とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第六十七話




 ――そもそもの話、俺はマリアージュという屍兵器にイリスが補給基地を信用して任せるとは夢にも思っていない。

お互いに利用し会える関係なんて映画の中だけの話であり、資本主義かつ弱肉強食の世界では強者が敗者を利用するのが常である。

時空管理局や聖王教会を何度も出し抜いたイリスが、マリアージュなんぞに利用されるとはとても思えない。無機物を改造出来る技術を持つイリスが、マリアージュを放置するとは思えなかった。


ヴェロッサの能力で思考を、ジェイルの技術で人体を分析して、イリスの改造痕を発見できた。


『マリアージュは一が全、全が一という運用がなされている。イクスヴェリアを主とする思考に、手が加えられている』

『組織単位でリアルタイムに最新データを共有しているようだ。補給基地を制圧した君達の行動も伝わっているだろう』

『改造痕を発見した事さえ伝わっていなければ、利用できる。ヴェロッサ、お前は手順通りマリアージュの洗脳を行ってくれ。
ジェイルは今回発見した共有機能を、『ラプター』に利用しろ』

『それはかまわないが――』

『なんだ』


『死んだ人間は、生き返らない』


『……』

『彼女は懸命に戦って、そして死んだ。自動人形のオプションでしかなかった彼女に、確かに生命の煌きがあった。
ラプターは決して、ファリンの代用品にはならないよ』

『だからこそ、お前に頼んでいる。生命研究家としてのプライドと誇りを持つ、お前に』

『フフ、君という人間には日々刺激される。既に錆び付いた生命にしがみつく惨めな老人達と絶縁して正解だったよ。
ゆりかごにももはや何の興味もない。今の私は、『ラプター』という新しい生命に誕生させることに全てをかけている。任せてくれたまえ』


 やられたらやり返す、マリアージュという兵器に注ぎ込まれた技術を豪快にパクりながらも利用させてもらう。

俺の戦術を副隊長のオルティアが戦略へと練り上げてくれて、総司令官であるレジアス中将に進言。溜息吐きながら承認印押されたと、飲み屋で美人副隊長に嫌味を言われながら作戦は了承された。

オルティアと二人で飲んだ時の話はいずれ話すとして、いよいよ作戦開始である。といっても作戦決行する上でのお膳立てについては、さほど難しい話でもない。



作戦その@:思考を洗脳したマリアージュを相手に、ユーリがイリスの悪口を毎日言い続ける



「陰口はいけないと思いますよ、お父さん」

「いいか、ユーリ。直接悪口を言うよりも、陰口を聞くほうが効果的なのだよ。これで間違いなく奴は日々ストレスと怒りを溜め込んで冷静さを失う、ふふふ」

「お見事です、隊長。私のような凡人には理解できない次元の戦術ですね」

「そろそろ機嫌を直してくれ、副隊長!?」

「お父さんと副隊長さん、この前朝帰りしてからなんだか距離が近いような……」



作戦そのA:思考を洗脳したマリアージュの前で、作戦に関する相談を行う



(全て嘘を並べればいいんですか?)

(全部デタラメですと簡単にバレますので、作戦の肝を除いて話して下さい。ある程度であれば、詳細にふれてもかまいません)

(兵器の開発についても、マリアージュの前で話すぞ。キリエとアミティエが協力していると言えば、向こうが勝手に邪推する)

(了解です、任せて下さい。きょ、今日の私は嘘を付く悪い子になります!!)

(そこまで悲壮感出さなくても!?)

(そうです、隊長のように話せば問題ありません)

(俺はそこまで嘘つきなのか、副隊長!?)



作戦そのB:思考を洗脳したマリアージュを用いて、戦闘実験を行う



(兵器を使用したら確実にイリスにバレますよ)

(兵器の実験はフェイト・テスタロッサではなく、我が社に所属するスタッフ達にやらせる)

(兵器の詳細を知るスタッフメンバーは、当然ですが兵器の完成に至った経緯も全て把握しています。その当時起きた失敗を敢えて再現し、兵器には弱点があるとイリスに思い込ませます)

(でも、あまりあからさまだとバレるのでは?)

(隊長のご息女様は聡明でいらっしゃいますね。私も同じ指摘を隊長にいたしました)

(気付かなくてすいませんね!? 副隊長、説明)

(まず、精緻な魔力コントロール技術を有する魔力変換資質保有者でないと兵器の出力が安定しない事。
続いて、新兵器は大型で駆動部とバッテリー内蔵の為かなりの重量物となっており、強度や反応速度の不足といった問題がある事。

そして何よりも内蔵型のバッテリー駆動にて運用される為に消耗が激しく短時間しか使用できない事を、マリアージュとの戦闘訓練で見せつけます)

(それは実際、一度は問題となったことなんですよね?)

