とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第八十二話




「本気で来ないと、死ぬぞ」

「――!?」


 アクセラレイターを維持したまま、急接近。アミティエより授かったナノマシンは俺の細胞を活性化させて、人体を鋼のごとく強化してくれる。

最適化された肉体を用いれば、時空間での自在な活動を可能にして行える。超加速行動とも呼ばれるこの肉体の運用技術こそが、アクセラレイターであった。

訓練中は目眩と頭痛の連続でアリサ達から笑われていたが、キリエ達曰く肉体への悪影響が頭痛程度で済んでいるのは奇跡的らしい。ユーリ達が授けてくれた肉体あっての産物だ。


リインフォースの目前へとほぼ瞬間移動する勢いで迫ったのだが、


「スレイプニール、羽搏いて」

「ちっ、再生できるのか」


 刃を躊躇なく振り下ろした瞬間、暗闇の翼を生やしてリインフォースは地を蹴った。根本から切り裂いてやったのだが、魔力で編み上げているので再生可能であるらしい。

忌々しいが予想の範囲内なので、驚愕することなく追撃。アクセラレイターの超加速であれば、翼なんぞなくても一飛びするだけで上空へと一飛びできる。

問答無用で追撃してきた俺にリインフォースは目を見開くが、背中の羽を大きくして羽搏せる。巨大化した翼は逃走ではなく、迎撃の意思があった。


太古に存在した大鷹の翼は、その鋭さだけで人間の首を容易く飛ばせると聞く。両面から迫りくる翼に対して、生命の剣セフィロトを持ち替えて一閃。


魔力の翼を切り裂くことには成功したが、膨れ上がった風圧に飛ばされてしまう。体勢が崩れた俺を見下ろして、リインフォースはあろうことか衝撃弾を発射した。

閃光と音による瞬間的なスタン効果を目的とした、空間攻撃。範囲内の対象の視覚と聴覚を一時的に奪う他に、ジャミングの効果まである強烈な攻撃。断じて、対人に使用する攻撃ではない。

空中では避けようのない攻撃を食らって、俺の感覚が内部から爆発する。閃光と音によるスタン効果が強烈で、脳髄から炸裂閃光弾が爆発したかのような錯覚にまで陥った。

空中であらゆる五感が消し飛ばされた俺には、もうなす術がない。リインフォースが無慈悲に攻撃しているのだろうが、もはや俺には認識しようがなかった。


何とも情けないが、これで決着である――この肉体で、無ければ。


「神速」

「なっ、馬鹿な!?」


 ――神速とは御神流における歩法であるが、その極意は『感覚の極限化』にある。


人間とは、五感で周囲の状況を判断する。五感の一つである視覚に対して凄まじい集中力を発揮していると脳が他の感覚を遮断し、視覚に全ての能力を注ぎ込む状態が起こる。

通常では考えられないような視覚の能力が発揮され、本来見えるはずのないスピードでも認識できるようになる。これは神速という歩法において基本ではあるが、奥義ではない。


いかなる感覚においても極限化を行えてこそ、神速は真の力を発揮する。五感を奪われたのであれば、『五感以外の感覚を』極限化すればいい。


本来であればその時点で脳が焼き切れてしまうのだが、ユーリの生命再生とアミティエのナノマシンがあれば感覚の極限化でも耐えられる。俺はあの二人を心から信頼しているのだから。

感覚を通じて殺意を嗅ぎ取り、飛んできた魔力攻撃を超加速で尽く切り飛ばす。どんな顔をしているのか知らないが、目も耳も聞かない俺が迎撃しているのだからさぞ驚いているのだろう。

洗脳されている分際で、何と甘い女なのだろう。この程度で、俺を殺せるとでも思っていたのか。


「相引き面」


 剣術において相手の攻撃に対する反応が速いと、相手より先に剣を打てる事がある。攻撃は相手より後なのに、結果として先ずる矛盾が剣では許されるのだ。

後の先と呼ばれる技術。感覚が回復した俺は、感覚が追いついていないリインフォースへと向けて、切っ先を真上へと跳ね上げる。

リインフォースは一瞬遅く気づいて咄嗟に首を反らすが、頬を深く切り裂かれて血が舞う。即座に俺が足を振り上げると、流石に抵抗できず彼女の顔面が蹴り上げられた。


俺はそのまま空中を一回転して体勢を整え直して、今度こそ上段から剣を振り上げた。


「パンツァーガイスト」

「シグナムの装身型バリア――あいつを裏切っておいて、よくも!?」


 ベルカの騎士が身に纏う、防護フィールド型の防御魔法。シグナムが稽古中によく使っていた技である事に気づいて、頭に血が上った。

洗脳されているという点を除いても、今のこいつが使っていい技では断じて無い。厳しくも優しい剣の騎士が今海鳴の地でどれほど歯痒い思いをしているのか、分かっているのだろうか。

