とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百五十九話
一日の終わりに案内したのは、山の手の別荘。
町の中心部からやや外れにある高台にあり、贅沢にも所有する広大な私有地に建てられている。
単なる貸し別荘ではなく、完全な個人の別荘である。綺堂さくらが所有しているのか、日本の夜の一族として管理しているのか。
通り魔事件で容疑者扱いされそうになり、現場から逃げた先がここだった。
「クリスはうさぎが住んでいた部屋でいいよ」
「待て。下僕が寝泊まりしていた部屋であれば、我も文句は言わん。
隠れ潜むのは性に合わんが、寛容な心で滞在してやろうではないか」
「はいはい、言い争いしないの」
別荘と呼んでいるがそこいらの庶民の家よりも大きく、内装も洗練されている。
当時は通り魔扱いされて余裕がなかったので、滞在よりも潜伏という表現が当てはまっていた。
考えてみれば可愛い姪っ子の頼みとはいえ、異性かつ浮浪者だった自分をよく匿ってくれたものだ。
例えばユーリが他所の男を拾って匿ってくれと頼んでも、俺はユーリを説得してどうにか遠ざけるだろう。
「今後次第ですが、日本へ訪れた際は此処を滞在先とするのもよいかもしれませんわ。
一時期でも王子様が過ごされていたのであれば、悪くはありません」
「綺堂家と交渉して、この別荘を購入いたしましょうか。
普段は使用していないそうですし、思い切って建て替え工事をすれば住心地も良くなるでしょう」
「文字通りに別荘とする気か、お前ら……」
クリスチーナたちに急かされて案内した、当時俺が寝泊まりしていた客室。改めて見渡すと、住宅の個部屋より二倍以上は広い。
旅生活で野宿していた反動か、ベットの柔らかさが逆に落ち着けなかったのを覚えている。
なにしろ、おおっぴらに足を伸ばしても届かない程の大きさなのだ。羽毛布団に吸い込まれそうなほどに、触り心地が良かった。
孤児院生活も、万年せんべい布団だったからな。長年使用して中綿が硬くなった布団で、ガキの頃は眠っていた。
「懐かしいよね。
世界会議が要人テロ襲撃事件で一旦中止となった時、ボク達も一時期潜伏していたもんね」
「あの時俺が間借りしていた所に、お前らが押しかけてきただけだけどな」
「あ、あはは……キミのところが一番安全だと思ったからさ。
すごく頼りにしているんだよ、ボク達」
「キラキラした目で見るな、気持ち悪い」
部屋の内装は書棚や箪笥が設置されており、花も生けられていて手入れが行き届いていた。
ベットの傍には白いカーテンのある窓があり、見える山の風景は趣がある。季節は初春、花が咲く時期である。
当時聞いていた話によると窓から見える景色全ては私有地らしく、春には桜が満開に咲いて幻想的ですらあるらしい。
女性達が揃って窓から外を見つめている。
「あの頃は、世界を見渡す余裕なんてなかったな」
――自然豊かであるから、何だったというのか。
一人で生きていた頃は、本当に孤独だった。他人を気にかけず、一人で籠もっていた。
見つめるのは自分の心だけで、外に目を向けることはなかった。自分一人で生きていけると思っていたし、自分で何もかもできると考えていた。
自惚れだという以前の話だろう。物語は何も始まらないまま、本は固く閉ざされていた。
「コンサートが成功すれば、ここでパーティでもしましょう。
きっと美しく、華やかな世界を愛でることが出来ますわ」
「私達はそのために日本へ来たのですよ、貴方様。
貴方様やご友人、ご家族に害をなす愚か者たちの始末は、私達に任せて下さい。
かつてドイツの地で救われた数々の恩、今度はこの日本で返させて頂きます」
麗しき乙女達が凛々しさと、涼やかな殺意を持って宣戦布告する。
まもなく開催される日本のコンサート、世界中が熱狂する音楽祭。
祭りの中で華々しく、血の華が咲くであろう。
「ではディナーをご用意いたしますので、メインキャストを呼んで頂けませんか」
「メインって誰のこと?」
「――恐れ多くも王子様の子を名乗る者達です。挨拶したいので、呼んで下さい」
「えっ」
「呼んで下さい」
「はい……」
カレンだけではなく、全員から壮絶な微笑みを浮かべて恐喝される。
頷くしかなかった。
何でユーリ達を呼ぶんだ!?
<続く>
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