とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第四十六話




 まさか白旗を設立して、戦力不足に悩まされる日が再び来るとは夢にも思わなかった。ユーリ達に戦闘機人、守護騎士達が加わってくれた時は戦力過剰にさえ思っていたのに。

決して、仲間達が弱いのではない。魔導という最大戦力を殺された事が大きい。敵は明らかに魔法を解析し、対策を講じて使用不能にする。一度でも解析されれば、二度と通じないと見ていい。

加えてリインフォースを洗脳した、ウイルスコード。ユーリには通じなかったが、魔導に関連する存在には有効的な洗脳兵器。のろうさ達の出撃も、これで危うくなってしまった。


聖王のゆりかごまで強奪されたのであれば、一刻の猶予もない。白旗のアジトへ人知れず戻った俺は治療を受けた後、一人で部屋に戻って通信を繋いだ。


「アポイントも取らず、夜分遅くでありながらお取次ぎ頂いて感謝いたします。このような格好でのご対談、誠に申し訳ない」

『事件発生よりこの時間に至るまで、リアルタイムで情報共有は受けている。嘘偽りない貴重な情報の礼だ、話し合う時間くらいはかまわん』


 解体業者も真っ青な骨折や打撲に加えて、全身の凍傷。リニス達から大いに嘆かれた上での徹底的な治療を受け、部屋のベットで寝転された状態。そんな俺を前に、彼は大真面目に話を聞いている。

レジアス・ゲイズ中将、深夜に至る時間でも彼は職務室で対談に望んでいる。管理局地上本部の実質的なトップを務めているベテラン局員は、此度の事態を受けて責任者としての任を全うしていた。

アリサに命じて、事件発生から彼にはリインフォース関連以外の情報は逐次提供を行っていた。わざわざ説明する必要もなく、本日聖地で起きた一連の事件について詳細を把握している。


だから大怪我を負って寝転されている俺を見ても、彼は眉一つ変えなかった。


『人災は未然に防げたようだが、被害も大きかったようだな。"聖王"である君も手酷くやられ、仲間達も痛手を負っている』

「こちらの目的は半ば達成しておりますよ、聖地を守ることが第一だったのですから」

『君の今の姿を見れば言い訳にしか聞こえんな。犯人を取り逃がした上に、犯人像に対して未だ何の手掛かりもない。どうやら君との取引も考え直した方が良さそうだな』


 万を超える成功を積み上げても、たった一度の失敗で全てが台無しになる。億を超える取引となれば、リスクとリターンが絶対に釣り合わない。大勝か大敗か、2つに1つだ。

大怪我を負っても見舞いの一つもないのは、当然である。仲良し小好しの関係では断じてない。お互いに利益を求め、目標を達成するべく組んだだけの取引関係でしかない。

傷に苛まれていても、即座に連絡を取ったのは正解だった。もしも翌日に回していれば、見限られていた可能性が大きい。たった一日の遅れが致命的であることを、この正義の体現者は理解している。


たった一度でも失態を犯せば、自分以外の他人が死ぬのである。他人を守る俺達に、休息はない。


「犯人については見当が付きつつあります。肝心のアジトについても幾つかの候補にまで絞れました、確実に追い詰めていますよ」

『どの口が言う――聖王のゆりかご、古代ベルカを代表する最大のロストロギアを奪われたそうだな』


 先程発覚した失態が、もう知られている。アリサの情報提供の延長線上か、それともオルティア捜査官からの報告か――いずれにしても、地上本部最高責任者に知られてしまった。

言い訳の一つも出来ない、最大の失態である。事が明るみに出れば、聖王教会への責任追及は免れないだろう。ゆりかごによる人的被害が起きれば、聖地に対する自治権も剥奪されるかもしれない。

そして聖地の実質支配を行っているのは"聖王"であり、大怪我して倒れているこの俺である。レジアスは当然地獄の道連れにはならず、まっさきに俺との関係を切るだろう。


「聖王教会が厳重に管理していたのですが、敵の解析能力が圧倒的に上回りました。何層にも徹底して施されていた結界が簡単に破壊され、警備を行っていたメンバーも倒されました」

