とらいあんぐるハート3 To a you side 第六楽章 星たちの血の悦び 第二十一話







 ――剣術修行はドクターストップがかかっている。

可愛い顔して心は鬼、フィリス・矢沢先生は退院後も許可を出さない。

重きを置くのは身体の治療ではなく、心のケア。

命を狙われている事を話さなかった為、信頼を失ってしまったのだ。

とはいえ女に叱られて大人しく泣き寝入りなど、柄ではない。

切れ味を失った剣は錆びるだけ。

せめてもの抵抗として、俺は怪我に影響しない部分を鍛える事にした。



頭脳を鍛えるトレーニング――すなわち、勉強である。












「先生、質問!『リンカーコア』とは何ですか?」

"『リンカーコア』とは「連結させる核」、つまり魔導師が持つ魔力の源。
周囲に普遍的に存在する魔力素を体内に取り込んで、体内に魔力を生み出す器官なんだ。
魔力については、既に知っているよね?"

「魔法を使う際の源となる力の事だろ。
魔法を使う人間の体内にあって、魔法を実際に使えば減少する。体力と同じだな」


ジュエルシード事件で置き去りになっていた、魔法に関する疑問。

事件は解決したので異世界の魔法なんぞ忘れてもよかったのだが、クロノの警告でそうもいかなくなった。

先月はプレシアやフェイトの対処で聞く暇がなかったので、時間がある今の内に聞いておく。


  "その理解で問題ないと思う。
個人の魔力光の色はね、魔導師の魔力の源であるリンカーコアの色と同じなんだ。
光量が大きいので、検査等で目視すると中心は白に見えるけどね。
なのはやフェイト、プレシアのような優れた術者だと、魔法使用時に全身から顕現することもある。

最も顕著に判るのは、魔法陣の色かな……

なのははともかく、君の『虹色の魔力光』は極めて珍しい。
昔読んだ文献で、似たような事例・・・・・・があった気がするんだけど――また、調べておくよ"


古き歴史に、俺と同じ魔力光をした人物が居たのか。博学なユーノの知識だ、見当違いとも考え難い。

文献に書かれた人間――犯罪者データに乗っていたら嫌だな。有り得るだけに嫌過ぎる。

歴史に名を残す人物と聞けば大抵英雄や聖人を思い浮かべるが、自分が悪人なので縁を感じられない。

法術関連の人物なら助かるな。法術の事がもっと詳しく分かるかもしれない。

アリサにアリシア――不本意だが、二人の幽霊少女の命運を背負っているのだ。

それよりも、


「先生、人と話す時は相手の目を見て話してください!」

"出来ません"


何でだよ。いいからとっとと姿を見せやがれ、魔法教授。

――午前五時、山と海に囲まれた海鳴町を一望出来る高台。

青空教室と呼ぶには曇りがちな空の下、俺達は野外で魔法の授業を受けていた。

先生役はユーノ・スクライヤ、ジュエルシードを発掘した迷惑な透明人間である。


「あのなあ……いつまでも隠し通せるものでもないだろ。
どれほど笑える顔をしているのか知らんが、その場だけだろ」

"つまり笑うという事じゃないか! 君には見せられない"

「なのはには見せているくせに。このムッツリめ」

「ユ、ユーノ君はおにーちゃんが嫌いという訳ではなく、ちょっと事情がありまして――
なのははおにーちゃんなら大丈夫だと思っているんですけど」


お前のフォローは意味深で、余計に気になるわ!

――今日の授業の生徒役、高町なのは。

フェイト・テスタロッサに匹敵する天才魔導師だが、本人は叩けば泣くチビッ娘。

他者を傷付ける砲撃の才を自ら拒み、魔法で手に入れられる栄光の未来を選ばなかった。

本人は今までの日常を過ごし、魔法に囚われない将来を模索している。

授業の参加はその一環、平和に利用する方法を探しているようだ。


"本当は管理外世界に、魔法文化を伝えるのは好ましくないんだ。
次元世界に強い影響を呼ばすロストロギア、大魔導師プレシア・テスタロッサの強大な魔法――
魔導技術の無い世界に、あれほどの力が伝わればどうなると思う?"


