とらいあんぐるハート3 To a you side 第六楽章 星たちの血の悦び 第二十三話







 ゲートボールとは5人1組の2チーム対抗で行われる、元々は子供の遊びとして生まれたスポーツだ。

それぞれ自分のボールをT字型のスティックで打ち、決められた順に3つのゲートを通過させ、ゴールポールに当てれば上がりとなる。

ゲートを通過するごとに1点、ゴールポールに当てると2点になり、その合計点を競う。

自チームのボールを有利な位置に進めたり、他チームのボールを妨害したりと、チームワーク・・・・・・が重要となる。


「学校にも行かん不真面目な不良だと思っておったが……交友関係は広いのじゃな、お前さん」

「……何処でどう間違えたのか、俺にも分からないんだ。何も聞かないでくれ、現実を直視したくない」


 俺が引き受けた初仕事は、一人暮らし中の風邪引き爺さんを娘と同居するように説得する事。

年寄りは頑固な生き物、説得は難しく交渉を行った。

娘さんと一ヶ月間療養生活を行い、気に入ればそのまま同居。気に入らなければ別居、お試し期間というわけだ。

提案は受け入れられたが、代わりに条件を出された。それが、このゲートボール勝負である。


「勝負の見届け人として、依頼者を呼んだ。俺達が勝ったら、俺の提案を受け入れてもらうぞ」

「娘を連れてきおったか……まあいい、約束は守る。ワシらに勝てれば、の話じゃがな。
お主メンバーは赤毛の嬢ちゃんと――あちらの外人さん達じゃろう?
ルール云々より、ゲートボールそのものを知っておるのかのう」

「お前があのガキをメンバーに入れろと我侭ぬかすから、身内がでしゃばって来たんだよ」


 げんなりしながら、頼もしき我が陣営に視線を向ける。

一体どこが気に入ったのか甚だ不明だが、このロリコンジジイは本日の監視役ヴィータを指名した。

俺の監視でついて来ただけの少女に、ゲートボール勝負――という名目のふれあいを望んでいるようだ。

せめて死んだ孫に似ているという裏話でもあれば、まだ救いがあるんだけどな……

主以外の人間に興味のない騎士は、当然拒否。話を聞こうともしなかった。

俺だってこんなチビとチームなんぞ組みたくないが、爺さんにヘソを曲げられても困る。

爺さんより学んだ教訓を元に、俺は別の切り口で説得を行う。


『ゲートボールは5人1組のチーム戦だ。お前が入ってくれるなら、残りの三人も呼んでやる。
気心の知れた連中と一緒なら、少しはお前も楽しめるだろう?』

『やだね。シグナム達だって、お前の頼みなんぞ聞かねえよ』

『……言っておくが、俺ははやてに言った事を撤回するつもりはない。
怪しい力を持った身元不明の外人4人を、はやてはわざわざ家族として迎え入れた。今のお前らは、その好意に甘えているだけ。
護衛なんて必要ないのに、四人も衣食住付ではやては面倒を見る羽目になる。重い宿命まで背負わされて。

これから先もずっと、主に迷惑をかけ続けるつもりか?』

『黙って聞いていれば偉そうに……てめえのせいで、主は死にかけたんだぞ!』

『だから、お互い良い所を見せておこうと今誘っているんだ。監督役としてはやてを呼んでやる。学校にも行かず、暇してるからな。
自分の騎士が活躍すれば、主も鼻が高いだろうよ』

『むっ……』


 以下同文で他の騎士達も陥落、チョロイものである。

世の中意外と上手く出来ているようで、今朝の衝突を気に病んでいたはやてを誘うと大いに喜んでくれた。

0からプラスより、マイナスからプラスの方が効果は大きい。

人類皆兄弟のチビスケも乗り気で参戦、アリサは依頼人を連れて仕事の経過を見に来てくれた。


「こっちのメンバーは俺、そこのチビ、向こうの姉ちゃん、あっちの金髪、帽子かぶった男の5人だ」

「……自分のメンバーの名前くらい覚えたらどうじゃ?」

「急造チームだからいいの。外見が特徴的だから、それで覚えておいてくれ。
そっちは……一度は三途の川を渡ってそうな面々だな……」

「大きなお世話じゃ! まだまだ若い者には負けんぞ」


 ゲートボールで素人相手に勝って何が嬉しいんだ、このジジイは。

老後の趣味として始めたゲートボール、長年の友人で構成されたチームメンバーを紹介される。

人は見かけによらない。先月の事件で嫌というほど思い知ったが……どれほどの達人でも油断しそうなお年を召した方々である。

ジジイの名前なんて覚えても仕方ないので、外見で見分ける事にする。

依頼人に敬意を示して、父親は親父さん。後は――ガリ、デブ、仙人、三角定規と呼ぼう。名前の由来はそのまんまである。

礼儀云々と親父さんがうるさいので、騎士達の名前は教えておいた。

メンバー紹介を行った後、作戦タイムに入る。まず、社長からのご挨拶――


「良介から話は聞いてるわ。勝ちなさい、以上」


 ……こいつ、俺のメイドだよね?

