とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第四十四話







――オレンジに染まった綺麗な町並み。

季節外れの涼風に頬を撫でられて、わたしは少しの間目を閉じる。

優しい自然に満たされた町。

海鳴市全体を一望出来る高台の一角にある墓地に、わたしはやって来ていた。


年に一度の、大切な決まり事――


自分で決めた神聖な約束を胸に、誰も居ない墓地を歩いていく。

此処には、わたしの大切な人達が眠っている。

一歩一歩歩く度に心が軋み、胸が冷たく――悲しく揺れてしまう。

死んだ人達の魂が眠る場所。

墓碑銘が刻まれた墓の一つに、わたしのおとーさんの墓がある。

わたしは花を添えて、両手を合わせて瞑目する。


大好きなおかーさんが心から愛した男性。


人を好きになる事――好きになった人を、失う事。

おかーさんの気持ちが、今のわたしには胸が痛くなるほど理解できた。

冥福を祈って、わたしは立ち上がる。

まだ腰を下ろしていたいと思うのは、おとーさんへの未練か――


――これから会う人への、気持ちを捨てきれていない為か。


苦しい。

涙腺が緩みそうになるのを懸命に堪えて、震える足を引き摺って歩く。

まだ、泣いては駄目だ。

俯き加減だった顔を上げて、わたしは墓石が並ぶ場所から離れていく。

唇を噛み締めて階段を上り、緩やかな坂道を歩いて――草花の広がる場所へ出る。

果ては山、彼方は海まで見渡せる小さな草原。

亡くなった人達の眠る墓地から離れた、静寂に満ちた憩いの場。

誰かが立ち寄っても気にも留めないであろう場所に――

あの人は喧騒を望まない人だったから。



――二つの白い石が並んでいる。



「来たよ・・・・・・おにーちゃん、アリサちゃん」



アリサ・ローウェル。
宮本良介。



わたし――高町なのはの前に、死んだ二人の魂が眠っていた。















――三年前。















 この町に舞い降りた奇跡の石が起こした、悲劇の物語。

アリサちゃんが生き返って、おにーちゃんに笑顔が戻って、全てがこれからでした。


歯車が狂い始めたのは――レンちゃんが行方不明になった時。


フィリス先生や看護士さんが目を放した隙に、突然病院から姿を消してしまったのです。

その日、朝から天候が崩れて大雨が降っていました。

お兄ちゃん達はレンちゃんを心配して、入院中にもかかわらず探しに出かけました。

わたしも本当は探しに行きたかったけど、お兄ちゃんに止められたので大人しく待っていました。


――おにーちゃんならきっと、レンちゃんを連れて帰って来てくれる。


わたしの家を出て行った時も、帰って来てくれたから。

だから、わたしは――なのはは待っていた。

同じく心配するはやてちゃんとアリサちゃんと、一緒に。





だけど。

今度は、おにーちゃんが行方不明になりました。





ずぶ濡れで帰って来たお兄ちゃんの話だと、二手に分かれて探して連絡を取り合う約束だったが、連絡が来なかったとの事。

お兄ちゃんも心配になって心当たりを探し回ってくれたけど、見つけられなかったと落ち込んでいました。



――わたしは、馬鹿でした。



この時探しに行けばよかったと、今でもずっと悔やんでいます。


『・・・・・・もう! 何してるのよ、あの馬鹿!
いっつも、いっつも、いっつも、迷惑ばっかりかけて!』


 おにーちゃんが寝ていたベットに腰掛けて、アリサちゃんは腕を組んで怒っていました。

とても心配そうに、顔を曇らせて。


『何か事件に巻き込まれたんかな・・・・・・』


 はやてちゃんは真っ暗になった窓の外を見て、不安に顔を俯かせています。

わたしは何も言えず、寝かされたベットで帰りを待つしか出来ませんでした。





次の日も、その次の日も、帰って来ません――





皆から笑顔が消えていきました――

フィリス先生は許可を出した自分の責任だとひどく落ち込み、警察の捜査依頼を受けたリスティさんに叱咤されていた。

おかーさんやフィアッセさん、晶ちゃんやおねーちゃんも一生懸命探してくれました。

ユーノ君も協力してくれて、魔法で捜索してくれたけど見つからず。

広範囲の感知にも引っ掛からなかったので、ユーノ君は別世界の干渉を疑っていました。



――フェイトちゃん、アルフさん。



二人がおにーちゃん達の行方不明に関わっていれば、別次元に転送された可能性も出てくるそうで。

ユーノ君は申し訳なさそうに何度も謝って、ユーノ君の世界に救助願いを出してくれた。



わたしは――ずっと病室で待ち続けるしかなくて。



本当は、わたしも探しに行きたかった。

今すぐにでも空を飛んで、町中を探し回りたかった。



でも、その度に――待っていろと言ったおにーちゃんを信じていないように思えて、我慢しました。

わたしは信じて待ちました――





――数日後、アリサちゃんがいなくなりました。





わたしとはやてちゃんの診察後、病室へ戻ったらアリサちゃんが居なくなっていました。


ずっと、おにーちゃんのベットの上で待っていたアリサちゃん――


帰って来たら一番に殴ってやるんだ、そう言って儚げに笑っていたアリサちゃん。

胸が痛くなるほど――アリサちゃんは、おにーちゃんを想っていました。



そのアリサちゃんが消えた時――嫌な予感に、震えました。



はやてちゃんに優しく背中を撫でられて、わたしは床に膝をついた事に気付いて。


涙が、自然に浮かんで・・・・・・


何かあったんだ、やっぱり。

馬鹿なわたしはようやく――自分が間違えていた事に気付きました。



でも、もう・・・・・・手遅れでした。