『子供の遊びではないんだ、言い訳をしないから立派だとは言わんぞ。聖王のゆりかごはかつて古代ベルカ諸国を薙ぎ払った、悪魔の兵器だ。
今日聖地の空より落ちてきた隕石群とは比較にもならぬ、脅威だ。もはや此度の事件は聖地に留まらず、我ら地上の空をも悪意に染めるだろう。

よくもここまで正義と秩序を乱してくれたな、小僧。貴様の責任は必ず、容赦なく追求させてもらうぞ』


 いやむしろ、もう彼の中では既に切っている――この通信はあくまで聖地で起きた事件の確認でしか無く、情報交換が終われば二度と繋がらなくなる。

彼との取引が無くなってしまえば、CW社の存続が危ない。カリーナ・カレイドウルフは俺をゴミのように捨てて、社会から抹殺するだろう。


この通信を切られたら、何もかも終わりだ。俺の未来どころか、仲間達全員が破滅する。


「この私が正義と秩序を乱したと仰るのですか、中将殿」

『犯人のせいだとでも言うつもりか。確かに犯行を行ったものには厳罰を処して当然だが、ベルカ自治領の責任者はあくまで貴様だ』

「私が言いたいのは、そのような事ではありません。正義と秩序――これを正すチャンスだと、私は今宵持ちかけているのです」

『何だと……これほどの犯行を許しておいて、チャンスとはどういう意味だ』


「レジアス・ゲイズ中将、貴方の夢を叶えるチャンスが訪れたのです」


 俺だって大怪我しているのに、わざわざこんなオッサンの説教や嫌味を聞くために通信したのではない。今確かに最大の危機だが、最大のチャンスでもあった。

シュテルの必殺魔法が通じない開幕からリインフォースの襲撃に至るまで、数々の劣勢を受けて俺は確信したのだ。事態を動かせる、絶好の機会だと。


ここまで損害を被ったのだ、このまま泣き寝入りできるか。貧乏根性丸出しでも、小銭でも何でも拾って利益にしてやる。


「ユーリ・エーベルヴァインを筆頭とした我々白旗の魔導師メンバーの優秀さは、失礼ながらあなた方地上本部や空局の魔導師達にも勝るとも劣らないと自負しております。
そんな優秀な魔導師達の技巧が、事件を起こした犯人には一切通じませんでした。魔導が、通じなかったのです。

この敵を前にすれば、既存戦力は無価値となる――これすなわち、魔導という戦力のリセットを意味しています」

『白旗や聖王教会のみならず、我々時空管理局が保有する魔導戦力も役立たずとなる。つまり、全てが同じスタートラインに並ばされるとでも言うのか。
貴様はつくづく大言壮語を吐く男だな。たった一日で、全ての価値観が逆転などせんよ』


「貴方の悩みの種であった本局の強みがなくなると申し上げているのですよ、中将殿」

『むっ……」


 レジアス中将が苦言を呈する理屈はよく分かる。今回の犯人が未知なる技術を持っていると言うだけで、これから先の犯行に全て適応される筈はない。

だからこその大言、特殊ではなく前例として位置付けする。一度であろうと魔導が殺されたこの事実を、棘のように深くレジアス中将の急所に突き刺したのだ。

俺を甘く見るなよ、リインフォース。お前には確かに敗北したが、俺はそれでも剣士として立ち向かってやる。


取引を行っている相手であろうと、隙を見出して斬り込む。


「魔導が殺されてしまった以上、魔導師の強みは何一つ無くなってしまう。貴方が散々煮え湯を飲まされた本局の強引な勧誘、掠め取られた戦力が無価値となるのですよ。
そういう意味では確かに正義と秩序は乱れてしまう危険はあるでしょう。ですが今の事態は、貴方にとっては歓迎すべきでしょう」

『……本局に対して思うところがあるのは認めよう。だが少なくとも奴らは同組織、戦力の低下を喜ぶ悪趣味は持っておらんぞ。被害を負うのは民なのだ』

「いいえ、そんな事態にはなりません。何故なら我々は、この事態を予期していたからです。魔導という既存戦力を頼る危うさ、そして魔導殺しへの危機感を。
だからこそ、私と貴方は手を組んだ――この事態を見据えての取引だった筈です」


