とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第三十三話
時空管理局顧問官を務める局の重鎮、ギル・グレアム提督。聖地来訪の際は話題となり、聖女との公式面談では護衛を募る程の最重要人物として注目を浴びた。あの三役も、非公式に会っている。
現地に派遣されている部隊が所属する部署にも視察し、猟兵団や傭兵団の警戒を促した。顧問官直々の視察とあれば、部隊編成も考えられる。治安の強化は、彼らの望むところではない。
教会が聖王のゆりかご調査を聖女に急がせたのも、実のところギル・グレアム提督の表敬が予定されていた事が一説に上がっている。聖女及び騎士団壊滅で中止となったので、事実は分からない。
ギル・グレアム提督の存在及び動向は、聖地の支配者達を刺激する要因となっている。彼らの右往左往は表面上暴力の抑制となっているように見えて、実のところ事実は異なる。
敵を刺激するだけは、何の意味もない。本当に治安の強化に繋がるのであれば歓迎されるべきだが、グレアム提督は結局行動しているだけで対応していないのだ。衆愚政治も、何も変わらない。
地位と存在感で民の人気ばかり高まるだけで、具体的な政策や対案は何も提示しない。これでは民を慰撫するアイドルと、何も変わらない。けれど慰撫はしている、だから厄介なのである。
目の上のたんこぶは邪魔なだけで、攻撃まではしてくれない。張子の虎では民は安心しても、強者は警戒すれど脅威に感じない。だからこそ、野放しになってしまっている。
忌々しい事に、何がやりたいのか明白だった。事情を知る人間からすれば、分かりきっている。一連の行動には民や強者に無意味でも、一勢力には問題なのである。
白旗の行動の先回り――管理プランを行使する俺に対する、妨害である。
「お久しぶりです、アリサさん。お元気そうで、何よりです」
「ご挨拶が遅れまして申し訳ありませんでした、リーゼアリア秘書官。お声をかけて頂ければ、直接伺いましたのに」
「御三方より、君の活躍は伺っている。聖王教会とも良き関係を築けているとの評判だよ」
「ありがとうございます、グレアム顧問官。聖王教会よりも連絡が届いたようですね」
聖王教会の司祭より復活祭の承認が正式に行われ、司祭直々の申し出により時空管理局との連携が確約された。現地派遣の部隊と時空管理局顧問官、両者に連絡が滞りなく行われたのである。
不要ではあったが、不要だと言い切れない状況が白旗にはあった。祟り霊により教会組とユーリ達が倒れ、魔女により新戦力が根こそぎ奪われた。人手不足は、深刻だったのだ。
聖王教会より白旗の現状が正確に伝えられてしまい、ギル・グレアム提督は『快く』リーゼアリア秘書官を招集してくれたようだ。俺は即座にアリサを呼んで、挨拶の場に立った。
ジェイル博士や三役も名乗り上げたが、ひとまず断っておいた。二体二、アースラのプラン進捗会議でやり合った環境の方が話しやすい。いずれにしても、確執は取り除かなければいけない。
「早速ですけれど、聖王教会より由々しき課題が上がっております。魔女を名乗る犯罪者により、プラン対象者が制御不能となり聖地を脅かす一因となったそうですね」
「当時の状況は私も確認している。謎の機械兵団が聖地を包囲し、危うく戦争にまで発展するところだった」
本当に詳細に至るまで説明したらしい、聖王教会の余計な気遣いに内心舌打ちする。情報連携は協力関係には必須だが、敵対関係の場合一方的に立場が脅かされる。
この情報を受けたから招集に応じたのだと勘繰るほどに、リーゼアリア秘書官は怜悧な美貌を愉悦に染めて追求する。矛先は俺であり、何よりアリサであった。
アリサは突き付けられた書類を一瞥するのみで、動揺はない。俺から事情は既に話している。
「一瞬の出来事ですし、砂漠の蜃気楼と変わりません。話題には上がりましたが、未確認飛行物体の憶測でしかありませんよ」
「大規模騒乱罪の適用範囲内ですよ、アリサさん。管理プランを施行する上で、安全管理は第一ではなかったのですか」
「安全は管理されておりますよ。我々スタッフが優秀であるからこそ、事無きを得ました」
「問題が起きてからでは遅いと言っているのです。聖王様の復活祭を祈願されるとの事ですが、状況認識も疎かであるようならば開催を取り止めるべきではないですか」
「ご心配下さって、ありがとうございます。ですが今の議題は管理プランでしょう、脱線は感心しませんね」
「事態の悪化による延長を語ったまでです。可能性も考慮出来ないのであれば、議題の解決は難しいですね」
俺の護衛である妹さん、彼らの護衛である仮面の男。両者は会議室の外を陣取っているが、静かなものだ。息苦しい俺と、変わってもらえないだろうか?
