とらいあんぐるハート3 To a you side 第八楽章 戦争レクイエム 第十七話
丸一日を予定していた検査は中止となり、関係者一同が会議室に集められた。話し合うのではない、既に出ている結論を関係者全員で共有するだけの会議。答えはもう出てしまっている。
違法な研究で製造された人型兵器、時空管理局の管理の外で生み出された最終機体、世界を破滅させるロストロギアが組み込まれたガジェットドローン。詰みであった。
クロノ・ハラオウン執務官が診断結果を説明、リンディ・ハラオウン提督が決断、ゼスト・グランガイツが承諾、ルーテシア・アルピーノが護送、クイント及びゲンヤ・ナカジマが地上で受諾する。
管理局遺失物管理部へ引き渡し、ローゼを半永久的に封印する。完全に思惑から外れた結果であっても、全員唯々諾々と手続きを進めていた。
ローゼ本人の意志は問われず、また反映させる必要性もない。危険物として扱われている彼女に、意志の有無は関係無かった。封印されれば、心も閉ざされてしまうのだから。
臨時検査員として招かれた月村忍は検査結果を詐称せず、危険という判断にも異を唱えなかった。危険である事はそもそも承知の上、その判断を見誤る技術者など必要とはされない。
会議も滞り無く終了しようとしている。手続きなど全てが終わり、準備も完了した。何事もなかった。危険物が一つ、この世から処理される。歓迎すれど、反対しよう者などいない。
そして、どの会議でもお馴染み――形式以外の何物でもない、あの問いが下される。閉幕の挨拶に等しい、形骸化された質問を。
「議題は以上です。質問及び異議のある方は、いらっしゃいますか?」
「はい」
真っ直ぐに、手を上げる。明確な意思、それでいて何の力もない男の手が上がる。意思決定の権利がある面々の総意、覆しようもない決定に異を唱える。ただそれだけの、貧弱な手。
馬鹿馬鹿しくも程があるが、何処の誰からも驚愕も怪訝もない。月村忍も含めて、この場にいる全員が分かっていながら黙っていた。俺は必ず反対するだろうと、確信していた。
だからこそ月村忍は何も言わず、クロノ達は会議の最後に一度だけ問いかけた。本来ならば聞く必要もない民間人の意思を、彼らは尊重してくれたのだ。
対立すると分かっていながら、彼らは俺にこの場を与えてくれた。
「……どうした、ミヤモト」
「あんなどうしようもないアホでも、倉庫で埃をかぶらされるのは可哀想だからな。俺くらい、味方になってやらないといけないだろう」
クロノとリンディが封印を決定した時俺は頭に来て怒鳴ったが、すぐに矛を収めた。冷静になったのではない。冷静にならなければ、助けられないとすぐに悟ったのだ。
子供が我儘を喚き散らして聞き届けてくれるのは、両親だけだ。自分の子供だから甘やかすのであって、願いを聞いてくれるのではない。声を上げるのは大事だが、叫ぶだけでは駄目なのだ。
俺は今でも世間知らずのガキ同然、クロノ達のように社会的責任も背負っていない若輩者だ。自分の意思に決定権など無く、自分の手では法を捻じ曲げることも出来やしない。
此度の件、心情面はともかくクロノ達の決定そのものは正しい。逆の立場ならば、ローゼの封印にむしろ賛同していただろう。危険には、違いないのだ。
俺が一人怒っているのは、結局のところローゼを一個人として受け入れているからだろう。人間でも、女の子でもない、人の形をした兵器が、俺には可愛いのだ。
結果論でしか無いが、あいつには助けられた借りもある。要人テロ襲撃事件で、ローゼはカレンでも安次郎でもなく、俺を主として認めてくれた。
マフィアやテロリストに囲まれた中、あいつは一人俺の味方でいてくれたのだ。だから今、俺だけでもあいつの味方になってやる。ただ、それだけの話。美談でも、何でもない。
非力であろうと、関係ない。無理であろうと、知ったことか。クロノ達が正しいのなら、俺はローゼ一人の為に間違ってやるんだ。
「君の気持ちはよく分かるが、同時にあのロストロギアの危険性も理解しているはずだ。君は当事者であり、何より被害者でもあったのだからな」
自動人形ローゼに組み込まれていたロストロギアの名は、ジュエルシード。三ヶ月前、関係者全員を悪夢に縛り付けた魔の宝石。人の願いを惨たらしく叶える、魔法の結晶。
正体は、次元干渉型エネルギー結晶体。一つのジュエルシードの発動で次元震を発生させられる。世界を揺るがす力こそが、願いを叶える源となっていた。
