とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第三十一話
廃棄都市消滅事件は程なくして聖王教会にも伝わり、セッテ団長率いる聖王騎士団が緊急出動して白旗に合流。聖騎士アナスタシヤも早急に護衛陣へ加わり、代わりに聖地への連絡係としてミヤが残った。
惑星エルトリアに関する詳細を煮詰めた後、ゼスト隊長の命を受けてルーテシア捜査官がオルティアに連絡を取ってくれて、事件現場の捜査を認めてくれた。
形式的にはルーテシア捜査官に一任される形であり、俺達はあくまで彼女の補佐という名目で立ち会う。聖王の名を関していても民間組織の長でしかなく、一般人の立ち入りは認められないのだ。
面倒ではあるが、ややこしくても手続きを省く訳にはいかない。結局午前中は手続きに追われてしまい、事件現場に到着したのは午後を過ぎてからの事だった。
「……本当に、何も無くなっているな」
「大掃除が行われたのだと考えれば、合理的ではないかと」
「日本では今、十二月だからな。そう考えられなくはないけれど、ここまで更地になってしまうと恐怖よりも孤独を感じさせるな」
月村すずかとアナスタシヤを連れて、現場に到着。参謀役のシュテルが一見して述べた感想に、俺は溜息混じりに同意するしかなかった。何も無くなってしまうと、どんな感想も浮かばない。
廃棄都市、一度も訪れた事のない廃墟は消滅していた。廃材や資材が山積みされていた廃棄の建物は消し飛んでおり、真っ白な大地が広がっているだけだ。
クロノの説明では、確か空港が閉鎖された事により都市計画が頓挫したとの事だったが――
「聖王陛下。貴方より受けた情報には無い事態となっているようですが、意図的に隠蔽したのでしょうか」
「何故、真っ先に俺に疑いをかけるんだ。嘘をついても、こうして現場に来れば一目瞭然だろう」
「確かに仰る通りですね、実に杜撰な情報管理です。仮にも組織の長であれば、情報管理は徹底しておくべきでしょう」
「因縁に近いけれど、あえて忠告として受け止めておくよ」
「シュテルさんへの厚意です、勘違いなさらないで下さい」
「公私の区別をつけてくれ、頼むから」
――オルティアが難癖に近い指摘をした通り、近隣の閉鎖空港まで消滅していた。
先程真っ白な大地だと言ったが、その表現は広大な規模であった。廃棄都市を中心として、隣接していた空港まで消し飛んでいるのである。
空港は確かに閉鎖されていたが、旅客機などの航空機は倉庫で眠っていた筈である。使用される予定は無かったが、同時に撤去する予定もなく放置されていたのだ。
本当に杜撰な管理だったのは間違いなく、大企業が見捨てた空港は役立たずとして単純に閉鎖されていた。使用されない機械は廃棄さえもされずに、この場に捨てられたのだ。
ここまで一応連れて来てくれたオルティアの車に乗って見回ってみたが、本当に何もなかった。
「閃いた」
「ほう、聞かせてもらおうか」
「貨物機に廃材全部乗せて運んだ――どう?」
「名探偵ノア、爆誕だな」
「初歩的な推理だよ、助手君」
「……貴方達、遊んでいるなら帰ってもらいますよ」
ハイタッチしている俺達に毒気を抜かれたのか、美人捜査官オルティアさんは呆れた顔で溜息を吐いた。結構悪い戦ではないと、俺なりには思うけどな。
元傭兵団よりオルティア、元猟兵団よりノアが今日も出向している。多分オルティアとの複雑な関係を思い遣って、ノアもはっちゃけた意見を言ってくれたのだろう。意外と、気のつく子なのだ。
クロノが空港に関して言及がなかったのは恐らく、廃棄都市の一つとして認識していたからだろう。本局の人間が、地上に関する線引きを行うのは難しい。
それにしても閉鎖空港まで消滅していたとなると、事態の度合いも変わってくる。オルティアが神経を尖らせるのも、無理はない。
「……ごめん、リョウスケ。情報の把握が出来ておらず、貴方が責められてしまった」
「腹は立つけれどオルティアの指摘は正しいし、左遷されているあんた達が情報収集に手間取るのも分かる。どちらも責める気はないよ」
「閉鎖された空港にどれほどの機体が放置されたままとなっていたのか、すぐに確認する」
「よろしく頼む」
"ルーテシア"のキャラクターで頭を下げるメガーヌに、俺は首を振った。クロノ達の失態と言えるほどでは決して無い、先程も言ったが仕方がないことだ。
元は地上本部に所属する捜査官、左遷されたとはいえ組織に所属する以上は機能も権利も残されている。人脈も行使して、積極的に情報収集を行ってくれた。
都市レベルの廃材だけではなく、航空機能まで消滅。これがもし蒼天の書強奪犯が行ったのだとすれば、魔導書を使って取り込んだという見方も出来る。
夜天の人が一番詳しいのに、本人が行方不明だという符号も嫌な感じだ。このまま出し抜かれるのは、かなりまずい。
「陛下」
「セッテか。現場検証はどうだった」
「……」
「なるほど、魔力痕に至るまで消失された形跡があったか……消滅した痕跡まで追えるのは、戦闘機人ならではの分析力だな」
「! ……」
「ははは、そこまでやる気を出してくれるとこちらとしてもありがたいよ。許可は出ているので、引き続き検証は頼む」