地球でも核技術の保有等、世界を滅ぼしかねない力の使用は非常にデリケートだ。

ユーノの言い分は分かる――のだが……


"二人は時空管理局に認められた、特別な人物だということを忘れないでほしい。
僕も本当は気が進まないんだよ"

「――魔法とデバイスの詳細が記された分厚いレポート用紙の束は一体誰が作ったんだ、この野郎。
幼稚園児でも分かるように書かれているぞ」

「難しい魔法発動シークエンスが、漫画表現で丁寧に描かれて分かり易いですよね。
ユーノ君、本当にありがとう!」

"うっ……それは、その――時間がたまたまあったからね……"


裁判でフェイトが有罪になったら、100%こいつの責任。間違いない。

空間モニターなど発達した科学技術を使わず、わざわざ手書きで手間隙惜しんで作成しやがった。

姿も満足に見せないくせに、小まめな奴である。


「なのは。俺はユーノと直接話したい事があるから、少しの間自習していてくれ」

「あ、はい! レイジングハートと実技練習していますね」


実技と言っても砲撃をぶっ放すのではなく、あくまで基礎練習である。

高町なのはの魔法構成率及び魔力は恐るべきもので、既に幾つか自分の魔法を開発していた。

応用を利かす事も可能だが、なのはは基礎を怠らない。

大魔力の使用は自分自身にも負担をかける――プレシア・テスタロッサが、戦いの中で自ら証明した事実だ。


巨人兵戦で重傷を負った俺を見て思うところがあったのか、なのはは決して無茶はしない。


食い千切った腕、歪んだ骨格、全身を覆う酷い火傷、血に濡れた肉体――

アースラに収容された時、死の淵に居た俺の傍でなのはは泣き喚いたらしい。

当時感じた強い悲しみが、家族や友人に心配をかける愚を許さない。

自分の可能性を無闇に追わず、足場を固めていく。


雄大に広がる誇り高き空よりも、優しい息吹が感じられる地で――なのはは今日も、健やかに生きている。


なのちゃんを置いて、俺達は茂みの奥に身を潜めて大人の取引。奴はサウンドオンリーだけど。


「――例のブツだ。中身はここで確認するなよ」

"いや、突然封筒を渡されても何がなにやら……手紙?"

「大至急、クロノに渡してくれ。いいな、大至急だぞ! クロノが居なければ、リンディに渡せ」

"僕はどれほど危険なものを渡されているんだろう……
フェイトの裁判もあるから、あまり巻き込まれたくないんだけど"

「ジュエルシード事件に俺を巻き込んだ根本の原因は、貴様だ」

"ネコババしようとした君にだって責任があるだろう!"

「宝石が落ちていたら誰だって拾うわ!」

"うう、死ぬまで言われそうだな……"


