とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第十九話
話を聞けばギンガと同じく、ディエチも妹達が心配で探しに出たようだ。本当なら両親に一言断ってから探しに出たかったらしいが、ウェンディの無駄な行動力がとにかく心配でやむを得なかったと謝罪された。
気持ちは実によく分かる。単に飛び出したと言うだけならまだしも、ウェンディは単身で聖地の兄に会いに来た過去を持つのだ。どこまで冒険に出るのか、分かったものではない。
海鳴で収まる範囲ではなかった場合、不法入国となって子供といえど罰せられる危険がある。特にウェンディは戦闘機人、時空管理局に目をつけられれば終わりだ。心配になって当然だろう。
ウェンディの件については納得できるのだが――
「人探しを行う過程で何故に人助けまでしているんだ、お前は」
「今日から、私はお兄さんの妹になるから」
「だから何なんだ?」
「お兄さんは目的を達成する過程においても人助けを行ったと、ウェンディから聞いているよ。すごく立派なことだと思う」
「聖地で兄さんが王として認められたのも、そうした日々の行動による結果なんですね。尊敬します!」
「本当は目的を第一に達成したかったんだよ、俺は!?」
「……本人からすれば気の毒な話だよな」
俺の苦労を分かってくれるのはアギト一人だというのが、我ながら悲しい。他人の為にいらん苦労をたらふくさせられて、異世界で三ヶ月以上もかかってしまったのだ。死ぬかと思ったんだぞ。
本当に立派なのは他人の行動を見本に、自分で行動できるディエチのような人間だろう。ギンガも妹の模範として自身を律する行動を取っており、清楚で正しき人間であろうと努めている。
だからこそ二人は、大人びて美しいのだろう。出来た妹達だと自慢したくならないわけではないが、この線を踏み越えれば本当の家族になりかねないので自重しておく。
妹として面倒を見る覚悟は出来ているが、本当の兄妹となるのとでは意味合いが異なってくる。他人と家族との境目は、慎重に見極めなければならない。
「スバルの奴は先程見つけて、俺の身内に今探しにも行かせている。さほど時間をかけず、見つけられるだろうよ」
「私はとにかく、ウェンディが心配。町から出ていないといいんだけど――ごめんね、お兄さん。妹達の捜索に集中するべきだった」
「いいさ、心配しなくていい。ウェンディの居所は既に掴んでいる。今人をやって、迎えに行かせているところだ」
「そうなんだ……すごいよ、お兄さん。私はなかなか見つけられなかったのに」
「やはり兄さんと私達は運命で結ばれているんですね。きっと兄さんの妹になるために、私達は作られたんです!」
「お姉さんはお兄さんの事になると、平気で恥ずかしいことを言うんだから……でも、私もそうだと嬉しいな」
――ふと思ったのだが、戦闘機人達は自分の境遇を悲観的には感じていないようだ。クアットロ達も己の出自を恥じず、己の機能を誇りに堂々と存在している。
人間としては欠陥もあるのだろうが、己の境遇を不幸に思っていないという点でも俺とよく似ている。人間かどうかなんて、俺達には些事であるのだろう。人ではなく、自分とは常に何か問うている。
俺はあくまで剣に拘っているのと同じく、ギンガやディエチは善行を積んで兄のような存在となる事を望んでいる。俺達はそうして、確固たる存在となろうとしているのだ。
単なる人よりも、人外の連中から学ぶべき点が多いというのは何とも皮肉を感じる。
「それで、何とも手のかかる妹は何処にいるんだ」
「ウェンディやスバルの所在が分かっているのなら、後は"ノーヴェ"だね」
「あの子はウェンディに連れられて出てしまったので、本当に心配です。気の弱い性分なのに、変に意地っ張りなところがあるから」
"ノーヴェ・ナカジマ"、何の足取りも掴めなかった俺の妹。ウェンディと今でも行動を共にしているのなら手間もかからないのだが、見込みとしては薄いだろう。
ウェンディの足取りも追えていないのは恐らく、あいつは今単独で行動しているからだ。ライディングボードに乗ったウェンディは、単独であれば聖地で単身乗り込める行動力を発揮する。二人連れでは不可能だ。
