とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第八話




 変装や偽装の類ではない、恐らくは変身魔法。ルーテシア・アルピーノも潜入捜査の為に、女性から少女の姿に魔法で変身している。前例があったのも、彼女を見破れた要因だろう。

月村安次郎の秘書だったドゥーエ、二大大国であるアメリカとロシアを翻弄した陰謀家。ローゼが味方となって辛うじて打倒出来たが、戦術及び戦略面では完全に敗北していた。

運に恵まれただけの辛勝の経験が、彼女を強く印象付けたと言っていい。姿形を変えても、彼女の本質が相対するだけで看破出来る。自動人形であるローゼから見れば一目瞭然だった。

アメリア、ロシア、日本に続いて、異世界のベルカ自治領。次から次へと主を変える節操無しと、批判はしない。この女の策謀は一人の主に収まる器ではない。それほどまでに、恐ろしい女である。


恐ろしい筈、なのだが――


「ローゼ、すぐにルーテシアを呼んで来い。下手人の一人を見つけたぞ」

「承知致しました」

「お、お待ち下さい、陛下!? 今の私は、陛下の忠実なる下僕ですわ!」


 何事なのかと右往左往する聖騎士を尻目に、ドゥーエは大慌てで俺とローゼを叙聖堂の片隅へ引っ張り込む。正体を見破られたのが余程ショックだったのか、完全に挙動不審だった。

近くで観察しても区別一つつかない完璧な変身なのだ、幾らでも誤魔化しようがあった筈なのだが言い訳さえしない。この変身は、彼女の自信作だったのだろう。

要人テロ襲撃事件でもローゼを味方につけた時、ドゥーエは敗北を認めてあっさりと俺の方へ寝返った。自分の陰謀が敗れれば敗北を認める潔さ、プライドの高い女性なのかもしれない。

その陰謀が国家間を揺るがせる大戦略であるがゆえに、恐ろしいのだが。


「陛下が聖王教会の本部があるベルカ自治領へいずれ参られる事は、お察ししておりました。私がシスターに扮しているのも、教会内部より陛下をサポートする為ですわ」

「あっ――そうか……聖王教会が急に俺との面談を申し出てきたのも、入国審査を顔パスだったのも、聖騎士本人が案内役を務め出たのも全て、お前によるものだな。
意味不明な高待遇の理由も、聖王教会司祭より直々に叙聖されたお前の差し金なら納得だ。お前、まさか俺が聖王だと聖王教会に告げ口したのか!?」

「あくまで有力候補であると、司祭に告げたまでですわ。陛下はご自身で武勲を証明される偉大な御方、私如きの進言による証明は望んでおりませんでしょう。
先の会議でも、陛下は単独で乗り込んでかの一族を支配された。私はあくまで裏方、舞台に上がられる英雄の御活躍を助力する黒子ですわ」


 ……俺個人をそこまで理解しておきながら、何故肝心要の俺の正体は明後日の方向へ勘違いしまくるのか。陰謀家の分際で、この思い込みの激しさは問題だと思うぞ。

なるほど、だから"面談"なのか。俺を聖王陛下だと教会側が認識しているのなら、そもそも聖地が戦場にはならない。"待ち人"候補をわざわざ世界中から招いたりしないだろう。

有力候補だと告げれば軽視は出来ず、さりとて断言も出来ない。だからこそ直々に招待して、俺の正体を見極める。あの高待遇は聖王教会なりの扱いの難しさを表したものだったのだ。

ならば否定の余地があるし、自分で状況改善出来るチャンスでもある。ドゥーエなりの気遣いには、一応感謝はしたいのだが――


「この際言っておくが、俺は聖王でも何でもない。お膳立てしておいてなんだが、お前の勘違いなんだぞ」

「あら、ご謙遜を。単なる一般人に最新型自動人形のローゼを下僕と出来ませんし、かの一族の支配なぞ到底敵いませんわ。
それに、貴方様はあの闇の書より直々に選ばれた持ち主。あの魔導書は、才無き者を選出いたしません。貴方様こそ、特別なのですわ」

「だからそれがそもそも勘違い――あっ!?」


 ――どうやって、勘違いだと証明すればいいんだ? 本当の主である八神はやてはおらず、夜天の魔導書そのものはもうすぐこっちに到着するというのに。


守護騎士二人がメンバーにいて、ユニゾンデバイス全機所有していて、魔導書の全システムが俺の娘となって傍に居る。この状況下で自分が主じゃないと、誰が認めてくれるだろうか。

