とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第十五話







 うちの騎士団は精鋭揃いだが、欠点とまでは言い切れないが短所がある。使命感と責任感が強すぎるあまり、完璧に任務を果たせないと失敗だと思い込む点である。団長を務めるセッテに早速、盛大に頭を下げられた。

ジェイル・スカリエッティの最高傑作とまで呼ばれる戦闘機人達は能力がずば抜けて高い分、求める遂行度も己の中で際立っているらしい。全員揃って土下座せんばかりの勢いで、落ち着かせるのが大変だった。

肝心の俺自身は驚きこそあったが、混乱はしなかった。覇権をかけて争った聖地での白旗活動を通じて、リーダーとしての心構えが出来ている――だけではなく、この入国管理局を建築した者達を信じていたからだ。

"聖王"陛下を神とする聖王教会、クロノ達が所属する時空管理局、世界の覇権を握っている夜の一族。この三大勢力で守られた施設内で、子供達を誘拐する事件なんぞ起こせる筈がない。


剣の意欲を失った今では自分も半ば信じられなくなりつつあるが、生死を共にした仲間達の事は自分以上に信じられた。


「オヤジさん、ガキ共が居なくなったと聞いたんだがどういう事なんだ」

「悪いな、騒がせちまって。俺が書類手続きで目を離した隙に、全員揃って何処かへ行っちまったんだ」

「全員ってあんた……何人、連れてきたんだよ」


 妹分が出来てしまうのは半ば諦めたが、集団となると面倒が増えるので盛大に困る。幾つかの関連施設から保護したと聞いて嫌な予感がしていたんだが、どうやらまとめて引き取ったらしい。

自分の遺伝子より生まれた子供だからといって、そこまで博愛主義を発揮しなくてもいいと思うのだが、血の繋がりさえないシュテル達を四人我が子とした時点で説得力は皆無に等しかった。

ゲンヤの親父の反応から察するに、事態はそこまで深刻でもないらしい。やはりと言うべきか、この入国管理局内で誘拐事件が勃発した気配はなかった。表立って騒ぎにもなっていないしな。


何よりここは治外法権下に等しいが、管理外世界である海鳴の中だ。平和な田舎町で子供を襲うアホはいない。春先に出た通り魔は――自分が、成敗した。


「オヤジさんのその顔を見る限り、今回の騒動について心当たりがありそうだな」

「何しろほんの少し前にも一度、行方をくらましやがったバカ娘が居たからよ……幸いにも、メガーヌ捜査官が保護して送り届けてくれたおかげで事無きを得たんだが。
クイントがきつくお灸を据えて反省はしていたんだが、口を開けば兄貴の英雄伝を我が事のように自慢しまくっていたからな。他の姉妹達が、えらく羨ましがってたんだよ。

こういう憧れってのは女よりむしろ、俺らのような男に心当たりがあるだろう。子供なりの冒険心ってやつよ」

「ま、まあな……ガキの時分では、外の世界に飛び出したくなるからな」


 すまない、オヤジ――今の俺がまさに、その冒険心をこじらせている最中なのだ。何しろ孤児院を脱走してまで、剣を片手に放浪している最中だからな。オヤジの指摘がグサッと、俺の胸に突き刺さった。


自分は違うと言いきれないくらいには、俺も今の自分を分かりつつはある。アリサにも散々浮浪者だと馬鹿にされたからな、子供の冒険心ってのは拗らせると社会の迷惑でしかない。

子供達まで出来てしまった以上もはや定住するしか道は無いのだが、冒険心というのは拗らせると治るのが遅くなる。今でもたまに、一人で気ままに旅していた頃が懐かしくなってしまうのだ。


こうして考えてみると、冒険心の高い妹達が何だか可愛く感じられてしまう。親の側に立ってしまった以上、迷惑は被ってしまうのだけれど。


「それで揃いも揃って全員飛び出してしまったのか、教育がなっていないぞ」

「だからこそ、しっかり者の兄貴が必要なんじゃねえか」

「うげっ、藪蛇だった」


 ともあれ、事情はよく分かった。子供だからと言って不法入国なんぞ許されず、この入国管理局から簡単に出られない筈なのだが――奴らは子供であっても、戦闘機人。幼少のセッテでも、敵を蹴散らす強さを持っている。

戦闘機人は身体能力の高さと、独自の固有能力と武装を保有している。それでいて見た目が可愛らしい子供とあっては、大人の油断と子供の性能が上手く作用して逃走を許した可能性が高い。

下手に騒ぎ立ててしまうと、入国そのものが許されなくなる。この地に着任して間もないクイント達では、入国管理局での影響力も低い。加えて子供達は戦闘機人、今この時期にトラブルを起こすのは立場が悪くなる。


レジアス・ゲイズ中将は、戦闘機人を欲している。完成体である子供達の存在が表沙汰になると、目をつけられてしまうかもしれない。ローゼやアギトのような身元保証騒ぎは、二度とゴメンだった。