威風堂々としたアリサ様の激励に、神妙な顔で騎士達は肯定する。俺には一瞥もくれないのに!?

着々と、アリサは信頼を積み上げているようだ。

騎士団長シグナムは車椅子で観戦に来た名誉監督の前でひざまずく。


「主。我ら守護騎士、必ずや貴方を勝利に導いてみせます」

「あ、ありがとう……その、良介の為にも頑張って欲しいかな……」

「……。……、御期待に応えるように努力する所存です」


 騎士のくせに断言しなかった!? おのれ、そこまで俺に貢献するのが嫌か!

フン、こいつらとの連携は元々期待していない。誰のためでも勝てばいい。

……町内のゲートボールの試合で、大仰に勝利の誓いを立てる奴なんていないけど。

控え選手兼応援役はミヤさん。

魔法教授やレイハ姐さんに教わったのか、今日はブルマジャケット――ブルマ型のバリアジャケット――を着用している。

俺はまだ自分で生成出来ないのに、ミヤは着実に優秀な先生方の指導で成長している。

……子供どころか、生まれたてのデバイスにも負ける俺って一体……


「皆さん、頑張って下さいね! いざとなればミヤがいますから、安心して下さい。
ミヤはぴんちひったーさんですから!」


「……上手く誤魔化して補欠にしたわね、あんた」
「……あのサイズでプレイできないからな、やる気だけ買ってやった」


「甲子園を目指すですぅ」と、主の前で勘違いに張り切る妖精。やる気に燃えているので、ベンチを暖めてもらおう。

最後に、スポンサーである依頼人に挨拶しておく。

平日の午前中だが、専業主婦には余裕のある時間帯である。


「俺が勝てば、親父さんは一ヶ月間あんたと一緒に生活する約束をした。
部外者だからこれ以上家庭の事情に口出しは出来ないけど、仲良くやれる事を願ってる」

「ありがとう、本当に……お爺ちゃんも大分顔色も良くなっているね。貴方のおかげかしら」


 未来ある若者に説教するほど元気だぞ、あんたの親父さん。最初から心配しなくても平気だったよ、きっと。


「はやてちゃんもあんなに笑えるようになって……あ、あの人達は何処の国の人なの?」

「さー、今日も元気にかっ飛ばしていこう!」


 良識ある一般人の当然の疑問に、俺は素振りをして強引に打ち切る。どう話せというのだ。

はやてはまだ考えていないようだが、これから先海鳴町で生きていくなら好奇と疑惑の目に晒される事になる。

一人暮らしの車椅子生活の少女なら尚更だ。……剣道着で出歩く男も住み着いているからな。


――皮肉な話だ。


近所付き合いのない昔ならば、出る事のなかった問題。

誰もが当然のように望む家族を得たばかりに、周囲から不審者扱いされてしまう。

俺はいずれ出て行く身、後はどうなろうと知った事ではない。

忠告はしたのだ、自分が決めた以上自分で解決しなければならない。当たり前の事だ。


……。……一応、フィリスに話してみるか。どうせ二日に一度顔を合わすのだ、会話のネタ程度で。


くっそ、自然にフィリスの天使スマイルが思い浮かんでしまった。何故だ。

他人のお節介大好きな女だからだ、きっとそうだ。


お礼の品・・・・はちゃんと用意してあるから安心してね」


 太鼓判を押して依頼人は俺を決戦の舞台へ送り出してくれて――『品』? 『金』の間違いだろう?

