とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第五十話
予想通りとでも言うべきか、大騒ぎになった。
絶対安静を言い渡されていた怪我人と病人が一週間前後行方不明となり――突如帰って来たのだ。
恐らくは海鳴町全域及び遠縁の関係者全員に連絡を取ったであろうフィリスを筆頭に、大勢の人間に取り囲まれた。
リンディの機転で捕縛騒ぎにまでは発展せず、身内の情を巧みに利用されて病院は感動の渦に巻き込まれた。
恐るべきは、若き提督殿である。
連絡もせず一週間以上も脱走した患者の罪を、感動で洗い流したのだ。
怒り心頭で捕縛されるどころか、俺達は温かく迎えられた。
この病院で多分一番俺の身を案じてくれた主治医も、双眸を潤ませて俺を見上げる。
「良介さんもレンちゃんも無事で、本当に安心しました。
一時はどうなる事かと――」
「わ、悪かったな、本当に……レンと色々話し合っていてな……」
その言葉に、傍らで俺の手を握り締める御嬢様が顔を上げた。
キツイ眼差しだが、その瞳は綺麗な涙で光っている。
「連絡の一つくらい出来るでしょう! どれだけ待ったと思ってるのよ!」
「ほお、俺を待っててくれたのか。流石は俺の第一従者。
呼び戻した甲斐があったってもんだ」
「――フ、フンだ! 馬鹿!」
肯定も否定もせず、顔だけ林檎のように赤くしてそっぽを向いた。
相変わらずの生意気さだが、アリサにはこれくらい元気で丁度良い。
アリサの様子を微笑ましく見つめるもう一人の家族が、頬を涙に濡らしたまま安堵の息を吐いた。
「でも、ほんまにちゃんと帰って来てよかった……
皆、心配してたのは本当なんよ?
――わたしかて、良介の事ずっと待ってたんやから……」
山ほど文句を言いたい筈なのに、口から出るのは思い遣る気持ち。
八神はやてという少女の人の良さに呆れつつも、少女の気持ちに応えられた事が少し嬉しくもあった。
生きて帰れてよかったと、心から思えるほどに。
プレシアの悲しい狂気やフェイトの報われない親への愛、無力に嘆くアルフの涙。
重々しい出来事ばかりが続いて気が狂いそうになったが――
――フィリス達の顔を見た途端、どうしようもなく心が緩む。
警戒心など微塵も沸かない人間関係が、疲弊した心身を癒してくれるようだった。
救助された艦の中でさえ緊張を解けなかった反動か、病院に到着した途端身体が弛緩する。
背中で泣いていたレンも穏やかな空気で少しは落ち着いたのか、嗚咽を止めて涙の残る声でフィリスに言った。
皆が待ち望み――レン自身が掴んだ、未来への決意を。
「……色々ご迷惑お掛けして、ほんまにすいませんでした。
我侭ばかり言うて困らせて、反省してます。
先生――ウチ、手術受けようと思うんです」
「!? レンちゃん……それは、本当に?」
喜びの意味を含めたフィリスの確認に、快活に頷く気配。
同時に、レンは俺の頭をポンポン叩いた。
「悔しいですけど……こいつに説教されました。
弱気になってたウチを散々怒鳴って――無理やり手術台に載せる勢いやったんです。
アホにアホ呼ばわりされて、ちょっと堪えましたわ……
……先生。
長い間連絡もせず出てしもて、迷惑をかけたのはウチが悪いんです。
良介は何も悪くありません。
手術が怖くて逃げ出したウチを、一生懸命叱咤してくれたんです。
こないに馬鹿なウチですけど――御願いします、助けて下さい」
自分の足で立っていれば、深く頭を下げていたに違いない。
レンの勇気ある言葉は病院内に響き渡り、聞いていた皆の心に深く浸透していった。
――レンの奴、フェイトを庇いやがって……
レンは純粋に被害者であり、病院を脱走する意思は微塵もなかった。
ジュエルシード事件とは無関係なレンを、俺の関係者であるというだけでプレシアが攫ったのだ。
時空管理局とやらが救助して何とかなかったが、死んでいても不思議ではなかった。
レンは既に事情を知っている、俺に文句の一つや二つあって当然だ。
病院側に訴えても、俺に止める権利はない。
レンはそれら全ての不都合を自身に仕舞い込んで、自らの心だけを明かした。
――複雑だった。
俺は……フェイトの裏切りを許せなかった。
少女の悲しい親への想いや辛い気持ちを案じられず、醜い嫉妬や怒りをぶつけた。
何故、レンのように許してやれなかったのか――
悔やまれてならない。
矮小でブザマな自分の心が、嫌になった。
"――落ち込んでいる暇があるなら、レンさんを見習って強くなって下さい"
驚いて、顔を上げる。
待合室の自動販売機の陰に隠れたまま――可憐な妖精が、小さな胸を張る。
"ふふふ〜、無知で馬鹿な貴方とは違って、ミヤは何と念話をマスターしたのです!