『"AEC武装端末"、CWXシリーズか!』

「既に実用化寸前でしたが、貴方との取引による巨額の援助と人的支援のおかげで完成しております」


 ――ハッタリである。フェイト・テスタロッサによる数多くの実機実験、月村忍とジェイル・スカリエッティ博士の尽力により完成しているが、実戦投入はまだ行っていない。

だが今回の事件を通じて、俺はもう自力での解決は諦めた。黒幕は剣士としての俺を上回る相手とわかった以上、仲間達と共に解決する道を選んだのだ。

実践で一度も試していない兵器を仲間に使わせる、愚挙。愚かの極みではあるが、それでも俺は仲間達を信頼している。


彼らであれば必ず、初の実戦投入でも使いこなしてくれる――奇跡を起こしてくれると、信じている。


「カートリッジシステム搭載型の総合支援端末、CW-AEC00X"フォートレス"。陸/空両対応型の中距離砲戦端末、CW-AEC02X"ストライクカノン"
AMF環境における運用実験でも、問題なく成功を収めております。魔力無効に対抗するために生み出されたこの兵器を、今こそ実戦投入いたしましょう。

敵は、魔導殺しの技術を有した軍隊。私と貴方が手を組んで事件を見事に解決すれば、人々の理解は大いに得られるでしょう。この成功が意味するところは、お分かりのはずだ」

『――地上防衛用の巨大魔力攻撃兵器、アインヘリアル。本局次元航行艦隊や希少技能保有者に頼らず、地上の安全保障体制を確立できる』


「聖王のゆりかご――敵が戦術的に行使するのであれば、我々は戦略的に活用してみせましょう。話題性は十分、全ての民が等しく危機感を抱くでしょう。
世界の危機に対抗するべく今、我々が手を取り合って立ち上がるのです。AEC武装――我々の理想を実現化した武器であれば、魔導師殺しが相手でも勝てる。
無力化されてしまった本局に先じて、貴方がた地上本部は新しい戦力を得られるのです。

法的整備を進める絶好のビジネスチャンスですよ、レジアス・ゲイズ中将殿」


 蒼天の書の強奪に聖王教会騎士団の壊滅、ここまでなら聖王教会が処理すべき案件。廃棄都市の消滅に車両群の急襲、ここまでなら地上本部が処理すべき案件だった。

だが聖王のゆりかご強奪は、世界的規模に発展するロストロギア事件。奪われたのは確かに聖王教会だが、魔導殺しが関わっているのであれば、時空管理局側も決して対岸の火事では済まされない。

ならばいっその事国際的テロ事件として、大々的に扱ってしまえばいい。前代未聞の事態であるのならば、超法規的対応も行える。すなわちグレーゾーンであるAEC武装も使える。


レジアス・ゲイズ中将を旗頭とした俺達全員で出撃してゆりかごを奪還し、世界を救ってしまえばいい。英雄には、あらゆる特権が与えられる。法の整備も、ゴリ押しできる。


『……儂は、どうやら君を侮っていたようだ……恐ろしい、実に恐ろしい男だ……
これほどの苦境に立たされながら、ここまでのプランを描いていたとは』


 逆である。ここまで追い詰められてしまったから、開き直って無茶苦茶言っているだけだ。ここまで絶望的になってしまえば、もう毒を食らわば皿まで飲み込むだけだ。

魔導兵器が主流化しているミッドチルダにおいて、魔導に頼らないAEC武装やアインヘリアルは人々の理解を得るのは難しい。だがいまここに、魔導師殺しの技術が世に出てきてしまった。

特殊な事例ではなく今後起きうる前例として扱えば、対策を行うのは時空管理局としての義務である。もしAEC武装によって事件が解決して世の中が平和になれば、賛成意見も多く出るだろう。


