とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百五十八話
考えてみればあの時道場破りで負けてから、なし崩し的に転落していった気がする。
浮浪者であることには変わりなかったが、空威張りと空元気、そして根拠のない自信と焦りに動かされて行動していた。
勝てると信じていた戦いはほぼ負け続け、傷付き疲れて足掻きまわり、結果として悪い方向へ転落していった。
それでもこうして生きて、人生をやり直せているのは、分岐点で常に誰かと出会えてからだった。
「道場を出た後はそのままの足であの山へと戻ったんだが、その時久遠と出会ったんだったな」
道場破りで負けたのがどうしても悔しくて、すぐに再戦しようとしていた。確かあの時、夜襲を仕掛けようとしていた気がする。
夜の道場へ忍び込もうとしていたり、あらゆる手段で躍起になってリベンジしようとしていた。そうすれば勝てると信じて。
そんな時に出会ったのが久遠だった。今にして思うとあいつ、何で真夜中に山の麓にいたんだろう。那美だって心配して探していたはずだ。
でもあいつと出会ったおかげで結局道場には行かず、結果として犯罪を犯さずに済んだ――別の犯罪に巻き込まれたけど。
「通り魔事件か、調べてみたが当時多数の被害が出たそうだな」
「お、珍しいな。日本の事件に興味を持つなんて」
「よりにもよって我の下僕を襲った、愚かしい事件だ。主として徹底的に調べ上げる義務がある」
鼻を鳴らす麗しき主の微妙な義務感に、俺は斜め見やる。どうするつもりだったんだ、こいつは。
夜の一族の新しき長であるカーミラの調べでは当時、海鳴で何人もの被害が出ていたらしい。
事件現場が限られていて、木刀類でやられていた被害者達。容疑者が絞られるのは時間の問題だっただろうと、主は語っている。
顔は隠していたが……あの爺さん、逃げ隠れするつもりはなかったのか。
「俺が事件現場に出くわした時は、木刀を持った男が倒されていた。
切り合い沙汰に発展して、やられてしまったのかもしれん」
「そこで道場破りをした所の関係者に見つかって、通り魔と間違えられたんだよね」
「そうなんだよ、失礼な奴だと思わないか。昼間に道場破りしただけだってのに」
「……日本人ではないボクでも怪しいと思うよ、キミの立ちふるまい」
フランスの一族であるカミーユは、困った顔をしながら指摘してくる。やかましいわ。
やかましいといえば事件現場で道場関係者に見つかった時、あいつが思いっきり騒ぎやがったせいでご近所連中が押し寄せて騒ぎ立てた。
通り魔扱いされて慌てて逃げ出したのだが、不幸中の幸いだったのがその時から道場破りのリベンジという動機が思いっきり吹っ飛んだのである。
もうそれどころではなかったのだが変な話、通り魔扱いされたから犯罪者にならずに済んだという皮肉である。
話を聞いて、皆笑っていた。金持ちのジョークセンスはよく分からない。
「安心してくださいね、貴方様。今後はこの街でそのような事件は起こりませんから」
「うんうん、か弱いウサギが安心して生きられるように制圧しておいたから」
「何したんだ、お前ら!?」
ロシアンマフィアの姉妹が壮絶な微笑みで事後報告を語って、冷や汗が流れる。
考えてみれば通り魔事件後、この街で何か起きたニュースを聞いたことがない。それこそ軽犯罪でさえも。
正確に言えば俺の関係者が襲われそうになったりしたが、何か起ころうとする度に謎の外国人連中が出てきて、場を収めてくれる。
あのクロノやレンでさえも受け入れていたのだから、治安維持が働いているのは間違いない。
「通り魔事件で負傷を負った俺は入院することになり、そのまま海鳴で腰を落ち着けるようになったというところかな」
「なるほど、大変興味深い軌跡でしたわ。ご案内頂き、ありがとうございました。
王子様も今日一日で自分のルーツを辿り、初心を思い出す良い機会となったのでは有りませんか」
……カレンを見やり、そして姫君達を見渡す。彼女達はしたりげに見つめ返してきた。
俺のルーツを辿って楽しむのが、今日一日の目的。そして辿らせることで、俺自身を見つめ直す機会を与えた。
別に何か悩んでいた訳ではない。けれど確かに、決戦となるコンサートを前にして緊張していたことが事実。
過去を辿ることで昔の自分の失敗や反省を思い出し、今に至る軌跡を見出すことが出来た。
感謝するべきなのだろうか――そう思っていると。
「ではそろそろ滞在先へ参りましょう」
「そうだな、お前らの滞在するホテルに」
「いえ、ホテルではありません」
「えっ、でもホテルだと聞いて――」
「極秘に滞在先の情報を流すことで、事実だと思われるでしょう」
ニッコリ笑って告げるカレンに、舌打ちする。こいつ、よくそんなあくどい真似ができるな。
あれほど徹底的にテロ組織を追い詰めているくせに、まだそんな策略を仕掛けているのか。
カレン達の来日や滞在先は極秘のはずなのだが、極秘にすることで真実だと思わせる腹だったらしい。
敵の情報力を探りつつ、残存勢力をさらに削るつもりなのだ。恐ろしい女共だった。
「じゃあ何処に滞在するつもりなんだ、お前ら」
「王子様が身を潜めていたところですわ」
「俺が隠れていた所といえば」
「通り魔事件で犯人扱いされた時、忍さんに匿ってもらったのでしょう。
わたくし達もそこで滞在するつもりでしたのよ」
通り魔扱いされて慌てて逃げていた時、通りかかった忍の車に助けられて逃げた。
その際、可愛い姪の頼みを聞いた綺堂さくらが、私有地の別荘を提供してくれたのである。
山の手の別荘――かつての隠れ家だった。
<続く>
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