魔導書本体を持っていて、守護騎士もいて、ユニゾンデバイスを装備していて、システムが全部手中に置かれている。誰がどう見たって、俺が主に見える。主にしか見えないじゃないか。

やべえ、よりにもよって現時点だけは、俺が主じゃないと証明出来ない。むしろ今の状況下において、俺が主だという誤解だけしか生み出せない。否定できず、肯定される要素しか無い。

ぐうの音も出ない俺の反応にやり込めたと思ったのか、ドゥーエもようやく落ち着きを取り戻して耳元で囁く。


「御安心下さいな、あの魔導書は危険そのもの。所有されておられることも、私の胸一つに収めております。博士やウーノが後日調査結果をお持ちしますので、少々お待ちください。
陛下は今新たな偉業に取り組まれている御様子、今はそちらに集中なさって下さいな。司祭を呼んでまいりますわ」


 あいつの正体は看破出来たのに、こっちの正体を誤解されたままドゥーエは行ってしまった。くそっ、夜天の魔導書については誤解の解きようがない。

ヴィータやザフィーラ、夜天の人が味方になってくれている事自体が既に奇跡的なのだ。主であるはやてを置いてまで、俺の力となってくれている。感謝すべきであって、批判など以ての外だ。

まあ、いい。どのみち聖王のゆりかごがある。ゆりかごが俺を聖王じゃないと識別すれば、自動的に夜天の魔導書の主という誤解も解けるだろう。一般人だとさえ思われればいいのだ。

あの調子だと俺が一般人だと分かれば失望しそうだが、元々あいつの力を借りるつもりはなかったのだ。誤解で援護されるのも変な話だ、元の鞘に収まるだけだ。


「剣士殿。シスターと、お知り合いなのですか?」

「う、うーむ、何と言えばいいのか……一方的に知られていると、言うべきか。どうも誤解されていてね、俺への見極めもあって司祭様との面談をセッティングしたらしい」

「なるほど、それでシスターも貴方を陛下とお呼びしているのですか。司祭様であれば剣士殿を見極めて下さるでしょう、正しく評価されることは決して悪い事ではありません。
ご不安お有りなのはお察しいたしますが、剣士殿なら必ず司祭様のお眼鏡に叶うでしょう。誤解は必ず解けますよ」

「ありがとう、心強いよ」

「いえ、出来過ぎた発言をお許し下さい。私は剣士殿を、心から信じております」


 本当にいい人だな、聖騎士さんは。間もなく騎士団長の騎士になられるというのに、俺のことをここまで案じてくれるとは。袖振り合うも多生の縁とは、よく言ったものだ。

過大評価されている現状も、司祭ならばきっと正しく認識し直してくれるだろう。最悪、聖王のゆりかごもある。聖騎士の言う通り誤解も解けて、きっと一般人に戻れるさ。

俺達の会話を黙って聞いていたローゼやアリサ達が首を傾げながらも、俺に任せて成り行きを見守っている。そう、今日の本番はここからだ。


さほど時間を空けず敬虔なシスターに扮したドゥーエが、いよいよ聖王教会最高幹部の司祭をお連れしてきた。


「司祭様。この御方こそ聖女様が予言された"待ち人"であり、我々の信仰の体現者であられます」

「貴方様のプラン、拝見させて頂きましたぞ。実に素晴らしい、お逢いできて光栄だ!」

「あっ……ありがとう、ございます」


 な、何というか、普通だった。雑魚だと言っているのではない。平凡に育ち、平凡に歩み、平凡に生きれば、きっとこのような大人の男性となるのだろう。親しみ易い、凡庸な司祭であった。

拍子抜けしたというより、自分の認識のズレにむしろ驚かされた。そうだ、元来大人とはこうあるべきなのだ。近頃出会った大人達が、どいつもこいつも非凡すぎた。

なのは達子供世代からディアーナ達青春世代、桃子達大人世代。完成された人格に恵まれた才能を持つ人達は生まれながらに成熟されており、魅力溢れる美を持っていた。

だからこそ凡庸な自分に劣等感を持たざるを得なかったのだが、この司祭様は俺に近しい一般人だった。司祭にまでなれた以上信仰心は高く、家柄も才能も人並み以上ではあるのだろうが。