……自分の剣の道を見つけると、決意したのでしょう?
ミヤも応援してあげますから、一緒に頑張りましょうです!"
念話なんぞ使わなくても、ミヤの態度や挙動で一目瞭然だった。
改めて思うが、あいつは今時珍しいほどの正直者である。
たとえば――こうしてみる。
俺はミヤの顔を見て不思議そうな顔をしながら、小首を傾げる。
途端、自信満々だったチビスケの表情に不安の色が宿る。
"は、はぇ……? き、聞こえてますよね……?
あれれー、ど、どうして届いてないですか!?
一生懸命練習したのに〜〜〜うー、リョウスケー、リョウスケーー!!"
あはは、念話が届いていないと勘違いして叫んでやがる。
自動販売機の角で、必死な顔でピョンピョン飛んで手を振っている。
いやはや、最近の子供でもあれほど素直な奴はそういない。
ミヤは嘘で塗り固められた大人の世界に染まらない、人間の良心だった。
「……? 良介、何か言うた?」
心臓が飛び上がる。
慌てて視線をずらすと、はやてがきょとんとした顔を俺に向ける。
「な、何が……?」
「……ううん、良介の名前を呼ぶ声が聞こえた気がして……」
ミヤの声が……聞こえた!?
流石は真の主、冷や汗を流しながら俺はそ知らぬ顔をする。
さっさと背中のレンを渡して、病室へ――
(――あ、れ……?)
グニャリ、と歪む視界――
世界から音が遠ざかり、目の前が泥沼に浸した様に濁り歪んでいく。
足がふらつき、手当てを受けた怪我に忘れていた痛みが襲い掛かる。
平衡感覚を失い、突如目の前に床が直立して迫って来た。
やばい、眩暈が……
せめて背中のレンを投げ出さないように強く掴んで、訪れる衝撃に歯を食い縛る。
――俺の肩を掴む、力強い感触。
「……言いたい事や聞きたい事は山ほどあるが――
レンを救ってくれた事は、本当に感謝している。
とにかく今は休め、宮本」
静かだが、安心感を与える男の声。
この世界の誰よりも頼りに出来る人間に支えられて、俺は息を吐いて弛緩する。
いい加減、他人の面倒を見るのも飽きたからな。
――後は任せたぜ、恭也……
送り届けた大切な友人の存在を託して、俺は意識を手離した。
――場面転換の連続は、精神に負担がかかる。
近頃起きては倒れて、また別の場所で目覚めるパターンが染み付いている気がする。
疲労で倒れるなんて年寄りみたいだが、勘弁して欲しい。
大怪我を負い、傷が完治しない内にまた死闘を繰り広げて、治った傷ごと深手を負う。
生死の境を彷徨う重傷を負って、紙一重で生き延びる――
手足が付いているだけで儲け者。
五体満足で帰って来れただけでも、神様に大感謝しなければならない。
俺が否定した人間関係や魔法に、皮肉にも今支えられて生き延びている。
戦場において――弱さは罪だった。
「どうして貴方は怪我を増やすんですか!」
御馴染みの団体部屋に寝かされたまま、枕元でナイチンゲールが吼えている。
余程御立腹なのか、柔和な美貌が怒りに染まっていた。
カルテを叩き付ける様に、フィリスは厳命する。
「一ヶ月間は絶対安静です! 外出許可なんて、二度と出しません!
ベットから動かないで下さい、部屋から出ないで下さい!
退院後も半年間は通院して貰いますから」
「この前より長くなってるぞ!?」
「一歩間違えれば、後遺症が残る可能性だってあったんですよ!
何ですか、この怪我の数々は!?
