とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第七十九話
決起号令が終わり、総員速やかに出撃準備に入った。決戦の舞台となるのは、第23管理世界ルヴェラ。時空管理局や聖王教会にとって重要な意味を持つ平和の象徴を、防衛する。
特務機動課が運用するCWXシリーズが遂に完成し、精鋭部隊に陸/空両対応型の戦闘端末が導入される。カートリッジシステム搭載型は、適用に値する人員が選出されていた。
副隊長のオルティアと部隊長のティーダが精鋭部隊を指揮して、新装備の準備に取り掛かっている。特務機動課の人員管理は全て彼らに任せ、部隊長の俺は主力部隊を指揮する事になる。
そしてメンバーに選ばれなかった人材は、特務機動課本拠地であるCW社の防衛に残る事となった。
「あなた様を支える未来の妻でありながら、留守を預かる事しか出来ない不明をお許しくださいませ」
「栄えある出撃を見送りに来てくださっただけで、勇気付けられる想いです。私の我儘に応じてくださって感謝しています、ヴィクトーリア様」
「妻として当然の義務ですわ。未熟な身ではありますが、この雷帝ヴィクトーリア・ダールグリュンがあなた様の留守を然とお守りいたしますとも」
戦争である以上、あらゆる事態が想定される。自分の身内が襲撃されるリスクも考慮して、異世界の仲間や家族に呼びかけて避難させている。ヴィクトーリアもその一人である。
ベルカ自治領を統治する"聖王"には后が必要だと、カレイドウルフ大商会のカリーナが選出した正妻ヴィクトーリア・ダールグリュン。数多くの候補より選ばれた花嫁だ。
麗しき美少女ではあるが、まだ幼少の身。自意識の高い彼女は過去自ら聖地に乗り込んできて政略結婚に異を唱えていたのだが、幾つかの事件を通じて心が一方的に通じた関係である。
――酒の席で聞いた話だが、副隊長のオルティア・イーグレットもその候補の一人だったらしい。紆余曲折を得てヴィクトーリアが選ばれたので勝手に外されたと怒られた。焼き鳥を奢ったら許してくれたけど。
この全ての縁談に俺の意思が介在する余地が全く無い酷さではあるのだが、ヴィクトーリアは"聖王"の正妻に選ばれたと有頂天になって聖地で花嫁修業に励んでいる。
雷帝という得難き資質か、本人の才能か、彼女自身が言う愛の奇跡なのか、幼少とは思えない程に彼女は強くなり続けている。魔力なんて高町なのはやフェイトに匹敵する程に成長していた。
世間的に正妻として認知されているので――何故世間は俺の正妻が幼女であることを受け入れているのか意味不明だが――狙われる危険性があるので、呼んでおいた。
子供達と、一緒に。
「パパ。聖王のゆりかごについての全データ、オルティアさんに渡しておいたからね。がんばって!」
「むっ、何故俺に直接渡さないんだ」
「膨大なデータ量になるから、オルティアさんが端的に整理して資料化してくれるはずだよ。それとも、パパがやるの?」
「……日に日に学習能力が上がっているな、お前」
「えへへ、パパに褒められちゃった」
最後は皮肉で言ったつもりなんだが、褒められたのだと頬を染めてヴィヴィオがモジモジしている。こいつも一応俺の子供なので、皆と一緒に避難させている。
今日に至るまで無限書庫内で調査を続け、データを精査して、聖王のゆりかごを徹底的に洗い出してくれた。同様に調査してくれていたユーノも驚く学習能力だったらしい。
出会った頃は見た目通りのガキンチョだったのに、知性が磨かれて言語能力も大人顔負けとなっている。正当な俺の遺伝子を継ぐ者だと、クローン化しやがったジェイルが大喜びの天才児らしい。
俺の遺伝子をどう調理すればオッドアイの金髪少女が出来上がるのか、あいつの脳髄を叩き割って聞いてやりたい。夜の一族の姫君達から貰った血液が大暴れしていそうだった。
「わるものさんがヴィヴィオちゃんのパパやったら、ヴィクターがママになるんとちゃう?」
「そ、そうでしたわ!? ごめんなさい、ヴィヴィオ――いえ、愛をこめてヴィヴィと呼ぶわね。今日からわたしのことは、ママと呼んでいいですわ」
「えっ……いやです」
「ハッキリ嫌と言うた!? さすがわるものさんの子供、親なんぞいらんという根性やね」
「うう、ママの子供が不良になってしまいましたわ!」
「……ティアナ隊員、お前に今日からうちの託児所を部署として預ける。このバカ共を、しっかり守ってやってくれ」
「了解です、隊長!」
いつ作ってもらったのか、特務機動課の子供用制服を着てティアナ・ランスターが華麗に敬礼する。毎日一生懸命練習しているそうで、敬礼も大人顔負けの見事さであった。
オルティアやティーダより暇を見て勉強を見て貰っているそうだが、ずば抜けた頭脳を持っていて法律や政治経済の知識を吸収し続けているらしい。憧れというのは凄いものだ。
将来はオルティアのように俺の副官を務めたいそうで、毎日追っかけられているので仕方なく業務命令を与えている。実に適当な命令なのに、本人は喜び勇んで引き受けていた。
本人はデバイスを欲しがっているが、流石に武装するのは大人達から反対されている。そこで――
