とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第六十二話
聖王教会騎士団とは古代ベルカに起源を持つ宗教騎士団であり、当時は聖地巡礼に訪れた教徒達の保護を任務としていたのだが、宗教国家が誕生した後はこの聖地防衛の主力として活躍している。
特に法の組織である時空管理局と関係を持ち、ミッドチルダより正式な承認を得て自治権を得た後は、徐々に軍事的要素を強めていった。歴戦の勇士が名を連ね、称号と勲章を得て騎士と成った。
この騎士団に入る事は大変な栄誉とされており、各国の王族や有力貴族からも多額の寄進を受けている。聖女の予言により宗教改革が盛んになってからは増員され、戦力強化も行われたらしい。
平民出身の修道士を含めると騎士団の構成員は数多く、主な種別として騎士・従士・修道士に分けられている。各グループ毎に部隊長がいて、全体を騎士団長が統率している。
戦士として育成された高い士気、時空管理局との合同で行われた鍛錬、聖王教会より支給された魔導装備――あらゆる要素が加わって、ベルカ最強の騎士団となった。
貴族出身である上級騎士達は決して降伏しない事を神に誓い、平民出身の従士は戦死こそが天国への手形であると信仰している。従順の誓いを立てた修道士達は聖地の守護を使命として、常勝無敗を唱えてきた。
騎士団の騎士達の強さと勇敢さは伝説的なものであり、時空管理局とも共闘して悪の殲滅に従事し、勇名を不動のものとした。広大なベルカ自治領の治安を守ってきた彼らに、隙はない。
騎士団全体を統括する騎士団長を筆頭に重装備の上級騎士達と、従士の強者達。強豪揃いの騎士団の中で、少数精鋭の騎士達が決闘場に参上した。
「騎士団を統率するグランドマスターである騎士団長はS+ランク、従士達を率いる数名の部隊長はSランク。騎士団長自ら厳しく選出された従士達は、平均Aランクの猛者揃い。
ドゥーエ姉様のお話ではゆりかご調査事件の失態で人事改革が行われたとの事ですが、随分とまた粒揃いの騎士達を選出したものですわ。
どうやらこの決闘に、騎士団の命運を賭けているようですわね……大人げない連中だこと」
「神の名の下に行われる正当なる決闘とはいえ、ミッドチルダ中が注目している御前試合だ。実力をお披露目する場に、最高戦力を投入するのは当然じゃないのか」
「時空管理局では部隊毎に保有できる魔導師ランクの総計規模はきちんと定められているのですわよ、陛下。まあ騎士団は時空管理局に代わるベルカの治安組織であり、実態は軍事化された組織。
別に一部隊と定められておりませんけれど、こうした部隊規模の決闘では些か大人げないとも受け取れますわね」
「……それって、こちらが単なる一部隊規模としか受け止められていないという前提だろう?」
「ええ、ですから大人げないと笑っておりますの。小娘――コホン! へ、陛下のご息女であらせられるユーリ様の存在を恐れた結果でしょうけど!」
クスクス笑っていたクアットロが急に飛び上がって、挙動不審な汗をかいて言葉を必死で改めた。急にどうした――ああ、主賓席に控えている修道女セッテの目を気にしたのか。
この御前試合は総力戦、お互いの実力をお披露目する場である以上最大戦力を投入するのは当然。御前試合という側面と決闘という主理由との折衷により、ハンディキャップは設定されていない。
この決闘における意気込みは戦力に全て現れていると言っても過言ではないが、どうやら聖王教会騎士団は此度の決闘で命運を定めるつもりでいるらしい。
今更問い質すつもりはないのだが、念の為に窺っておいた。
「魔導師ランクにおける設定基準を教えてくれ、クアットロ」
「管理外世界出身の陛下の認識であれば、時空管理局で例えれば分かりやすいでしょうね。所謂一般の武装局員はDからCが、現状最も多いランクですわ。
Bランク昇格ともなると、多くの魔導師が試験で最初にぶつかる壁ですわね。Aランクを超えるには陛下がお気にされている才覚が問われますわよ、うふふ」
