とらいあんぐるハート3 To a you side 第七楽章 暁は光と闇とを分かつ 第六十九話





「――ということで、俺一人では手に負えなくなってきた。またよろしく頼む、妹さん」

『お任せ下さい、剣士さん』















 ドイツの吸血鬼、カーミラ・マンシュタイン。ロシアンマフィアの次期ボス、ディアーナ・ボルドィレフ。ロシアの殺人姫、クリスチーナ・ボルドィレフ。

フランスの貴公子、カミーユ・オードラン。イギリスの妖精、ヴァイオラ・ルーズヴェルト。アメリカの経済王、カレン・ウィリアムズ。夜の一族の王女、月村すずか。

夜の一族の次世代を担う後継者候補達、世界各国の王族達が集結した。ドイツの古城とは趣が異なれど、今この別荘は王城そのもの。高貴なる者達が、一堂に会する。


――のんびり怪我の療養をしていた庶民としては、えらい迷惑だった。どうしてくれようか、こいつら。


「さて、部屋割りを決めようか」

「その前にまず、説明して欲しいわ」


 世界を代表する美男美女が同じ卓についている光景は、圧巻の一言だった。自分の容姿なんて気にした事もないが、この面々と比較すれば見劣りするくらいは分かる。

ヴァイオラ・ルーズヴェルトはそんな彼女達の間でも群を抜いて、際立っている。上流階級の男達を魅了する美貌、心すら惹きつける美声。その全てが、凍てついていた。

政略結婚ゆえに愛も何もないのだが、嫁入りした途端旦那が各国の美女を囲っていれば非難の一つもしたくなるだろう。逆の立場ならば、殴っている。


「私にも説明してもらいたいわね、下僕。何ゆえ主に許可無く、イギリスの下女を嫁に迎えている」

「何で俺の結婚にお前の許可なんぞ――分かったから、翼を広げるな!?」


 煎れてやった日本茶も口にせず、お前の血を飲んでやるとカーミラは牙を剥いている。列席した彼女達の顔を見た瞬間、先程までの上機嫌は吹き飛んでいた。

俺から言わせればこいつも他の連中と同様なのだが、特別視されていないと気が済まないらしい。王様らしいといえばそうだが、庶民には迷惑な話だった。

主従関係ゆえに愛も何もないのだが、カーミラは独占欲が非常に強い。婚約者や親に見捨てられた後だけに、その傾向は如実だった。実に、厄介である。


「貴女こそ婚約者を放り出したままでよろしいのですか。ひむ……名前は存じ上げませんが、窮地に立たされていると聞き及んでおりますよ」

「ウサギー、こいつ殺すの手伝ってあげてもいいよ。目障りでしょう」


 意外といえば失礼かもしれないが、ロシアンマフィアの姉妹は客としての礼儀を弁えていた。出された日本茶も、美味しそうに飲んでいる。

ディアーナは始終俺に肩入れしてくれていて、実にありがたい存在だった。クリスチーナは太腿を晒した足をブラブラさせて、無邪気に物騒な発言を口にしている。

友人関係ゆえに愛も何もないのだが、和解した後だけにこうした気遣いは心が温まる。他国の人間との間を、熱くはさせているのが。


「身の程を弁えない方が多くて困りますわね、王子様が迷惑されているのが分からないのかしら」

「……あんたが平然と居座っているのも落ち着かないのだが」

「すぐにご認識を改められると思いますわ。わたくしこそ、王子様になくてはならない存在であると」


 このアメリカの御嬢様が一番礼儀正しく、一番挑発的なので困る。目障りなならば即刻叩き出すのだが、主義主張はせず俺を立ててくれるので油断ならない。

挑発的な仕草は非常に扇情的で、蠱惑な微笑みには甘い毒が塗られている。誑し込まれれば、絶対に抜け出せなくなるだろう。女という武器を、最大限利用している。

敵対関係ゆえに愛も何もないのだが、俺との契約を未だに強く望んでいるようだ。襲撃事件で気まぐれに助けてやって、その意志を確固たるものとしたようだ。うーむ。


「本当に凄いね、リョウスケは。夜の一族でも指折りの名家の御嬢様方に、こんなにも慕われるなんて」

「……その半分以上が、今でも俺の敵対勢力なんだけど」

「大丈夫、ボクはずっと君の味方だよ。君一人だと大変だろうし、しばらくはボクも此処に居て君を手伝ってあげる」


 何故イギリスの花嫁をフランスの御曹司が送り届けるのか理解に苦しむが、あろう事か宿泊までするつもりらしい。これは遠回しな怨恨殺人を目論んでいると考えてもいいのだろうか?

