とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第五十話






 伝説の聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒト本人が俺の身体を的確に動かす技法、ネフィリムフィスト。この技には、未熟な剣士において致命的な欠点が存在する。

欠陥ではなく、欠点。荒御魂オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが繰り出す技そのものは完璧であり、完成された聖王技を持ってすれば御神流奥義の一つをも体現出来る。

ただし俺の身体を使用しているとは言え、俺を動かしているのはあくまで取り憑いた荒御魂本人。俺の知識を完全共有して、師より学んだ技を発現してくれたのだ。


つまりネフィリムフィストを解除してしまうと、俺自身では技の再現が行えない。体が全く覚えてくれないのである。



『格闘ゲームでどれほど勝利を積み重ねても、強さを讃えられるのは操作するプレイヤーだもんね』

『何を言っているのか分からないが、微妙に間違えている気がする』



 鍛錬している俺を笑って観戦していた愛人の発言を思い出すと腹は立つが、自分が強くなるのに近道はないという事なのだろう。正直、さほど楽観も悲観もしていない。

御神流奥義の六、薙旋。二刀による抜き打ちから放つ、神速の四連撃。師匠より知識として教わったその時、自分には生涯成し得ない絶技だと絶望した。不可能だと、自身が悟ったのである。

未来とは知るべきものではない知識であると、映画の偉人が述べていた事を思い出す。俺にとっては禁断の果実だったので、知識を与えた師匠を恨んだ事もある。生き残る術だと、知りつつも。


だが、違った――師匠は、未熟な俺にも未来はあるのだと示してくれたのだ。自分の意志で放ったのではなくとも、可能性は常にあるのだと。


「どうよ。烈火の剣精の実力、思い知ったか!」

「荒御魂であるオリヴィエさんとの共同生活は私を花嫁としてパワーアップさせたのだ。エッヘン」

『これこそ、古き世界を破壊する浄化の力です』


 古代の融合機アギトと風霊アリシア・テスタロッサ、荒御魂オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。炎と風の力を媒体に、拳聖の極技が遺憾なく発揮された。

俺自身の消耗は、さほどない。彼女達自身の力を借りたので当たり前だが、自分自身の肉体が絶技使用による負荷に耐えてくれたのは正直なところ驚きであった。

御神美沙斗師匠の正確な知識、リニスの勤勉な教育、守護騎士達の徹底した指導、アリサ達が調整した規則正しい生活習慣が、俺自身の肉体を理想的に仕上げてくれたからだろう。


敢えて弊害を挙げるとすれば先も述べた通り、人間的な成長こそしても剣士としての技術が磨かれない点だ。やはり自分自身で戦わない限り、鍛えられない。


「見事な絶技であったぞ、"聖王"よ。我との死闘に加減をしていたと、邪推する気はない――今この時に、到達したのだな」

「実感が無いということが、正直な感想だな。もう少し感動があればドラマティックだったんだが」

「常に強さを追い求める我らの業であり、宿命だ。運命を見据えられるのは預言者のみ、我らは戦士として無慈悲に戦うことを義務付けられている」


 映画のように運命の瞬間を迎えられないのだと、魔龍の姫プレセア・レヴェントンは述べる。戦士の悲哀、到達して尚当然であるのだと受け止める。

新しい技が完成して喜べるのはあくまで、映画を見る観戦者でしかないという事だ。戦士も剣士も、敵を倒す事が使命。起こり得るべくして起きた事を、童のようには喜べない。

だからこそ彼女は長として、部族を率いる。ゆえにこそ剣士は他人の上に立ち、仲間達を連れて行く。自分以外の他人と共に、生きている。


運命の瞬間を目にして、レヴィ達が歓声を上げているのが見える。自分は喜べなくても、仲間達は我が事のように喜んでくれている。それこそが至上の幸福であるのだと、プレセアは微笑う。