頭脳明晰な女性達の議論は、口喧嘩であっても口論なので横槍を入れづらい。単純な悪口を言い合ってくれれば、蹴りでも入れて止めるのに。
それにしても気になるのは、グレアム一行の面々である。以前仮面の男は二人居た気がするのだが、今日連れて来た護衛は一人のみ。三人で全員だと、明言していた。
妹さんも聞いたのだが、要領を得ない。「リーゼアリアが仮面の男」だと言うのだ、性別が完璧に違うのに。忍の奴が宝塚のパンフレッドでも見せたのだろう、叱りつけておかなければならない。
「いずれにしても、到底看過出来ない問題です。聖地における管理プランの継続は、実質上不可能となったと断言出来るでしょう」
「仮にそうだとしても、あんた達に裁量権はないぞ」
「司祭殿は可及的速やかに解決すべき問題が別件にあって取り合って頂けなかったが、後日時間を取って頂いて再度意見させて頂くつもりだ。教会全体に掛け合ってもよい」
――司祭はドゥーエの一件でほぼ全面的に信任を得ているが、聖王教会全体に事態が伝わるのはまずい。どうしてそこまで執念深く、管理プランを中止させようとするのか。
ローゼ個人は別にして、治安維持を掲げる白旗に対する宗教権力者の目は厳しい。強者達を支援する彼らにとって、白旗は脅威の純白だ。隙さえあれば、叩き潰すつもりでいるだろう。
魔女とは別の次元で、極めて疎ましい連中である。こういう事態になるから箝口令を求めていたのに、司祭が情報連携して台無しになった。
アリサは詳細を纏めた書類を手にしながら、意見を述べる。
「管理プランは聖王教会が黙認する、ロストロギア民間管理の施策です。聖王教会全体への周知は、情報管理面の意味で問題となるのではありませんか」
「問題は既に起きています。治安を脅かす問題に対して、将来的な情報管理面への脅威を恐れて曖昧とするのは愚の骨頂です。その程度も分からないのですか?」
「治安を脅かす問題に発展しかねないと言っているのです。魔女に関する情報はあまりにも少なく、機械兵団は未確認飛行物体の域を出ていない。
周知すれば憶測を招き、憶測が憶測を生む。ありもしない宇宙人襲来を恐れる事になれば、それこそ治安悪化を招くでしょう」
「事を大袈裟に吹聴して、脅迫しようとしても無駄ですよ。治安管理は聖王教会のみならず、時空管理局も行っています。収拾をつけるのは容易い事です」
「でしたら即刻、御自分が仰られる推測をまず正すべきでしょう。犯人像が明らかにされていない以上、どう論議しても噂の類でしかありませんよ」
「確かな情報見地に基づいて、私は意見を述べています。時空管理局の法と聖地の自治法を把握されていない貴女の意見こそ、憶測による誹謗ではありませんか」
書類を手にアリサが睨み、リーゼアリアが叩き付ける。雲行きが怪しいのではない、不穏な空気は既に漂っている。心理戦とは、削り合いなのである。
攻防戦は互角に見えるが、実のところ一方的に追求されている。頭脳明晰なアリサだからここまで言えているが、実際のところは非常にまずい。
俺が司祭との会議で有耶無耶にした責任の所在を、グレアム提督とリーゼアリアは明確にローゼとしている。召喚を誤魔化しても、これでは危険物扱いと変わらない。
アリサは難敵と当初から分かっている彼らはアリサをリーゼアリアが抑えて、グレアムが俺に追求する手段を貫いている。実に、目障りだった。