これ以上無茶をすれば、取り返しのつかない事になりますよ!」
「……うぐぐ」
疲労困憊で倒れてから、数時間が経過していた。
レンは別の病棟で精密検査、俺も眠っている間に身体中調べられたようだ。
俺やレンが病室へ運び込まれて用事も済んだのか、リンディはもう帰ったようだ。
――起きた時には既に病室には居なかった。
真新しい包帯やガーゼ、テーピングの数々でむず痒い。
巨人兵との戦闘前でさえ、竹刀を握れない状態だったのだ。
挙句の果てに鼻の骨折、全身大火傷、身体の至る所に無数の打撲。
片目の周りには包帯が巻かれ、肋骨の辺りは硬いもので固定されている。
病人担いで多少動いただけでぶっ倒れる程だ、疲労も相当蓄積されている。
穏やかなフィリスが顔色を変えて、俺に最終通告をするのもごもっともだった。
実際問題、俺だっていい加減休みたい。
退屈な入院生活ですら、今の俺にはパラダイスに感じられる。
――だが、事件はまだ終わっていない。
ジュエルシードは多分まだ全部は回収出来ていない。
プレシアも俺が逃げた程度で諦めるとは到底思えない。
何処まで逃げても、因縁は必ず追いかけてくる。
決着をつけない限り、俺に真の平穏はありえなかった。
何より、俺はもう逃げるつもりはない。
フェイト・テスタロッサに、アリシア・テスタロッサ――
二人には助けられた恩もある。
俺の想いに応えてくれた二人の為に、俺は何かしてやりたかった。
孤独を求める宿命すら捻じ曲げるほどに、俺は二人の笑顔を取り戻したい。
――だけど、俺を止める声も無視出来ないのも事実だった。
「今後、定期的に様子を見に来ます。
逃げ出せば、入院生活は延び続けると考えて下さって結構です」
「……いや、でも、入院費とかあるし、払えなければ追い出してくれても――」
「私が立て替えておきますから、安心して入院して下さい。
――治るまで逃がしませんよ、良介さん」
「イ、イエッサー」
ニッコリ笑顔のフィリスさんに、冷や汗を掻きながら敬礼する俺。
圧倒的重量を誇る巨人兵より遥かに、柔和な美貌に重々しいプレッシャーを感じた。
医者の特権に加えて、借金まで出来てしまえば逃げられらない。
使命感に燃えているのは、お医者さんばかりではなかった。
「先生、あたしがずっと付き添っていますから安心して下さい。
コイツの事でご迷惑をお掛けして、本当にすいません」
「アリサちゃんが謝る事はないのよ。
……良介さんの事、御願いね。
しっかり者のアリサちゃんなら安心だわ」
「コイツの手綱はあたしが握ってますから」
メイドの分際で調子に乗りやがって。
得意げな顔で胸を張るアリサに、剣呑な目を向けてやる。
「てめえが仕切るな。それにいい加減手を離せ」
俺が目覚めてから――多分眠っている間も――ずっと、俺の手を握り締めている御嬢様。
小さな手の平から、柔らかい温もりが伝わってくる。
若干汗ばんだ少女の手は、俺を離すまいと必死に訴えかけるようだった。
「いや。離したら、また何処かへ行くじゃない」
「行かねえよ!? 流石の俺も今の空気くらい読むわ!」
散々喚かれた上に豪快に叱られた後で、直ぐに出て行ける無謀な男じゃないぞ。
フィリスが監視の目を光らせているとなれば、尚更だ。
第一、怪我と疲労で今は動くのもかったるい。
俺の正統な主張も、女の感情の前には無力だった。
「嫌ー! 絶対、絶対、離さないもん!
散々心配させて……帰って来たら、すぐ倒れて……馬鹿。
……離れ離れはもう嫌だよ、良介……」
一度死に別れて――奇跡に彩られた再会を果たした俺達。
不思議な出会いと悲しい別れを経て、俺達は強く結び付いている。
人の温もりを思い出したからこそ、冷たい世界へ戻る事を恐れている。
――俺も、アリサの居ない世界へ再び戻るのは御免だ。
どれほど荒れて苦しんだか、もう思い出したくもない。
苦笑いを浮かべて、俯くアリサの頭をポンポン叩く。
「大丈夫、俺がこの程度で死ぬ筈がないだろ」
「傷だらけの顔で何言ったって、説得力ないわよ」
ええい、口の達者な小娘め!
俺だってたまには余裕で勝ちたいわい!
鼻を鳴らす俺を見て少しは落ち着いたのか、アリサは小さく微笑んだ。
「アリサちゃんの言う事は大人しく聞いておいた方がええよ、良介」
車椅子を慣れた手付きで操作して、はやてが寝かされている俺の横に移動する。
流石に知人に注目されると照れるのか、アリサはそっと俺の手を離した。
少し未練があるのか、俺を不満げに見つめるが無視する。
甘やかすとつけあがるからな、こいつは。
一方のはやても不満そうに、車椅子から俺の顔を険のある目で見上げる。
「……留守にするんやったら、連絡するって約束やったよね?