どういう神経をしているのか、仮にも結婚相手を横から攫った男を手助けするつもりらしい。複雑な人間関係の中で、正直こいつが一番何を考えているのか分からない。

同性ゆえに当然愛も何もないのだが、こいつに殴られても文句は言えないのに。血まで貰っているので、疑う余地はないはずなのだが――フランスの男というのも、理解が難しい。


「なるほど、剣士さんがお悩みになるのも分かります」

「俺の気持ちを分かってくれるのは、妹さんだけだ」

「先日も狙われたばかりですし、最大限警戒はすべきです。本日より着任致しますので、皆さんの警護も努めてみせましょう」

「……う、うーん、分かってくれているようでずれている気がする」


 複雑な人間関係とは無縁な孤高なる存在、月村すずかの在り様は変わらない。この後継者戦争で、この娘だけが始終一貫していた。

休暇中の日々をさり気なく聞いてみると、毎日欠かさず鍛錬を続けていたらしい。世界を震撼させた襲撃事件に巻き込まれたばかりなのに、この娘は休まず自分を鍛えていた。

岩のように筋肉をつけるのではなく、日本刀を研ぐように技を洗練させる修行内容。無論基礎訓練も忘れず、必要な筋力や体力を着実につけている。

護衛関係ゆえに愛も何もないのだが、この娘の使命感を俺には珍しく心から信頼している。この子は決して"声"を聞き逃さない。敵など、微塵も近づけない。


「僭越ながら、ローゼから皆様に主を取り巻く諸事情をご説明致しましょう」

「お前がいちいちでしゃばるな」

「失礼致しました。では、主の口から愛狂おしき女性関係を物語って下さい」

「悪意に満ち溢れているぞ、こら!? もういいよ、お前から説明してくれ」


 押しかけてきた存在という意味では、このアホは鬱陶しいが気遣いはせずに済む。人の形をした兵器が、人間を相手に人間関係を高らかに人の言葉で語る。

考えてみるとローゼは自己主張は極めて控えめで、執事という任は全うしている。俺と話している時は我儘も言うが、口だけなのは分かっている。

ノエルやファリンとはタイプこそ違うが、こいつも人の為に造られた存在なのだろう。兵器として使われるか、人として接するか。結局、取り扱う人間次第なのだ。

ローゼの説明は実に客観的で、脚色も一切挟まない。自動人形から語られる人間味のない説明は、誰にしも納得させるものであった。


「わざわざ面倒事を抱え込む必要はないだろう。全員と手を切れ、下僕。私一人入ればそれでいい」

「貴女一人では何も出来ないでしょう。私達と契約すれば、今後資金繰りや戦力増強等に困ることも無くなります」

「薄汚い金や暴力で王子様の覇道を汚すのは許しませんわよ。ロシアと手を組むよりも、表社会に通用する権力を求めた方が今後に役立ちますわ」

「貴女のやった事も、到底許されるものではないでしょう。ボクの大事な友達を、犯罪に巻き込まないで下さい!」

「――騒がしい人達ね」


 俺の諸事情は受け入れてくれたが、自己主張するのは絶対に止めない。仮にも夜の一族を統べる王の後継者を名乗る者達、我が強くなくては世界の頂点には立てない。

実に厄介で、ややこしい問題だった。全員が全員、自分自身の勝手な事情で動いている。極端に言えば、彼女達は自分さえ良ければそれでいいのだ。

こうして見ると、高町家や八神家の調和はどれほど奇跡的であったのか気付かされる。家主たるもの、自己が強いだけでは駄目なのだ。

他人を受け入れる、"器"――それこそが他者との繋がりを生む強さであり、願いを叶える奇跡となり得る。俺が狂おしいほどに、求めている力。


「騒ぐな、お前ら!」


 テーブルを叩いて、立ち上がる。手も足も満足に動かないこの身だが、心は今も健在。敗北を幾度も重ねて今も正気を保てているのは、仲間や家族が支えてくれたから。