首を傾げるが、この仕事はアリサが取って来てくれたものだ。俺の不利益になる事を、あいつは絶対にしない。

作戦会議は終了。

厳正なるジャンケンの結果、俺達が先行の赤チーム。ジジイ共が、後攻の白チームだ。

ゲートボールでは先攻のチームが、「1,3,5,7,9」の赤色の奇数番号ボールを。

後攻のチームが「2,4,6,8,10」の白色の偶数ボールを持ち、赤白交互にボールを打つ。

審判員の打撃通告の後、打者はスタートエリア内にボールを置いて第1ゲートを狙って打撃するのだ。

打順は、ヴィータ→ガリ→シャマル→デブ→シグナム→仙人→ザフィーラ→三角定規→俺→親父さんとなった。

赤チームで俺が一番後回しなのは、騎士達の厳しい指摘があっての事。

つまり最初に俺がドジを踏んで必勝を目指すチームの足を引っ張る可能性を示唆したのだ。言いやがるぜ、こいつら。

基本スペックに圧倒的な差があるのは事実だが、腹が立つ事この上ない。

文句は山ほどあったが、俺は騎士達の提案を受け入れた。最初に言ったが、俺が勝てばそれでいい。

口であれこれ言うより、実際に結果を見せればいい。男ならどっしりかまえていよう、それはハッタリでも。

アリサは大人しくベンチで出番を待つ俺を意外そうに――それでいて少し嬉しそうに、俺の隣に座る。うむうむ。

主将はシグナム、監督は八神はやて。名前だけの役職として、二人に腕章が与えられる。

全員ジャージジャケット――ジャージ型のバリアジャケット――を装備、俺は剣道着。

控え選手は三人まで認められているので、デバイスのミヤにメイドのアリサ。


そして――


「この魔導書はほんまに凄いんやね。本自身にも、ちゃんとした意思を持ってるんや」

「はいです。ミヤや騎士の皆さんを支えて下さる優しい人です。ミヤの憧れのお姉様なんですよ〜」

「女の人なん!? 人格ゆーんやから、性別があってもおかしくないけど……よろしくな、闇の書」

「違いますよ、はやてちゃん。『夜天の魔導書』です! お姉様ですぅ」


 本に性別がある時点で既におかしいだろう!? 早くも納得するはやて、狂ってる。

主人の誕生日を迎えて正式に起動した魔導書――『夜天の魔導書』。

封じられた鎖より解き放たれ、妖精や守護騎士のみならず、魔導書本体も覚醒している。


夜天の魔導書の管制人格マスタープログラム――美貌の死神。


夢の中で何度も対面した孤高の美が目覚めたのである。本の中で。

自立した行動を取る魔導書、人はそれを怪奇現象という。


「……メンバーとして紹介しないからな」

「どうしでですか!? お姉様を仲間外れにするのはミヤが許さないです!」

「真顔で紹介したら精神病院に連れて行かれるわ!

――ほれ見ろ、"気持ちだけ受け取っておく"だとよ。流石、大人は常識を弁えている」

「う〜、どうしてリョウスケはお姉様の言葉が分かるのですか? ミヤにも方法を教えて下さいです」

「ミヤちゃん、騙されては駄目よ。勝手に代弁しているだけ。
闇の書の意思は、まだ頁を揃えていない段階――しかも私達ではなく、この男だけに伝わるはずがないわ」

「フン、女の嫉妬は見苦しくて困るぜ」

「……何か言いましたか?」

「騎士のくせに耳が遠いなんて、プログラムが老朽化して――あだだだだ、角! 角に鼻が当たってるから!?

