とらいあんぐるハート3 To a you side 第八楽章 戦争レクイエム 第五十五話
「良さん! やっぱり生きていたんですね、よかっ――うわっ!?」
「ノエル、その熱苦しい奴を車まで運んでくれ」
「かしこまりました、旦那様」
結局夜明けまでのんきに爆睡していた小娘を担ぎ出し、そのまま車に乗せて病院まで運んでいく。再会の感動より、行方不明になったこいつに苦労させられた苦々しさの方が上回っている。
見た感じ元気そのもの、身体もノエルに調べさせたが異常はなし、問題無いとは思うが専門家に診て貰った方がいい。朝方に連絡を取って、フィアッセやなのはと病院で待ち合わせる事にした。
一転二転して目を白黒させていたが、車内で事情を説明するとようやく現状を落ち着いて受け止められたのか、急に泣きだし始めた。よほど安心したらしい。
言い換えればそれだけ不安だったのだろうが、この町の住民は何とも情に厚いものだ。心配させた当人としては、居た堪れない。
「お、俺……信じてました。良さんは絶対、テロなんかに屈したりしないって!」
「そんなカッコイイ理由じゃなくて、単に運が良かっただけなんだがな」
「謙遜することないっすよ。新聞社の人にも、色々話を聞いたんですから! 誘拐された御曹司を救ったり、人質に取られた多くの要人を全員、無事に救出したとか!
カッコイイっす、最高です! ほんと、正義のヒーローじゃないっすか!!」
「女の子のくせに憧れるなよ、そんな武勇伝に」
「男とか女とか、関係ないっすよ! 俺、一生ついていきますね!!」
「……真夏に暑苦しさを撒き散らさないでくれ」
城島晶、行方不明になった高町家の一員。天狗一族に人質に取られて一応心配したのに、元気一杯だった。厚遇していたというのは、事実だったらしい。
晶から行方不明以降の話を聞く限り、情報屋より仕入れた話とほぼ一致していた。情報屋の見立て通りに行動して、大手新聞社の世話になって俺の生死を自分なりに調査していたらしい。
俺の訃報やその後の活躍等で情報が錯綜し、単純熱血バカなこいつは予想通り混乱して疑心暗鬼に陥っていたようだ。自分の目で俺を確認するまで帰らないと、決意までして。
悲壮かつ崇高な決意に見えるが、家族に連絡しなかったのは大きな減点だった。天狗一族に囲われていた事情も、含めて。
「生死不明になった俺を探して、お前が行方不明になってどうするんだ。本末転倒じゃねえか」
「――うっ」
「俺の訃報で全員落ち込んでいる家に帰り辛いという理由は分かるけど、お前の行方不明でもっと落ち込んでいるからな今」
「……ううっ、す、すいませんでした……」
「とりあえず病院になのはやフィアッセを呼んでるから、診て貰った後はすぐに家に帰って謝ってこい。新聞社は俺に用があるらしいからな、連中と直接合って話すよ。
お前はもうあの新聞社に関わるのは、やめておけ」
「でも一応世話になったので、お礼とか――」
「そういうのは、保護者の役目。俺から言っておくし、義理堅い桃子も後日礼には伺うだろうよ。その時一緒に行けばいい。
お前が率先してやらないといけないのは、心配している家族を安心させることだ」
――こうした他人の面倒や後始末まで自分から請け負う日が来るなんて、夢にも思わなかった。面倒臭いのは今でも変わらないのだが、嫌だとは思っていない。
やはり、城島晶が無事だった喜びの方が大きいからだろう。最悪を回避出来たのだ、面倒事の一つや二つくらいどうと言うこともない。元気な顔が見れて、嬉しかった。
そしてそろそろ、自分もそういう気持ちをちゃんと相手に言うべきなのも分かっている。
