とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第六十六話
カリーナ・カレイドウルフより直々に押し付けられたカレドヴルフ・テクニクス社は、第3管理世界ヴァイゼンを拠点に企業活動を行っている総合メーカーだ。
魔導殺し対策をその場の思い付きで提案した事で何故か社長に任命されて、新会社そのものを無茶振りさせられた企業である。思い付き一つなので、当然だが最初は零細企業でしかなかった。
社会経験もない俺が企業運営なんぞ出来る筈がないので、意地もプライドも投げ捨てて自分のコネ一つで各方面に頭を下げまくり優秀な人材を集めまくった。
集めたスタッフの顔ぶれをカリーナお嬢様にお伝えすると、何故か呆れられた。
『どうやってこれほどの人材をこんな短期間で集められたのか、説明しやがれですの』
『ご近所付き合いを大切にしておりますので』
『言っていることだけは田舎者臭いなので、厄介ですの!?』
カリーナお嬢様より認められたので、本格的な企業運営に望む。コンセプトは唯一つ、聖地の乱より懸念されていたアンチマギリングフィールドの対抗手段である。
魔力無効状況でも魔法が使用でき、魔力有効状況なら更なる強化が得られる事を目的に、優秀なスタッフに丸投げして次世代魔導端末の開発を行った。
魔力無効化への対策という考え方一つで望んだ無謀な試みだったのだが、月村忍やジェイル博士達が独自の魔力変換技術を用いて、魔力無効状況下でも活動することを可能とした。
仕組みとしては術者の魔力を次世代魔導端末内部に蓄積し、独自の変換を行うことで魔力無効状況下でも活動する事を可能にするやり方だ。
『販売ルートはいかが致しましょう、社長。試作機の出来次第では、カレイドウルフ大商会の貿易ルートを提供するとカリーナお嬢様のご厚意がございますが』
『必要な所に売るべきだろう、時空管理局に営業をかける』
『……社長の大胆さにこのセレナ、久しくなかった目眩を感じております。ステキ』
『呆れ顔で何言ってる!? 絶対に不可能だと思っているだろう、あんた!』
『もしも営業に成功いたしましたら、下着姿でお仕えさせて頂きますわ』
美人秘書の挑発が頭にきたので社外も含めた事業部を豪快に展開して、公的組織向けの第五世代デバイスとしての開発に切り替えた上で、地上本部トップのレジアス中将と交渉。
フェイトとバルディッシュの協力も得て、次世代魔導端末の実験運用まで行って見事に成功。莫大な資金提供と経済支援を受けて、開発分野の拡充を実施。
家庭用から業務用まであらゆる魔導機器を開発するメーカーとして急成長し、補給基地の制圧成功による世間の後押しも受けて、世界中にCW社の名を広めることが出来た。
時空管理局との経済契約もあって、民間では最大手の一角を占める大きなシェアを誇る一大企業となった。成果を出せたので、俺も思い切った提案を行う。
『作戦内容は今、説明させて頂いた通りです。ヴァイゼンはカレイドウルフ商会がシェアを握る第3管理世界、お嬢様のご採択をお願いするべく参りました』
『物腰は低いくせに、実行力がダントツに高いお前という田舎者が分からなくなってきましたの』
『前にも申し上げた通り、私はご近所付き合いを大切にしております。皆の力があってこそ、ここまで発展させることが出来ました』
『むっ、その言い分ですと――』
『当然、カリーナお嬢様とのご関係は何より大切にさせていただいております。是非ともお力添えをお願いしたく、この通り頭を下げてお願いしております』
『お前とカリーナでは格の違いがあります、友達のように思われるのが鬱陶しいですの』
『それでもこうしてお話を聞いて下さっているカリーナお嬢様だからこそ、頭を下げる価値があると確信しております』
『……セレナ、お前の代わりにマイアをカリーナに付かせます。我が商会のあらゆるルートを駆使して、最大限の支援を行いなさいですの』
『承知いたしました。このセレナ、いざとなれば旦那さまと無理心中する覚悟で望みます』
『俺が殺される!?』
『後ろから刺しそうで怖いですの!? ところでセレナ』
『はい』
『な、なぜ、その……そんなエッチな下着姿でいるんですの?』
『俺じゃないですからね、一応言っておきますけど!』
『お前がそんな程度の低い男ではないことくらい、日頃の付き合いで存じていますの。どうせセレナだと分かっているので聞いています』
『旦那様に辱められました、お恥ずかしい』
『自分で勝手に言い出して自爆したくせに!?』
――このような経緯があって、我がカレドヴルフ・テクニクス社は今大詰めを迎えている。
