とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百三十四話



 さて――後は、俺自身の事だ。


第三世界で起きた戦争が原因で、俺はご覧の通り療養中。アリサ敢えて言及しなかったが、この療養は文字通り体を休める為の期間である。

キリエやアミティエのナノマシンとヴァリアントシステム、ユーリの生命操作能力によって、俺の身体は劇的に強化された。

その強さは聖王オリヴィエと戦えるほどに進化したのだが、問題は成長ではなく進化と言える程の強化にあった。


決して無理な強化ではないのだが、進化と呼べるほどの強さに感覚が追いつけず――精神疲労を起こしてしまったのだ。


オンボロ自転車からジェットロケットに乗り換えたのと同じ感覚で、戦闘はなのはやアリシア達の補佐で問題なく行えたが、流石にグロッキーである。

子供から大人になるのと同じで、本来であれば肉体や精神が馴染むまでに時間が必要となる。決戦まで、その時間が足りなかった。

ようやく戦争も終わり、責任者である俺はカリーナ達によりお払い箱となったので、俺はナノマシンを馴染ませるべく療養所で休んでいる。


日本時間で今12月半ば、今年が終わるまでは大人しく体と精神を休ませて馴染ませるしかない。


「オルティアの奴はさっさと退院しやがったしな」


 入院中はテレワークで事務業務、退院してからは隊長の代わりとして部隊業務を全て副隊長のオルティアが行ってくれている。

戦争で真犯人に串刺しにされてあいつも重傷の筈だが、ベットの上は落ち着かないらしい。恐るべきワーカーホリックだった。

律儀に毎日療養中の俺に連絡を入れて、報告を行ってくれている。何も心配せず休んでいてほしいと言ってくれているが、あいつこそ休むべきだと思う。


今後とも宜しくお願いしますと、あいつは微笑んでいた。意外と、長い付き合いになりそうだった。


「ノアはノアでこの事件を通じてほぼ無傷だったし、流石はプロだな」


 通信機を開いてみる――げっ、また何か着信している。





         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< へい、ボーイ      |
          |            |
          ゝ___________,ノ
        γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          | どうした、ガール       >「良介」
          |           |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< またファンが来た     |
          |             |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          | モテる男はつらいぜ     >「良介」
          |                |
          ゝ___________,ノ
          γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< ウザッ            |
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          |エロい?           >「良介」
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< なかなかの太もも       |
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          | でかした              >「良介」
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< 私には及ばないけどね     |
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          | ウザッ              >「良介」
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< サインしといた         |
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          | 代筆するな!?          >「良介」
          |             |
          ゝ___________,ノ
          γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< 婚姻届        |
          |     |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          | (゚ε゚(O三(;_;`)取り返しがつかないYO!    >「良介」
          |             |
          ゝ___________,ノ
          γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< 結婚サギ乙>(゚ε゚(O  |
          |              |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          |なんで婚姻届とか知ってんだ >「良介」
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< むふふ            |
          |                |
          ゝ___________,ノ
         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          | そんじゃ留守は頼んだぞ        >「良介」
          |                |
          ゝ___________,ノ          γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< ん、任せて     |
          |            |
     ゝ___________,ノ