(ああ、だからこそモニタリングするイリスは疑いようがない。確実に信じるというわけだ――と、副隊長が作戦を全部考え直してくれた)

(苦労いたしました)

(お、お疲れ様です……)



作戦そのC:本作戦における以上の内容を、第3管理世界ヴァイゼンにあるカレドヴルフ・テクニクス本社で行う



(マリアージュをトレースしているのであれば、間違いなく襲撃してきますね)

(特務機動課の存在を知れば、自ずと時空管理局と聖王教会が、俺と組んだことが分かるからな。
補給基地を失って資源が足りないあいつは、両組織から支援を受けて潤沢も揃っているであろうカレドヴルフ・テクニクス本社を襲う)

(現時点では兵器に弱点があり、作戦内容も詳細に至るまで把握している――と思いこんでいるでしょうからね。
加えて隊長が考案した人間とは思えない精神攻撃を受けて、復讐心を滾らせて襲ってくるでしょう)

(そこまで言うか、副隊長!? 俺は世界平和のために憎しみを一身に受ける覚悟を決めて、この作戦に望んでいるんだぞ!)

(イリスは絶対お父さんじゃなくて、悪口を言ったわたしを怒っていますよね!?)



作戦そのD:後は、結果を待つばかりである(完)



「この作戦をユーリさんのお父さんが立案し、私にレジアス中将へと持って行かせました」

「本当に、お疲れ様でした」

「待て、ユーリ。何故副隊長の肩を揉み始めている!?」


 かなり大雑把に説明したが、マリアージュの運用については丁寧に行っている。説明を省いた箇所も結構あり、作戦を成功させる上で他にも幾つもの手間を惜しまず行っている。

作戦は速やかに決行されて、カレドヴルフ・テクニクス本社がある第3管理世界ヴァイゼンはスタッフを除いて非戦闘員は居ない。


襲撃のタイミングを我が頭脳陣が予測して、皆を逃しておいた――のだが。


「申し訳ありません、部隊長。普段は決して我儘を言う子ではないのですが、大事な作戦だと察したらしく同行を強行されてしまいました」

「まだ小さいのに、本当に聡明な子だな……分かった、ヴィヴィオチームに入れておこう。
今回の作戦はオットーが出撃するので、代わりにセインが護衛についているから安心してくれていい」

「よろしくお願いいたします――ティアナ、本当に大人しくしておくんだぞ」

「ごめんなさい、兄さん。でもわたし、陛下の力になりたいの!」

「うむ、その意気だ。腕力で戦うことだけが正義ではない、君の頭脳に期待している」

「ありがとうございます、わたし頑張ります!」


 特務機動課はあらゆる名目を用いて、第3管理世界ヴァイゼンに集結している。ティーダ分隊長も当然出撃しているが、彼には珍しく任務にティアナを連れてきていた。

どうやら俺が以前自分達の仲間だと受け入れてくれたことに感激したらしく、俺達を手伝うと言って言ってきかなかったそうだ。少女のくせに、なかなかの勇気と冒険心だった。

行動しやすいように長くて綺麗な髪をツインテールにしており、何処から持ってきたのかおもちゃのピストルを持参している。


   少女らしくもない銃器に首を傾げるが、すぐに納得した――我らが副隊長が、銃の使い手だ。俺と共に行動する大人の女性に、憧れる年齢なのだろう。


「幼気な少女の気持ちを弄んで楽しいですか、隊長」

「人聞きの悪い事を呆れながら言うな、副隊長!?」


 お膳立ては全て整えたので、後は業務を行いながら敵が襲撃してくるのを待つだけだ。とはいえ単純に待つだけではなく、行動もきちんと行っているのだが。

ナハトヴァールを背負ったユーリと護衛の妹さんを連れて、本社内を回る。どの部署にも俺の仲間が常駐しており、作戦行動に従事している。

過去の手痛い教訓からそれぞれ学んだ仲間達は、失敗を乗り越えて今ここにいる。俺も同じだ。ユーリ達によって復活した体と剣を持って、戦いに向けて備えている。


お膳立てが成立していれば、かならず来る筈なんだが――


「今にして思うと作戦その@、本当に必要だったのでしょうか」

「精神攻撃は戦術の基本だぞ」

「言いたいことは分かるんですけど、効果はあるんでしょうか――お父さん?」


「――お前、アレを見てもそう思うのか?」

「窓の外に何か……えっ――

えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」



  ――星が、震えた。


第3管理世界ヴァイゼンに着陸する、悪魔じみた、巨大物質。特撮という表現すら生温い、通常の撮影では得られない怪物が降臨した。

企業都市に匹敵する、物々しい建築物を模す無機物の悪魔。キリエが説明していた機動外殻という兵器、その集大成が窓の外を占領している。



超巨大城塞『グラナート』、激しい怒りに燃え上がる巨大要塞が兵器と化した。



「聖王のゆりかご顔負けの大きさがあるんですけど……!?」

「やはり陰口は良くないね」

「だから言ったじゃないですか、お父さん!」















<続く>








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