加えて聖王のゆりかごが強奪されたことで、この事件が世界規模に発展する――世界を救う兵器として、世に喧伝できる。


『怪我を押してまで儂に連絡を取ってきたのは泣き言ではなく、新しいビジネスチャンスを提供する為だったのか。新米社長とは思えぬ商魂だな』

「我社のスポンサーであらせられるカリーナ嬢は厳しいお方ですので」

『ふふ、ぬかせ――だが実際、聖王のゆりかごが強奪された事自体は脅威だぞ。お前の描いている理想像はゆりかごがあらゆる被害を出さず、奪還できてこそ達成できる。
魔導師殺しに対する対策があることはわかった。運用事件の成果はレポートでも確認しておるし、実戦投入するのは認めよう。必要なことであるのは理解できるからな。

だが、敗北したばかりのお前に――この事件を解決できるのか。儂の夢を、お前に託してよいのか』


 彼は今、敢えて敗北だと言い切った。ユーリ達が賛美する中でたった一人、冷静かつ冷徹に俺は敗北したのだと告げた――いや、告げてくれた。

この男の言う通りだ。今俺が言ったことは全て、次に勝利してこそ実現できる。何もかもひっくり返せるのは、勝利以外にありえない。

もしも次に敗北すれば、もはや何も残らない。聖王のゆりかごが万が一にでも攻撃すれば、焦土と化すだろう。聖地は――ミッドチルダは、終わりだ。


覚悟を試しているのではない。彼はどこまで徹底した現実主義、聞きたいのは結論だ。


「犯人の狙いは、俺です――だから、この俺が捕まえます。
聖王のゆりかごの目標は、ユーリ・エーベルヴァインです――だから、ユーリが奪還します。

予言成就時に信徒の方々の前で宣言していますが、どのみち俺は神の座を降りる予定です。"聖王"に全部責任を押し付けて、貴方はどうぞ英雄となって下さい。
素晴らしい後継者にも恵まれましたので、代わりと言ってはなんですが、その子には是非とも貴方のご支援を頂きたい」

『まさかここまで多大なメリットのある商談を持ちかけられるとは夢にも思っていなかった。夜遅くまで起きていてよかったよ。
しかしだ、引退には些か早すぎるだろう。"聖王"殿には今後もせいぜい役に立ってもらおうか。
此度の一見については明日儂が会見に臨んで、口添えしてやろう。魔導殺しの驚異は事実だからな、今後にも繋がる。


最高評議会の連中も騒ぎ立て始めているが、儂に任せておけ。その間に、君は一刻も早く戦力増強に努めよ。必ず武装を完成させろ』


 ――やはり最高評議会の連中も動き始めていたか。ジェイル・スカリエッティと戦闘機人達、彼らが求めていた戦力を根こそぎ俺が保有しているのだ。動向を残さずマークしている。

クアットロの能力でリインフォースとの戦闘は隠していたのだ、闇の書の関与までは発覚していない筈だ。ただ俺の敗退は伝わっており、早速レジアスを通じて俺の失脚を狙いに来ていた。

今晩の内に話しておいてよかった。口だけのあいつらとは違い、俺は彼の夢を実現するべく確実に動いている。レジアスがどちらを優先するか、言うまでもない。

彼の正義にも危うい面は確かにあるが、肝心の兵器開発を俺が握っている限り軌道修正は行える。


「ありがとうございます、本当に助かります。ではお礼代わりにもう一つ、私からご提案をさせて下さい」


 犯人の動機が個人への復讐であるのならば、必ず俺を殺さなければならない。だから必ず、リインフォースを連れて俺の前に姿を見せる。
法術で実体化したユーリは、聖王のゆりかごでしか殺せない。だから必ず、聖王のゆりかごを動かしてユーリを攻撃する。

どちらも必ず、返り討ちにしてやる――ユーリが俺を信じてくれるのならば勝てる、俺がユーリを信じていれば勝ってくれる。


――そして。


「私と貴方が手を組めば必ず事件を解決し、理想は叶えられるでしょう。
先程も申し上げましたが、聖王のゆりかごが奪われたこの事実をこの際徹底的に利用しましょう」

『どうするつもりだ』


「聖王のゆりかご奪還とテロ鎮圧を目的とした特別部隊を編成いたしましょう。
時空管理局に聖王教会、白旗に人外戦力、元傭兵に猟兵。人材を問わず、AEC武装を装備した精鋭部隊――そうですね……


『特務機動課』など、いかがでしょうか?」















<続く>








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