――この決闘の場に参上した騎士団は、軽装備の従士達でさえも平均Aランク。クアットロの調査によるとAランクのみならず、幹部候補生はAAランクにまで到達しているようだ。
Sランク以上ともなれば時空管理局では隊長クラスの猛者、あのゼスト隊長に匹敵する強さが騎士団長にあるというのか。雲の上の存在、部隊規模の戦力を有した到達者。実力で選ばれた、天才。
一対一で挑んではならないと、釘を差された理由も頷ける。決闘場で向かい合っても、俺には騎士団長が強いとしか分からない。どの程度強いのか、想像さえ許してくれない。
ベルカ自治領とミッドチルダに挟まれた前線基地、用意された軍事施設に集った戦士達の中で――弱者は、俺一人であった。
『騎士団長率いる聖王教会騎士団、"聖王"様直々に率いる白旗。聖地を守りし戦士達が今、この聖なる決闘の場に集いました!』
時空管理局は仲介役であり、聖王教会は審判役。聖王教会騎士団と白旗との決闘に実況者は必要ないが、大規模な観客達が集っていて、次元世界全体が注目している以上、進行役は必要となる。
決闘を望んだのは俺と騎士団長だが、決闘に関する運営を取り仕切っているのはベルカ自治領最大の商会であるカレイドウルフ。大商会が選出した司会進行役は、あろうことかマイアであった。
主賓席ではなく、何故か司会席に席を並べているカリーナ達。主賓席では感じられない場の熱気を生で感じるべく、司会席に陣取っているに違いない。セレナさんの苦労が偲ばれる。
時空管理局か聖王教会から人員を動員すればいいのに、身内人事でマイアを選び出す辺りカリーナ姫の酔狂を感じさせた。肝心のマイアは恐縮こそしているが、笑顔で実況している辺り立派である。
『カリーナ・カレイドウルフ様直々に宣言された、"聖王"様のご降臨。神の復活を祝う祭りが行われ、世界中の人々が今歓喜の声を上げております。
本日は、復活祭の最終日。今後の聖地を守る方々の御力を思う存分発揮して頂く事で、新しい平和が訪れた事を実感いたしましょう!』
マイアの思い掛けない達者な弁舌で観客はおろか、主賓席に席を並べている重鎮達も立ち上がって拍手喝采している。多分手元にカンペはあるのだろうけど、なかなかどうして立派な顔役だった。
カリーナに日々同行する事で腰巾着の小市民と揶揄される事もあった彼女、誘拐事件では立派にカリーナを守り抜いた所が表沙汰にはされない。そうした彼女のひたむきな努力が、報われたのだ。
宿アグスタは高級ホテルに改築されて、カリーナの紹介もあってこの先多くの賓客が訪れるだろう。宿の主人ではなくホテルの総支配人として、彼女はこの先笑顔で応対しなければならない。
ベルカ自治領は今、世界中で注目されている。このような大舞台を仕切る度量がなければ、聖地を代表する高級ホテルの支配人としてやっていけないだろう。彼女の資質が試されていた。
『皆様、御覧ください。この正当なる決闘を御覧頂いている尊き御方――聖王教会の司祭様と、神の降臨を予言された聖女様も参られております!』
ミッドチルダ最大の宗教組織である聖王教会を采配する司祭様と、聖地に大いなる繁栄をもたらした聖女様。お二方の観覧は、この決闘に大きな意味と価値があることを示している。
地球のキリスト教で言えば教皇にも等しき司祭様は、神である聖王に近しい立場であり、信徒達の崇拝対象。聖女様におかれては長らく姿を見せなかった事もあって、彼女の気品と美しさに世界中が感嘆の声を上げている。
決闘である以上、たとえ聖王教会騎士団の決闘であっても、一方的に彼らを応援出来ない。決して笑顔を振り撒けず、声をかけてはならない。当然である。
だからこそ主賓席で、静謐に佇まれて――あれ?
(……気のせいか、こちらを見られているような――気が、する)
手こそ振っていないが、胸元で祈るように両手を組まれて白旗を指揮する俺を見下ろしている。な、何で、そんな熱烈に俺ばかり見られているのだろうか!?