――だからこそ、ドゥーエという魔女につけ込まれたのだろう。月村安次郎と同じく、誑かされて。女を知らぬ司祭に、魔女は禁断の実そのものであった。


ドゥーエの奴も、なかなか言い回しが上手い。あそこまで待ち人だと断言してしまうと、逆に多少なりとも疑いの要素を持ってしまう。初対面同士だから通じる、口コミに近い喧伝方法だ。

加えて安次郎やマフィアのボスと同様、確かな信頼関係を築き上げているようだった。シスターを傍に置く司祭に、男ならではの優越感を感じさせる。あれほどの美女ならば無理もないが。

あそこまで誑かされていると、俺がドゥーエの存在を注意しても無駄だろう。信頼している女を悪者扱いされて喜ぶ男は居ない。大切なこの場でマイナス点は御免だった。


「騎士よ。此度の任務、御苦労であったな」

「重大極まる任務への御用命、心から感謝しております。この御方を間近で拝見させて頂く栄誉を賜り、光栄であります」

「ふむ、ならば騎士よ。そなたも此度の会談に同席するとよい」

「よ、よろしいのですか!?」

「無論だとも。信仰篤きそなただ、この御方の偉業に携わる権利がある。剣士殿には申し訳ありませんが、ぜひ彼女の列席をお許し願いたい。
この者はかねてより陛下の存在を望んでいた信仰者、我が教会が誇る聖騎士なのです」

「え、ええ、騎士殿さえよければ私はかまいませんよ」


 司祭からの要望だが、彼本人の意向ではないことは明らかだった。これでよいのだな、と司祭がドゥーエを目で伺っている。あの女、一体何のつもりだ。

考えてみれば案内役に聖騎士を選んだのも、あいつだ。俺に聖騎士を接近させてどうしようというんだ。彼女本人に害意がないのは分かっているが、何か陰謀を企んでいるのだろうか。


あいつが味方であるというのなら、考えられるのは聖騎士を俺の麾下に取り込もうとする算段。だとすれば、その陰謀は的外れだ。この人は今日、騎士団長の騎士となるのだから。


あいつは俺を聖王と誤認している、だから聖騎士も自分の騎士と出来ると勘違いしているのだ。馬鹿め、俺は単なる一般人なのだ。これほど高潔な騎士を、俺の騎士に出来るはずがないだろう。

とはいえ、ここで拒絶する明確な理由がない。聖騎士は俺の今後の方針を既に聞いている。管理プランの詳細まで知られても、外部に漏らすような女性では断じて無い。

あいつの段取りに従うのは気に入らないが、あいつがセッティングした面談だ。こちらもせいぜい利用してやる。面談後の聖騎士の決意表明を聞いて、せいぜい悔しがるといい。


聖王教会最秘奥の叙聖堂に関係者一同が揃い、円卓を囲んで極秘の面談が行われる。まず関係者一同の紹介、そして管理プランの説明に入る。


「時空管理局より事前に提出された関連資料はお読み頂いているかと思われますが、今一度プランの詳細をうちのスタッフより説明させて頂きます。アリサ、頼む」

「分かりました。まずプランの対象者である彼女について紹介させて頂きます」


 聖王教会司祭との面談の申し入れはシスターであるドゥーエ、面談の承認と調整はリンディ達時空管理局が設定してくれている。管理プランの詳細も、司祭側に事前に伝えている。

ローゼとアギトを紹介した上でまず、聖王教会側で前もって用意された二人の化学分析検査が行われる。古代ベルカの融合機と最新型自動人形、そしてジュエルシードの分析だ。

彼女達を調べられるのはいい気はしないが、プランの安全性を訴える意味で欠かせない。まず彼女達が安全であることを、科学的に証明しなければならない。

実に癪であるが、ローゼ製作者である博士の関係者であるドゥーエが教会側に居てくれたのは助かった。理解が早く、何より司祭に彼女達の詳細と安全性が伝わりやすい。


その上で管理プランの移行と詳細を頭脳明晰なアリサが相手に分かりやすく、科学的実証と分析材料を元に説明してくれた。


「誤解なきように申し上げたいのですが、時空管理局の決定であるジュエルシードの封印処置を反対しているのではありません。
ジュエルシードが危険なロストロギアであるのは事実、封印すべきという意見に異論はありません。安全面を考えるのなら、それが一番なのでしょう。

我々がこのプランを提唱しているのはジュエルシードそのものではなく、ロストロギアを動力源とする彼女本人の存在価値を肯定してやりたいのです。

先程司祭様直々にヒアリングして頂いてお分かりになったと思いますが、彼女本人には明確な心が宿っております。
提出した心理テストに精神分析結果、管理外世界におけるプラン中の彼女の言動や行動内容からも明らかです」