見直すしかなかった。戦いでこそ勝利したが、プレセア・レヴェントンはやはり戦士として俺より遥かに格上だ。気高き龍の女王は、戦における立ち振舞いを理解している。

仲間達を率いて戦うのであれば、彼女のように在らなければならない。喜びも悲しみも怒りも楽しみも共有し、戦うべき時は常に独りでなければ生き残れない。

ならば今どうするべきか、彼女は俺に問うている。運命を迎えたこの瞬間に司令官として成すべき事は何なのか、彼女は待っている。


分かっているとも。剣は一度捨てたのだとしても、俺の手には今も握られている――頭上に高く掲げて、発した。


「全軍、出撃」

『おう!』


 凶事を知らせる流星を叩き斬られて、憂流迦の光は失われている。長が放った光は、天狗一族にとっての希望。希望を失った戦士達の存在は、悲哀そのものである。

休戦を訴えることは、可能であった。和平を結ぶことは、不可能ではなかった。話し合いで解決することは、難しくはなかった。そのどれも、俺は見切りをつけた。

自分自身の命が狙われた事は、どうでもいい。自分が傷付いた事は、当たり前でかない。剣士として生きている以上、敵に命を狙われるのはそれこそ運命なのだから。


しかし、家族達は悲しんだ。しかし、仲間達は怒った。しかし、恋人達は悲しんだ――自分以外の誰かが苦しめられたのであれば。



情熱がなくても、俺は再び剣を取る事を躊躇わない。



「作戦を、決行する。我ら聖王教会騎士団、出撃!」

「同じく我ら家族一同、出撃だ」

「我ら龍族、今こそ自由を勝ち取るべく、出撃する」


 野戦において全軍を予め三隊に分けて、出撃。まず中央の部隊のみが敵に正面から当たって、敵の主力を誘い出した上でぶつかり合う。火力の高いシュテル達が、突撃した。

天狗一族の主力とはすなわち、神として信仰の対象となる大天狗。太郎坊、三尺坊、僧正坊、次郎坊。すなわち、鞍馬天狗と呼ばれる豪傑である。

山神としての天狗は輝く鳥として讃えられており、霊峰とされる山々で霊力を高めている。古代から続く山の神秘観、山岳信仰に結びついた彼らは非常に手強く、天狗道の体現者である。


敢えて難を言うのであれば、彼らが魔導師という存在そのものを知らなかった点に尽きる。


「あはは、やるねオジサン。だったらボクも全力でやっちゃうぞ、"天破・雷神槌"」

「雷を操るというのか、童女よ。よもやあのような人間が、雷神の子を生み出すとは!」

「父上より教わりました、人であろうと無かろうと時間の流れは平等であると。貴重な時間を人を憎む事で浪費し、人としての可能性を見誤った貴方達の敗北です。
人妖融和の理想。私達外道と人である父との絆、見せてあげましょう。いきますよレヴィ、"ライトニングゲイザー"!」

「ほ、炎と雷の噴射による、広範囲攻撃――我らが殲滅されるというのか!?」

「王者であると驕ったか、山の神よ。愚かしくも哀しいな、我とて以前は同じであった。不遜であるがゆえに無知、個の強さを誇るだけの愚か者。
しかし、今は違う。我こそ絶対の王である父の後継者、ロード・ディアーチェ。我は個にして子、父より学んだ繋がりの強さを見せてくれようぞ。


エクスカリバー、トリニティ!!」


 炎、雷、闇が絡み合う合体魔法、巨大砲撃魔法が天狗一族の主力に突き刺さった。姉妹の強さ、我の強い彼女達では今まで発揮されなかった極地が示される。

いつの間に、とは思わない。俺と同じく、今この瞬間に辿り着いた。御神流奥義を目の当たりにしたその時に見出したのだろう、繋がる事の強さを。

アリシア達との絆を見せつけられて、俺の子である彼女達が奮起しない筈がない。さりとて此処は戦場、我のぶつかり合いである舞台で我を捨てる事は一体どれほど大変なのか――