両手を握って接近するスタイルは、普段から暑苦しい娼婦のイメージと重なる。送り出す時いつも頑張ってくださいと熱烈に握り締めてくるんだよな、あの風俗女。
いけないぞ、俺。腰痛の女と予言の聖女様を重ねてどうする。ババアの疑いも出て来た女と麗しい金髪美人では、雲泥の差だろう。自意識過剰は、女にモテない証拠である。気を引き締めよう。
その点聖女様の世話係として控えているセッテは完全に公私混同して、両手を振って俺を応援している。日頃無感情な彼女の頑張りには微笑ましさが感じられるのか、皆に笑って受け止められている。
時空管理局からも最高顧問のギル・グレアム提督とリーゼアリア秘書官が参席、護衛役には仮面男が控えている。何時いかなる時でも隙のないあの男が、主賓席を守っているのだろう。
『時空管理局と聖王教会、事前に決められた同一の条件の下で決闘は行われます。此度の果たし合いではライフポイント制を用いた戦闘方法となるのです!』
司会進行役のマイアが、決闘で定められた厳格なルール説明に入った。白旗対聖王教会騎士団で分かれたフィールドマッチ。どちらかの勢力が全滅するまでこの戦いは終わらない。
個人計測ライフポイントを利用して、魔法戦技術を競う決闘方式。定められたライフポイントは10000、攻撃がヒットした際にダメージが算出されて、ライフが0になると敗北となる。
魔法や剣などのぶつかり合いだが、特殊な結界の中では本当の負傷にはならず、あくまでライフポイントが減るのみ。この点は、プレセア戦での俺の負傷を配慮した団長の意向であった。
ただし何の怪我も負わないのでは、正当な決闘とは呼べない。そこで試験導入されたのが「クラッシュエミュレート」という概念、受けた攻撃によって身体ダメージが"表現"される。
実際の身体には一切傷を負わないが、傷を負ったという認識のみが与えられる。負傷を受けた時と同じように痛みを感じたり、身体の動きが鈍るといった状況が魔法で再現されるのだ。
このエミュレートによって付加されたダメージは試合が終わった時点で解除、傷も痛みも残らない。残されるのは、実力で敗北したという結果のみである。
ライフポイントやクラッシュエミュレートは、決闘場で用意されたシステムで付与される。だからこそ管理局や聖王教会による審判が必要とされるのだ。かなり正確に再現出来るらしい。
同じ治安組織同士の決闘であるがゆえの、シミュレーター対戦。問われるのは殺し合いの技量ではなく、決闘における実力だった。
『双方に問われているのは実力と、正義の在り処。ご来場されている方々も、世界各地で決闘をご覧頂いている皆様も、ご記憶に新しい罪の所在。
先日"聖王"陛下直々に討伐された魔龍、プレセア・レヴェントン。この咎人の罪を問い質す、決闘裁判なのです!』
――十字の裁き。決闘の場に引っ立てられた魔龍プレセア・レヴェントンは、十字架にかけられていた。世界中が固唾を呑む中で、決闘の場に引っ立てられている。
威容に満ちた漆黒の鎧は剥ぎ取られ、偉容に轟いていた黒槍も奪い取られている。麗しき漆黒の龍姫は両手を括り付けられて、罪科に問われている。傷こそ再生しているが、痛々しい光景だった。
死の刑罰を受けるべき対象であると、磔による苦しみを味わわされている。だというのにプレセアは厳かに目を閉ざしており、不平不満の一切を言わない。威容を誇った戦士が、罰に甘んじている。
向かい合った騎士団長を思わず睨みつける。処刑はしていないとでも言うつもりなのか、これは。十字架の刑罰は傷こそ与えていなくても、俺の世界では立派な公開処刑である。ふざけていた。
俺の視線に応えるように、騎士団長が正義の口上を唱えた。
「決闘裁判においては、神は正しいものに味方する。神の名の下に行われる決闘による結果は絶対的なものであり、聖王教会騎士団は魔の討伐を宣言するものである。
聖地を地獄の業火に染めんとし、信徒を獄死の恐怖に陥れた魔の罪は明白であり、我々正義の使者が裁かなければならない。この決闘において問うのは、罪に対する罰である。
神は今此処に、降臨された。我々の祈りは、天に届いたのだ――ゆえに、魔は討伐された。神によって守られた我々が成すべき事は、人の世を汚す悪を自らの手で断罪することだ!
神は罪を許す存在であり、罰を与える所業を押し付けてはならない。我々は神に甘んじるのではなく、神に祈りを捧げるものである。
我々は正義を愛し、悪を憎む。今こそ神に、我々の祈りを届けよう。今こそ神に、我々の信仰を伝えよう。今こそ神に――我々の正義を、お見せしよう!