プレシア・テスタロッサはアルハザードと呼ばれる伝説の地に行かんとし、世界に亀裂を入れるべくジュエルシードを集めて発動させようとした。それが、三ヶ月前の事件。
俺は何とかプレシアを説得して、ギリギリ最悪だけは食い止めた。そう、この俺こそがジュエルシードというものを否定したのだ。
「そうだ、そして俺自身が封印したジュエルシードでもある。だったら、問題はないはずだ」
「本当に、貴方はそう思っているのかしら」
クロノではなく、決定権を持つリンディが厳しい視線を向けてくる。軽い発言で決定を揺るがすのであれば、会議からの退席も辞さない。一隻の艦を預かる、提督の目であった。
小さく、そして重い息を吐いた。虚言で惑わせるつもりはなかったのだが、希望的な言葉がつい口に出ていたのかもしれない。反省しなければならない。
が、後悔している余裕まで無い。そもそも決定そのものは正しいのだ、無茶苦茶でも言わなければ翻らない。
「理屈は通っている筈だ。あの石は完全に封印されている。問題はないと判断したからこそ、回収してくれたんだろう」
「機密事項だったけど、あんたにはちゃんと報告したでしょう。『あんたが』封印したあのジュエルシードは、なのはちゃん達が封印した石とは質そのものが異なってしまっている。
暴走の危険は無いにしても、魔力の出力量は異常な数値を出している。魔力波が圧縮されていて――分かりやすく、言うと。
ジュエルシードという結晶体を、"結晶化"しているんだよ」
あんたの『法術』が、とエイミィは言わなかった。地上より派遣されたゼスト隊、彼らを信頼はしても盲信はしていない。俺自身を守ってくれている。
ジュエルシードの結晶化、心当たりはあった。アリサという幽霊を結晶化した法術、アリシアという魂を霊体化した能力、ミヤという頁を実現化した奇跡。そのどれもが、異常なのである。
異常は異端であり、危険視されるべき代物。未知なる力を放置するのは、不発弾を置き去りにするのと変わらない。何時、いかなる時に、爆発するのか分からないのだ。
そして万が一でも爆発すれば、世界が滅びる。何の誇張もなく。
「結晶化しているのなら、暴走することなんてありえないだろう。爆弾に、火がつきようがないんだぜ」
「爆弾であると認識しているのなら、危険であることも承知しているはずだな」
内心、舌打ちする。思慮の浅い発言だった。しかし同時に、頭の中で反転した。そうだ、危険であることを逆に強調してやればいい。
「あんた達がロストロギアの専門家である事は分かっている。そして、俺はローゼの専門家だ」
「管理は君に任せろというのか? 何の資格もなく、何の力も持ち合わせていない、君自身に」
「ジュエルシードの暴走を止めたのも、ジュエルシードを使おうとした人間を止めたのも、俺だ。力はなくとも、結果はあるぞ」
鋭い眼差しこそ揺るがなかったが、クロノは唇を噛み締めた。ジュエルシード事件における時空管理局の対応の不味さを指摘した、卑怯極まりないやり方。
クロノ達に、ミスそのものはなかった。けれど俺を巻き込み、主犯のプレシアを彼ら自身が止められなかったことを悔やんでいた。その弱みに、つけこんでいる。
心が痛いなんてものじゃない。血が流れている。刻まれた傷が疼いている。でもここで引けば、ローゼは封印される。外道と罵られても、俺は立ち向かう。
正義は、強い。平和は、正しい。単に、ローゼを犠牲にするのが気に入らないだけだ。俺こそが、この場での悪だった。
「だが、民間人の君がロストロギアを保有するのは違法だ。クロノ・ハラオウン執務官の言う通り、危険物を取り扱う資格も何もない。
危険なロストロギアが組み込まれていると判明した以上、そのまま放置する訳にはいかない。まして、預けることなど出来ない。
その点は君自身が理解していると、私は思っている」
有能な捜査官を束ねる隊長ゼスト・グランガイツの言葉は、俺を律するのではなく諭してくれていた。安易な憐憫ではなく、温情さえも感じられる。
子供の駄々だと知りながらも、付き合ってくれている。その心遣いには感謝したいが、頭を撫でられて大人しくなるような品のいい子供ではない。
俺はお子様ではなく、ガキなのだ。
「ローゼは俺の言うことなら聞いてくれる。あのジュエルシードだって、俺が封印したものだ。常に俺が居れば問題は解決できる」
