とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百三十話
荒御魂のオリヴィエを倒して怨念を晴らしたとはいえ、多大な呪いに感染した者達の戦線復帰は難しい。よって極めて残念だが、ユーリを連れていけない。
ユーリの生命操作は部隊の立て直しだけではなく、この第三世界の復興には欠かせない能力である。人だけではなく、世界そのものが汚染されたのだから。
生命の剣セフィロトの力で崩壊は防げたのだが、汚染された大地を再生させなければならない。引き続き、ユーリにはお願いする必要があるのだ。
所長フィル・マクスウェルは、ユーリにとっても因縁の相手。さぞ決着をつけたかっただろうが、泣いてもらうしかない。
「分かりました、お父さんにお任せしますね!」
「……」
「? どうしました、お父さん。治療は頑張ったつもりですが、もし痛い所があれば言ってくださいね!」
「い、いや、お前の能力のおかげで戦える程度には回復したんだけど……その、いいのか。決着をつけなくて」
「いえ、別に。一刻も早く逮捕されてほしいとしか思っていません」
過去の父だった男の行く末を気にする素振りは全く見せず、今の父を信じて笑顔で送り出してくれた。実にシビアで、他人を気にしない俺の娘だけあると変に感心させられた。
どうやら上っ面だけではなく、心の底から愛想が尽きたらしい。友人であるイリスの人生を弄び、キリエ達の人生を翻弄させたのだ。無理もないとは言えるのだが、悲しい現実である。
しかし、言い方は悪いが今の状況はチャンスでもある。汚染されたこの第三世界は、ユーリの生命操作能力を試す良い機会でもあるのだ。
惑星エルトリア。事件が決着した後俺は責任を取る形で重職を退き、惑星エルトリアの復興支援を行う。左遷ではあるが、キリエ達の依頼を果たすべく向かうのだ。
劣悪な環境と重病の両親を救うには、テラフォーミングとヒーリングが行えるユーリの能力が欠かせない。この子の能力がどれほど活かせるのか、今試せる絶好の機会だった。
世界を滅ぼす呪いに感染した大地でも再生できるのであれば、惑星エルトリアの環境も立て直せる可能性は高い。余命宣告されたご両親の命を拾えるかもしれない。
全てを期待するのは酷だろうが、エルトリアへ向かうにあたって突破口くらいは見出しておきたかった。
「隊長。部隊の立て直しは私が責任を持って行いますので、貴方はご自分の判断で向かって下さい」
「父上のお力になりたいところですが、犯人が残存戦力の立て直しを図るかもしれません。戦闘不能となっている今の間に、破壊しておきましょう」
オルティア副隊長は味方戦力の再生を、シュテルは敵戦力の破壊を申し出る。どちらも必要不可欠なだけに、自ら率先して行動に出てくれるのはありがたかった。
両者共に激戦に次ぐ激戦で疲労困憊であろうに、その素振りも見せず行動に出れるのは大したものだと思う。功績に報いた恩賞を何とか与えたいものだ。
この戦争における第一功労者は間違いなくオルティアだろうし、CW社の新武装開発に貢献したのは間違いなくシュテルだ。数で言えばシュテルが一番敵を倒している。
本来であれば怪我人には休息を与えるべきだろうが、ワーキングホリデーな二人はむしろ働かせた方がいいかもしれない。
「よろしく頼む。オルティアは間もなく到着する救援部隊と合流して連携、シュテルはヴィータ達と合流して事を押し進めるんだ」
「ラジャー」
「了解です」
量産型や固有型と戦ったヴィータ達も相当な痛手を負っているが、彼女達のガッツなら心配いらないだろう。地獄の底からでも立ち上がれる、強い人達だ。
この戦争には全戦力を投入しているので、相当な人員が出回っている。オルティア一人で全てを立て直すのは物理的に無理なので、ファリン達ラプター軍団に頼んでおいた。
オリヴィエの呪いは無機物にも感染するのだが、ラプター軍団は個にして全の存在。ダメージは共有して分散できるので、ボディ交換は平気で行えるのである。
ファリンシスターズはどいつもこいつも似たような顔をして戦場を駆け回り、救援に勤しんでいる。まあ一応、あいつも新兵器の良い広告塔にはなるだろう。
「さて、いい加減ケリをつけるか」
生命の剣セフィロトを大地から引き抜いて、俺は一足飛びに駆け上がった。
オリヴィエとの激戦は苛烈を極めたが、長期戦にまでは発展していない。逃げたにしても汚染されていた状態、遠くまで逃げるのは困難だ。
イリスとの決戦に向けて時空管理局や聖王教会とも連携しており、第三世界は封鎖されている。この惑星から出ていくのは不可能だ。
あくまで自力であれば、の話だが。
「ゆりかごの姿が見えないということは、まだ飛ばしてやがるな……あの船に乗って、包囲網を脱出するつもりか」
冥王イクスヴェリアは致命傷を負わせたので、再び洗脳しても活動させるのは不可能である。ただし、ゆりかごの制御権だけは奪い取れる。
聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの復活により、一時は奪い返した制御権も曖昧になってしまった。せめてオリヴィエから貰っておけばよかったのだが、後の祭りである。