「まあ何にしても、お前が無事でよかったよ」
「!? 良さん……」
「だから何で、いちいち泣くんだ!?」
「だ、だってそれ……俺の台詞っすよ……本当に、生きててよかった……」
運転手がノエルで、よかった。馬鹿みたいに泣いている女の子も、アホみたいに呆れている俺にも、何も言わずでいてくれたから。感動と感激に、黙って浸っていられる。
その後、海鳴大学病院へ到着。待ち合わせ前にまず診療へ連れて行き、身体を隅々まで検査してもらった。精密検査結果は後日となるが、診て貰った限りでは何も異常はなかった。
問題なしの診断を受けて、俺はようやく安堵する。その上で、今晩行われる天狗との会談について戦略を練る。人質が無事かどうかで、相手への対応も変わってくるのだから。
長く面倒な診断にむしろ疲弊している晶を連れて、中庭へと向かう。そこには、俺が呼びつけた面々が全員揃っている。
家族がようやく、全員揃ったのである――
「なのは、フィアッセ――レン。頼まれていた仕事は、果たしたぞ」
「た――ただ、いま……」
「!? あ、晶ちゃん……!」
「……っ」
「この、アホンダラぁぁぁぁぁーーーー!!」
「ぶぎゃっ!?」
心臓を手術した少女の、アクロバティックな蹴り技。戳脚とも呼ばれる有名な中国拳法が、城島晶に見事にヒットする。本当に重病患者だったのか、こいつ!?
感動の再会を恐るべき技で蹴り払ったレンは、無様に倒れた晶の首を締め上げる。電光石火の連続技に、剣士の俺ですら感心させられた。
完全無敵に決まった首の締め上げに、晶は悲鳴を上げてタッチアップする。
「い、いきなり何するんだ、ミドリガメ!」
「うっさいわ! 今の今までどこで何してたんや、このアホンダラ!」
「居なくなった家族を探しに――ぐええぇぇぇぇ〜!!」
「そのままあんたが行方不明になったら世話ないわ! このアホ、アホ、アホーーー!!」
「――喧嘩したら駄目だと、言わないのか?」
「レンちゃん、ずっと心配していたので。それになのはだって、怒ってるんですよ!」
説教くらい覚悟しておけと忠告していたのだが、あの調子だと無駄に終わりそうだった。高町家の面々は基本話し合い重視なのだが、限度を超えると手を出すので恐ろしいのである。
ドラマや映画のような感動的場面は、どうやら拝めそうにない。お涙頂戴よりもコミカルな好きな俺としては、苦笑い程度で済みそうだった。あのままにしておいてやろう。
中庭の芝生に座り込むと、隣りに座ったフィアッセが腕に抱きついていた。ギョッとして見ると、目を潤ませて興奮に頬を赤らめている。
英国美女は嬉しげに俺に抱きついたまま、書いていたメモを差し出してきた。
『ありがとう、リョウスケ。私の大切な家族を、探してくくれて』
「絶対に見つけると、約束しただろう」
『今までずっと探しても見つからなかったのに、すぐに見つけ出すなんて凄いよ。リョウスケは本当に、頼りになるね』
天狗一族が囲っていたのだから、見つからなくて当然である。俺だって夜の一族とか関わっていなかったら、連中が接触してくることはなかっただろう。
むしろ俺のせいで人質に取られていたのだからマッチポンプに等しいのだが、フィアッセやなのははそう思わないらしい。事情を正確に話せないのは、心苦しかった。
何にしても、フィアッセやなのはの心に巣食っていた絶望や不安もこれで少しは払えただろう。少なくとも、レンについては完全に解消されたと言っていい。
親友をノックダウンさせて、生き生きとした顔で汗を拭っている。お、お前ら、本当に友達なのか……?
