とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第九話




「この度ミッドチルダより遥々参られた新しい友人達との出会いを祝して、ささやかではありますが親睦会を開催させて頂きます――はいそこ、乾杯前に飲んだらあかんよ」

「ものすごくズバリと俺を警戒してやがったな、貴様」



 入国管理局では何かとゴタゴタはあったが、一応無事に日本への帰国を許されて家に帰ってこれた。忍の家なので、我が家とは口が裂けても言いたくない。本人に聞こえれば、ガッツポーズを取りやがるからな。

入国管理局での派手な出迎えで予想は出来ていたが、八神家の連中にも俺達の帰国日は伝えられていたようだ。手荷物を置いて一息ついたところで、こうして月村邸のカフェテリアへ全員集められてしまった。

音頭を取っているのは、八神家の主である八神はやて。足が不自由な少女だったのだが、家族も増えて生き甲斐を取り戻し、熱心に足のリハビリに励んで今では支え無しで立てるようになったらしい。


三ヶ月で自分の足で立てるようになったはやてと、三ヶ月で自分の剣を捨ててしまった俺。時間の流れは平等でも、時間の過ごし方は違うのだと痛感させられる。


「ローゼちゃんの就職も決まり、アギトも自分の人生を取り戻したというめでたき祝報。今晩は盛大に盛り上がって、皆さんの輝かしい門出をお祝いしたいと思います」

「……今日はやたらテンションが高いな、お前」

「良介こそ、一番の功労者やんか。辛気臭い顔をしとらんで、もっとニコニコ笑おうや」


 うーん、殴りたい。はやてに悪気がないのは分かっているのだが、俺としては苦労の方が多かったので気分は微妙である。特にあのアホのせいで、三ヶ月も必死だったというと徒労感が半端ない。

考えてみれば、俺自身は特に報酬を手に入れられていない。聖地における権力は手中に収めたかもしれないが、"聖王"陛下は権利よりも義務の方が大きい。神様なので、好き放題出来ないからな。

反面ローゼは手に入れた自由を満喫しているのかと思うと、尚更腹が立つ。あいつも救世主という立場を背負っているが、基本マイペースなアホなのでのびのびとやっているに違いない。


ともあれ一応祝いの席であるのだから、辛気臭い顔をするのはやめておこう。


「はやてさんや」

「なんだい、だんなさん」

「祝いの席であると言うのに、アルコール類がございませんぜ」

「やだねえ、だんなさんは未成年じゃないですか」

「今夜は無礼講じゃありませんか。固いことは抜きにしましょうぜ」

「子供達の前ですよ、だんなさん」

「大人のいい飲みっぷりを見せてやりたい親心ってもんですぜ」

「あらまあ、なかなかのダメ大人ぶりですね、だんなさん」



「――こういうコントが始まったら長引くから、適当に聞き流していいよ。何の中身もない会話だから」

「お気遣いありがとうございます、奥方殿。ですが我らは騎士、何時いかなる時でも陛下の御声に耳を傾ける心構えです」


「あいつの顔に皿を投げるのも効果的よ、すずか。正気になるから」

「大丈夫だよ、アリサちゃん。慣れているから」



 俺とはやてで久しぶりの夫婦漫才に興じているが、聴衆の反応は実に好き勝手であった。内縁の妻を勝手に名乗る忍は新参メンバー相手に信頼を集め、古参メンバーは俺をネタとした会話に花を咲かせている。

聖地では権力者達を唸らせた交渉術も、夜天の主には全く通じず取引は成立しなかった。妥協点として世界一有名な炭酸飲料を手に入れられたが、アルコールは一滴も入っていないので敗北である。

代わりと言っては何だが、料理長であるはやて主導の下、八神家の主婦役であるシャマルがグルメ料理の数々を運んで並べる。メインは和食、それでいて異世界勢を戸惑わせない日本の幸が丁寧に仕上げられている。