気の弱い性分であることを考慮すると、ノーヴェは何処かに隠れて震えている可能性が高いな。子供の迷子は主に二種類、見つけられないほど動き回るか、見つけられない所に隠れている。
噂を流して誘き出す戦法は同じ妹のディエチに注意されたので、別の手を考えなければならない。地道に目撃者を探すか、こうなったら情報屋を使って――
「そういやお前のガキ共、あれから待ち合わせ場所に来たのかな」
「言われてみれば、まだ連絡もないな……人手は多い方がいい、そっちから先に探すか」
もしシュテル達が入国管理局へ行ったのなら、俺の不在に気付いてすぐ連絡してくる筈だ。それがないところを見ると、どうやらまだどこかで道草を食っているらしい。何しているんだ、あいつら。
何事もなくナハトヴァールが一人で先に来たのだから大きな問題ではないのだろうが、こうも連絡がないと気にかかる。事情を話すとギンガ達も快く承諾してくれたので、先にシュテル達を探す事にした。
こちらの足取りを追うのは、非常に簡単だった。特徴的な外見の子供達は人の目にはつきやすく、固まって行動しているので、追跡も容易い――程なくして、発見する事が出来た。
大きなジャングルジムのある中央公園――籠城する赤い髪の少女を取り囲む形で、シュテル達が投降を呼びかけている。
「あー、テステス。君は今完全にほーいされている、無駄なてーこーはやめて大人しく降りてきなさい!」
「い、いやだ、アタシはぜったいかえらない!」
「こちらにも然るべき準備をしております、要求を聞きましょう」
「ア、アタシのアニキをつれてこいといってるんだ! とうさんやかあさんには、ないしょで!」
「両親を困らせるとは感心せぬな。親というのはとても大切で、偉大なる存在なのだぞ」
「う、うるせー、せっきょーはもうたくさんだ! こ、こわいんじゃないからな!」
「ですから、わたし達も一緒に謝ってあげますよ。ですから、降りてきて下さい!」
「そんなことばにはだまされないぞ、おとなはうそつきだからなー!」
「……妹達よ、あれが俺の子供達だ」
「……ごめん、お兄さん。その人達が説得してくれているのが、ノーヴェ」
「……スバルは借りてきた猫のように大人しい子なのですが、ノーヴェは木から降りられない猫のように意地っ張りなんです」
こういうのを、終わり良ければ全て良しとでも言うのだろうか。身内同士でありながら仲間割れしているが、身内の捜索という意味ではめでたく全員揃って遊んでいる。実に平和な、戦争であった。
ノーヴェ・ナカジマ、スバルにとてもよく似た子で、負けん気の強さが浮かぶ瞳が気の弱さに揺れている。殺気立っていても芯が細いのであれば、ギンガの言う通り猫のような少女であった。
シュテル達ならたかがジャングルジムの頂に陣取る子供なんて簡単に捕まえられるのだろうが、子供の意思を尊重して説得を続けている。なるほどあいつら、この説得で手こずっていたのか。
ナハトヴァール一人が先に来たのも頷ける。当人達は面白くても、見ている分には退屈な茶番劇だった。
「何をやっているんだ、お前ら。ナハトヴァール一人が先に来ていたんだぞ」
「父上、遅くなりまして誠に申し訳ありません。見ての通り、クイント捜査官の身内と思わしき少女が籠城の構えを見せております」
「なるほど、今日対面する予定の子供だと身なりで判断して、一緒に連れてくるつもりだったのか」
「ここで一人泣いてるのを見かけて、ボク達が声をかけたんだ。そしたら怖がって、上に逃げられちゃったの」
「レヴィの明るさは俺も微笑ましくて好きだが、気の弱い子には逆効果だったかもな」
「事を荒立てたくない故こうして声をかけ続けているのだが、なかなか難儀している。強引に連れ去るわけにも行かぬのでな」
「早合点や先走りしないのが、お前の美点だな。いい判断だぞ」
「やはりあの子は、お父さんの妹になる予定の子なんですね。あの子は慣れない世界に連れ出されて、途方に暮れているんだと思うんです。助けてあげて下さい」
「あの子が今泣いていない時点で、十分お前も力になっているよ。何とかしてみよう」