不幸中の幸いなのは、ディアーチェとレヴィをあの船に乗り込ませていた事だ。状況に合わせて動くように命じておいたので、彼女達なら臨機応変に動けるだろう。
早速、連絡を取ってみる。シュテルより預かったCW社の新型通信機であれば、AMF環境下といった特殊な状況でも通信できる。
「ディアーチェ、レヴィ。俺の声が聞こえているか」
『うむ、問題なく繋がっておるぞ。あの聖王相手に素晴らしき戦いぶりであったぞ、父よ。
現世界においてこれほどの強さを持つ剣士はそうはおるまい、我が父であることがただひたすら誇らしい!』
……剣を使ったのかどうか言われると疑問が大いに残るところではあるのだが、ディアーチェとしては十分に満足できる戦いぶりであったらしい。
冥王イクスヴェリアとの死闘で相当な深手を負っていたはずだが、通信画面に見える我が子に痛手は見受けられない。父の勝利を信じて、自分の回復に専念していたらしい。
お互いの無事を喜び合いたいところだが、状況が許してくれなかった。
『現在ゆりかごに残存する機械兵士達が突如、大暴れしおった。こちらは汚染の影響を受けていなかったのでな、我らにも敵にも有利に働いてしまった。
我はイクスヴェリアの暴走を防ぎ、その間にレヴィが負けじと大暴れして敵を破壊して回っている。
微妙に納得できんが、結果を見ればレヴィの身体能力任せな戦法が功を奏してしまったな』
俺もあんなアホな戦法が通じてほしくはなかったのだが、結果として今回の戦いでは魔導を捨てたレヴィが大活躍している。
やはり最後に頼れるのは己が肉体だと言わんばかりに、状況が悪化していく中でレヴィ一人は元気に戦いまくっている。身体能力向上で怪我も治り、大張り切りで戦っているようだ。
所長の逃走における一番の懸念、すなわちゆりかごの占拠についてはこれで対応された事になる。レヴィが残存戦力を破壊し、ディアーチェがイクスヴェリアの暴走を止めている。
ただやはり、緊急停止は難しいようだ。
「俺達からは見えないんだが、ゆりかごの座標は今どの辺にいる」
『転移機能が働いたのだが、その程度を見破れぬ我ではない。鍵の玉座を制圧して、破壊しておいたわ』
「……お前も、あんまりレヴィのことを言えない気がする」
『何故だ!?』
フィル・マクスウェルが次に取るべき手段を、我が子達が即座に先回りして潰して回っていた。
ユーリが能力を用いて第三世界の崩壊を防ぎ、シュテルが地上に残って機械兵士達を破壊、ディアーチェがゆりかごを制圧、レヴィが残存兵力を掃討している。
我が子達の有能ぶりには舌を巻くが、敵としてはたまったものではないだろう。行く先々で手を打たれてしまえば、もはやどうしようもない。
これ以上どうすることも出来ないように思えるが――
「そちらから敵影は確認できるか」
『ふむ、我も彼奴めがゆりかごへ乗り込んでくると予測して見張っていたが、今のところ確認はできん。
もっとも奴は機械兵士達を姑息にも操られるゆえ、兵士達を通じてゆりかご内部の状況は確認できよう。
策を張り巡らせて他者を貶める輩だ、我らを相手に挑んで苦境を打破する気力はなかろうよ』
ディアーチェの分析は、恐らく正しい。良くも悪くも、フィル・マクスウェルは一か八かの賭けには出ないタイプだろう。
本来であれば、その姿勢は決して間違えていない。俺のように常に敵へ突っ込む姿勢は、指揮官としては褒められたものではないからだ。
ただ今の状況は、違う。その一か八かを行わなければ、状況は打破出来ない。
逃げた先にあるのは、ただの破滅だ。
「おっ――」
『どうしたのだ、父よ』
「どこぞから、通信が入った。不明だが……恐らく相手は奴だろうな」
『ふん、いよいよ降参しおったか。ともあれ父よ、ゆりかごは無事だ。こちらは任せておけ』
「頼んだ」
たとえ無謀であろうと、戦わなければならない。
それが出来ないようでは、どのみち大成はできなかっただろう。どのみち、奴の命運は決まっていたのかもしれない。
挑戦状とは思えないが、一応話は聞いてやろう。俺は、通信を繋いだ。
「一応お前の命も助けてやったつもりなんだが、恩を仇で返すのはやめてもらえるか」
『まさかこれほどの想定外が続くとは思わなかったよ。
聖王の肉体を製造したのがこんな形で仇になるとは……つくづく、生命というのは不思議なものだ』
「今すぐ投稿すれば、病院くらいは連れて行ってやるぞ。その先は、容赦なく独房だがな」
『御免被る。手痛いミスこそあったが、成果としては上々だ。君達の奮戦のおかげで、多くの研究成果が手に入ったからね。
取引といこうじゃないか』
「取引……? 材料もないくせに、空手形を押し付けるのはやめろ」
『おやおや、君が言ったんじゃないか――命の価値は、大恩に匹敵するのだろう』
――息を呑んだ。
フィル・マクスウェル。奴より見せられたその画面は――
到着予定だった、救援部隊。勇気ある彼らが、壊滅している光景であった。
『彼らの命と引換えに、私の命を助けてくれ。平等な取引だろう、ユーリの父を騙る男よ』
<続く>
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