「四六時中、貴方が彼女を見張るつもりなの? 仮に――そう、仮にあの子が人間の心を持っているとしましょう。人間に等しい存在であると、して。
貴方は、ローゼという女の子の人生を背負えるのかしら。人間なのよ? 自分の面倒を見るだけで精一杯の子供が、同じ子供を養えるのかしら。
剣を持つのとは、重みが違うのよ。クイントが貴方を養子に迎えるその意味を、貴方は取り違えているのではないかしら」
「やめて、ルーテシア。今は、その件とは関係無いでしょう」
「貴女は黙っていて、クイント。私は彼に聞いているのよ」
震えが走る。アリサをメイドにし、すずかを護衛にし、そしてローゼを召使にする。そのどれもがお遊びだと言われて、俺ははたして否定できるのか?
女の子だ。真っ当な命を持つ、人間なんだ。幽霊であろうと、クローンであろうと、自動人形であろうと、命を預かるという意味では一緒だ。
俺は今十七歳、世間から見ればガキそのものだ。子供を養う権利も、社会は与えないだろう。異世界であろうと、それは変わらない。俺に、背負う資格はない。
「俺は最初から、そう言っている。ローゼは、俺が責任を持って預かる」
「どう責任を取るつもりなの。責任なんて、持てもしないのに」
「過程の話なら、確かに責任は取れないな。ローゼは仮に人間であるのだとすれば、俺に養育する権利はない。
前提が違うだろう。あいつは人間じゃない、ガジェットドローンだ。人の形をした兵器だ。
もう一度言うぞ、ルーテシア・アルピーノ。『ローゼ』は、俺が預かる」
ローゼという"自動人形"を、俺が管理する。自動人形は、ガジェットドローンは、俺の世界でも異世界でもまだ認可もされていない存在だ。それこそ、何の権利もない。
河原に転がる石ころは人を傷付けることもできるが、石ころを拾って管理する事を咎める大人はいないだろう。ローゼは人間じゃない、そこは間違えたりしない。
権利云々を言うのは、筋違いだ。何しろ製作者の博士より預けられ、金を出した所有者のカレンより譲られたのだ。その点だけは、追及はできまい。
……暴論にも程がある理屈だが、一応最低限の理はある。だからこうして、ルーテシアが美貌を怒りに歪めている。
「兵器だと分かっているのなら、尚の事貴方に預けられないでしょう!?」
「資格云々を持ち出してきたのは、お前だ。俺はそれに答えただけだ」
「あら、そう。だったら、ロストロギアを民間人には預けられないわよね。法律で、決められているんだから」
「管理外世界で製造された兵器だぞ。時空管理局の法がまかり通るのか、疑問だな。俺のいる世界じゃ、少なくともあんたらは架空の存在でしかない。
警察であれこれ言われるならともかく、あんたに口出しできるのか。管理局の法がどこまで行使できるのか、実はグレーゾーンだろう!」
「クイント! 貴方の息子、生意気よ!?」
「……あんたらね……」
論争ではなく、口喧嘩に発展しかかっていた。クイントがうなだれてしまい、ゲンヤが苦笑して背中を擦ってやっている。いかん、カッとなってしまった。
くそっ、やはりネックとなっているのはあのジュエルシードだ。そもそも自動人形そのものは危険かどうか判断すべく、この検査があったのだ。まだ、違法とは判断されていない。
ただ、ジュエルシードは確実に違法なのだ。ロストロギア、世界を滅ぼす力を間違いなく持っている。取り上げられるのは、当たり前だった。この点を何とかしなければ。
専門家に、聞いてみる。
「忍、ジュエルシードを取り外して他の動力源に変えられないのか?」
「無理、少なくとも今は。ジュエルシードという石については後で詳しく聞くとして、あの宝石はローゼにとって心臓そのものなの。
心臓移植の難しさは、何となくでも想像は出来るでしょう。代えがきかないの。取り外したら、ローゼは停止してしまう。
仮に同じ出力を維持出来る動力源を見つけられても、何らかの副作用は出るでしょうね。今この会議で懸念されていることも、含めて」
技術面からの代案は、やはり期待はできないか。そもそもそんなものがあれば、真っ先に忍が発言しているだろう。俺に預けるしかない状況なのだ。
どうすればいいんだ。資格だの、何だと言いやがって。ロストロギア取扱の資格とかあれば、必死で勉強して俺が取ってやるのに。そんな危ないもの、あるわけないか。
ロストロギアは全部、時空管理局が管理しているからな。俺が預かるわけにはいかな――うん?