「あんたとクイントはとにかく、滞りなく入国手続きを済ませてくれ。地元感のある俺が仲間と一緒に、子供達を探しに行ってやるから」

「子供の責任は、親にある。お前さんに迷惑をかける訳には――」

「その責任を果たしてくれと言っているんだよ、俺は。今は微妙な時期だ、あんたのようなお偉いさんまで派手に動くような事態にはするべきではない。
あんた達は手続きを済ませ、クロノ達には入国管理局内での騒ぎを速やかに沈静化させるよう伝えてくれ。問題が大きくならない内に、収拾を図るんだ」

「……」


「心配するな。今のところ俺は兄貴になるつもりはないけれど、兄貴分くらいにはなってやるからさ。この町は俺の縄張りだ、面倒はちゃんと見る」


「へへ……たくよ、最初はクイントのワガママだったってのに、今では俺が惚れ込んじまったよ。絶対お前は、うちの息子にするからな」

「どんな挑戦状だよ、それは!」


 別に俺まで情に絆されたのではない。ゲンヤやクイントに比べれば俺なんぞまだ子供、書類手続きや事件の収拾なんぞという面倒事は大人に任せて、俺は簡単に済む方を選んだだけだ。

冒険心を今でも拗らせている俺ならば、子供達がどこへ冒険に出ていったのかある程度の検討はつく。ただ懸念があるとすれば、海鳴は今国際都市に生まれ変わりつつあって、俺自身も把握に戸惑っている事だろうか。

町の中で人探しと言えば、通り魔事件を思い出す。あの時は一人で探し回っても埒が明かず久遠を家来にして、忍達を半ば共犯にして探し回ったんだったな。まだ半年くらい前の話なのに、遠い過去のように思える。


あの時と違って、今の俺には人探しの達人がいる。早速呼び出すべく、俺は携帯電話を取り出した。


「陛下、応援の要請ですか。我々が不甲斐ないばかりに、本当に申し訳ありません」

「俺が命じた時には既に居なくなっていたんだ、気にするな。妹さんを呼んで、"声"を辿らせればすぐに解決する」


「陛下――すずかは、知らない人間の"声"は聞き分けられない」

「あっ」


 セッテの冷静沈着な指摘に、俺は電話を手にしたまま固まる。さすがマンガ友達、名前を呼び合うだけではなく能力の情報交換まで行う仲に進展していたか。よく漫画の貸し借りをして盛り上がっているからな。

俺が子供探しを名乗り出た最たる理由は、妹さんの能力をアテにしていた事が何より大きい。どこに居ようと発見できる妹さんの能力ならば、冒険に出た子供達の居場所なんぞすぐに分かると思いこんでいた。

考えてみれば確かに、一度も対面した事がないのだ。人間なんぞこの海鳴には幾らでもいる、人の"声"だけ見境なく追っていては埒が明かない。くそっ、地道に探すしか手はないか。


団長の指摘に反論するわけではなく、親衛隊長のトーレが別の形で進言する。


「しかしながら彼女の能力であれば、王妹殿下のお一人を探し出せるでしょう」

「王妹殿下……?」


「はい、此度の逃走劇。恐らくウェンディ王妹殿下による手引によるものだと、推測されます」

「あ、あいつかよ!?」


 そういえばゲンヤのオヤジが先程、兄貴の英雄劇を誇らしげに語っていたとか何とか言っていたな。おのれ、聖地でも散々右へ左へ駆け回っていたあいつが首謀者だったのか!

まずいぞ、あいつは確かライディングボードとかいう乗り物を持っていたな。浮遊させて高速移動を行う乗り物で海鳴を暴れ回ったら、目立って大変な事態に発展してしまう。

ここでは魔法どころか、科学技術でも異世界に比べて見劣りしている。こちらの世界にも空飛ぶ乗り物はあるが、個人用の高速飛行を行える乗り物はない。目立ちまくって、ニュース沙汰になってしまう。


子供達を全員連れていればいいのだが、あの馬鹿は厄介なことに単独行動を好む節がある。そういうところは俺に似ていて、何とも憎たらしい。トーレの進言を受け入れて、妹さんに即電話した。


「そういう訳で、至急ウェンディを保護して入国管理局へ連れてきてくれ。手段は問わない」

『お任せ下さい、剣士さん』


 手段は問わないと明言したのは、俺の身内の場合妹さんが捕縛するのを遠慮するかもしれないからだ。俺からの命令とあれば、あの子は大統領でも殴り飛ばすので敢えて命じておいた。

残る子供達についてどうするべきか、同じ戦闘機人達に意見を求める。


「一応聞くが、お前達は同類を追う機能とかは保有していないのか」

「申し訳ありません、陛下。同じ型式であろうと、戦闘機人を追跡する能力は我々にはございません。探査能力に長けているのは、クアットロ達でありまして――」

「そうか、現場で力を発揮するお前達に強要するべきではなかったな」


「……」

「今すぐに呼び出さなくていいよ、セッテ!?」


 即刻引っ張ってくると言い残してフェードアウトしそうだったセッテを、ぎりぎり押し留める。明らかに今、"引っ張ってくる"といい切った。泣いて引き摺られるクアットロの姿が想像出来て、同情したくなる。