「カリーナさんやディアーチェから聞いたんですけど、お父さんの娘であるわたし達に結婚の話がよく来るそうです」
「レヴィは論外だとしても、お前達に結婚はまだ早いと思うが」
「政略結婚は早い段階から進められるそうです。勿論わたし達は全員断っているんですけど、シュテルはプライベートでもよく声をかけられるそうです。
物腰が丁寧な理性的な美人であり、常に冷静かつ聡明で評価も高く、多くの男性から誘われていると聞いています」
「あいつは大人びた容姿ではあるけど、人を寄せ付けない態度でも男にはうけるのか?」
「相手の立場に立って話を聞く許容はありますから、CW社でもシュテルを狙う人は多いと聞いています。高嶺の花である分、男性の意欲を掻き立てるのでしょう」
「クールビューティーというやつか」
「はい」
「だったら、俺の腰にしがみついているこいつは誰なんだ!?」
「父上ぇ……昨日も徹夜でしたので、膝枕して下さいー」
イリスに自分の魔法を無効化されたシュテルはCW社に出向して、新兵器の開発に取り組んでいる。一スタッフの筈だったのだが、いつの間にか主任のようにチームを動かしている。
連日連夜必死で励んでいると聞いて会いに行ったのだが、部署内では丁寧に兵器の説明をしていたのに、いざ家族だけになった途端まるで犬のように抱きつかれてしまっている。
高嶺の花の雰囲気は何処へやら、鼻を鳴らしてスリスリ甘え放題。引き剥がそうとするが、徹夜明けのくせに能力全開でしがみついている。くそっ、腕力が強いなこいつ!
独占欲が意外と強いユーリも、こればかりは苦笑気味だった。
「これでも他人には隙を見せない子なんですけどね……」
「隙だらけじゃねえか、こいつ」
「わたし達も今まで知りませんでしたが、お父さんには甘々っ子のようです」
「父上、会いたかったですよ……zzz……」
「こんなところで寝るな、仮眠室で休めよ」
「徹夜明けの女を仮眠室に連れ込んでどうするんですか、女性の汗の匂いは神聖ですよ」
「タワシで洗ってやろうか、こいつ」
疲れているのは本当なのか、白衣を着たままでうたた寝状態。意識半ばだというのに受け答えがハッキリしているのは、流石というべきか。
同じチームメンバーに聞いた話では新兵器開発には誰よりも精力的に取り組んでいる、短期間でほぼ完成状態にまで持っていったらしい。
後ほど完成品を見せて貰う予定だが、この子がこうして眠っているということが完成度の高さを証明していると言える。
だからこそ溜息を履きながらも、きちんと言うべきことは言ってやる。
「よくやったな、シュテル。偉いぞ」
「父上の娘ですから、えっへん」
「そういうところは、なのはと似ているな」
シュテルが開発した航空魔導師用の総合支援端末「CW-AEC00X」、個人用の汎用航空武装としてはひとつの完成形となる機体。
エネルギーシールドを発生させる3機の多目的盾と、身体に装着するアーマー状のメインユニットで構成されたシュテルのメイン装備。
メインユニットは魔力無効状況下での飛行制御や他ユニットの管制を行い、砲戦用「粒子砲ユニット」と中距離戦用「プラズマ砲ユニット」、近接戦用「ブレードユニット」を内蔵した新兵器。
要塞と呼ばれるに相応しい堅牢な航空防衛能力を持つ新兵器を、娘への誇りと敬意をこめて"フォートレス"と名付けた。
「結論から申し上げますと、二度と元には戻せません」
「……やはり、そうなのか」
――烈火の剣精アギトが壊れたと聞かされた時も、俺は冷静でいられた。
元より難しい改造であり、完成間近とはいえ実験の数も少ない研究だった。本来であれば時間をかけて行うべき改造を、本人の強い希望で行われたのだ。
違法でないにしろグレーゾーンである研究なのだが、都合が良いのか悪いのか、時空管理局より承認が出てしまった。これで、彼女を止める術は何一つ無くなった。
結果としてアギトは無理な改造を行って、壊れてしまった。
「シュテルさんが開発されたフォートレスに合わせて実装し、安定したフォートレスユニットに合わせて調整をいたしました。
本人の強い希望で後方支援用チューニングが施されており、社長による此度の成果を受けて地上本部より直々に承認もおりましたので――申し訳ありません」
お節介で説教ばかりうるさい奴だったが、よりにもよって最後に選んだ選択肢は俺と同じだった。
自分を改造して、生まれ変わる。俺はユーリ達に頼んで成功し、アギトは研究者達に頼んで失敗した。捨て身の覚悟で挑んだことは、同類である俺がよく分かっている。