「正直申し上げて、こうして直に拝見して改めて驚きを隠せません。心無き兵器でありながら彼女には自我が宿り、人としての心を宿している。素晴らしい!!」

「私が説明した通りでしょう、司祭様。この自動人形は100%機械で出来ている、脳のない人型兵器に心を宿す余地などないのです。
なのに彼女はこうして目聞きし、我々と意思疎通を行い、確たる自我を宿した常識的な判断に基づいて行動出来る。
心無き存在に、心を与えられる――この御方の奇跡を目の当たりとしたからこそ、此度において私は司祭様に推薦させて頂いたのです。

これこそまさに、神の偉業に他なりませんわ! 我々教会は陛下の偉業をお助けし、奇跡の結果たる彼女をお守りするべきですわ!!」

「司祭様。私も先日剣士殿をお会いし、彼女とも行動を共にしております。だからこそ今彼女の全てを知り、感動に胸が震えております。

これはまさしく奇跡、神の御業! 我々は時空管理局の決定に異を唱え、断固として彼女の存在価値を訴えるべきです!!」


 こらこらこら、どうしてそこまで話が脱線するんだ!? 俺はプランの有効性を説明しているのに、ローゼの心の確かさにいちいち感動しないでくれよ!

夜の一族といい、こいつらといい、何で大袈裟に奇跡めいた褒め方をするんだ。何度も言うが、こいつらは勝手に自我に目覚めたんだよ。俺はなーにーもーしーてーなーいーの!

クローン人間の妹さんは護衛関係を通じて交流した結果でしかないし、オプションのファリンはライダー映画を見て勝手に正義に目覚めただけだ。人間として当たり前の事しかやってない。


肝心のローゼなんて名前つけてうどん食わせたら、何でか忠誠を誓っただけなんだぞ。名前をやって餌食わせたら懐くとか、犬や猫と一緒じゃねえか! どこが奇跡なんだよ!?


「お話はよく分かりました。我々としても人の心を持った彼女を守り、貴方様が掲げるプランを推奨したい。ですが――御存知の通り、我々は時空管理局と浅からぬ関係を築いている。
特にロストロギアの所有と管理については、我々の間でも今だ相互理解に努めている最中なのです。その管理局が決定を下したとあれば、軽視は出来ません」

「先程も言いましたが、管理局の決定そのものに異論はないのです。私共としては管理局の意向を承知した上で、相当納得のいく方策をこうして提案させて頂いている所存です」

「ええ、ですので実績のある我々を頼って頂けたのでしょう。お話はよく分かりますし、貴方様よりプランの詳細をお聞きして安全性と重要性に配慮した計画である事も理解しております。
双方納得がいく結論を望まれているのであれば、貴方様と我々にも相互理解を行う時間が必要です。

そこで、我々から提案があります。この地で管理プランを行う承認を出す上で、我々聖王教会もプランの裁定を行わせて頂きたい」

「つまり……一定期間を設けて、管理プランの成否を"聖王教会"が下すと?」

「管理プランの成果を、我々が見極める。これが我々と貴方様との相互理解を行える、最善であるかと」


 ……こいつら、ロストロギアにおける新しい管理方法の実績を独り占めするつもりか。新手段を聖王教会側が確立できれば、時空管理局からの独立も夢ではなくなる。

そして何よりロストロギアの新しい管理方法が確立すれば、例の"聖王のゆりかご"への確保も行える手段が出来る。どういう代物か知らないが、新しい管理方法は喉から手が出るほど欲しいだろう。