嘘つき」
「黙って出て行かない約束だろ? 黙ってで行かなかったぞ」
「そのまま帰って来えへんかったら同じや!」
ギシっと音を立てて、はやては車椅子の取っ手を叩く。
穏やかな少女の突如の剣幕に、怯みはしないがややビックリした。
はやては車椅子の上で腕を組む。
「わたしもアリサちゃんと気持ちは同じや。病院で大人しゅうしてもらうから」
「だから、大人しくするって」
「信用出来へんな。嘘つきさんの言う事は」
「家族の言う事が信じられないなんて……
お前は何時からそんな不良になったんだ」
「良介に逢ってから。子供は傍に居る大人を手本にするんよ」
――い、言うようになったじゃないか御嬢さん……
なのはならオロオロする俺の見事な演技を、はやては簡単に看破してやり返す。
見た目は足の不自由な線の細い障害者だが、芯は強い娘である。
最近のガキは本当に、可愛げがない。
はやては、俺の空いた手をそっと握る。
「わたしな、決めてん。
良介がわたしの事なんて考えずに我侭ばっかりやるんやったら――
――わたしも遠慮せんとこって。
良介――わたしも、この手を離すつもりはないからね」
俺の手を自分の頬に当てて、そっと擦り寄る。
ギョっとして手を引くが、はやては心地良さそうに甘えて離さない。
勿論俺は男一徹、硬派な日本男児。
十歳程度の小学生の女の子に頬をスリスリされて、照れるような男ではない。
引っ叩いて突き飛ばすなんて朝飯前。
非難されようが、泣かれようがシカトの刑だ。
――保護者が見ていなければ。
"リョウスケ、勿論分かっていますね?"
すっかり自分の巣窟にしている戸棚の影より、睨みを利かせる妖精さん。
念話を使わなくても、その形相だけで何が言いたいのか一瞬で分かる。
本当の御主人様を泣かせれば、次の瞬間絶縁される。
未来永劫融合はしてくれず、奴は俺を容赦なく見捨てるだろう。
言う事を聞かされるのは腹が立つが、ミヤには助けられっぱなしだった。
はやてに思うが侭にされるのは嫌だが、この程度付き合ってやっても罰は当たらないだろう。
恩返しだと思えば、我慢出来る。
――こうしてはやてやアリサと再会出来たのも、ミヤが助けてくれたお陰だからな。
家族の暑苦しい歓迎は、当然この程度では終わらない。
チビッ娘トークしている間に、病室に精悍な男が入ってきた。
「気が付いたようだな、宮本」
「世話をかけたな、恭也。レンの奴は?」
「今、精密検査中だ。
事情があったとはいえ、一週間以上行方不明だったからな」
病状は落ち着いているが、病気そのものは治っていないのだ。
爆弾を取り除かない限り、レンの命は保証されない。
何の処置も施さず、何時爆発してもおかしくない状態で行方不明になっていたレン――
帰って来た途端、病院側が躍起になって検査を行うのは当然だった。
普段着の恭也を見て、俺はふと気付いて指摘する。
「今日、平日だろ。お前、学校は?」
「……お前と言う男は」
なっ、何だよその呆れ返った嘆息は!
おいおいおい、アリサ達まで俺を何つー目で見るんだ!?
学生なんだから、学校へ行くのは当たり前だろうが!
恭也は額に手を当てながら、俺を見下ろす。
「心臓病のレンが突如病院から失踪、探しに出かけた怪我人まで行方不明。
連絡も無く、一週間以上音沙汰が無い。
――そんな二人が無事帰って来たと聞いて、駆け付けない人間が居るのか?