「俺の部下となったお前に、これをやろう」
「これは……銃ですか?」
「俺の国にある銀玉鉄砲だ、非常時に使うように」
「あっ……ありがとうございます! わたし、必ず貴方の力になってみせます!」
昔の子供が祭りで遊ぶ玩具で、大人どころか子供にあたっても痛い程度でしかない威力の銃。旅していた頃に拾った懐かしい思い出の品を整備して、ティアナにプレゼントした。
目に向けないように注意はしたが、利発な子供なので使い方はすぐに熟知するだろう。遊び半分で他人を傷つけるような少女ではないことは、よく分かっている。
感激に涙を滲ませているティアナに、俺は一応オルティアやティーダのフォローをしておいた。
「何故お前が尊敬する大人がデバイスの使用を認めないのか、分かるか?」
「わたしが半人前だからだと思います、隊長」
「違う。お前が、うちの理念を理解していないからだ」
「で、でしたら、わたしに教えて下さい。兄さんを英雄にしてくれた貴方のような人間になりたいんです!」
「俺達が今から戦争に行くのは、お前のような子供が銃を持たなくていい世界にするためだ」
「!?」
――どの口が、言っているのだろうか。剣なんて必要のない世界で、俺は自ら剣を取って振り回しているというのに。
管理国世界である日本は、平和な国だ。剣は既に時代遅れとなり、人々から必要とされていない。なのに俺は山で拾った木を持って、道場破りをしていた悪ガキだ。
子供の頃ではない、まだ一年くらい前でしかない話。たった一年くらい経過した程度で、いつの間にか自分に憧れている子供に教えるようになっている。
この冬を乗り越えて、ようやく一年越しの春が来る。本当に、随分と長い一年となったものだ。
「銃を自ら望む大人になるな。必要な時にだけ、手にするように心がけろ」
「はい、心に刻みつけます!」
銀玉鉄砲を握りしめて、彼女は武器を使う怖さと必要さを理解した。俺と違って賢い子供だ、きっと真っ直ぐな正義を持った女性となってくれるだろう。
ティアナにヴィクター達を託して、俺はCW社を見上げた。家族や仲間達はCW社に避難させ、カリーナ達責任者は聖地に残って世界を守ってくれている。
戦争に出向くことだけが、世界を守ることでは決してない。レジアスは最高評議会と戦い、クロノ達は管理局の上層部と責任問題を検討し、聖女様達は聖王教会の信仰を堅持してくれている。
大人達が役割を果たしてくれるからこそ、俺達が堂々と戦争へ行けて、子供達は安心して留守を守ってくれている。世界はあらゆる人が、それぞれの役割を持って成り立っているのだ。
「まさか、俺が世界を護ることになるとはな」
「――あの頃語ってくれた、天下の晴れ舞台でしょう」
「お前をメイドにしたおかげで、ここまで来れたな」
「これからもあたしがいてあげるから、安心して戦ってきなさい」
アリサ・ローウェル。自分の相棒に見送られて、俺は戦場へと出撃した。手にしているのは相変わらず剣一本、進歩がないとはこの事だ。
しかも相手はかつての自分の身内だというのだから、笑えない。世界を護る戦争という大舞台でも、俺は自分の家族に襲われるのだ。規模が小さいのか、大きいのか。
世界を護るなんて性に合わないので、自分の仲間に任せるとしよう。俺は責任だけ背負って、自らの剣を振る。目の前にいるのは、他人だ。
しっかりと関わっていくと決めて、俺は命をかけて挑む。
一応イリスという犯人のテロ予告ではあるので、聖王教会と地上本部の権限を使用して、第23管理世界ルヴェラの住民達を全員避難誘導させている。
明らかな事前行動で犯人を警戒させる危険性があるのだが、その点についてはお互い合意の上で動いている。実際イリス側も、避難誘導については何ら妨害は入らなかった。
第23管理世界ルヴェラについても正式な手続きを経て、特務機動課という部隊を堂々と転移させる。新装備や重火器、乗り物も含めて、全装備を豪華にルヴェラへと輸送した形だ。
あまりにも堂々とした軍事行動なのだが――
「……随分と堂々としていますね、あの子」
「うむ、隠す気ゼロだな」
第23管理世界ルヴェラの空に――聖王のゆりかごが、浮上している。
ジェイル・スカリエッティ曰く、聖王のゆりかごというロストロギアは聖王が居なければ稼働しない。つまり、ゆりかごの浮上はイリスの改造が成功したことを意味する。
堂々とした威嚇行為に、ユーリには珍しく呆れた顔をしていた。友達だからこそ見せる、遠慮のない表情なのだろう。実際俺も、あそこまで堂々とされると逆に感心してしまった。
もはや遠慮する気なんぞ、欠片もないのだろう。俺はイリスと連絡が取れる、例の核を持ち出した。相手側も部隊入りした俺達の行動が見えているはずだ。
程なくして、通信が入った。
『待っていたわよ、ユーリ。決着をつけましょう』
「ええ、全ての因縁の決着を」
「おー!」
『……』
「……」
『な、なんで子供が一緒なのよ、あんた!?』
「だ、だって、一緒に行くと聞かないんですよ!?」
「えっへん」
……緊張感のない、戦争だった。
<続く>
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