はやては俺と出会った頃、一人で自活していた。その時から料理の腕は確かに達者だったが、料理における配慮まできめ細かく行えるタイプではなかった筈だ。


「単純に料理の腕を上げたというより、料理への気配りが随分と上手くなっているな」

「はやてちゃんは貴方の留守を預かって三ヶ月間、積極的に海鳴の人達に接して仕事に励んできたのですよ。貴方の志を受け取って、人に接する術を学んだのです」

「あいつが俺の何に志なんぞ感じたんだ」


 見本を見せた覚えは全く無い。何故ならはやてと生活を共にしてから、俺の戦場はところかまわず移り変わっている。あいつの目に留まる場所では戦っていないはずだ。

同じ屋根の下で生活している以上生き方に共感する面があるのは否定しないが、精神面にまで根付く影響を与えたとは思えない。俺が戦っていたところは、あいつには似合わない血臭に満ちた戦場だった。


不思議そうにしている俺を目の当たりにして、シャマルは微笑みを深くする。


「私のクラールヴィントは常に、貴方と共にあったのですよ。私達はいつも共に戦い、苦難を乗り越えてきたのです」


 シャマルの言葉に、同じく同じ戦場には居なかったシグナムが深く頷いた。戦いは同じくせずとも、艱難辛苦を共に分かち合ってきたのだと、剣の騎士が同意してくれたのだ。

主戦場を同じくするヴィータ達と違い、見ている事しか出来なかったはやては心を痛めたのだろう。そして、心を痛める事しか出来ない自分を恥じたのだろう。

苦難に負けて俯いていれば同情されると言うのに、八神はやては由としなかった。悲劇に俯いていては、何時まで経っても自分は変わらない。立ち上がって、戦わなければならない。


一人で生きて来た少女は俺と同じく、他人と交流することで強くなろうとした。


「ご近所の方々は言うに及ばず、商店街の人達を通じて町会にも顔を出し、役場へと出かけて皆さんと相談したりと、三ヶ月間ずっと頑張って交流範囲を広げていたんです。
身体が不自由なお年寄りから身寄りのない子供達まで、自分の出来る限りの事でお仕事に励んで来ました。商業だけではなく、学業にも熱心に取り組んでいます」

「主はやての健やかな成長を目の当たりにして、我々は先のお前の言葉を実感させられた。どれほど高き才があろうとも、主に魔法は必要ない。
あって便利ではあるが、無くても不自由はない。ならば今は自分なりにできることを精一杯行い、力を蓄えて視野を広げて可能性を高めていく。そうして立派な大人になるのだと、努力なされているのだ。


――もしも主が魔導の力を手にしていたら、部を弁えずに世界の事にまで手を伸ばし、理想との格差に苦しまれたかもしれん」


 こんな彼女達がプログラムだと、誰が疑うのだろうか……俺の方こそむしろ、感じ入ってしまった。俺が関わったことで、はやては本来あるべき生き方を送れている。そう語ってくれた。

夜天の魔導書を手にしたはやての将来は想像もつかないが、多分想像もつかないスケールで物事を進めていけるのだろう。そして想像も出来ない苦悩や苦難に悩まされていくのであろう。

どちらがいいのか、誰にも分からない。少なくとも今のはやては、全く世界に貢献できていない。この先も隣人は救えても、遠い世界で苦しむ人達はきっと助けられない。世界にとってはマイナスだ。


けれど、シグナムやシャマルはそれでいいのだと実感している。自分と家族の幸せを大切にして、隣人達の力となる。慎ましくも温かい生き方こそ、八神はやてのあるべき姿なのだと。


「だからこそ、あの時我々を諌めてくれたお前には本当に感謝している」

「とはいえはやてちゃんの代わりに、どうも貴方が数々の重荷を背負わされているようでしたからね。変に悩む必要はないと、言いたかったのです」


 ――だから先程玄関先で真っ先に出迎えたのだと、二人は照れくさそうに話した。"聖王"陛下となってしまった自分を、今まで通り家族として迎えてくれた。

はやての代わりとなったとは思っていない。ローゼやアギトの事ははやてと無関係だし、夜天の魔導書の勝手な改竄も俺の能力によるものだ。はやては単に巻き込まれただけだ。

それでも家族として、無関係ではいられなかった。重荷そのものを背負うことは出来ないが、常に共有しているのだと言葉にしてまで伝えてくれたのだ。クラールヴィントを通じて、理解してくれたからこそ。


