とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百五十二話



富裕層がプライベート飛行機を所有する美学として、空を所有するという贅沢があるらしい。

彼らからすればプライベート飛行機は私邸であり、空に滞在するという選択肢として所有している。

庶民からすれば飛行機は空を移動する機体なのだが、富裕層からすれば空に滞在するという発想に至っているという。


全く持って共鳴出来ない思想だが、俺の愛人を名乗る女は堂々と空を滞在して日本へ訪れた。


「お久しぶりですわ、王子様。
世界会議以後も日本で日和ることなく、あらゆる世界を駆け回って大層なご活躍をされているご様子。
わたくしが見込んだ男性だけありますわね」

「お前は相変わらず派手な登場ぶりだな」


 カレン・ウィリアムズ、アメリカの夜の一族。

アメリカでも有数の大富豪のご令嬢。気位が高く不遜だが、プライドと美貌に見合った確かな才能を持っている。

空に暮らすというラグジュアリーは相変わらずで、チャイニーズマフィアと戦争しているというのに恐れ入る様子はまるでない。


プライベートジェットを単なる移動手段ではなく、時間と空間を自分のものにしていた。


「チャリティー精神に興味はありませんが、世界的コンサートが主戦場となるのであれば見物ですもの。
王子様が主演を務められるのであれば、是非もございませんわ」

「要するに野次馬根性か……コンサートなんて興味がないと思っていたが、やはりだったな」


 渋々出迎えに来た矢先に、豪勢な空上の邸宅を見せつけられて言葉を失う。

機体の種類や特徴はさることながら、アメリカの一族として購入したチャーターの選び方は群を抜いている。

費用感に至ると想像を絶するが、“空の持ち方”というものをこうまで見せつけられると恐れ入るしかない。


朝焼けのプライベートジェットは格別なものだと言っていたが、自慢さえならないかも知れない。


「安全性くらい考慮するべきだと思うんだがな」

「王子様がいらっしゃれば心配ありませんもの」

「お前が雇うダース単位のプロには足元にも及ばないぞ」

「ふふふ、お金ではわたくしの信頼は買えませんわ」


 金持ちとは思えない台詞だが、実際この女は大金を稼ぎつつも金を信頼していない。

世界会議ではジェイル・スカリエッティの接触もあり、異世界ミッドチルダの技術を手に入れて、技術革新による世界制覇を掲げていた。

ジェイルの思惑に惑わされる女ではなく、ロシアンマフィアの暴走さえなければ、長としての地位を勝ち取れていたかも知れない。


結局自動人形の最新機体であるローゼがあっさり俺に寝返ったせいで、台無しになった。あのアホぶりまでは読めなかったようだ。


「わたくしが直々に選別した警備チームは、きちんと仕事を果たしているようですわね」

「ありがとう、その点は本当に感謝している。
同じ日本人として接しやすいし、私生活を脅かさない程度に警護してくれているよ。

妹さん――月村すずかも護衛として学ぶべき事が多く、指導も受けている」


「我々としては王女様には危険な真似をしてほしくはないのですが、ご本人の意志とあれば仕方ありませんわね」


 自分が雇った敬語チームの評価には満足しつつ、妹さんには苦言を呈したいらしい。

妹さんは世界会議でも次の長になることは固辞し、あくまで俺の護衛として生きる道を選んだ。

危険な真似をさせていないとは、口が裂けても言えない。世界会議後も起きた数々の事件で、妹さんは俺を守るべく戦い続けたからだ。


妹さんの話をしていて、ふと気づいたことがあった。


「カミーユから反対派との争いについては聞いている。
あいつを神輿に上げる話が浮上しているようだが、妹さんを担ぎ上げる話は出ていないのか」

「始祖の血を引く純血種。
格好の神輿のように見えるのでしょうけど、我々夜の一族としては見解が異なりますわ。

我々にとって始祖の存在は絶対。神輿として担ぎ上げてしまえば、長どころか女王になってしまいますもの」


 反対派はあくまで主流派を排除して主導権を握りたいだけで、妹さんこと月村すずかを女王にしたい訳ではない。

神輿は自分達で担げてこそであって、王が君臨してしまえば臣は畏まるしかない。

それほどまでに始祖の存在は神聖視されており、月村すずかの存在は強烈だった。


意思なきクローンであればともかく、今の妹さんは開花された大輪だった。


「弟は一緒に来なかったのか」

「主導権争いはほぼ決しましたが、わたくしが留守中にアメリカで勝手な真似をされても困ります。
今が大切な時期なので、留守を任せました。

あの子も義兄には会いたがっていましたが、今は大切な時期なので渋々であろうとも納得はしておりましたわ」


 気の毒には思うが、カレンが自分の留守を任せている事自体が大任である。

今までずっと軽視されてきたからこそ、留守を任されるようになってあいつも嬉しかっただろう。

確かに俺達が日本へ集結している間、チャイニーズマフィアや他勢力が留守の合間を狙う可能性だってある。


カレン達も対策を立てているだろうが、海外を指揮を取れる人間も必要だった。


「ロシアの女狐はもう来訪しているようですわね、忌々しい。
真っ先に来訪したかったのですが、万事を期すべく仕方なく時間を割いて来ましたの。

おかげでしばらく日本へ滞在できますので、お相手願いますわね王子様」

「仕事だっつ―の、と言いたいが接待役も任されているんだよな……」

「ふふふ、お生憎様ですがお付き合いいただきますわ」


 ヴァイオラはコンサートの出演者として、クリステラソングスクールの一員として日本へ後日来訪する。

これで夜の一族の連中は日本へ集結したことになる。


役者は揃ったと言えそうだ。














<続く>








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