 ――ということで何故か、白旗の留守は元猟兵団のノアが預かっている。


今回の事件ではほぼ無傷で困難を乗り越えたノア、猟兵だった頃のスキルを生かして黒幕の暗躍から仲間達を守ってくれた。

あいつから直接聞いた話だが、フィル・マクスウェル所長は破壊工作等も行っていたらしく、猟兵のスキルを生かして全て解除してくれたらしい。


一番驚いたのはフィル・マクスウェルが代替機を用意していたということだ。万が一に備えて、本体とは別に人形兵器を用意していたようだ。


考えてみればフィル・マクスウェル本人は既に死んでおり、今回の犯人はイリスのシステム内に潜んでいたあいつのバックアップというべき存在である。

記憶を受け継いだバリアントシステムによる人型兵器。魂の在り処云々は別にして、一応本人として活動はしていた。

つまり記憶さえバックアップしておけば、別の機体に移して活動し直すことも可能であったらしい。だからこそ、CW社の技術を奪おうとしていた。


ノアはそうした破壊工作の類には長けており、真犯人の思惑を知識と経験で見抜いて全て排除したらしい。


『大変だった』

『ご苦労だったな、本当に』

『破壊工作を潰すのは簡単』

『じゃあ、何に苦労したんだ』

『これ』


 事後の任務報告の場。通信機器を見ていたノアが、珍しく不機嫌そうに画面を突きつけてきたのは今でも覚えている。

少し説明すると俺達が使用する通信機器に設定されているアプリの一つに、コミュニケーションツールがある。

この機能には仲の良い人達だけ集めることが出来て、トークができるグループという機能があるのだ。


『何だ、これ――お前と俺のコミュニケーションツールじゃねえか』

『わたしと君のグループが、乗っ取られかけた』


 今までノアと二人きりで話していたこのグループ画面を、いつも平静なノアが珍しく怒りながら突きつけてきたのだ。

そもそも普段こいつとのバカ話以外には全然使っていなかった俺には、何のことを言っているのか分からなかった。


画面を覗き込んでみる。





         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
    「イリス 」< 浮気現場発見、通報した |
          |            |
          ゝ___________,ノ





『真犯人でもない分際で、乗っ取ってきやがったのか!?』

『POTみたいに毎日送ってくる。ウザい絡みだよね』

『お前とあんまり変わらんけどな』


 白旗トップの代理というか、俺自身の代理という名目で、あいつは白旗の重要な現場仕事をオルティアの名を受けてこなしている。

オルティアが上の立場となったので現場に関わることはどうしても少なくなる分、目の届かない範囲を補わなければならないので、ノアが出向いているのだ。

コミュニケーションツールでは不真面目な少女だが、現場に出ると真剣そのもので仕事には非常に厳しい。小さくてもプロであり、手抜きは決してしない。


ノアのそうした職務への姿勢をオルティアは評価して、彼女に任せているということだ。


「来月、エルトリアにも行きたがっているしな」


 島流しの名目で新年より惑星エルトリアに向かうつもりだが、惑星開拓には人員が必要なので猟兵団の連中が加わることになった。

聖女の予言より端を発した聖王戦争で大敗した、傭兵団と猟兵団。傭兵団はオルティアの采配で管理局入りしたが、猟兵団はその処世術が無くて壊滅状態にある。

特に猟兵団の団長は人ならざる者であり、かの集団は人の世に居場所のない人外の末裔である。かくいうノアも団長の娘で、人外の血を継いでいる。妹さんと同類であった。


聖地の乱で居場所を失った彼らは当然の如く日陰の生活を強いられていたが――ノアの活躍により、チャンスが与えられた。


それがミッドチルダからの退去であり、惑星エルトリアへの移住であった。


「まだ色々諸手続きしないといけないんだが、ともあれノアや元副団長のエテルナを連れて――あれ、そういや」


 ノアとのコミュニケーションツールを見ていて、ふと思った。通報したと書いているが、どこに通報するつもりなのか。

面白がって書いているのは一目瞭然なのだが、同じような書き込みを毎日のように書かれているとなんとなく気になる。

まさかあいつ、人の浮気話を面白おかしく言いふらすつもりじゃないだろうな……事実無根ではあるのだが、あいつならやりかねない。


一応事件が解決してわだかまりは溶けたと思うのだが、だからといって好悪が簡単に反転するとは――



そこまで考えていると一人、療養していた部屋のドアが開いた。ドクターに話を聞きに行ってたアリサが戻ってきたのかな?



「お父さん、イリスから聞きましたよ。浮気ってどういうことなんですか!」

「浮気現場を押さえられたようですね、父上。潔く観念して、私と事実婚するべきです」

「父よ。愚かな風評被害は我が押さえてやるが――事実だと、私は父を戒めなければならん」

「エロエロなの!? エロエロなの、パパ!?」


「コイツラにばらしたのか、あいつぅぅぅーーーー!」


 これ以上ないほどの仕返しに、療養室のベットで俺は思わず仰け反った。

よりにもよってユーリ達家族に通報するなんて、最悪である。何より率先して誤解を解くのが難しい面子だ。


精神を休めるべく療養しているのに、もう疲れてきた。















<続く>








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