いざとなれば連中の力を借りなければならないが、今はまだ騒ぎにもなっていない子供達の冒険劇で収まっている。入国手続きも面倒なので、今はまだクアットロ達の力を借りる時ではない。

手分けして探すのが、地道だが一番手っ取り早い。連絡を取り合えるように準備して、ゲンヤのオヤジから子供達の特徴を聞き出して捜索開始。責任感の強さからか、セッテ達はあっという間に消えてしまった。


残されたのは司令塔である俺一人――にセッテ達がするはずもなく、アギトに俺の護衛を頼んでいた。デバイスに完全保護される剣士というのは、迷子になった子供より憐れな気がする。


「そういえばよ」

「何だよ」


「お前のガキ共も、来るのが遅くないか?」


 ――血の気が、引いた。そう言えば正午の待ち合わせをしていたのに、シュテル達が誰一人として来ない。


いや待て、落ち着け。全員揃って来る筈なのだから、誰か一人が欠けるという話ではない。来るのであれば全員来るし、遅れているのであれば全員が遅れるのは別に不思議な話ではない。

だけどお昼に食事をする約束だったのに、どうしてシュテル達が来ないんだ。時間的にそろそろ来なければならないのに、影も形もない。連絡の一つもよこさない。

何かあったのだろうか……? 何かあったにしても、何事も起こるとは思えない。シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ、ナハトヴァール――この面子に、誰が危害を加えられるというんだ。

聖地では百戦錬磨の猟兵や傭兵達、魔女や百鬼夜行でも歯が立たなかった連中だ。ユーリにいたっては、次元破壊兵器までぶつけられたのにほぼ無傷という鉄壁ぶり。隕石が落ちてきても余裕だろう。


「妹分が行方不明になっても何とも思わないのに、何でこんなに焦ってしまうんだ、くそったれ」

「そりゃお前、自分の娘なら心配して当然なんじゃねえのか」

「そういう気持ちを、剣士である俺がいつの間にか持っているのが不可解だと言っているんだ」

「どうして真っ当な気持ちを持つ事に疑念を抱くのかね、こいつは……まっ、だからアタシのような魔導器がお似合いなんだろうけどな」


 アギトの言いたい事は分かっているのだが――くそ、何なんだ、この気持ちは。


「やっぱり気になる、呼んでみるか――ナハトヴァール!」

「あい」

「うおっ!?」


 普通に現れて、思わず飛び上がってしまう。ユーリ達によるものか、随分とめかしこんだナハトヴァールが俺に呼ばれて両手を振っている。特に怪我もなく、ニコニコと満面の笑顔を向けてきた。

ひとまず抱き上げて確認するが、別に何事もない。抱っこされて、ナハトはキャッキャと笑い声を上げる。

「ナハト、お前のお姉ちゃん達は?」

「すきー!」

「いや、そうじゃなく」


「おとーさんもすきー!」


「うおおお、会話が成り立たんのになぜか腹が立たない!」

「アホだ、こいつら」


 周りを見渡すが、ユーリ達が来る気配は相変わらずない。連絡してみるが、全然繋がらない。念の為ナハトヴァールに聞いてみるが、首を傾げるだけであった。何が起きているのか、余計に分からなくなってしまった。

一体全体、何がどうなっているんだ。事件にまで発展していないからこそ、余計に今の事態が分からない。妹達が全員姿を消して、ユーリ達と連絡が取れない。それでいて争い事はなく、ナハトは平気な顔で現れる。


やばい、同じ子供だと言うのに、子供の考えることは全然分からない。大人になった証拠、なのだろうか……?


「ウダウダ考え込む前に、探しに行ったほうが早いんじゃねえのか」

「それもそうだな、俺の性にもあっている。アギト、お前は探索魔法とかは使えないのか」

「アタシの苦手分野だし、素養がねえお前についている限り使い物にならねえ。あのお人好しチビならば、もっと上手く使えるんだろうけどよ」


 そう言う割には、アギトの顔に対抗心はなかった。今まで何かとミヤには噛み付いていたのに、一連の事件を終えた後は諍いもなくなっていた。ミヤの方は元々アギトと仲良くなりたかったので、逆に喜んでいる。

やはり一度、目の前でミヤが破壊された件が応えているようだ。あの時のアギトはユニゾンを果たしたと言うのに、無念を滲ませていた。同じ融合型として、思うところがあったのだろう。

自由になったアギトは、本当に楔がなくなったかのように気ままに生きている。俺との行動を嫌がる素振りさえ見せず、毎日気分よく行動を共にしている。こうして事件が起きても、冷静に建設的な意見を出してくれる。


敵意が無くなった武器、意欲を失った剣。刃が丸くなってしまえば――俺達の存在意義はどうなってしまうのか。背中によじ登るナハトだけが、未来を示すかのようにご機嫌であった。


「おい、アレじゃねえのか」

「何だと、どれど――れっ!?」



「……こわいよ、かえりたいよ……」

「大丈夫だよ、安全なところまで一緒に行ってあげるから!」



 ――しゃくりあげて泣いている青い髪の子供と、一生懸命元気付けている茶髪の少女。


三ヶ月ぶりの再会となった高町なのはが、迷子の子供と手を繋いで歩いていた。











<続く>








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