責任の擦り付け合いだが、事件が無事解決したからこその平和なやり取り。

姿を隠しているユーノに見えるように地面に置き、踵を返した。面倒な奴である。


――プロジェクトF.A.T.Eに、捨てられた特殊なクローン人間。


ジュエルシード事件は終わったが、プレシア・テスタロッサとの因縁はまだ続いている。

彼女に関わったことで俺の存在が漏れて、狙ってくる馬鹿が居るらしい。

自分で見つけてぶっ飛ばしてやりたいが、月村と行動した通り魔事件とは規模が違う。

……月村か、事件の話をすればまた手伝ってくれるかもな。

異世界の事件は異世界の警察に今は頼るしかなく、六月早々に起きた街灯投擲事件を手紙に書いた。

クロノにとっては警告程度でも、現場で既に事件が起きている。時間がない。

DVDに深夜撮影など出来ないので、今の内に手紙を渡しておく。

アリサ・ローウェルの策に不良警官リスティの現場検証、時空管理局の次元犯罪捜査――

出来る事はやった。後は天命を待つのみ――といかないのが、放浪の剣士の性。

俺自身も動くとしよう。



フェイト、プレシア、罪に負けずに頑張って生きろよ。

プロジェクトF.A.T.E――お前らのケジメは、俺が取ってやる。












「見取り稽古」と呼ばれる稽古法がある。

習うことのはじめは見て覚え、真似るところから始まる。

見続けていると良い動きに目が留まるようになり、それほどではない動きは素通りするようになる。

まずは己の目を磨く事、他人に関心を持つ事――

本物を見続けて自分の目に焼き付ける事で初めて動作の比較が可能となり、発する気の違いを感じる事が出来るようになる。

見取り稽古の最も大切なところは見て映し、技術を目で稽古する事だ。


「……ハァ、ハァ……駄目だった……」

「動きは悪くなかった。だが――」


曇り空から朝陽が顔を出し、眠っていた町が日差しを浴びて朝の支度を始める時刻――

高町家の庭の道場では、活発的に稽古が行われていた。

兄や妹から正式に許可を貰って、基礎鍛錬の見学を行っている最中である。

――汗だくになって肩で息をする妹に、兄は厳格な表情で難点を指摘する。

的確な指南は俺の気付いた点、全く気付かなかった点含めて完璧に網羅していた。

美由希が素直に受け止めているのは、自分でも理解出来ているからだろう。


「……ハァ、ハァ……くっ、駄目だったか……」

『忍耐が足りません。叶わないと判断した時点で、簡単に一か八かに出る――敵の思う壺です。
作り出された隙で、今貴方は倒された。
これでは勝負ではなく、詰め将棋でしかありません』


こちら側でも似たような光景が繰り広げられていた――

精神的に打ちのめされた男に、涼やかな女性の声が叱咤する。

そこへ稽古場にそぐわない、愛らしいボイスが耳をくすぐった。


「駄目ですね、リョウスケは。試合を急ぎ、勝負に負ける。
もっと我慢強く戦わないといけませんよ」

「レイジングハートの受け売りじゃねえか!? お前ははやてと一緒に朝ご飯でも作って来い!」

「マイスターはやては桃子さんと御一緒ですから大丈夫です。ミヤは、リョウスケの監視をします!」

「監視って何の……?」

「もう忘れたのですか!? 頭が悪いにも程があります、プンプンですぅ〜!
リョウスケが夜天――コホン。魔法を使わないように、皆で監視する約束じゃないですか!」

「お前が傍に居ない方が、俺が融合出来ないから都合がよくないか?」



「……」

「……」



「――レイハさん、仮想戦闘空間の構築方法をミヤに教えて下さい。
魔導師に必要なスキルなら、ミヤも覚えなければいけません!」

「誤魔化すなぁぁぁぁぁぁ!!」


本の中に帰れ、てめえは。

守護騎士登場でよほど安心したのか、自由気ままに行動しやがって。

こんな奇天烈な存在なのに、高町家はすっかり受け入れて可愛がってやがる……何なんだ、あの一家は!