信徒は祈りを捧げ、修道女は信仰を唱え、聖王教会騎士団は剣を掲げる。私達が代表して、魔の征伐を行う。皆が罪を問い、私達が罰を与える。我々騎士団こそが、正義の代弁者である。
聖地を焼き払おうとした魔の化身を、許せるのか? 信徒達を恐怖に陥れた魔の存在を、赦せるのか?
聖王家に連なるこの私、聖王教会騎士団団長が答えさせて頂こう。答えは――否である!!」
内心で舌打ちする、極論だった。プレセアの罪を過剰に暴き立てた上で無罪か有罪か、世界に問いかけている。公開処刑の是非を決める筈なのに、あの口上では罪と罰にすり替わってしまう。
忌々しい事に騎士団長の口上は、聖地に蔓延する熱狂そのものであった。絶対の正義である神の降臨に浮かれて、魔女狩りの再現のように信徒達は魔の討伐を求めてしまっている。
神とはすなわち信仰の対象であり、宗教組織の正義そのものだ。神の降臨は信仰が報われた証であり、信徒達の正義の証明となってしまった。決闘に勝利すれば恐らく、この場で処刑されるだろう。
先に決闘の口上を述べた辺りも、上手い。俺だって別にあいつの罪を許した訳じゃないのだが相手が先に否と叫んでしまったら、こっちが同じことを言っても印象が弱くなってしまう。
やはり実力も役者も、何もかもが上。決闘に応じたのも、決闘の作法を知り尽くしているからだ。改めて、恐るべき人物を敵に回してしまった。
騎士団長の正義の口上は見事なものだったが、観客達は熱狂しつつも口には出さない。決闘の作法に従って相手側の口上、つまり俺の主張を求めているからである。
長年聖地を守り抜いてきた実力者と、半年前まで放浪生活をしていた浮浪者。決闘の口上をぶつけあったら、どちらが上なのか明白である。そもそも決闘の口上なんてした事がないしな。
これも多分騎士団長の戦略の一つだ。"聖王"である俺と、聖王家である団長。口上を述べる上で、改めて名乗りを上げた見事さ。本物の聖王を前に、紛い物の聖王の正義が人々に届く筈がない。
正に、その通りである。
「騎士団長殿の仰られることは、ごもっともです」
「――!?」
「皆さんの祈りは、確かに届きました。皆さんはあの場で私に守られたと感謝を述べておられましたが、私の方こそ皆さんに感謝したい。皆さんの祈りがあったからこそ、私は奮い立てた。
罪を許さない騎士団長の正義は、体現されたのです。だからこそ私は魔龍プレセア・レヴェントンと戦い、彼女を討伐しました。
聖なる刃をこの者に突き立てた光景――この世界に生きる全ての人達が、目撃された筈です」
実際にプレセアに剣を突き刺したので、嘘は言っていない。騎士団長の正義とか、信徒達の祈りとかは、心の底からどうでも良かったけど。あの時は自分一人の為にしか戦っていなかった。
だからこそ自分の心ではなく、皆の誤認を利用させてもらう。異世界であっても所詮言った者勝ち、誤解の多い世の中である事は唯一の常識人である俺が思い知っている。
そもそもこいつらが誤解するから、俺の人生が翻弄される結果となっているのだ。たまには、この馬鹿共の誤解を俺が利用するくらいいいだろう。
騎士団長の正義には、到底勝てない。だったら敢えて逆らわず、誤解している世論をそのまま味方につければいいのだ。正義なんて、知ったことか。
「私は彼女を裁きました、皆さんにご覧いただけている筈です。全世界の前でこの私が彼女の罪を裁いたのです、皆さん!」
「ば、馬鹿な、この者は生きて――!?」
「正義の刃を突き立てても、彼女は生きている。皆さん、この意味を考えて下さい。罰を与えた罪人に、命は残されている。そんな彼女に再び同じ罰を与えるのは、正義でしょうか。
神が罪を許す者であると言うのであれば、同一の罪に重ねて罰を与えることはあってはなりません。たとえ、魔の存在であっても。
私は、この者の罪を許したい。ですが恐怖に陥れられた皆さんは、この者の罪を簡単に赦せないでしょう。人々の心を思いやる騎士団長殿もまた、皆さんと同じ気持ちなのです。
だからこそ私自ら剣を取って、この決闘裁判に望むのです。皆さんの怒りや憎しみ――そして悲しみも全て、皆さんの代表である騎士団より受け止めます。正義の在り処を、問う為に。