"主の前で見苦しい喧嘩をするな"? シャマルが先に俺を悪く言ったんだぞ!」

「貴方に名前を許した覚えはありませんけど?」

「死ね、ブス」

「!?」

「……小学生以下の口の悪さだから相手にしない方がいいわよ、シャマル」


 もう遅いわ、これから死ぬまでブスと呼び続けてやる。嘘吐き呼ばわりしやがって。

正確に言えば、夢の中で聞いた彼女の声が耳に入って来るわけではない。思考で会話する念話とも違う。

本を見ていると理解出来るのだ、彼女の意思が。伝えたい言葉が、感覚で伝わってくる。

考えられる理由は一つしかない。


――ユニゾン。


暴走するはやてを救う為、闇の女神と俺は融合した。

連携を取っていたあの時、俺達は魂そのものが繋がっていた。会話に言葉が必要はない、あの時の感覚に似ている。

彼女は強い、力だけではなく存在自体が俺より遥かに上位。対等な融合ではない。

たとえ分離しても、彼女の魂が俺自身に深い影響を及ぼしていても不思議ではない。

……呪われているようで、ゾッとするが。


チームの不和を余所に――主審より正式に開始宣言、試合がついに始まってしまった。


八神家一同、初めての共同作業である。勿論、俺を除いて。

主審は親父さんの連れだが、不公平なジャッジはしないだろう。不要に警戒する必要はない。

一番ボールは鉄槌の騎士ヴィータ。名の通り、銀色に輝くハンマーを持ってスタートエリアへ。


「ゲートボール専用のスティックじゃないけど……いいよね?」

「相手チームから承諾は得ています」


 どうしても自分の武器で戦うと聞かないので、渋々許可を貰ってきたのだ。たく、面倒な。

基本的にゲートボールは一番から三番のゲートを通過して、ゴールポールに当てればクリアー。子供向きの簡単な遊びだ。

大人の要素が加わるのは相手チームへの妨害だが、ラフプレイは俺の担当だ。

高潔な騎士様には正攻法で点数を稼いでもらおう。

パーフェクトゲーム――ゲートボールにおける最高の勝利。主に捧げるに相応しい。

ルールに関しては予め俺が・・ルールブックを渡したのだが……捨ててないだろうな?

ヴィータはスタートエリアから一番ゲートに向けて、愛用のハンマーを構える。


「行くぞ、アイゼン!」

『Ja』


 紅の騎士の号令に銀の鉄槌が勇ましく応えて――声に出して答えた!? 喋ってるじゃねえか!

まさかデバイ――いやいや、もう関わらないと決めた。子供の玩具、それでいいじゃないか。

鋭い眼差しでヴィータはハンマーを振り上げる。おいおい、一番ゲートはお前からそれほど離れていないだろう!

嫌な予感を感じた時には、既に遅かった。


「でやああああぁぁぁぁーーーー!!」


 ゲートボールには絶対不要な、裂帛の気合が炸裂。陽光を眩しく反射した鉄槌が一番ボールに突き刺さる。

豪快に振り下ろされたハンマーは衝撃を生み、空気を引き裂いた。

一番ボールは弾丸のように発射されて、一番ゲートを貫き、コースを飛び出して――向かいの建物の壁にめり込んだ。

――静まり返る試合場。

騎士達以外の面々が度肝を抜かれた中、悠々とヴィータが凱旋する。


「見てくれたか、主。アタシの力を!」

「アウトじゃ、ボケ!」


 得意満面なクソガキの鼻面にスティックを投げる。お、当たった。

歴戦の戦士に大したダメージは与えられないが、痛みは感じるらしい。

悲鳴を上げて仰け反った後、猛然と食ってかかる。


「何しやがるんだ、てめえ! ちゃんとゲートに球を通しただろう!」

「物には限度というものがあるわ! 失格になっても何の文句も言えねえよ。
――今すぐ、はやてと一緒に壁壊した家に謝りに行って来い」

「何でアタシが……!」

「あかんよ、ヴィータ。リョウスケの言う通りや、謝りに行こ」

「やれやれ、親父さんにも弁解しないとな……」


 ガキの時分ならとっとと逃げていただろうが、大人には事情がある。試合が注意になるのは困るからな。

不満げなヴィータをはやてがなだめて、弁償も関わるのでアリサも一緒に向かいの家へ。

大人と遊ぶ子供の無邪気な行為と、大人達は笑って許してくれた。二度はないと、はやてに叱ってもらう。

俺も一言言っておこう。


「魔法は絶対禁止。スティックも力任せに振るな」

「貴方に指図されたくありません」

「主の不況を買いたくないから俺を後回しにしたんですよね、あんた達。
一番手から脱落してるけど、大丈夫なんすかねー」

「っ……馬鹿にして!」


 先兵がいきなり撃墜して焦りもあるのだろう、湖の騎士さんが憤然と立ち上がる。

俺の忠告なんて聞きたくないと言わんばかりに、足早にスタートラインへ。


「ちょっと、良介! 2番ボール、打ってないわよ!?」

「あっ……おい待て! お前の打順はまだだろ!?」


 ――無視されました。おいいいいいい〜〜〜〜〜、人の話を聞けよーーーーー!?

時既に遅し、シャマルさんの綺麗な足はラインを超えてコートに入る。

自分の打順でないのにコートに入ってしまった場合――当然、反則である。


「ええっ! まだ打ってもいないのに、反則なんですか!?」

「当たり前だろうがぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」


 や、やばい。このままだと依頼が、報酬が……! 全然役に立たねえ、こいつら。

あのボンクラ、セッキョーしてやる!

誰もが恐れる守護騎士達相手に物怖じせず、あろう事か罵声を浴びせる俺。

主でもなく――味方ですらない人間が、湖の騎士相手に子供のように口喧嘩。


"やれやれ……"


 ――『夜天の魔導書』は、ただ見つめていた。































































<続く>







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