力不足を技術で補うなんて無茶苦茶なのは、分かっている。それでも奇跡を望みたかった、強さを得たかった。そして何よりも――
失いたくなかったのだ、もう二度と。
「本人の希望だったんだ、あんた達を責めるつもりはない。
違法研究所にもあいつに関する資料は一切残されていなかったからな、設計書もないんじゃ無理なのは分かってる」
覆水盆に返らず、それでも何かを得るには捨てなければならない。剣士としては正しいが、人間としては明らかに間違えている。
それでも俺は剣士として生き、アギトはデバイスとして戦うことを望み、戦闘機人達は兵器として戦場に立つことを求めた。人間であることを、俺達は望まなかったのだ。
心があるというのに、人の生を望まない俺達は何者なのだろうか。他人を傷つける力を望むだけであれば、それはタダの化け物でしかないのではないだろうか。
しかし、それでも――
「戦う事を選んでしまうんだよな、俺達は」
「バカ野郎が多いからな、アタシらがぶん殴ってやらないといけないだろうよ」
――烈火の剣精改め、戦闘兵器"ヴァンガード・ドラグーン"となったアギト。
2機のS2シールドを実戦装備されたCW社のスペシャルチューニング、支援や防衛に特化した性能を持った新型ユニゾンデバイス。
フォートレスのようなメインユニットが無いが、アギト本人の適性によりフォーメーションコンバットが的確に行える機体性能を持っている。
赤き髪の少女を模した対AMF戦用武装端末は、獰猛な笑みを浮かべた。
「正義とは何なのか、考えてみたんです」
「答えは見つかったのか」
「イリスさんの事をお聞きして、答えなんて無いということが分かりました。自分が正しいと思っていても、他人から見れば間違えていることだってあります」
「人の心のことを知って、お前はこれからどうするんだ」
「私はライダーの意思を持った自動人形、オプションとしての使命を全うします」
――ファリンはノエルの為に、正しく正義の犠牲となった。
月村忍が考案した新型自動人形計画、戦闘用の「自立作動型汎用端末」として考案してジェイル博士が実現開発した人型兵器。
彼女を主とするノエルが実験体として手を上げて、彼女のオプションであるファリンが被験者として声を上げた。彼女が正しい心を持って提案したのは、ただ一つ。
わたしで実験して成功したら、お姉様を改造して下さい――忍もノエルも強硬に反対したが、ファリンは自ら志願して犠牲になることを望んだ。
その使命こそ人の愛であることを、知りもせずに。
「良介様、あの時映画に連れて下さってありがとうございました。ずっと、お礼を言いたかったんです」
「……ノエルはもう完成段階に入った。もう大丈夫だ」
武装端末やAEC装備の使用、プログラムに沿っての自律行動、使用者による遠隔操作等――ありとあらゆる無茶苦茶な実験が行われた。
どう頑張っても、時間が足りなかった。どれほど才能があっても、時間が足りなかった。どれほど人を集めても、時間が足りなかった。
だから――
犠牲が必要だった。
「わたしは、お姉様のお力になれたでしょうか」
「ああ――お前の行為は、絶対に無駄にはしない」
ジェイル・スカリエッティは言っていた。戦闘機人と自動人形の違いは、生命体を素材とせず個である事を一切必要としない純粋な『製品』だということ。
ゆえにこそ人間の数十倍の筋力や性能、高温や極低温、あるいは有毒ガス下でも活動可能な機体として活動させられる。それこそが、戦闘機人との違いであるのだと言う。
ファリンの試験稼働データによりCW社で試験採用されて、高度な運動能力の獲得や性能向上を目指した調整が今ノエルに行われている。
試験運用は見事に成功して、AMF戦用の特別仕様型として間もなく完成するだろう。
「わたしの意志は、何処へ行くのでしょうか」
「お前の正義は、ナハトヴァールが継いでくれる。あの子の友達になってくれてありがとう」
「聖地でずっと一緒に、頑張っていたんです。二人で一緒に戦って」
「ああ」
「悪い人達を懲らしめて――」
「立派だったぞ、お前達は」
「――」
「ファリン?」
「社長――機能停止を、確認いたしました」
「……あらゆる法律も、どんな責任も、どれほどの資金物資も全て、俺がお膳立てしてやる。
CW-ADX――そして『ラプター』を絶対に完成させろ。これは厳命だ」
「我ら職員一同、身命を賭して必ず成し遂げます」
――こうしてミッドチルダ初となる人型の機械端末、CW-ADX「ノエル」が完成した。
<続く>
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