人々に善と悪があるように、龍にもまた正義と悪があるのだと私は信じたい。この決闘で勝つことが出来れば、私は龍族に対しても平和を愛する皆さんの信仰を伝えましょう。
皆さん、見ていて下さい。私は彼女を裁いた自らの剣にかけて、彼女に正義の価値を伝えることを約束します。二度と、この聖地を脅かされない為に!」
時空管理局の法においても、聖王教会の信仰においても、人外に対する罪の所在は曖昧である。種族間の文化や価値観、社会構造が異なるのだから無理も無い。
そもそも決闘裁判とは無実か有罪か、判断が難しい判決において行われたものである。同じ国ならいざ知らず、別の国や種族との法は異なり、折衝が難しい。今の地球でもその辺りはややこしい。
龍を魔の存在とするのか、人のように扱うのか、結局は個人の主観でしかない。だからこそ時空管理局や聖王教会が、龍の姫である彼女の扱いに悩んでいるのだ。
扱いが難しいのなら、人類と龍族で話しあえばいい。国交がないのであれば、交流すればいい。VIPの犯罪となれば当然揉めるだろうが、必要なのは話し合って揉める事だ。
俺は所詮一般人でしかないが、少なくとも組織のトップに立つ上で必要な要素を一つだけ学んだ。リーダーとは、責任を取る者だ。
プレセアを許すつもりは断じてないが、公開処刑にするつもりもない。その事で人々が怖いというのであれば、俺が責任をもって預かればいい。
正義は自分にあると唱える団長と、悪は自分が引き受けると断言した俺――この決闘は、それを見定める戦いだ。
カリーナ・カレイドウルフが立ち上がり、高貴なる手を掲げた。
「互いの正義は掲げられた。後は、剣を交えるのみ――どちらが正しいか、私達が公平に見定めようではないか!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
忌々しげに顔を歪めた騎士団長が号令をかけ、涼やかに微笑んだ俺が竹刀を掲げた。聖王オリヴィエが宿る剣が光を放ち、決闘場を美しく照らしだす。
バリアジャケットを装填、騎士甲冑を装着、インテリジェンスを手にし、アームドデバイスを構え、ユニゾンデバイスが翔ける。騎士達が展開し、ユーリ達が陣形を取った。
もはや言葉は不要――剣によって、問うのみ!
「決闘、開始!」
信じられないことに音響機器の一切を使わず、カリーナ・カレイドウルフは自身の声だけで開始の合図を唱える。大商会のお姫様は、その威厳のみで世界を震わせた。
従士達が散開、騎士達が左右に並ぶ。王者の如く中央に立つ騎士団長が、長剣を掲げている。剣から幾つも薬莢が飛び散って壮絶な魔力が――薬莢!? 何で剣から、薬莢が出てくる!?
信じられないことに薬莢が飛び散る度に、魔力が信じられない速度で収束、膨れ上がっていく――馬鹿な、早すぎる!? プレシア・テスタロッサだって、大魔法を使う時は時間がかかっていたのに。
「今こそ見よ、"真なる聖王"の秘伝技――マグナ・グラエキア!」
S+ランクの剣技、小癪な戦術など不要と言わんばかりに決闘場を蹂躙。大地を切り裂く光の刃が一直線に、大将である俺に向かって飛んで来る。容赦のない、断罪の刃。
恐るべき一太刀、切り裂かれれば偽りの神など両断される。回避どころか、呆然と見つめるのみ。俺だけじゃなく、シュテル達も何の対処も出来ない。
終わりだ――強者の一刀は、弱者の戦意を断ってしまう。前衛ののろうさ達も黙って見過ごし、中央のチンク達も道を開け、後方のクアットロも欠伸をして――欠伸!?
俺の正面に立つユーリを、真っ二つにした。
「ゆ、ユーリぃぃぃぃいいいいいいいいいい!?」
「はーい、お父さん」
「……へ?」
『ユーリ・エーベルヴァイン DAMEGE:2 LIFE:9998』
ダ、ダメージ……2?
呆然とする俺を前に、ユーリは髪の毛の乱れを恥ずかしそうに直していた。
<続く>
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