とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第六十九話
                              
                                
	
  
 
 
 
 ひとまず事情を説明して、シュテル達を穏便に解放してもらった。本人達は全く気にしていないとはいえ、誤解をされたままでは困る。立場上、どちらも我が子なのだから。 
 
……自分で言っておいてなんだが、この子達全員が自分の子供なのだ。自分の法術で生み出されたシュテル達と、自分の遺伝子で生み出されたディード達。本人の意志は全く関与していない。 
 
まだ成人していない自分が子持ちとなってしまったこの現状、自分が望んで進んでいない人生なだけに、大いなる運命に容赦なく巻き込まれてしまっている感じがする。 
 
 
流されるままの人生なんぞ真っ平なので、ひとまずの抵抗は試みてみよう。 
 
 
「オットーと言ったか。お前もこのディードと同じく、俺の子供なのか」 
 
「うん、僕とディードは双子。おとうさんの遺伝子から産まれた子供だよ」 
 
「姉妹達の中で、私とオットーの二人だけがおとうさまの子供なんです」 
 
 
 姉妹達というのが誰なのか言うまでもないが、あいつらの中でこの二人だけが俺の遺伝子から産み出されたようだ。よし、大量生産はされていないな。 
 
闇の書や法術について調査するべくこの無限書庫へと来たのだが、今はとにかく後回しにして一刻も早く聖地に連絡を取りたい。具体的に言うと、あのクソ博士を殴りに行きたい。 
 
恐ろしいほど手遅れなのだが、最低最悪でもあの野郎から俺の遺伝子は回収しなければならない。戦闘機人の話が出た時何故この可能性を考慮しなかったのか、過去の俺を引っ叩きに行きたい。 
 
 
本当なら今すぐにでも連絡したいのだが、機密保持の為に許可のない通信は行えない規則となっている。ぐぬぬ、クロノがいれば――あ、そうだ。 
 
 
(お前ら、クロノはどうしたんだ) 
 
 
(パパを攫った女の子を捕まえに行ったよ) 
 
(見事なバタフライを決めて現れまして、至急追跡に向かわれました) 
 
 
 ……あの潜水娘、単純に逃げたんじゃなくて囮役を買って出やがったのか。本人の戦術なのか、ディード達の主による戦略なのか、なかなかやりやがるな。 
 
白昼堂々俺を攫っておいて人目を引き、タイミングを見計らって戻りクロノの注意を引くという二段構えの作戦だ。俺と黒幕を会わせる目的を知らなければ、誰だって尖兵を追ってしまうだろう。 
 
特にあの娘は、地中の潜水を行える特殊な固有能力を持っている。目の前で堂々と能力を見せびらかされたら、優秀な執務官であればあるほどそちらに目を向けてしまう。 
 
 
地中とはいえ戦ってみて、よく分かる。あの娘では、クロノには勝てない――だが逃走という一点においては、クロノでも容易くは捕らえられない。こちらへの救援は不可能か。 
 
 
「どうしてこんな手間を掛けて会いに来たんだ。俺の娘であるのならば、普通に会いに来ればいいじゃないか」 
 
 
「私とオットーの最終調整に、時間がかかりました。申し訳ありません」 
 
「ごめんね、おとうさん。立派になった僕達を見せたかったんだ」 
 
「いや、理由があったのならそれでいいよ。恐縮しなくていい」 
 
 
 本当に申し訳無さそうに頭を下げられて、面食らってしまう。話を聞いた限りでは主だという人はすぐにでも会いたかったようだが、ディードとオットーが動けなかったらしい。 
 
わざわざ別々に会いに来るというのも申し訳ないと、あらゆる調整を行っていたらしい。きっと俺が多忙だった事も含まれているのだろう、ここの所あちこち飛び回っていたからな。 
 
本人達は語らなかったが、恐らく自己紹介も含めてこのような飛び入りを行ったのだ。あの潜水娘が外野であるクロノ達の露払いを行い、ディードとオットーが俺達の相手を務める。 
 
 
なかなかよく出来た陣形である。あの潜水娘にしても、見事に役割を果たしている。結果的にこうして、お膳立てされたからな。 
 
 
「お前達を俺にけしかけた奴から、シュテル達の事は聞いていないのか」 
 
「お話は伺っています。血も繋がっていないのに、おとうさんの娘を勝手に名乗っていると」 
 
 
 ――悪意のある物言いに、心当たりがある。とりあえず、あの眼鏡の女は殴る。 
 
 
「ふふん、分かっていないね僕っ娘。いいかい、ボクとパパは魂でつながってるんだよ」 
 
「実に、非現実的です。おとうさんの家系へ連ねるには、血を継がなければなりません」 
 
「そんなの、かんけーないもん。パパはボクが大好きなんだから!」 
 
「っ……おとうさん、僕の方が好きだよね!?」 
 
 
「不毛な論争だと思わんのか、お前ら」 
 
 
 理知的なオットーの主張に、非論理的な主張で元気に対抗するレヴィ。姉妹喧嘩を余裕で開始しそうなので、投げやりに止めておいた。こういう場合、どちらの味方もするべきではない。 
 