「事実は明らかなのだ。抗弁されようと、私の意見は変わらない。聖王教会への通達は行わせてもらうよ」
「軽々な対応だと言わざるを得ませんね。ご自身の立場を利用した強弁です」
「立場が確立されているからこそ言える意見というものがある。そもそも君と私では、立場が違う」
「これはまた恐れいりました、ご自身の立場をそれほどまでにご自慢に振るわれるとは。聖地を騒がせる権力者達の立場と比類出来ますね」
「力を行使しているのは君の方だろう、宮本君。聖騎士を囲い、聖女殿と通じている」
……は? 何言ってんだ、こいつ。まるで俺が聖騎士の主となり、聖女を奴隷か何かのように扱っているとでも言いたいのか。どんな勘違いなんだ、この野郎。
聖騎士は、騎士団長を主と定めている。騎士団壊滅で、俺への不信が増しているのは明らかだ。聖女様に至っては入院にまで発展した、護衛の役割を成せなくてさぞお怒りだろう。
両者の信頼を再び取り戻すのは果てしなく難しい状況だというのに、この言い様は明らかにふざけている。目を尖らせるが、馬耳東風であった。
リーゼアリアも以前より腹にすえかねていたのか、ここぞとばかりに叩きつけた。
「司祭様にどのように取り行ったのか分かりませんが、随分と聖王教会に幅を利かせて好き勝手されているですね」
「何なんだ、あんたらのその言いがかりは」
「ふざけないで下さい。貴女は聖王教会第一の騎士と取り立てられた聖騎士を己が剣とし、あろう事か聖女様にまで付け入ろうとしている。
管理外世界の人間がどうして、この短期間で信任を得られると言うのですか。白旗などという治安活動まで許され、聖女様の護衛として聖王のゆりかご調査にまで命じられる功績を立てている。
その全ては、関係を持った司祭殿に取り入った結果でしょう! グレアム提督を粗悪な権力者と罵られる資格など、貴方にはありはしない!!」
えええええええっ!? 何じゃ、その誹謗中傷!? 俺が司祭を背景にして好き勝手に権力を振るって、聖女や聖騎士を味方にしたとでも言いたいのか!
グレアムやリーゼアリアの中でどんな不毛な想像がされているのか分からないが、別に俺は庶民的かつ地道にコツコツやっただけだ。何一つ、特別な事はしていない。
大体ジェイルやセッテ達もそうだけど、こいつら異世界人はいちいち大袈裟なんだよな。こんなの、誰にだって出来る事じゃねえか。ごく普通のことをやっているに過ぎない。
「俺には何の権力もないよ。権力を傘にきているのは、明らかにあんたらじゃないか」
「いい加減にしたまえ、宮本君。君の行動や言動にはこれまで耳をつむっていたが、あの御三方にまで取り入ったのは私としても到底見過ごせないのだよ」
「あの人達はあくまで善意で、俺に協力を――」
「善意ですって!? 立憲最高責任者である方達が善意などという、軽はずみな説得に応じる筈がないでしょう! 聖王教会との関係を盾にした脅迫ではないなどと、言わせませんよ!」
「脅迫!? おいおい、いい加減名誉毀損で訴えるぞ」
「じゃあ、今の理解不能な現状を権力無しで説明できるというのですか!? 言えるものならしてみなさい!
聖騎士に聖女様、あの御三方に加えて犯罪者やロストロギア、管理局精鋭をも超える強力な魔導師達多数の戦力、次元世界有数の大商会カレイドウルフの全面支援まで受け、聖王のゆりかごが起動。
良家や王族、貴族や華族のご令嬢との縁談の件も今では公の事実、非公式に加えて公式の絶大な権力と財力まで得ようとしている!