「そもそもどうして、ローゼにあのジュエルシードが組み込まれているんだ?」
「……恐らく管理局内部の人間が持ち出し、今私達が懸命に探している犯人の手に渡ったんだろう。君の話によると、あのローゼこそ犯人の最高傑作であるらしいからな。
ジュエルシードを動力源として運用できるのであれば、半永久的に稼働させられる。その力を行使すれば、保有する兵器を無尽蔵に活用させられるだろう。
特に君の封印したジュエルシードは、特別製だ。腹立たしいが、狙うのは当然とも言える」
――これだ。これしかない。完全無欠の正義、法の守護者たる時空管理局。絶対なる組織が持つ、唯一の傷。針穴のような小さい傷だが、ここを突くしかない。
今こそ経験を活かせ。世界会議で培った強弁を駆使しろ。世の中の理を、強者の力を、正義の在り方を、根底から覆せ。戦え、戦うんだ。
蟻ん子でも、恐竜を倒せたんだ。同じ理屈で、時空管理局を打破しろ。
「俺が聞きたいのは、そんなことじゃない。どうしてローゼに、俺が封印したジュエルシードが組み込まれているんだ」
「だから何度も言うように、内部犯が――っ」
やばい、気付いた。クロノだけじゃない、リンディも目を見張っている。ゼスト隊の連中も察したのか、会議を止めに入ろうとする。
カレン達といい、こいつらといい、どいつもこいつも頭が良すぎるだろう。たまには、楽な敵と戦いたい。なんでいつも冷や汗をかきながら、神経削って戦わなければならんのか。
逡巡している場合じゃない。あいつらの推測が固まる前に、俺がコンマの差で先に吐き出した。
「あの時、俺は時空管理局そのものを知らなかった。だから、自分が封印したジュエルシードを預けるのに躊躇した。その時、あんた達は確かに言ったよな。
自分達はロストロギアの専門家で、危険な代物を安全に管理している。信頼して、託してほしいと。
その結果――俺を慕ってくれている少女の中に、そのロストロギアが組み込まれている。俺の家族とも呼べる、存在に」
「……それは」
「自分の家族に爆弾が入れられていて、黙っていられるか? その爆弾だって、安全に管理すると約束した組織に一度渡したものなんだ。
最初は自分に危害を加えられて、次は自分の家族に組み込まれてしまっている。なのに、今度は俺から家族を取り上げるつもりなのか。
今度はローゼごと奪われるかもしれない。そんな事は絶対にないと、それこそあんた達は俺に言い切れるのか?