大連撃砲が天狗一族の主力を吹き飛ばす光景は、圧巻の一言だった。


「お前はいいのか、ユーリ」

「私はあの子達の大切な人達を守るために、此処にいます。お父さんとお父さんの大切な人達を守るために、私の力はある。
たとえ星が落ちてこようと、私の意思は砕けません」


 ユーリ・エーベルヴァインは、我の強さによる限界を学んだ。どれほど強大な力であろうと、独りで守れる範囲はとても限られている。

大いなる力を得て世界を守れても、自分や自分の大切な人を守れなかった王がいた。母や妹を守れず無念のまま事故死した少女がいた。主に恵まれず封印されていた融合機がいた。

彼女達の強さを見せられて、同じく強大な力を持つユーリは悲哀を感じたのだろう。優しき少女はアリシア達の強さの原点を知り、自分の力の使い所を学んだ。


姉妹達がどれほど活躍しようと、ユーリは決して飛び出さない。羽ばたいて行った鳥達を見つめながら、彼女は優しく鳥籠を守っている。


「剣士さん、騎士団が伏兵を捕らえました」

「やはり潜ませていたか。城島晶を人質に取るような真似をする連中だ、似たような戦術を取るだろうよ」


 伏兵を以って兵数に勝る相手を撃退、古典的だが有効な手段である。闇に潜む天狗であれば、この程度の戦術は容易い。見破られていたら、何の意味もないが。

正確に言えば、全ての戦術を見破っていたのではない。知識ではなくむしろ経験、城島晶の一件がなければ見通すのは難しかっただろう。剣士が軍師の真似事をするのは困難だ。

何より発想を実現に移すには、優秀な兵士が不可欠だ。戦闘機人という極上の兵士がいてこそ、素人司令官の発想が活かせる。


人ではなく戦闘機人、仲間ではなく兵士として生かすやり方――非道な扱いを受けて、俺の騎士達は勇ましく敬礼する。


『今更、隣人のように扱われても迷惑ですわ。わたくし達は偉大なドクターより作られた、戦闘機人ですもの』

『陛下のお力となるべく作られた。戦わせて欲しい』


 最高評議会の手から離れても、彼女達は市井の生活を選ばなかった。明るい平和も、麗しい恋も、優しい自然にも背を向けて、彼女達は武器を取った。

生身の人間でなく、機人であると認識されて、彼女達は奮い立っている。俺が剣士として生きているように、彼女達は兵士として生きる道を選んだ。

それでも変わったのだと、製作者は苦笑している。彼女達は、自分達を騎士と名乗っている。ただそれだけで作った価値はあったと――


"人間"とは素晴らしいのだと、ジェイル・スカリエッティは讃えていた。


「天狗"一族"は、我々"龍族"に任せるがいい。お前は――」

「ああ、任せろ」


 戦争において一対一、正々堂々と勝負なんてありえない。銃が生まれ、弾丸が飛び交う戦争に発展した時点で、剣士の寿命は潰えた。人々は剣を捨てて、剣士は忘れ去られた。

思えば剣士も、天狗も同じようなものだ。誰からも必要とされず、日陰に生きている。俺達がこの世から消え去っても、誰も何とも思わないだろう。


だから、彼らは覇を唱えているのだ――俺がかつて、天下を吠えたように。


「剣士として、いざ尋常に勝負だ」

「――人間風情が、小癪な」


 鉄床戦術と呼ばれる、複数兵科を使った戦術の一つ。軍を幾つかの部隊に分けて、一方が敵をひきつけている間に一方が背後や側面に回りこみ本隊を包囲する。

その上で、龍族の精鋭達が挟撃。翼があるからこそ成し得る高速の戦術、龍の一族ほど機動力のある部隊はこの世にいない。


強制的に決闘に追いつめられた天狗の長は、護衛を引き連れた俺を目の当たりにして唸った。













<続く>








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