何の関係もない、何の地盤もない、何の力もない、異なる世界から来た貴方が、教会の権力を無しにどうしてこんな真似が出来るというのですか!!」
……どうもなにも、一般人として対話しただけじゃないか。人との繋がりを求めて、他人に接していけば、誰にだって出来る。今までやろうとしなかったから、出来なかっただけだ。
人間関係の基本を、どうして今更説明しないといけないんだ。いい大人がガキに説教されても嫌だろうに、何をそんなにムキになって怒っているのだろう。
グレアムやリーゼアリアの怒り心頭な態度に嘆息し、俺はアリサに耳打ちする。
「こいつら、頭おかしいぞ」
「うん、頭おかしくなっているわね。ほんと、同情するわ。一番近くにいるあたしだって、時折気が狂いそうになるもん」
「おいおい、しっかりしてくれよ。俺以外、常識人は居ないのか」
「何だろう……アンタは勿論頭おかしいけど、アンタに合わせて世界が狂うのよね……何が正しいのか、たまに分からなくなるわ」
リーゼアリアの追求を受けていると、まるで俺がお伽噺にありがちな立身出世物語を聞かされているような気分になる。あれは物語だから成立する寓話なんだぞ、馬鹿め。
事実誤認をされると、こちらとしても非常に迷惑千万である。この勘違いをどこから解けばいいのか分からないが、一方的な誹謗嘲笑は我慢ならない。
アリサもその辺は理解してくれて、深い溜息と共に書類を持ち上げた。
「つまり何が言いたいのか結論を述べて下さい、リーゼアリア秘書官」
「ハァ、ハァ……失礼、取り乱しました」
「結論は既に出ている。我々は後日聖王教会へ出向き、此度の一件を持ってプランの危険を訴えて中止させる」
くそっ、どうすればいいんだ。ローゼではなく魔女の仕業だと訴えても、魔女に操られた事実までは消せない。召喚を誤魔化しても、呼び出せる事実までは消せないのだ。
しかもこいつらは最初から、反対の立場を貫いている。司祭はあくまで黙認するつもりだったので矛先を誤魔化せば済んだが、彼らの場合そうはいかない。
ローゼの責任ではないのだが、ローゼに機械操作を行える能力がある事自体は確かなのだ。機械兵団を呼んでしまった以上、この点はどうすることも出来なかった。
万事休すである。こいつらの説得はこの際諦めて、何とか聖王教会に働きかけて中止だけは――
「なるほど、よく分かりました。魔女が此処のセキュリティを破った事は事実です、我々の落ち度は認めましょう」
「分かって頂けて嬉しいです。一つ誤解して頂きたくないのはアリサさんの能力そのものは私だけではなく、グレアム提督も高く評価しているのですよ」
「ありがとうございます、リーゼアリア秘書官。ですが残念ながら、あたしはあなた方時空管理局の能力面については疑問視しているのですよ」
「……どういう事ですか。これ以上の議論は不毛ではないかと」
「議論ではありません、これは結論です。あなた方が管理プランの中止を訴えるのであれば、あたしは封印処置の中止を訴えましょう」
「な、何を言っているのですか!? 自分の思い通りにならないからと言って、難癖するつもりですか!」
「いいえ、事実です。魔女は我々白旗のセキュリティを突破する能力を有している、ならば時空管理局のセキュリティも可能でしょう。かの魔女の機械操作は、恐るべきものがあります。
復活祭開催に向けて、あなた方とは一時的ではありますが協力関係をお願いする立場です。ですので情報連携として、我々のセキュリティシステムの概要をお見せしましょう」
アリサが提示したローゼ構築の情報セキュリティシステムを分析して、リーゼアリアとグレアムが絶句する。ローゼのセキュリティは、名誉顧問を唸らせる程優れたシステムだったのだ。
魔女はセキュリティに加えて、デバイスのAIまで操作する――俺達が宿に帰った際懸念していた通り、ミヤも行方不明になっていた。あいつの不在が、魔女の恐ろしさを証明していた。
分析データを細部に至るまで説明した上で、アリサは冷笑を浮かべる。
「お分かり頂けましたか、管理プランを行う上でのシステム構築の度合いを。我々のセキュリティでも不可能だったのです、管理局で本当に封印などしておけるのですか?」
「か、管理局には長年の実績があります。技術のみならず、技術者も多く所属していて、何があっても対応できます!」
「あら、封印していたジュエルシードが横流しされたんですよね?」
「うっ……そ、それは……」
「ローゼを時空管理局に移送すれば、必ず魔女が気付きます。我々より質の劣るセキュリティシステムで、ローゼの封印が担保されると保証できるのですか、グレアム提督」
「……む、むぅ……っ」
こ、こいつ――ローゼの失敗を、逆手に取りやがった!? 白旗のセキュリティ問題を、時空管理局への脅威であると別視点から攻め込んでいる!
ジュエルシードの横流しは以前からの問題だが、この失敗だけであれば内部犯の可能性で済んだ。グレアムにとっては個人責任に押し付けられる問題で、庶民の指摘程度ではどうにもならない。
だが、セキュリティ問題とセットであれば話は別だ。封印処置の決定は、セキュリティが大前提。技術者の責任だけではなく、技術にまで問題があるのであれば決定は覆せる!