今日初めて出逢った血の繋がりのある子と、三ヶ月以上連れ添っている血の繋がりのない娘。どちらに愛があるのか、天秤にかけるまでもない。本人達が納得するまでシーソーゴッコさせればいい。 
 
もう片方は静かではあるが、仲良くはしていない。シュテルとディードはどちらも自分こそが最愛の娘だという確信の元に、堂々と睨み合っている。どちらも自信家なので、手を焼かされる。 
 
 
大体の事情が分かったところで、ディード達が足を止めた――本棚の連なりが、途切れている。 
 
 
「この先に、私達の主がお待ちです。どうぞ、おとうさま」 
 
「僕達は、ここで待っている。あなた達も遠慮してほしい」 
 
「なんだか知らないけど、パパにお任せするよ。何かあったら、すぐ行くからね」 
 
「父上、貴方の最愛の娘がここで帰りを待っていますよ」 
 
 
「はいはい、大袈裟な見送りありがとう――行ってくるよ」 
 
 
 無防備に出向くほど、俺も馬鹿じゃない。あの娘達も剣を取り上げようとはしなかったので、竹刀を手に無限書庫の中央フロアへと歩んでいく。 
 
潜水娘に随分と深く引き込まれただけあって、天井が見えないほどに無限書庫の深淵へと潜り込んでしまっている。見渡すと現代記録より、古書の方が多そうだ。 
 
ディード達が自らセッティングしたフロアだけあって、人っ子一人いない。おかげで、聖王オリヴィエの霊も解放したまま帯剣する事が出来ている。 
 
 
――そういえば俺の娘達が名乗り出たと言うのに何も言わなかったな、こいつ。 
 
 
「先程から黙り込んでどうした――あれ、いない!?」 
 
"オリヴィエママなら感極まって気絶しているよ、ダーリン" 
 
「世界を滅ぼす怨霊が、孫の誕生に感動するな!」 
 
 
 しまった、そもそもこいつに封印なんぞ無意味だったんだ。何故か俺を息子だと誤認しているからこそ大人しいのであって、本質は世界を滅ぼそうとする強大な荒御魂である。 
 
シュテル達でも大いに喜んでいたのに、本当に血の繋がりのある子供達が出来るとどういう心境になるのか予想が付かない。良い方向へ向かうのか、悪い方向へ向かってしまうのか。 
 
楽観論は危険である。極端な話、聖王の家系が新たに出来たのだから、今の世界はもう不要だと焼き払ってしまう可能性もある。常識が通用しないのだ。 
 
 
くそっ、基本的に人の話を聞かない怨霊だ。一体、どうしたものか―― 
 
 
「お前は、あの子達をどう思っているんだ」 
 
"アタシの子供があんなに可愛いなんて思わなかったよ!" 
 
「自分の子供にしてる!?」 
 
 
 やばいぞ、いい加減整理しないと訳が分からなくなってきた。自分の家族だと言うのに、自分の意志が全く介在しないまま家族が勝手に発展して一族になりつつある。 
 
親権問題も棚上げしたままだし、遺伝子の件もあるし、クイントやメガーヌを交えて家族会議の場を設けよう。ギンガ達やルーテシアの件もあるからな。 
 
アリシアも言っていたが、母親の事も厄介だ。シュテル達やディード達には、俺という父親しかいない。一応婚約者はいるけど、子供達が増えたので母親になってくれというのも妙な話だ。 
 
 
とりあえずこれ以上、家族が増えないようにしないと―― 
 
 
 
息を、飲んだ。 
 
 
 
「こんにちは」 
 
 
 
 ――分かった。分かったのだが……この目で見ても、信じられない。 
 
どうしてこの無限書庫で会おうとディード達を使いに出したのか、その答えが目の前に広がっていた。 
 
 
山のように積み重ねられた、蔵書の量。無限書庫に陳列されていた貴重な蔵書の数々が、見上げんばかりに積み重ねられている。俺を待っている僅かな間に、全部読んだのか!? 
 
 
豊富にして膨大な知識の量の前に君臨する、一人の少女。高町なのはよりも小さな体格に、溢れんばかりの知識が詰め込まれているのが分かる。だが驚愕したのは、その容姿の欠片。 
 
薄暗い書庫の中でも輝いている豪奢な金の髪に、カレンの美が浮かび上がっている。左右の色が異なるオッドアイ、緑の右目にディアーナの知性、赤の左目にはクリスチーナの無邪気さ。 
  
溢れんばかりの気品にはカミーユの人徳、あらゆるものを惹き付ける声にはヴァイオラの魅了が宿っている。向けられる笑顔の純真さは、月村忍の愛情。 
 
 
そして何より――この王者としての威厳はまさしく、夜の一族の長カーミラのカリスマ。 
 
 
 
「"ヴィヴィオ・ミヤモト・ゼーゲブレヒト"、パパのむすめです!」 
 
 
 
 夜の一族の姫君、彼女達の娘が俺の名を継いで祝福を口にした。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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