オルティアの車には俺やシュテル達が乗り、護衛としてもう一台セッテ達聖王騎士団が同行している。トーレが運転して、セッテ達戦闘機人メンバーが現場へ駆けつけている。
戦闘機人の分析能力は非情に優秀で、消失や隠蔽された痕跡に至るまで綺麗に洗い出してくれた。魔導書が使用された形跡もハッキリと確認できたと知って、俺は肩を落とした。
八神はやてにしか使用できない夜天の魔導書が、使われている。ユーリ達に何の影響もないとすれば、法術で改竄していないページが使用されている可能性が高い。
だが持ち主しか使えない闇の書、しかも蒼天の書にまで改竄された魔導書をどうやって扱っているのか――分析された聖典を読み取られたのも関係しているのか。
調べたいのだが、聖典も破壊されている。くそっ、どういう事なんだ。どうしてここまで的確に先回りが出来る。ここまでの動きから見ると――
「父上の動き、そして何よりも父上の能力を把握した上での行動ですね」
「法術がやはりバレているのか」
「いえ、逆です。法術の詳細が分からないからこそ、法術であれば出来るであろう範囲を忌避して行動している。つまりこの犯人は――
父上、貴方一人を敵だと認識している。時空管理局や聖王教会、あらゆる巨大組織や魔導力を物ともしていない」
「時空管理局だけではなく、聖王教会まで動いているんだぞ!?」
「潰せる自信があるのでしょう。貴方だけは脅威なので、徹底的にマークしているのです。ですから、父上には実像が掴めない」
世界会議や聖地戦乱において幾つもの覇権争いを行っていたのだが、これまで俺一人を狙い撃ちにされたケースはなかった。理由は単純で、取るに足らない雑魚だったからだ。
何時でも潰せるから、他の強い勢力を先に戦う。その間に俺が勢力を広げて、最後に逆転していた。相手が侮ってくれるその隙を狙って、行動していたからこそ勝てた。
だが、この犯人は違う。他の勢力はどうでもよく、俺だけを驚異としてマークしている。だからここまで大胆なことをしておいて管理局や教会を平気で敵に回しながら、俺にだけは確実に先手を打つ。
このままでは、思い通りにされるだけだ。しかし実像が見えないのであれば、どうやって反撃すればいいのか――
「カリーナ様には既にお取次ぎを頂いているのでしょう。恐らく今夜にでも連絡が来るはず、大物を動かしましょう」
「レジアス・ゲイズ中将――そうか、これがお前の対抗策か」
「ここまでの事態を見通していたのではありませんが、父上の右腕としての役割を果たしたまでです」
犯人の先手を打てたことよりも、俺に褒められたことに鼻を高くするシュテル。本当に世間の評価はどうでもいいらしい、娘らしい微笑ましさであった。
結局一日かけてオルティア達と調査を行ったが犯人に対する手掛かりは掴めず、夜になってしまった。夕食を取りつつ作戦会議し、セッテ達が調査してくれた内容をオルティアやノアに共有。
魔導書ではなく、あくまで犯人が行った事であるとピックアップし、蒼天の書そのものへの驚異を避ける。説明は難しかったが、シュテルが丁寧にやってくれたので、オルティア達も納得してくれた。
夜も更けてきたので、一旦撤収。車に乗り込む際、オルティアが近づいて来た。
「……先程は、失礼いたしました。明日からも引き続き、よろしくおねがいします」
「いや、こちらこそよろしく頼む」
事件現場に来た時の指摘について思うところがあったのか、オルティアが頭を下げた。公私混同の区別はつけるべき、俺が言わずとも反省できる立派な女性だった。俺も、何も言わなかった。
思惑はどうあれ、今は協力関係を結んでいる。犯人の驚異を改めて認識したからこそ、いがみ合っている場合ではないと判断したのだろう。嫌いな相手でも頭を下げられる彼女は、大人だ。
俺も、気持ちは同じだ。そもそも彼女の事は嫌っていないし、難物だとは思うが不快ではない。聖地戦乱で覇権争いをしたのだ、割り切れない気持ちがあって当然だった。
帰りの車内でも静かではあったが、特に居心地の悪さはなかった。皆、仕事疲れで口を閉ざしているだけだ。
「剣士さん」
「今日もお疲れ様だったな、妹さん」
「まだです」
「はは、几帳面だな。まあ家に帰るまでが遠足と言うし――」
「後ろから来るトラック、誰も乗っていません」
……一瞬何を言われているのか分からず、咄嗟に後部座席から背後を振り返った。
確かに妹さんの言う通りトラックが来ているが、まだ遠い。かなりの車間距離が開いていて、誰が乗っているのか見えない。夜なのもあって、運転席や助手席が見えづらい。
ライトは点灯しており、運転自体はスムーズに進んでいる。むしろ元気に加速していると言っていいのだが、言われてみるとこちらに接近しているかもしれない。
誰も、乗っていない――"声"が、聞こえない。
「オルティアさん、後ろのトラック――」
「聞こえていました、距離を取ります」
「車を遠隔操作することは、可能ですか」
「不可能では――ま、まさか!?」
バックミラーを、見る。
――トラックが、飛び上がっている。
「は……?」
次の瞬間、上から押し潰された。
<続く>
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