――その日、フェイトちゃんとアルフさんが駆け込んで来ました。





アルフさんの背中には、顔色を真っ青にしたレンちゃんの姿。

フィリス先生は顔色を変えて、病院関係者の方に連絡を取ってレンを集中治療室へ運びました。

その後二人は大慌てで、わたしにこれまでの事情を説明してくれました。


おにーちゃんが、どれほど――レンちゃんを助ける為に頑張っていたか。


そして今懸命に戦っているのだと聞いて、わたしは助けに行く決心をしました。

何度も心の中でごめんなさいをして、レンちゃんの回復を待つおかーさん達に内緒で病院を出ました。


わたしとユーノ君、フェイトちゃんとアルフさんの四人で――


フェイトちゃんの転送魔法に包まれながら、わたしはおにーちゃんの事ばかり考えていた気がします。















襲われそうになっていたわたしを助けてくれた人――



怯えて蹲るしか出来なかったわたしを、颯爽と現れて助けてくれました。

力強い微笑み――理不尽な暴力に屈さない凛々しい背中。

守るように犯人さんに立ち向かってくれた姿を、なのはは今でも覚えています。

ずっと、ずっと、お礼が言いたくて――会いたくて。





この人のように強くなりたいと、憧れを抱いて――















連れられた先は、「時の庭園」と呼ばれる大きな建物でした。

高次元領域の何処かだとユーノ君が説明してくれたけど、わたしはおにーちゃんを助ける事で精一杯で――

一緒に戦って勝って、悲しい事件を全部終わらせて。

そうしたら、また一緒に――そう考えて、おにーちゃんが戦っている場所へ行きました。





何もかもが、終わっている事にも気付かずに――





わたしは――自分で見た光景が、信じられませんでした。



黒焦げになった大理石の床。
壊れた階段。
深く切り刻まれた壁。
荒れ狂った魔力の残滓。



大きな鎧の人形の前には――



「・・・・・・おにー・・・・・・ちゃん・・・・・・?」



   血に濡れて――横たわっている、人・・・・・・



血管が破裂したみたいに・・・・・・血の海に浸かっていて・・・・・・

右腕が、千切れて・・・・・・床に転がっていて・・・・・・

竹刀が折れて・・・・・・コロコロと、力なく転がっていて・・・・・・

虚ろな眼差しで・・・・・・天井を見上げていて・・・・・・



まるで寄り添うように・・・・・・・真っ赤に濡れた頁が傍に置かれていて・・・・・・





あ・・・・・





あ・・・・・・





「ああああああああああああああっーーーーー!!」















 ――それから先の事は、覚えていません。

私はそのまま気を失って、アルフさんが運んでくれたそうです。

結局――ユーノ君が呼んでくれた救助の人が、フェイトちゃんのお母さんをその後拘束したそうです。

フェイトちゃん、アルフさんも一緒に。

事情聴取とか裁判とか色々あったみたいですが、わたしは聞きたくありませんでした。

ジュエルシードも皆さんが回収してくれて、事件はわたしから離れて終わってしまいました。



フェイトちゃんのお母さんは、裁判中自殺したそうです。



フェイトちゃんもおにーちゃんが死んで、病院で長期療養となりました。


私のせいで死んだ――私が殺した……フェイトちゃんの涙が、わたしの心を裂きました。


レンちゃんも懸命の治療も間に合わず、そのまま――

心の支えを失ったはやてちゃんはその後――行方不明になって。




何もかも、終わってしまいました。















 わたしは二つの墓に手を合わせ、花を添えます。



「・・・・・・おにーちゃん・・・・・・」


 事件は確かに終わりました。

でも――沢山の人達が負った傷は、今でも癒えていません。

季節が流れて、世界が色合いを変えようと・・・・・・心の傷は、簡単には治りません。

わたしはこれから、どうしたら・・・・・・





"言っただろ、なのは"





――おにーちゃん。





"俺の前で――見栄を張るな"





「おにーちゃん・・・・・・おにーちゃん・・・・・・うう・・・・・・」


 わたしは、声を上げて泣いた。

泣いても泣いても悲しみは消えず、墓に縋りつくように涙で頬を濡らして――















茜色に染まる、空。



おにーちゃんは今頃、天国で優しい夢を見ているのでしょうか?



夢の中ではアリサちゃんやフェイトちゃん、はやてちゃん――優しい人達がいて。

おにーちゃんがせめて、幸せになっていてくれればと思います。



たとえありえない、夢の中でも――















おにーちゃん・・・・・・大好きでした。















せめて心は――To a you sideアナタのそばに 


























































<To a you side ―END―>






―後書き―



これまで御読み下さって、本当にありがとうございました。
改めて、お礼を申し上げます。
この作品を通じて沢山の方々にご意見・ご感想を頂けて、ここまで頑張れたと思います。


それと――本当に、ごめんなさい。


こんな事しか言えませんが、出来れば今後ともこのHPを宜しくお願いします。



























































<エイプリルフールエンド → 真の第四十四話へ続く>







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