グレアムやリーゼアリアだけではない、俺まで目を見張ってしまった。
「貴方達が聖王教会へ意見するのであれば、我々もまた時空管理局へ意見させて頂きましょう。ロストロギアを動力源としたローゼの封印は直ちに中止すべきである、と!」
「ふ、不可能です。もう決定された事案ですよ!」
「このセキュリティ概要を持参して時空管理局へ直接乗り込んでもいいんですよ、リーゼアリア秘書官。貴方達が、聖王教会へ行くのであれば」
「わ、我々を相手に脅すつもりかね、君は!」
「脅しではありません、あたしは本気で乗り込むつもりです。ローゼの封印処置の決定は、時空管理局の拙速です。魔女がいる以上、封印はもはや不可能だと断言できます。
ご安心くださいな。あたし如き小娘の意見など鼻で笑われるだけでしょうから、きちんと正式に聖王教会を通じて通達させて頂きます。
何しろこちらはどういう訳なのか、先程批判された通りあなた方よりも彼が聖王教会に信任を得ておりますから」
「何を言っているのですか、図々しい! セキュリティ問題は白旗にだってあるのです、どのみち管理プランの継続は行えません!」
「ああ、言うのを忘れておりました。セキュリティについては貴女が犯罪者だと仰られた博士が一日で改善して、先ほど三役と聖王教会の承認を得られましたから」
「詳細を我々にも見せてください、たった一日でこれほど高度なセキュリティの改善など出来るはずがありません!」
「概要はお見せできますが、詳細まではお見せできません。何しろ、情報漏洩の問題がありますから。承認印が記された書類ならお見せできますよ」
「ア、アリサ・ローウェル、貴女という人はどこまで……!」
「なんということだ――まさか、封印処置の決定が覆されようとは……」
ほんとだよ。まさか俺達の失敗を、敵への打破に使用するとは夢にも思わなかった。一番厄介だった問題が、これで解決してしまったのだ。
夢を見ている気分だった。魔女の存在と技術、あの脅威がローゼとアギトの問題解決に繋がっていたのだ。こんな事、気付けるのは次元世界を見渡してもアリサ一人だろう。
書類を軽やかにトントンと叩くアリサが俺の視線に気づいて、可愛くVサイン。不敵に微笑む生意気さが可愛らしくも、恐ろしかった。
アリサが、顎で促している。おっとそうだ、言ってやらなければならない。
今となっては最大かつ最高の皮肉となろう、この発言を。
「それでは今後とも宜しくお願いいたします、お二方――仲良くやりましょう」
「――殺してやる」
怜悧な美貌を屈辱に染めて――リーゼアリアは、睨みつける。美人なだけに、怖すぎる。小声で言ったつもりだろうが、俺にだけハッキリ聞こえた。
頭の何処かがキレたとしか思えないほど、リーゼアリアが壮絶に微笑んだ。
「……仲良くしてくださるんですよね?」
「ええ、勿論。復活祭開催まで一緒に頑張りましょう」
「でしたら、距離を縮める必要があると思います」
「同感です。心の距離というものは――」
「今私達に必要なのは、物理的な距離です。私を、貴方の秘書として傍において下さい」
「……は?」
アリサが、持っていた書類をグシャリと握り潰した。おいおい!?
「何でしたら、娼婦でもかまいませんよ」
『……は?』
窓が割れる――慌てて外を見ると、虫が燃え尽きている。これは!?
「常に一人、娼婦を囲っていると評判ですよ」
「何言っているんだ、アンタ!?」
「私が側にいて、何か問題があるのですか? 見られてはいけないものでもあるのですか?」
「だから何言っているんだ、アンタ!? プレイバシーとかあるだろう!」
「やましい事がなければ、何の問題もありません。やましい事が、なければ」
「そこまでして、俺を陥れたいのか!?」
「仲良くしてくださるんですよね?」
「いや、それはあくまで友人として――」
「仲良くしてくださるんですよね?」
「アリア、やめるんだ。正気に戻れ、私の言うことが聞けないのかね!」
「仲良く、してくださるんですよね?」
「……は、はい……」
アリサが椅子の下から、俺を蹴飛ばした――逆らえねえよ、この迫力!
グレアム提督の必死の反対まで押し切って、リーゼアリアは自分の枕を持ちこみ俺の部屋に同衾する事になった。
<続く>
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