俺達のような剣士にとっては命をかけて戦うよりも、命をかけられず戦えない事の方が苦しいのだ。何も出来ない我が身を呪う剣士の辛さを、俺は誰よりも知っていた。


今までずっと、無力な我が身に涙していたのだから。


「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「!? 力ではなく、加速で破――うわっ!」


 アクセラレイターをフルドライブで稼働させて、最大加速でパンツァーガイストに突撃。流星のごとく振り下ろされた剣は、稲妻のように炸裂した。

どのような防御でも、隕石の一撃には耐えられない。パンツァーガイストが破裂して両者が激突して、クラッシュ。上空から地面に二人して、ド派手に転がり落ちた。

ビルから飛び降りたのと同じ衝撃に襲われるが、神速の感覚だけはかろうじて維持できている。地面に大穴を開けて転がりまわっても、敵の位置だけは辛うじて掴めた。


傷だらけで転がっているリインフォースめがけて、何とか片手で掴めている剣を振り下ろす。この期に及んで意地でも斬ろうとする俺を目の当たりにして、リインフォースは恐怖を見せた。


翼を辛うじて広げて、低空飛行して回避。それでも諦めず、俺は腰を回して断空剣を打ち放った。体捌きによって足を刃として使用する技は、この肉体で常態化出来ている。

流石にこれには耐えられず、胴体が斬られてリインフォースの胸から血飛沫が飛んだ。乳房が見え隠れするが、羞恥心など微塵もなく銀髪の女は拳を振り上げた。

攻撃しか頭になかった俺はいきなりの逆襲に対応できず、顎から吹っ飛ばされる。意識を失わずには済んだが、追い込むことは出来ずそのまま倒れた。


そして、落下が終わる――隕石が落ちたかのように大地が穴だらけとなり、噴煙が大量に上がる中で男と女が転がっている。


「……凄え、なんて戦いだ……」


 隊員の一人が上げた声を聞き流しつつ、俺は立ち上がる。上空から落ちたのに、体が痛い程度で済んでいるのはありがたかった。肉体が強化されているので、大した負傷はない。

間髪入れず、リインフォースも立ち上がる。頭から血を流し、胸から血を流しているが、戦闘は継続できる状態にあるようだ。上等だ、この野郎。

頭の中は冷えているが、流れる血は確かに熱い。冷静さを保ちつつも、戦意には燃えている。いいコンディションであった、剣士としては理想的だ。


リインフォースも強大な魔力を編み上げて、騎士甲冑を再構築。攻撃を再開しようとするが――


『アミティエかキリエか、それともユーリの仕業か知らないけれど――そいつの肉体は、新しく構築されている。
もういいわ、マスタープログラム。命令を、変更する』

「はい」

『"群体"の使用を許可します――ユーリの記憶を奪った法術使いを、必ず殺しなさい』

「お任せ下さい、我が主」


 イリスの命令を受けたリインフォースは、手から魔導書を生み出して広げた――あれは闇の書、聖王教会より奪われた蒼天の書か。

嫌な予感がした俺はアクセラレイターを再稼働させて、突撃。急加速して、リインフォースをそのまま袈裟斬りにして仕留めようと迫った。


光のごとく振り下ろした刃はリインフォースへと迫り――甲高い金属音を立てて、止められた。


「"量産型群体"、烈火の将」

「――シグナムだと!?」


 守護騎士ヴォルケンリッターの将たる、剣の騎士。闇の書の意志による二つ名は烈火の将と呼ばれているシグナムが、俺の目の前にいる。

無言で俺の刃を圧する麗しき騎士、その有り様は彼女そのままであった。まるで過去の再現であるかのように、魔導書から彼女が生み出された。

ニセモノなのは分かりきっているが、太刀筋は本物同然なので厄介だ。どうやって作り出したんだ、こんなマネキン人形!

――戦闘中において、その躊躇いは致命的だった。


「"量産型群体"、紅の鉄騎」


 再び魔導書から飛び出してきたのは、かつての戦友。ラケーテンフォルムから繰り出す大技によって、横合いから殴り付けられた。

肉体に着弾する瞬間、セフィロトを構えられたのは理性ではなく、本能でしかなかった。生命の剣とグラーフアイゼンがぶつかり合って、火花を散らしている。

回転の遠心力も合わせて打撃力を高めるこの技は、対象の防御に食い込んで受け流しを困難にするという特徴がある。押し留めているが、最悪なことに敵はもう一人居る。


両手が塞がっている俺に向けて、シグナムと同じ外見の奴が容赦なく斬り込んできた。ええい、面倒な奴らを生み出しやがって――


「アタシのツラして大事な子分をイジメんじゃねえぞ、コラ!」

「邪魔はさせん!」


 真正面から飛び込んできた少女が紅の鉄騎を殴り飛ばし、白き狼が地上から生み出した拘束条によってシグナムが徹底させられる。

その瞬間圧力が解けた俺は剣を持ち直して立ち上がると、眼前で二人が俺の前に頼もしく着地した。


「こいつらはアタシらに任せろ」

「リインフォースは、頼んだぞ」


 聖地へ来た頃からずっと俺と共に戦ってくれた戦友――のろうさと、ザフィーラ。

何処であろうと、誰が相手であろうと、何も変わらず頼もしく助けてくれる。本当に、カッコいい騎士達であった。

これほどの人達に信頼されて、奮起しない筈はない。俺は、頷いた。


「必ず、お前達の元へ連れ戻す」















<続く>








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