて、案内役は俺が自ら引き受けている。月村忍の将来は俺にかかっているのだから、当然だった――あいつとの関係自体は、否定しまくっているが。


「魔法という存在があることは事前に説明したが、治安に関する部分に触れておく。
まず魔法の発動には魔力と呼ばれるエネルギーが必要不可欠なんだが――

この魔力の動きや自然災害の把握の為に、土地開発や建造物建築の際に一定区画ごとへのセンサー配置が義務付けられている」

「近年、日本でも幅広く運用されている監視カメラ類による治安維持ね。異世界でも徹底はされているのね。
その魔力と呼ばれる力は、異世界の住民は誰で持っているのかしら」

「いや、この次元世界に住まう者すべてが総じて強い魔力を持っているというわけではなく、魔力が無い者だっている。
忍はこの魔法に強い興味と意欲を示していて、学問の一つとして勉強することを視野に入れてはいる」

「あの子の素質や素養はどの程かしら」

「魔導ランクと呼ばれる資質の測りがあるんだけれど、あいつは素質を持っているらしい。ただ血の影響なのか、振れ幅が多くて安定しないと聞いている」

「――夜の一族においても、あの子の素養は別方面に開花しているからね。遊び半分で事故にはならないのであれば、いいけれど」

「魔導師についてうちはプロばかりだから、その点は心配しなくていい。ただ――」

「ただ?」


「月村すずか。あいつの妹は、異世界でも屈指の才能と素養を秘めている。俺の血を飲んで、活性化した」

「! あなた……!」


 綺堂さくらは車内で息を呑んで、我知らず後ろを振り返る――護衛である月村すずか、妹さんは追尾するもう一台の車に乗って今日も自分の使命を全うしている。

神の座は聖地の動乱を収めた後に降りてしまったが、神輿である立場は残されている。単独行動は周囲が許してくれず、護衛や警備が常に同行してくれていた。

特にイリスやフィル・マクスウェルが起こした事件を解決した事で名声や名誉だけ死ぬほど与えられて、レジアスやカリーナお嬢様は鬼のように持ち上げて自分達の権威を高めているのだ。


プライベートは与えられているが、勝手な行動は許してくれない矛盾があった。マスメディアにつきまとわれても迷惑だけどね。


「……始祖様の血を継いだあの子は特別よ。貴方の血を飲んで、変質は起きていないかしら」

「大丈夫、事情を知る者だけで検査は徹底されていて問題は一切起きていない。才能が開花されて、魔導にも目覚めた。
時空管理局や聖王教会の優秀な魔導師達に学んで、確かな力の使い方を着実に得ている。先生たちは、確かな身元の人達だよ」

「その点も聞いておきたいわ。この異世界を管理する組織、この自治領を監督する宗教について」


 異世界でスローライフでもやって生きていくのであれば無縁であるが、あいにくと俺の周辺は政治や経済の生々しさに満ち溢れている。

自分から率先して参戦したので致し方ないのではあるが、忍はあくまで俺の助力で付き従ったに過ぎない。

それが今では政治や経済に関係して、兵器開発に乗り出しているのだから他人事では決して済まされない。聞き出そうとするのは当然だった。


時空管理局はレジアスが、聖王教会は聖女様やカリーナお嬢様より承諾を得ているので、ある程度は情報開示が行える。


「時空管理局はこの次元世界――つまり異世界から質量兵器の根絶と、ロストロギアと呼ばれる魔導品の規制を働きかけてきた組織だ」

「質量兵器というのは、私達の世界にある兵器と捉えていいかしら」

「ずばりその通りだ。各次元世界の管理を始めたのは約150年前ほど前で、管理局と呼ばれるシステムを作りあげて、今に至っている。
政治色が強い事の象徴として、管理局の誕生を期に新暦へと変わったくらいだからな」