俺に約束してくれるのか。一度、破られてしまった約束を。俺にまた信頼しろというのか。一度、踏みにじられたのに」
「……」
「分かっている、あんた達本人が悪いんじゃない。だから、俺も一度は納得した。ジュエルシードが奪われても、俺はあんた達を責めたりしなかった。
検査にだって承諾して、こうして連れて来た。万が一危険だと判断されたら、引き渡すことも覚悟した。でもそれは、ローゼ本人が危険だと判断された場合だ。
ジュエルシードがあいつの中にあるのは、あいつ本人の責任なのか!?」
会議室の机を、拳で叩いた。一方的に責め立てているが、その実頭の中は怒りどころか思いっきり混乱していた。パニックになっているから、変に感情的になっているだけだ。
組織に問題があるのは、クロノ達の責任じゃない。内部犯とやらが、単に裏切り者のクソ野郎であるというだけだ。組織の中に、そんな奴がいるのが問題なのだ。
その事実を赤裸々にして、暴き立てる。無論ただ責めるだけなら、被害者の会と変わらない。むしろ苦心しているのは、ここからだ。
「……俺に預けてくれとは言ったが、俺一人に何もかも任せてくれと言っているんじゃない。俺がヘマしたら世界もそうだけど、あんた達だって困るのは分かっている。
俺とあんた達で、協力体制を作ろう。その上で、俺は時空管理局に全面的に協力することを約束する。
ルーテシア。さっきは煙に巻いてしまったけど、俺なりの責任――考えられる限りの方法を提示する。
まずローゼを俺の監視下に置いて、あの町からは一切出さない。単独での行動も禁止して、常に信頼の置ける人員と一緒に行動させる。
毎日必ず定期的にあんた達に報告を行い、一定の期間で検査にも出させる。時空管理局、出来ればあんた達のチームから人員を派遣してもらい、ローゼの動向及び言動もチェックする。
問題が発生した後ではなく、発生しそうな傾向にあればすぐに通報する。一度でも問題が発生したら、問答無用で封印してもかまわない」
ここまでは、単なる言葉のみ。俺が弱者であり、ガキであり、未成年であり、何の力もないことを自覚した上で――
「自由なんて、虫の良いことを言うつもりはない。永久封印さえ見逃してくれるのなら、どんな拘束を与えてもかまわない。
俺だって、無茶な要求をする代償は何でも払おう。資格が必要なら、手に入れる。力が必要ならば、身に付ける。何でも言ってくれ、どんな事でもしてみせる。
頼む――ジュエルシードになんて惑わされず、あいつ自身を見てやってほしい」
どれほどカッコ悪くても、泣きつくしかなかった。単に我儘を言うだけではなく、ガキなりに負うべきリスクを全て受け入れる。今欲しいのは自由ではない、猶予だ。
歯痒くて仕方がないが、今クロノ達との間に信頼関係と呼べるべきものはない。彼らはローゼを疑い、俺は時空管理局を疑っている。そしてお互い、その事を自覚している。
どちらにも、非はある。ジュエルシードはロストロギアであり、時空管理局には内部犯がいる。どちらか一方のみを、悪だと断ずる事は出来ない。
だからこそ――自分こそ悪なのだと、先に言い切ってしまう。責めてはいるが、断じて恨んではいないのだから。
「頭を上げてくれ、ミヤモト」
「……」
「次に再会する時までに、もっとマシな自分になる――他人の為に、頭を下げられるようになったのか。君は、僕達との約束を守った。
ならば、僕達も君への義理を果たさなければならないな」
「クロノ!」
「確約は出来ない。ジュエルシードはロストロギアだ、本来ならば絶対に封印しておかなければならない。
だが君の言う通り、今の地上本部に預けるには不安もある。少なくとも、内部犯は必ず探し出さなければならない。上層部を、洗い出すことになろうと。
時間稼ぎはしよう。ただし、与えられる猶予は少ない。その間に、君はローゼを救うあらゆる手段を講じなければならない。
社会的信用もない、力もない、資格もない。単なる民間人では、あの少女は救えない。君はこの短い期間で、その全てを手に入れなければならない。
君に、出来るか?」
「やる」
一ヶ月――与えられた短い猶予で、時空管理局の決定を覆せる存在とならなければならない。
全世界を管理する組織と、対等になる。目眩がするほど絶望的な依頼を、俺は引き受けた。引き受けざるを得なかった。次は恐竜よりも巨大な敵に、蟻が挑まなければならない。
個人では駄目だ。俺は今こそ、宮本良介という"勢力"にならなければならない。
絶望は、膨れ上がる一方であった。
<続く>
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