全員即刻追い出すか、唯一人を選ぶか。どちらも非常に容易く、複雑に絡み合った人間関係は解決する。けれど、それは他を切り捨てることに他ならない。

全てを手に入れることは、出来ない。子供は一つずつ選んでいって、大人になって自分の道を歩く――だから、俺は今も子供のままでいる。


今までは子供だからと開き直っていたが、それでは駄目なのだ。我儘を言ってばかりでは結局何も手に入らず、全てを取り逃がしてしまう。



「全員を受け入れる――俺が決めたことだ。文句があるのならば、直接俺に言え」



 全員が、目を丸くしていた。他家の事情も含めて丸ごと、自分が責任を持つのだと宣言したに等しい。これで、この戦争から降りる道は完全に絶たれた。

誓いを立てなくても、契約を結ばなくても、これで夜の一族と完全に繋がってしまった。離縁するのは、己を否定するに等しい。自分で、茨の道を踏み締めたのだ。


口で言うほど、簡単ではない。これから始まるのは単なる共同生活でも、女の子達との青春溢れる色恋沙汰でも何でもない。苦難だけしか、待っていない。


カーミラは氷室遊という婚約者が居る。ディアーナやクリスチーナは、加害者側に等しい襲撃事件の関係者。カミーユとヴァイオラは、婚約パーティにて発表されてしまった婚約関係。

カレンは今でも、異世界の違法研究に関わってしまっている。ローゼは最新型自動人形、妹さんは違法な技術で生まれたクローン。

全員が全員爆弾を抱えており、起爆すれば全てをご破算にしかねない破壊力を持っている。全部抱えるなんて、無謀無茶極まりない。綺麗なだけの、女の子達ではない。


「今はまだ何の関係もないけれど、いずれは全員"血の繋がった"俺の家族となってなるんだ。仲良くしてくれよ」


 それが分かった上で、俺は全員の血を奪うと笑って予告してやった。他人と正面から向き合うと決めた俺に、迷いなんて無い。

この試練を乗り越えることが出来れば、きっと――高町家とも、八神家とも、もう少しまともな家族となれるだろう。彼女達とも、少しは近付けるようになる。


家族を作れるようになって、初めて一人前の男だ。ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ、俺は必ず期待に応えるからな!


「じゃあ、早速部屋割りを決めようか。無駄に数はあるし、好きな部屋を選んでくれていいぞ」

「下僕の部屋でかまわないぞ、私は」

「このような無礼な態度に出る人もいるでしょうし、貴方の部屋に私が居た方がいいと思います」

「クリスは、うさぎと一緒に寝るー!」

「貴女達は少しも王子様のお言葉を理解していないのね。彼はわたくしを迎え入れたいと、仰っているのですのよ」

「ボ、ボクはリョウスケと一緒で何の問題もないよね! お、お――おとこ、同士だし……」

「花嫁を別の部屋にするというのは、いかがなものかしら」


「全然分かってないじゃねえか、お前ら!?」


 ――俺が夜の一族の候補者全員を迎え入れた事実は、程無くして関係者一同に伝わった。情報制限もさせず、抗議も文句も受けて立つ覚悟でいる。

このままで済むとは、到底思えない。婚約者を寝取られたドイツは面子を潰され、大切な婚約者を攫われたイギリスは必ず奪い返しに来るだろう。


今までは翻弄されるだけだったが、今度は俺自身が戦いの火蓋を切った。かかってこい、欧州の覇者達――!!















「やっほー、陣中見舞いに来たよ。侍君」

「お前が来るのかよ!?」















<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.