とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第五話




 親に自分の友達や女を紹介するのは誰であろうと多少なりとも気まずく、緊張してしまうと思う。まして自分でも明確に口に出来ない人間関係とあれば、余計に。何なんだろうな、あいつらは。俺にも分からん。

日時を開ければ相談の一つも出来るというのに、あの女はすぐにでも紹介しろと言いやがる。全員揃っているのなら尚の事手間が省けると、俺のような発想をしやがるので余計に反論できない。くそったれ。

皆が待つ別室に親を連れて行くと間違いなくパニックになるので、妥協案として親の待つ部屋に仲間を呼ぶ事にした。一人一人面倒だとこれまた俺のような事を言いやがるが、知った事ではない。



何だかお見合いや面接のような体裁をなしてしまったが、俺としては死活問題である。頭の中で身内リストを並べて、難易度の低い奴から紹介していくことにした。



「こちら、神咲那美さんとペットの久遠。通り魔事件に巻き込まれた縁で、親しくなった」

「は、初めまして、ご紹介に預かりました神咲那美です。宮本さんには大変お世話になっています」


「こいつの母の陽巫女だ。そう畏まらなくてもいい、こいつが多大に世話になっている事くらい察している」


 久遠は抜群の人見知りを発揮して俺の後ろに隠れてしまっているが、怯えている様子はない。人を寄せ付けないタイプの美女なのだが、不思議と他者を威圧する空気はない。謎の寛容性があるのだ、この女には。

育て親を紹介するとの事でむしろ恐縮しているのは、那美の方だった。俺の愛人を名乗りながら、親への紹介を優先されても声援を送った忍のせいで余計に恥ずかしがっている。余計な真似をしやがって。


ただ繰り返すが、ヒミコは普段他人に無関心なだけで、率先して敵を増やす人間ではない。この女にとって息子と同年代の人間なんて、日頃相手にする子供と同じだった。


「格式の高い家柄の娘さんと見たが、この男と付き合うのは程々にした方がいい」

「おい」

「いえ、そんな……宮本さんはとても良い方で、久遠もとても可愛がって頂いています」

「どうせ、桃太郎のお供のように扱っているのだろう」

「うぐぐっ」

「く、久遠も喜んでいますから」

「まあ、建前はこのくらいにしておこう」

「建前、ですか……?」


「母としては、神咲さんのような清楚な女の子とは是非とも今後もお付き合い願いたいと思っている。
学生生活に影響が出ない程度でかまわないので、この馬鹿にかまってやってくれ。少しでも迷惑をかけたのであれば、私に言ってほしい。早急に、教育的指導を施すからな」


「お、お付き合いを認めて頂けるのですか!」

「当然だとも、私の事は名前で呼んでくれ」


「おばさんと呼ばれたくないという、自分勝手さ」


 連絡先が書かれた名刺まで渡して、円満に紹介が終わった。縮こまっている久遠まで抱き上げるという良好ぶりを発揮するのは、流石だと思う。久遠本人は目を白黒させていたけど。

那美を最初に選んだ自分の見事な人選に、久方ぶりに自分を褒めたくなった。良い相談役が出来て、那美も喜んでいてよかった。子供の面倒を見るのは、あいつの唯一の取り柄だからな。


実にいい前座を用意したので、次は軽くジャブを放とうと思う。人間的には全く問題はないが、年齢的にどうかと思う二人を連れて行く。


「こちら、アリサ・バニングスに月村すずか。身元はややこしいので本人説明に任せるが、帰国子女の天才児達だ。俺の仕事を手伝って貰っている」

「ご紹介に預かりました、アリサと申します。過去トラブルに巻き込まれた際宮本様にお救い頂きまして、若輩ながらご恩返しに奉公させて頂いています。
まだ十代半ばではございますが、義務教育は終えておりまして働かせて頂いております。家事全般及び家業全般の統括及び管理を任されております」

「すずかです。私も過去宮本様に命を救われまして、ご恩返しとして宮本様の身辺警護を担当しています。緊急時の際は、私にご連絡頂ければ早急に解決いたします」


「母の陽巫女だ、息子が世話になっている――なるほど、この子達の存在があってこそのお前か」


 舌打ちする。俺でも長く付き合ってから彼女達の非凡ぶりが分かったと言うのに、この女は一見するだけで見破った。子供扱いはしているが、外見上でしかない。忌々しい先見ぶりだった。