『立派な心がけです。ですが、略して呼ぶのはやめて下さい』

「ええっ!? ミ、ミヤにとってお姉様は一人ですので、その……うう、困りましたぁ……」


どう呼ぶ気なのか知らんが、普通に呼べ普通に。

デバイス同士のやり取りを尻目に、俺は恭也達の稽古内容を頭の中で思い描く。


――仮想戦闘空間における、イメージファイト。


一流のスポーツ選手は、試合やゲームの流れを常にイメージしていると言う。

魔導師も同じで、2つ以上の事を同時に思考・進展させるマルチタスクという技能が必須とされている。

高町兄妹の戦闘力を、首からぶら下げたレイジングハートが解析して仮想戦闘データ化――

ユニゾンデバイスのミヤとの連携で、俺の脳内で仮想戦闘空間を構築する。

俺は見取り稽古で二人の剣術を目に映し、心の中で試合を行う。

異世界の科学技術が生み出した、リアル版のシャドートレーニングである。


――美人女医が快く許可してくれる修行として、今朝ユーノ先生に相談して教えて頂いたのだ。


『では、もう一度行います。ミヤ、データを送りますので教えた通りにやってみて下さい』

「はい、任せて下さい!」

『ミスタ――いえ、リョウスケ。心静かに、対応を』

「心得た、レイハ姐さん・・・・・・

「おおお〜〜〜、リョウスケそれです!」

『貴方までそう呼びますか!?』


世界はあらゆる可能性に満ちている。

見取り稽古に仮想戦闘――イメージトレーニング。強くなる手段は幾らでもある。

強者は世界に沢山居る、焦ることはない。


この世で一番弱いこの席で、俺は地道に剣を振っていこう――















「……恭ちゃん、宮本さんがなのはのアクセサリーと……」

「――宮本は疲れているんだ、そっとしておこう」















――強さに繋がらない勉強は苦手である。

頭を使う事の重要性は先月実感したが、何かを覚える事は脳の出来具合で努力に幅が生じる。

俺は一枚の便箋の前で、頭を抱えていた。


「えーと……ハ、ハロー、ナイストミーチュ、リョウスケ・ミヤモト。
ディスイズ、ア、ペン……アイ、プレイ、テニス……あい、らぶ、ゆー!」

「や、やめて!? 愛しいご主人様を笑いたくないの!」

「どういう意味だ、アリサ!?
貴様らも俺様が真剣に悩んでいるのに、何を笑っておるか!
学校や仕事の準備で忙しいんだろ、散りやがれ!」


昨今の国際化に対応するには、日本語だけでは不便――

そう自分に言い聞かせて、俺は英語の勉強を行っていた。

昨日の誕生日会の御礼と、真心込めて作ったはやての朝ご飯は大好評。

和食の達人八神はやてと高町家の料理人晶――二人はすっかり仲良しの友達。

はやてはすっかり高町家にとけこみ、一家に愛される存在となっていた。

食後の一休みで勉強しているのだが――はやてと違って俺は全く愛されておらず、外野がうるさい。


「セルフィ・アルバレット、テレビで取材されていたレスキュー隊員。
手紙の返事を書くなんて、良介にしては随分入れ込んでいるわね……」

「フィリス先生の御推薦」

「納得。メールアドレスもついでに教えて貰ったら?」

「教えてくれる訳ねえだろ、アホか! 手紙でちょっとやり取りしただけの他人だぞ。
どこぞと知れぬ日本人のファンレターでメールアドレス聞いたら、一瞬で破棄されるわ!」

「良介の見込みって当たった試しが無いのよねー」


上等だ、手紙の最後にそれとなく聞いておいてやる。くっくっく、愚かな。

これで手紙の返事が来なくなれば、ペンフレンド関係も終わりだ。

原因を聞かれれば、アリサに書けと言われたと正直に告白してやる。


「フィアッセ、今回の手紙だけは翻訳してくれよ」

「――、――」

「ぐっ……オッケーなのか、それでないのかも分からん……」


フィアッセ・クリステラ先生の、英語レッスン。

モデルのような美女の個人授業は無料だが、教え方はスパルタ。

日常会話に至るまで英語、俺との会話だけ日本語が封印されている。

相手にしなければ済む話だが、それでは意味が無い。

しかし何を言っているのか意味不明だし、手紙に書くアルファベットも分からん……

実戦形式は望むところだが、海外に放り出された気分である。


「フィアッセも意地悪ね……恭也、使わなくなった教科書を貸してあげたら?」

「一学年前の教科書はあるけど――宮本にはレベルが高すぎると思う」

「……いずれ翠屋のメニューを英語に書き直してやる」


ナメた口を叩く高町親子に、俺は報復を宣言する。日本語で。

畜生、勉強嫌いなのに教科書と言われて少し喜んでしまった自分が憎い。

英単語も満足に知らないのに、手紙なんて書けるか!

フィアッセもそれは分かっているのだろうが――妥協点が見つからない。

つまり、まだ俺は彼女の生徒たる条件を満たしていない。


「わたしの家に辞書あるから貸してあげよか? 少しは役に立つと思うよ」


洗い物の手伝いを終えて、車椅子の少女が顔を出す。

辞書――殴る/投げる以外の目的で使用する日が来るとは。

海外からやって来た英語教師に対抗するのに、素手では不利すぎるか。

はやての申し出を、ありがたく受けることにした。


「そんじゃあ、そろそろ家に帰るか。辞書だけでは無理だから、アリサも手伝ってくれよ」

「フィアッセさんの言葉も翻訳してあげるわ。ゆっくり話してくれていたのよ。
少しずつ理解していきましょう」


真面目な姿勢を見せれば、アリサは決して茶化さない。

厳しさに優しさが在る――日本人的な気質もまた、アリサの魅力だ。

絶対、話せるようになってやる。覚悟してろよ、歌姫め。


「宮本さん、俺の教科書も良かったら貸しますよ! 使ってないから」

「お、悪いな――って、使えよ学生。押し付けるな」

「ちぇ、ばれたか……」


柔らかな笑い声が、家の中に響き渡る――

ジュエルシード事件が終わり、ようやく訪れた平穏。


六月五日、午前八時。


掴んだ平和は……今この時を持って、正式に終わりを告げる。



















































<続く>







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