「良介、このアホが面倒かけてほんまに悪かったな。世話かけたわ」
「そもそも俺が生死不明になったせいだからな、あまり責めないでやってくれ」
「あんたが気にする必要はないよ。海外で大変な事件に巻き込まれたんや、連絡もなかなかつけられへんかったんやろう。うちらも、その辺はちゃんと分かってる。
このアホも先走って心配かけたけど――不安になるその気持ちも、よく分かるんよ」
「だ、だったら、ちょっとは手加減してくれよ……」
「それとこれとは、話が別や。まったく――桃子さんにもちゃんと、謝るんやで」
「そうだよ、晶ちゃん。なのはも、おねーちゃんも、おにいちゃんも、皆心配してたんだから!」
『私もすごく、心配だったんだよ』
「うう、ごめんなさい……」
こんな調子で――俺の事もきっと、心配してくれたのだろう。俺はその間マフィアやテロリスト達、夜の一族の連中との戦いに明け暮れてばかりだった。
なのは達のことを考えなかった訳じゃない。アルバート英国議員と接触するまで、連絡を取る手段も無かったのだ。迂闊に連絡を取れば、敵に知られる危険性もあった。
とはいえ、家族に心配させるのはやはり罪なのだろう。待ち人がいるのなら、きちんと帰るのは人間としての義務なのだ。それを、忘れてはいけない。
そして家と家族を守るのが、家長の義務だ。ローゼやアギトを守るためにも、俺はこの先も戦い続けていかなければならない。
「良介。うちな、退院の手続きをしてるんよ」
「心臓は大丈夫なのか?」
「手術は奇跡的なほどの成功で、その後の経過も順調。発作を起こしたのは心臓そのものより、精神的なものが原因らしいんよ。
だから病院で漫然と過ごすより、病院の近くにある家で静養した方がええとお医者さんも言うてくれてる。
しばらくは病院通いで無茶できへんけど、少しずつ外にも出ていけそうや」
「そうか……よかったな」
「その――ほんまに、あんたには感謝してる。手術を怖がってたうちを説得してくれて、晶とも取り持ってくれて、大事な家族も助けてくれた。
口では色々言うてしまうけど、あんたはほんまにええ奴やと思ってる。ううん、ええ奴になったんやろうな。いっぱい頑張って、立派になった。
うちも、アンタに負けないくらいええ女になるわ。救われた分、一生懸命頑張って生きる。そしていずれは――
あんたを助けられるくらい、すごい人間になるわ」
「……」
――いずれは皆を助けられるくらい、凄い男になってみせる。自分の今の目標を、自分に恩を感じる少女が口にしてくれた。言葉も、出ない。
感動なんて単純な感情ではなかった。途方も無いほどの、幸福感。今まで頑張ってよかったと、努力や苦労が――自分の今までが報われた気がした。
海外から帰ってくれば、知り合いの全てが不幸になっていた。責任ばかり感じていた俺に、この少女は労ってくれたのだ。
泣かずにいられたのは、それこそ奇跡だった。レンはもう大丈夫だろう。きっと俺より立派に、生きていってくれる。
努力をすれば必ず報われるのだと、レンが示してくれたのだ。俺の方こそ、感謝したかった。
ありがとうと、言いたかった――この俺が他人に対して、心からそう言いたかった。
「それに、このままずっと入院してたら心配のあまり心臓を痛めそうやもん。うちがちゃんと見とかんと、アホばっかりする奴らが多いから」
「言われているぞ、なのは」
「ええっ、なのはですか!?」
「違うわ! と言いたいけど、なのちゃんも最近微妙かな」
「ううう、おにーちゃんの仲間だと思われてる……」
「嫌なのか、お前!?」
こうして城島晶は家に帰り、鳳蓮飛も後日退院した。ムードメーカーの二人が家に帰って、絶望に陥っていた家族に再び暖かな火が灯ったのだ。
絶望が完全に消えるには、まだまだ心もとない。フィアッセの声を取り戻し、美由希の闇を斬らなければならない。それが、俺の残された仕事と言えた。
どちらも非常に難しいが、必ず成し遂げなければならない。でも今ではもう、諦めずに頑張れそうだった。
「さーて、次は管理局のお偉いさんとの睨み合いか。ローゼとアギトは絶対渡さねえからな、あの野郎共」
人は、努力すればかならず叶うのだから。
<続く>
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