俺が――俺達がどれほど心配したと思っている」
厳しい目で見られて、俺は言葉を失くす。
非難するような口調だが、恭也の声には心配と安堵の響きに満ちていた。
俺と違って――恭也は寡黙だが、実直で誠実な男だ。
一緒に探しに出かけた人間まで行方不明になって、強く責任を感じたに違いない。
恐らく、学校なんて行けるような心境ではなかったに違いない。
たとえ周囲に押されて登校したとしても、授業に集中するなど不可能だっただろう。
「……恭也さんだけではありません。
貴方とレンちゃんを心配して、沢山の方が捜索に協力してくれたんです。
皆――貴方達が帰って来たと聞いて、本当に安心したんですよ」
自分もその一人なのだと、フィリスは涙ぐみつつも微笑する。
沢山の方――と聞いて、顔が続々と思い浮かぶのが笑える。
たく……どいつも、こいつも……
……ま、悪い気分じゃねえけどよ。
「レンが手術を受ける話も、先生から聞いた。
――お前が説得してくれたそうだな。
今レンの様子を晶や母さん達が見に行っているが、お前に礼を言いたいそうだ」
――晶と言う名を聞いて、俺の胸が多少痛む。
レンを命懸けで救おうとした理由の一つに、その少女の存在がある。
必死でレンを助けてくれと懇願したあいつを、俺は蹴飛ばして逃げたのだ。
今思えば、なんて手前勝手な醜い八つ当たりだったのだろう――
友人を思うあいつをせせら笑った俺だが――馬鹿にした俺の方が、程度の低いガキでしかなかった。
今の自分を見ろ。
レンを助けないと言いながら、プレシアが人質に取った時剣を投げ捨てた。
フェイトやアルフに助けてくれと、懇願までした。
最初から最後まで自分の思いに真っ直ぐだった晶の方が、眩しく見える――
自分の筋も通せない男より、ブザマでも懸命に助けを縋ったあいつの方が立派だった。
会って、謝りたい。
罪悪感ではなく、同じ友人を持つ者同士として俺はあいつに頭を下げたかった。
その後、病室で多少雑談をした――
俺達が留守中の話を聞いたが、皆町中を駆け回って探してくれたようだ。
病室ではやてとアリサが待ち続け、病院内で何かあればなのはが連絡する手筈に。
その場に居合わせた月村達も協力して、捜索範囲を広げながら行方を捜したが見つからず。
許可を出したフィリスは強い責任を感じて、警察関係者のリスティに依頼。
病院側は正式に警察に通報したかったそうだが、リスティが間に入って内々に処理してくれたらしい。
高町一家は勿論、皆が知る限りの俺の関係者先も当たってくれたらしい。
「……つー事は、花見の連中全員知ってるのか?」
「ああ。神咲さんや久遠も協力してくれた」
そういや、久遠の事もまだきちんと聞いてなかったな――
フェイトと対峙した時、巫女服の少女に変身して俺を守ってくれた久遠。
事件が解決して、一段落ついたら今回の件の礼を含めて、一度会いに行くとするか。
俺達が帰ってきた事は、俺が倒れて眠っている間に伝わったらしい。
――絶対来るだろうな……あいつらなら。
やれやれである。
簡単に留守中の事情を聞くと、恭也の方から俺に質問してきた。
「今度はお前の番だ。この一週間、何があったか聞かせてもらうぞ」
――ぐっ。
聞いて当然だが、聞かれると非常に困る。
素直に本当の事を話しても、絶対に嘘だと思われるだろう。
アリサの儀式に参加した人間ならある程度の理解は示してくれるとは思うが、何も知らない恭也は絶対疑う。
考えあぐねている俺に、恭也は何故か珍しく意味深に笑う。
「――言いたくない気持ちは分かる。
口では何だかんだと言っても、お前もまた人の子だと言う事だな」
は……?
寝耳に水な話に、俺は我ながら呆けてしまう。
「あたしも話は聞いたわよ、良介。うふふー、さっき挨拶しちゃった」
「わたしも! 良介はほんま、嘘つきや。
最初に会った時、自分は一人や〜って嘆いてたくせに」
な、何言ってるんですか、あんたら?
笑い合うチビッ娘達に同調するように、フィリスが腰掛けたままにこやかに言い放った。
「そうですよ、良介さん。
――あんなに御立派なお母様がいらっしゃるのに、親は居ないなんて嘘をついて。
病院へ帰るのを嫌がるレンさんを説得する為に、随分力を尽くしてくれたそうじゃないですか。
貴方の代わりに、貴方のお母さんが今病院側に頭を下げて回っているんですよ」
「正直――母さんは少し複雑な顔はしていた。
お前の事を、本当の息子のように思っているようだったからな」
「はっ――母親だとぁぁぁぁ!?」
ま、ままままま、まさか、まさか!?
あ、あの女が――この海鳴町へやって来たのか!?
――脳裏に浮かぶ、竹刀を持った咥えタバコの美女。
複雑な心境だと言う桃子の事も気になり、俺はベットの上でパニックになった。
どうやら――まだ簡単には、休めないようだ。
<第五十一話へ続く>
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小説を読んでいただいてありがとうございました。
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