着席を促した後もヒミコが質疑応答を行ったのだが、つつがなく二人は受け答えしている。妹さんも普段必要が無いので話さないだけで、決して弁が立たないのではない。受け答えもスムーズだった。

事件を通じて知り合った、上手いことを言うと思った。メイドと護衛、二人は何一つ嘘をついていないのに、差別や誤解を全く感じさせない。教養の高い会話が、三者の間で行われていた。


「君達の熱意はよく分かった。ただ聞かせてほしい、息子への奉公に君達が望む見返りはあるのか」

「受けた御恩は、一生に匹敵する価値のあるものでした。才を発揮するのに、躊躇はございません」

「生きる意味を教えてもらいました。この方の生を守りするのに、躊躇いはありません」

「そうか、実に惜しく喜ばしいな。世界にさえ大きな貢献が行える二人が、息子一人の為に費やされる。母としては申し分ない、自分の心ゆくまで付き合ってやってくれ」


「少しでも不安に感じたりはしないのか?」

「頭脳でも、才能でも、私でさえ見極めの困難な者達だ。この二人を手放せば、お前に未来はない」


 なるほど、確かに俺個人ではなく二人の才覚によってこの自己紹介の場は成り立ったといえる。遊び半分で拾ったメイドや護衛ならば、どれほどコケにされたか検討もつかない。

単なる俺の育て親だと言うのに、無事に自己紹介がなって二人は喜び合っていた。人間的な模範像では断じて無いのだが、俺の育て親というステータスは二人にとって魅力があるらしい。

人間的に問題無い奴を並べたので、次は外見は問題ないけど人間的に問題のある奴を投入しようと思う。ただし緩衝材は絶対に必要なので、セットで用意する。


「こちら、ノエルさん。俺が今世話になっている屋敷で働いている女性で、身の回りの世話をしてくれている。で、こっちがその屋敷の主」

「月村忍です。宮本君には今友達のような関係ですが、私から告白させて頂いています」


「貴様、女からの告白をむざむざ許したのか。何と嘆かわしい、貴様に日本男児を名乗る資格はない」

「俺が一方的に責められている!?」


 見事なカウンターを食らって、俺は思いっきり仰け反った。ノエルは会釈するのみで、無用な口を叩かない。貞淑なメイドの姿勢に、むしろ母は感心していた。家事手伝いを職務とするのであれば、自ら誇らない。

愛人だの何だのと言わないか不安だったが、その程度の常識はあるらしい――そう一瞬思った俺は、甘かった。告白したとばらしてしまえば、ステータスに全く意味が無いからだ。

女性が率先して愛を打ち明けたというのであれば、恋人だろうが愛人だろうが心持ちは同じだ。俺が総理解する頃には、既に月村忍と母親の歓談は華を咲かせていた。おのれ、コミュニケーション不足の分際で。


「息子のどこが気に入ったのか、聞かせてくれ」

「今は全部好きですが、最初に好きになったのはこの人のもっとも駄目なところです」

「ほう、というと?」


「他人に顧みないところです」


「なるほど、同類か。深入りすると抜け出せなくなるが、既に泥沼に嵌っているな」

「嫌われても嬉しいですし、好かれたらもっと嬉しいですから」

「少し、面白くないな。息子にかまってやれるのは私かあの子達くらいだと思っていたが――お前のような女が連れるとは」

「今日からは、お母さん相手にも頑張りますよ」

「おっと、これは一本取られたな。いいだろう、遠慮なく来るといい」


 威嚇しあっているようだが、不思議と歯車は噛み合っている。謎の関係成立にびびったが、よく考えてみると俺とこいつとの関係と同じだった。ノエルも実に満足げだった。

やはりただならぬ関係になってしまい、予想とは違う形で落とし込められてしまった。忍は鼻歌を歌いながらスキップしている、こいつの精神力も聖地という戦場を潜って鍛え上げられている。

人間的に問題ある奴をクリアーできたので、次は立場的に問題がある奴を紹介することにする。本人達は全く問題ないのだが、立場だけがひたすらまずい。俺なりに、必死で紹介文を考える。


「諸外国で出逢った方々で、さる政府筋からの厚意と要望により俺の身辺警護を担当している。騎士格のアナスタシア女史を筆頭に、チンクとトーレ隊員。世話係として、シスター見習いであるセッテも派遣された」

「お前の複雑な立場については、警察関係の方からも多少ではあるが聞かされている。お前本人が連絡しないせいで、私から動くのが大いに遅れてしまったがな。
その辺は後々詳しく聞かせてもらうとして、私の息子のために異国からはるばる来て頂いたというのであれば、私からまず挨拶しなければならんな」


