とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百六十七話
十代二十代の人間が最前線で戦うのは、別に珍しくもない。特に異世界では若者達が幅を利かせて強い。
エリス・マクガーレンがまだ若き美女であるにも関わらず、英国のアルバート議員やフィアッセのボディガードである事もすんなり受け入れていた。
ただ世間的に見れば彼女は間違いなく才女であり、天才肌の人間であることは分かる。血の滲む努力も重ねたのだろう。
同じ世代の人間として彼女がどのようにして強くなったのか、確かに興味があった。俺では多分歩けない道だろうから。
「貴方は高町士郎の事情を知っていると見込んで、お話いたします」
「まあ、ティオレ御婦人の同行で墓参りにも付き合ったからな」
高町士郎。高町なのは達の父親で、高町桃子の夫だった人間。現在鬼籍に入っている。
彼が亡くなった事情も聞かされており、どう言い繕っても悲劇的だった事も知っている。たとえ命を救った結果であろうとも。
彼が生きている間に会っていたら、どういった関係を作れただろうか。かつての剣士として分かり会えたのか、かつて剣士だったからこそ分かり会えなかったか。
誰かのために命を落とす真似は、今の自分でも出来るかどうかは難しい。彼はそれを成した結果、死んでしまった。
「私はボディガードの任務を通じて彼、高町士郎と巡り会えました」
「あの親父さんも確か昔、ボディガードとか護衛の仕事をしていたんだっけか」
「はい。当時私もまだ未熟で困難な任務で苦労していた際、彼に助けられました。
その縁もありまして彼から戦闘技術や生き方を学びました」
「親父さんの実力ってどれくらいだったの?」
「正にプロでした。当時、いえ今でも私では太刀打ちできません。
御神の剣は裏社会では知らぬ者がいない程に恐れられ、それでいて讃えられておりました」
「裏社会は犯罪者ばかりではないだろうけど……それでも裏の住民から称賛を受けるのか」
「強いということは表裏問わず、正しいということです。弱ければ何も成せない」
実力と経験に基づいたエリスの断言は真実味を帯びていて、俺からすれば身に染みる思いだった。
どれほど正しくても、敵が強ければ主張は通らない。泣き寝入りするしかなく、捻じ伏せられるだけだった。
この一年間色々な戦いを経て手に入れたものは多かったが、ユーリ達のような強い仲間や家族が居なければ何も出来なかっただろう。
俺が素直に頷くのを見て、エリスは目を伏せる。
「私にとって士郎は師であり、尊敬する対象でした。
しかし彼は不慮のテロ事件で大怪我を負い、ボディーガードを引退してしまった」
「それで失望したのか」
「いえ……いや、どうでしょう。
私が調べたところ彼は翠屋という喫茶店のマスターとなり、家族と共に平穏な生活を選んだ。
そのことについて複雑な思いはありましたが、失望という気持ちではないと思いたいです。
言葉にするのは難しいですが、悔しさに近いかも知れません」
「弟子であるあんたがそういった気持ちを?」
「最強の戦士であったはずの彼が、なぜ戦場を捨てなければならなかったのか。
先程弱わなければ何もなせないといいましたが、引退しなければいけなかった彼を思うとそう思ってしまいます」
師を思うからこそ出る無念が、厳しい真実を口にしてしまったということか。
実際のところ、なのはの親父さんが当時何を思っていたのか分からない。推測するしか出来ない。
聖地で起きた戦乱の一場面を思い出す――ディアーチェと魔女が戦っていた時の、あの一瞬を。
当時ディアーチェが優勢ではあったが、危機が訪れた瞬間があった。あの時俺は自分の剣を投げて、ディアーチェを救った。
剣士にとって自分の剣を捨てるということは、たとえ反射的であってもやっていいことではない。目の前に敵がいるのであれば、尚更に。
あの時俺は自分の限界と、剣士としての未来が絶たれたと思った。自分の剣より大事なものが出来たら、剣を第一にできなくなる。
高町士郎もまた、引き際を察して身を引いた。であれば悔しさや無念はあっても、その決断に後悔はなかったのではないか。
「そして彼は……平穏な生活をそのまま選べず、誰かを守って亡くなってしまった」
「……」
「どうして無関係な者のために、命を落とさなければならなかったのか。
表現できなかった気持ちが、彼の死によって行き場のない怒りや悲しみとなりました。
彼の剣は一体、何だったのでしょう」
誰かを守って命を落としたのであれば、その剣には価値がある。そう思えるのは、多分その剣を持っていた人間だろう。
守られた人間や、彼に近しい人達からすれば、やはり悲しくもなる。どれほど剣が強く、気高くても、振るう人間が死んでしまえば傷つくだけだ。
まして弟子であったエリスからすれば、彼から教わった沢山の事に対しても複雑な想いを抱いてしまうだろう。その思いの果てに、師の死があるのだから。
そして彼女は、俺を見た。
「フィアッセやクリステラ夫妻から貴方を紹介された時、貴方が剣士だと知った」
「……親父さんと同じ、守る剣に神経をとがらせてしまったのか」
「それもあります。ですが――それ以上に。
失礼ながら彼よりも弱い剣が、フィアッセを守れるのか。
貴方が傷つくことでフィアッセを悲しませる事にならないのか。
私は貴方に対して疑問を持ち、過去への思いから貴方に何の関係もない因縁を抱いてしまいました。それを謝罪させて下さい」
エリスは深く頭を下げた。すごい、何一つ間違っていない女に頭を下げさせてしまった。
高町士郎がどれほどの実力者か知らないけど、ついこの前まで道場破りしてボロカスに負けた素人よりは絶対強いだろう。
経験もロクにない男がフィアッセの護衛としてプロの現場に乗り込んできたら、こいつ大丈夫かと思うのは当たり前だ。逆だったら絶対、そう思うわ。
しかもその評価って別に今でも誤っていないしな。ティオレ御婦人が元気になったのはユーリとイリスの能力だし、テロリスト達を倒しているのは美沙斗師匠と夜の一族、そしてディアーチェ達だ。
特に何もしていない俺が、プロの女ボディガードに頭を下げさせている。犯罪だった。
「頭を上げてくれ。たまたまとは言わないが、ここまでやれたのは協力してくれる人達が多くいたからだ。
俺自身が剣で何かを成した訳ではない。まだ結果を出していない以上、あんたが疑問に思うのは当然だ」
「しかし」
「親父さんのことは気の毒に思っている。複雑な気持ちを抱くのもよく分かる。
だからこそ俺達でこの日本、そして彼がかつて愛した海鳴の地でコンサートを成功させよう。
この地には彼の墓がある。彼が見ているところで、結果を出そう」
「――はい、共に戦いましょう」
ガッチリ握手を交わした。エリスはまっすぐに俺を見つめ、嬉しそうにしている。
高町士郎と直接の関係はないが、彼が遺した妻や子供、そして守り抜いた人達がいる。
別に想いを受け継ぐというわけではないが、せめて彼がやったことを無駄にしないようにしよう。
それが高町家に世話になった恩を返すということになるだろうから。
<続く>
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