くそったれ、俺達はその聖王のゆりかご認定に便乗したいのに、向こうは逆にローゼの認定に便乗するつもりだ。管理プランが、聖王のゆりかご確保に利用されてしまう。

管理プランが失敗すれば、切り捨てればいいだけの話。だからこそ、こうして内々に面談を行っている。今は不穏な時期、闇から闇へ切り捨てるのは容易い。


異世界ミッドチルダ最大の宗教団体聖王教会、やはり一筋縄ではいかない。どうしたものか――アリサも返答に苦慮していた。


当たり前だ。成否をあっちが決めるのであれば、その裁定する人間にプランが右往左往されてしまう。聖王教会のさじ加減一つで、プランが踊らされてしまう。

かといってこの条件を拒めば、管理プランは承認されない。思い通りになると分かっていて、プランを委託するしか術はない。これではグレアム達に直接見張られるのと同じだ。

裁定する人間を味方に引き込むしかないが、難しいだろう。司祭もそこまで馬鹿じゃない。選定する基準はきっと厳しいはずだ、それなりの立場の人間を選出するだろう。


承諾するしかない、分かっている。だが運試しの人選でローゼとアギトの命運を託すのは――


「でしたら、司祭様。その裁定者にどうぞ、私をお命じ下さい」

「そなたが……? し、しかし、そなたは聖騎士であり、聖王教会騎士団としての立場が――」

「私は聖王教会騎士団には仮所属している身。あくまで聖騎士という称号を与えられて、一時的に席を置いているに過ぎません。司祭様直々のご命令であれば除籍され、直ぐにでも動けましょう。
こうして大事な面談の末席を与えられ、プランの詳細を知る私こそ適任であると思われます。司祭様の御心をお察しし、行動することをお約束いたします。

この管理プランを監督し、正しく導くために行動する――司祭様、どうぞ私を裁定者としてお命じ下さい」

「――いいのか、騎士よ。もしも全てがご破産となれば教会を選ぶのか、それとも」


「無論、その時は――"聖王陛下の騎士"として、この剣を取ります」


 教会といえば聖王――管理プランが失敗すればローゼを斬り、俺を処断すると言っている!? 崇高なる騎士の大いなる決意に俺はおろか、傍に控えるアリサ達まで息を呑んだ。

今後は聖騎士ではなく、裁定者として行動する。潔癖な彼女ならば、絶対に失敗は認めない。心があろうとなかろうと、容赦なく神の敵を断罪するだろう。

聖王教会にとっては最善であり、俺にとっては最悪の人選だった。俺は聖王ではないのだ、彼女を味方に引き込めない。彼女はもう、他の人間の騎士なのだから。

今後は優しいナイトではなく、厳しいルーラーとして俺は監視される――だというのに俺を見る彼女の仮面に隠れた視線は、どうしてこうも誇らしげなのか。


司祭は、悩んでいる。いいぞ、もっと悩め。他の人間を、選び出すんだ!


「司祭様。私からも、提案がございます」

「待て。そなたは私の――」

「うふふ、違いますわ。私は司祭様のシスター、お傍を離れたりはしません。ですが"彼ら"もまた聖女様より引き離され、日々陳情を行って司祭様を悩ませております。
彼らの心中は痛いほど察しておりますが、司祭様を苦しめる彼らの行動には如何ともし難いものがあります。そこで、どうでしょう――


修道女"シャッハ・ヌエラ"、査察官候補"ヴェロッサ・アコース"――あの二人も此度の役目を与えるというのは?


彼ら二人もまた有能な人材であり、敬虔なる信者。裁定者となった騎士様のお力にもなりましょう」

「おお、なるほど! 役目を与えれば、あの者達も正式にお役御免となり聖女様より遠ざけられ――コホン、騎士の力となろう。よろしい、私から直々に命じておこう」


 なにいいいいいいいいいいいいいいいい!? 修道女に、査察官候補まで加わるだとぉぉぉぉぉぉ!? ふ・ざ・け・る・な、あの女ぁぁぁぁぁぁ!!


聖騎士に修道女に、査察官? どこをどうやったら、味方に引き込めるんだよ! どいつもこいつも、頭の硬い連中の集まりじゃねえか!

最悪に加えての、最低な人材だった。しかも査察官って、今はまだ候補とはいえ一番ロストロギアに厳しいじゃねえか! 絶対あのグレアムのような、頭の硬い堅物野郎に違いない。

目の前が真っ黒になった。何でこうなる? どうしてこうも、危機的な状況に陥るんだ? 頼むから、誰か教えてくれ。


「貴方様も、よろしいかな?」

「……どうぞ、お好きに」


 もう投げやりだった。アリサは必死で俺をなだめ、ローゼは背中を擦り、アギトまで元気を出せと頭を撫でてくれる。承認は何とかされたけど、余計に追い詰められた。

どうしろというんだ? 聖騎士は騎士団長の騎士であり教会の味方、修道女は神の味方、査察官は法の味方。裁定チームは、誰一人俺の味方にならない。味方になる要素はゼロだった。

これほどの不運、これほどの最悪、これほどの絶望、未だかつてない危機。管理プランの成功は絶望的、結果次第で聖王教会まで敵に回してしまう。



これではっきりした――神様はきっと、俺が嫌いなのだ。










<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.