自分の騎士達がこの世界へ馳せ参じてくれている、彼らの期待を裏切る真似はしたくない。それでも気持ちはありがたかったので、グラスを取った。


「ありがとう、肝に免じておくよ。安心してくれというのも変だが、俺ははやてと違って責任感は強くない。出来る限りやって、後は皆に協力してもらうさ。
幸い、俺の為にこうして騎士団まで設立してくれたんだ。見ろよこいつら、頼もしい顔ぶれだろう」


「聖王騎士団の長、セッテです」


 誰よりも早く、名乗りを上げた!? 軽く紹介した程度だったのだが、珍しく声を出してまでセッテが敬礼する。シグナムやシャマルも騎士、通じるものでもあったのだろうか。

二人と話し込んでいる間に、宴の準備が整った。セッティングまでしてくれたのだ、音頭は任せるにしてもこの場くらいは取り持っておくべきだろう。俺は立ち上がり、それぞれの紹介を行った。

改めて見ると、すごい顔ぶれである。自分も世間では変わり者だという自覚はあったのだが、この顔ぶれだと霞んで見える。日本人とか、外国人とか、それ以前の話だからな。


全員の紹介を終えた後、俺からこの宴への感謝と共に祝辞を述べる。


「家主は忍だが、この敷地を実質治めているのは綺堂さくらという女性だ。明日にでも改めて挨拶に伺うとして、今晩は浮世のしがらみを忘れて親睦を深めるとしよう。
ミッドチルダ、聖地における大きな問題は解決したが、所々の問題や課題は山積みだ。自分自身の問題も含めて、この故郷で成すべき事は多い。

世界や国家ではなく、今からやるべき事は個人の為の戦いだ」


 三役の方々が言ってくれたように、今後の戦いは全て個人によるもの。戦いに勝利しても国は繁栄せず、世界は何一つとして平和にならない。大衆は何も変わらない。

今までは大業を優先して、人生を歩んできた。それ自体は決して間違えてはいないが、正しくもなかった。己を蔑ろにし続けたからこそ、誰かのために剣を捨ててしまった。剣への意欲も失った。

あの方々は、俺の今の状態まで予想していたのかどうかは分からない。それでも大業を成すのではなく、今は小事に拘って自分を見つめ直すべきだと言ってくれたのだ。


俺個人の問題に付き合わせて、すまないとは言わない。ありがとうという言葉も、違うだろう。彼らは納得して、ここに集ってくれている。ならば――



「今までと変わらず、今後も力を貸して欲しい」


「我ら一同、陛下の為に」

「家族なのだから、当然だ」

「世界がどうだの、今までが変だったのよ。自分の事に邁進してくれるなら、ちゃんと力を貸すわよ」

「勿論父のために、我らも力になるぞ!」

「じゃあ、はやて」



「うん、新たな門出に――カンパイ!」



 あらゆる国境、世界線を超えて結ばれたこの縁――はたして人による繋がりか、世界による結び付きなのか。

あらゆる可能性を内包していながらも、これから取り組むのは極めて個人的な事情。今までとは全くあべこべで、本当に笑いがこみ上げてしまう。本当に、才能の無駄遣いだ。


俺達は世界の未来を望まず――自分達の明日を作り出すべく、戦っていく。















「さて……盛り上がってきたところで、八神家家族会議を断行しようか――シャマル」

「はい、議題は「不倫剣士、女性を孕ませる」ですね」

「週刊誌ネタで責めてきやがったな、主婦層!?」

「異議あり、父上との爛れた関係は私一人で十分です」

「話がひたすらややこしくなるから黙れ!?」

「ふっふっふ、良介。お酒がなくても、宴は盛り上がれるんやで」

「こいつ、いつのまにか接待慣れしてやがる!?」

「セクハラの酷いオジサン達に比べたら、何だか貴方が素敵に見えてきました」

「比較の対象が酷すぎる!?」











<続く>








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