むしろ俺が早合点していて恥ずかしく思えた。シュテル達は時間がかかっているのではない、時間をかけて説得しているのだ。意味がまるで異なる、平和に馴染もうとする立派な姿勢だった。
大人びた少女達でありながら、子供の気持ちをとてもよく理解している。距離感も常に一定を保ち、話を聞き、時には話しかけて、少しずつ打ち解けているのだ。
見た目は喧嘩ではあるが、実のところは交流に近しい。シュテル達がこうした手段に出ているのは、聖地での俺の交渉劇を真似しているのだ。この子達は学んで、新しい強さを身に着けている。
切羽詰まった状況でありながら、シュテル達を咎めないギンガやディエチもよく状況を見極めている。身内可愛さであれば、身内を困らせる人間を許せない。
ノーヴェは身体を震わせてはいるが、ジャングルジムから落ちそうな危うさはなかった。心の芯は細くても、ブレてはいない。言葉通り、この状況における着地点を探しているのだろう。
話を聞いているだけで分かる。親が怖くてスバルは逃げ出し、ノーヴェは籠もっている。行動に差はあるが、行動理由が一致しているというのは、何とも姉妹らしい。
少女の要求を飲んでやるとしよう。
「お前がノーヴェ・ナカジマだな」
「だっ……だれだよ、おまえ」
「お前の要求通り、親を連れずに迎えに来た――俺がお前の兄貴だ」
「ア、アニキ……あんたが!?」
「本当である証拠を見せよう。ほれ、お前の姉貴達だぞ」
「ノーヴェ、もう大丈夫だよ。この人は本当に優しいお兄さんだから」
「兄さんがいれば、私達は安心ですよ。一緒に、帰りましょう」
ギンガやディエチの説得に感化されたのか、俺の顔を見て安心したように涙を滲ませる。よほど不安で怖かったのだろう、それでも堪えるあたりが何とも俺の妹らしい意地の強さだった。
ともあれ、これで全員妹達を見つけた。スバルやウェンディは、ナハトヴァール達や妹さんが必ず連れてきてくれる。任務は達成である、やれやれ――そう思っていたのだが、一つ忘れていた。
俺によく似ているということは――俺と同じく、すぐ調子に乗るという事だ。
「アニキ、こいつらがアタシをいじめるんだ。ぜんいん、やっつけてくれよ!」
「全員!? 何で急にそうなる!」
「ア、アタシはアニキのいもうとだよな? アニキのこと、しんじていいんだよな……?」
「うぐっ――そう言われると」
「ちょっとパパ、悩まないでよ!? ボク達、パパの子供だよ!」
「そうですよ。お父さんは子供と妹のどっちが大切なんですか!?」
何で子供ってのは、そう極端から極端に走りやがるんだ!? どういう話の流れなのか、極論による二択を突き付けられて、頭を抱えてしまう。
シュテルは状況を見極めてやがるくせに、期待の籠もった目で返答を待っている。後継者を名乗るディアーチェまで、ワクワクしながら快き解答を待ち望んでいる。
ギンガやディエチに至っては、兄なら必ず妹を選んでくれるのだと、子供らしい期待を漲らせて俺を見上げている。何故だ、何故こんな馬鹿な選択肢に剣士が追い詰められなければならんのだ!?
ど、どうしよう……子供を選べば養子縁組は前途多難、妹達を選べば家庭は崩壊――ぐぬぬぬぬぬ、こうなったら。
このガキ共に、大人の貫禄というものを教えてくれるわ!
「いいから黙って来いやああああああああああああああああああああああああああああ!」
「うあああああああ、いやだああああああああああああああああああああああああああ!」
――ジャングルジムを豪快によじ登り、ノーヴェを担いでジャンプ。そのまま公園を走り去って行く。
子供達の微笑ましい交流や妹達の温かい説得の全てを無駄にした、大人のやり方。ガキ共の気持ちなんぞ剣士の俺にはどうでもいいんだよ、ふはははははははは。
子供であろうと、妹であろうと、俺は厳しくいくからな!
――めでたく両親には俺一人だけがガッツリ怒られた。ノーヴェはずっと俺の後ろに隠れて難を逃れた、まるで俺が庇ったみたいじゃねえか!
<続く>
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