 ――異世界事情をいきなり聞かせられないので、夜の一族繋がりで紹介させてもらう事にする。ドイツでの一連の出来事は国際ニュースになっているので、この女の耳にも届いている。


日本政府及び各国の政府筋への対応や手続きは夜の一族が全て行ってくれているので、俺にも詳細は分からない。なので綺堂さくらに後程連絡を取って、事情を説明してもらう事にする。

騎士制度なるものがヨーロッパの主要各国に今でも残っているのか分からないので、その辺は曖昧にしておいた。言明を避けたのだがよく考えてみると聖騎士を除けば、チンク達は自分で名乗りを上げているだけので正しい気がしてきた。


騎士という日本ではお伽噺の立場を母はさほど注目せず、あくまでも人間として一人一人を慎重に見極めていた。この辺りは友人関係を名乗る、忍達とは違う点だ。


「陛下には我が国の民を救って頂きまして、大変感謝しております。ご用命は確かに承っておりますが、此度の派遣は私達全員の意志でもあるのです」

「貴方は先程から私の息子を"陛下"と呼んでいるが、差し支えなければ理由を聞かせてもらえるか」

「事件が起きて民が脅かされた時もこの御方は王の如く振る舞われ、見事解決へと導きました。皆揃って、陛下と口にする名誉を賜っております」


「……おい、何故気軽に許したんだ。日本人と異国人の価値観の違いにも気付かんのか、この馬鹿。お前が気軽に栄誉を与えたせいで、この者達は職務を超えてお前に忠誠を誓っているではないか」

「……こればかりはほんと、言い訳のしようがないと申しますか」


 ぐおおおおおおお、やはり責められてしまった。だってだって、俺もいつ許したのかサッパリ分からないんだもん。いつの間にか慕われていましたとしか、言いようがない。ほんと、何故なんだろうか。

実のところ、異世界事情を除けば紹介自体はさほど間違えていない。自治領を統括する聖王教会からの要望があったのも事実だし、身辺警護や世話役も本当である。何故こうなったのか、俺にも分からない。

息子を守る警護団というのであれば無碍にも扱えず、母親としても立場を弁えて会話が行われた。セッテ達からすれば聖王の母であり、ひたすら恐縮しているのが面白い。セッテやアナスタシアなんて、感激の眼差しだからな。


立場の問題を一挙に解決するのは、やはり難しい。ただ一般家庭の母親と違って、ヒミコは肝が座っている。


「騎士を名乗るだけあって、貴方達は確かな実力を持っているようだ。特に騎士格を有するという貴女には、目を見張るものがある」

「お眼鏡にかないまして、私達としても光栄の至りです」


「この場にはいない、あの少女も君達の仲間かな。先程の行為は息子への教育だと、母親としては些か恥ずかしい弁明をさせて貰いたかったのだが」


「ご心配なく、母君」

「あの者もまた、母君のお気持ちをお察ししております。ゆえに先程貴女様に危害を加えようとした無礼を恥じ、この場は自粛しております」


 母親の指摘とチンクやトーレの返答に、目を剥いた。先程の行為、俺がこの女に倒された時にヴィータが物陰にいたのか。騒動に気付いて駆け付けてくれたのだ、胸が温かくなる思いだった。

恐らくサフィーラやアギトも一緒だったのだろう、だからこそこの場に姿を見せていない。後で紹介するつもりだったのだが、本人達は自分から自粛していたのだ。

多分あの時の光景を一目見て、すぐに状況に気づいたのだろう。分かっていても、俺が危害を加えられて感情を一瞬でも殺せなかったのだ。その気持ちだけでも、本当に嬉しかった。


ヴィータ達守護騎士の美談がそのまま騎士団への評価と繋がり、最後は一人一人握手して部屋を後にした。セッテ達は感激の余り、涙を滲ませている。俺もいい話を聞かせてもらった。



――だからつい、気を良くしてしまったのかもしれない。



「この子達は、俺の娘達だ。ふふふ、可愛いだろう――ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


「さすが父上の母君、見事なバックドロップですね」

「電光石火とはよく言ったものだ、我が父の故郷の女性は強いな」

「おー、オッパイママ、カッコいいー!」

「お父さんが泡吹いていますよ!?」


「ぶくぶくー」



 大問題になった、円満に紹介したのに何故だ。











<続く>








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