「年号の新生――歴史に刻まれるほどの一大事として重要視されているということね。貴方はその組織と強い結び付きがあると?」

「ああ、このミッドが管理局発祥の地と呼ばれる最たる要因――地上本部という拠点の長と人脈を築いている。

ここからだと少し見えづらいが――ほら、あそこに大きなタワーが見えているだろう。

ミッドチルダにある管理局の地上施設。ミッドチルダの地上を担当する部隊の本部、その中央に超高層タワーがある。
市街地のビル群より遙かに高い数本のタワーからなり、中央タワーの最上階は展望台となっている」

「中央集権……というのは少し意味合いが違うのかしら」

「強い権威と権力を保持しているのは事実だ。各タワーの基幹部に広がる形で緑地が整備されていて、中央議事センターや指揮管制室などの施設を内包している。
ここ最近テロ関連の事件が多発していて、防御システムは魔力障壁と物理隔壁の二重のシステムが用意された。

俺と強い繋がりがあるレジアス中将と呼ばれる人物が地上部隊の事実上のトップであり、地上本部の発言力や武力は本局からは警戒視されている程強まっている」

「――忍がその人の要望を受けて、兵器開発に関わっているのね」


「その点については企業訪問した際に説明しよう。ただ誤解しないでほしいんだが、あいつは決してこの世界を危険に晒そうとしているんじゃない。
魔導だけではなく質量兵器じみた力が今膨れ上がりつつあって、その抑止力が必要とされているんだ。

あいつが自分の保つ技術を提供しているのは――危険とされる兵器の進化を止めるべく、協力している」

「……」


 月村忍の将来に世界の根幹が関わっていて、綺堂さくらは重い表情を見せる。彼女が一番心配していたことだ、無理もない。

レジアス中将は、地上の平穏を守っているのは自分達だと胸を張っていて、質量兵器に代わる新しい力を求めている。次元犯罪の減少に貢献するべく、彼なりに努力している。

だが本局との仲は非常に悪く、彼は本局が地上に介入してくる事を極端に嫌う性質がある。このまま放置すれば最高評議会に関わる事になって、最悪利用されかねない。


彼に協力しながら、彼の思想や理想を軌道修正していくことが狙いだ。


「兵器開発がこちらが主体で、彼はスポンサーだ。主導権はこちらで握っているから心配はない」

「けれどスポンサーの力は大きいわ。それに管理局という組織のトップに立っているのであれば、権力も強大よ。逆に利用されかねないかしら」

「縦の繋がりだけを重視するならそうだろうな。ただ俺はあの海鳴で、そして何よりあんた達によって横のつながりの重要さを教えてもらった。
孤独に尖らず、友愛に甘んじて、人々と手を取り合うべく積極的に働きかけている。実はこの点を一番、あんたにいいたかった。

この異世界そのものではなく――この世界に生きる、忍の友人達を紹介しよう」

「良介……」


 俺もいい加減いい年下大人だ、いつまでもガキのように突っ張っていても仕方がない。時には頭を下げてでも、成し遂げなければならないことだってある。

レジアス中将に働きかけて、彼を更生させようなんて大それた考え方は持っていない。レジアスは中将にまで上り詰めた大物だ、ただの若造である俺が勝てる相手ではない。

だからこそクロノ達やゼスト隊長達、聖女様やヴァネッサ達、スカリエッティやクアットロ達など、有力者達と横のつながりを持って対抗しようとしている。


月村忍やノエルもその輪に入っている、だから異世界でも一人ではないのだと伝えたかった。


「そう……いつの間にか大人になっていたのね、貴方や忍は」

「まだまだ手強い大人たちが多いけどな、世の中は」


「では早速紹介してもらおうかしら――この世界には、貴方の婚約者や子どもたちがいると聞いているわよ。
絶対に確認するように、カレン様達から念を押されているわ」

「……その繋がりは断ち切りたいんですけど」


 世界の紹介を終えて、次はいよいよ人物たちとの紹介へ。

ヴィヴィオ達が待っているCW社へと、向かった。















<続く>








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