とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 第百三十八話
                              
                                
	 
 復讐のために預けていた自分の娘が、高町の家にいるこの状況。正直言って、死ぬほど面倒臭い。 
 
自分の大切な身内を皆殺しにされたのだ、裏向き持ちはよく分かる。復讐に走るのも理解できる。 
 
しかし、捨てられた側はそうもいかない。まあ捨てたというのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも自分より復讐を優先したと、その子供は思うだろう。 
 
 
縁者の子供とはいえほぼ赤の他人を預けられた桃子の心境は、如何なるものか。まして今では我が子同然に愛しているとあれば、今更何しに来たと思うだろう。 
 
 
「ということで知恵を借りに来た」 
 
「なんでコンサート前のこの状況でお節介焼いたのよ!」 
 
 
 困った俺はアリサに相談してみると、案の定怒られた。当たり前か、当たり前だな。 
 
アリサは直接護衛に加わってこそいないが、雇用関係はほぼ全般取り扱ってくれている。国内や海外との連絡や調整役も任されている。 
 
俺も今では読み書きは難しいが、英語の会話程度は出来るようになっている。だがアリサは英語のみならず、主要各国の言語を堪能なのだから凄い。 
 
 
そんなアリサは国内外問わず情勢を把握しており、今の状況にも敏感だった。 
 
 
「お前が怒るのも分かるが、決戦前だからこそ心残りなく戦えるように心身を整える方がいいだろう」 
 
「元怨霊のアタシが言うけど、心残り無くしたら人間結構ポックリ逝くわよ」 
 
「なんて説得力なんだ……」 
 
 
 あまり他人の話を聞かない俺だが、これ以上ない説得力に度肝を抜かれてしまった。日本の辞書に乗せるべき名言だと思う。 
 
考えてみれば次の決戦でマフィアの主力を壊滅させることができれば、もはやチャイニーズマフィアは死に体だろう。 
 
師匠の復讐は叶ったも同然となり、完全とまではいかないが師匠の人生の目標は叶ったことになる。 
 
 
その後師匠はどうするつもりなのだろうか。心残りなくして崖から飛び降りたりしないだろうな…… 
 
 
「まあとりあえず、もう事態は動いているんだから怒っても仕方ないわね。 
事情はあんたから聞いてるから知ってるけど、その美沙斗さんと桃子さんとの間を取り持ちたいのよね」 
 
「そうそう、仲介役だ」 
 
「あんた、そんな事を今までしたことないでしょう。大概戦闘になるか、仲直りしていたでしょう。 
間に立つのは国だけではなく、人間関係だって大変よ」 
 
「分かっているけど、間に立てるのは俺しかいないだろう。自惚れとかではなく」 
 
「まあね」 
 
 
 アリサは怒りを収めて、腕を組んで考え込む。一応言っておくと、俺もお節介を焼いた以上考え自体はある。 
 
師匠と桃子の関係性からして、こうした方がいいんじゃないかといった方針は用意している。しかし、あくまでも俺個人の意見だ。 
 
今回仲介に入る上で、対応を間違えれば命取りになる。関係性は二度と正常には戻らないし、どちらにとっても不幸になるだろう。 
 
 
師匠も桃子も俺を責めたりしないだろうが、だからといって間違えていいものではない。自分自身の考えのみで動くのは危険だ。 
 
 
「――今までこうやって相談されたことはあったけど」 
 
「うん?」 
 
「あんた自身の考えはあるのに、事前に相談してきたのは初めてね。特に人間関係については」 
 
「……そういえばそうだったかな」 
 
 
 過去は自分自身が絶対であったがゆえに、今は自分自身の責任であるがゆえに。 
 
一度方針を決めれば、まず行動に出ていた。責任を果たすべく、自ら率先して活動していた。 
 
自分がリーダーとして仲間や家族に命令したことだってある。生死に関わる命令であろうとも、俺は彼女達を信じて戦場へ送り出した。 
 
 
こういった人間関係のデリケートな問題について、行動する前に事前相談したのは初めてな気がする。 
 
 
「まずいきなり二人を会わせるのはやめた方がいいわね」 
 
「俺が仲介に入っても厳しいか」 
 
「両方から口出ししないで、とか、黙っててとか言われたらどうするのよあんた」 
 
「むっ……」 
 
 
 桃子や師匠は大人の女性だ、いきなり感情的になるような人間ではない。 
 
言い換えると人間である以上、完璧では決してない。 
 
そして自分の子供がかかっているのであれば、絶対に黙ってはいられないだろう。 
 
 
「だからといって回りくどい真似をしていても埒が明かないわ。 
特にあんた、両者から信頼があるとはいえ、この件については赤の他人だからね」 
 
「そこがネックなんだよな……関係ないでしょうとか言われたら一番困るし」 
 
「そうそう、つまりこの点が今あんたが言ったように一番の問題点。 
ここを理解しない行動しても失敗に終わるだけなのよ」 
 
 
 行動する上でリスクを考慮するのは当然だが、そのリスクを検討違えるととんでもない事になる。 
 
アリサはまずやってはいけないことを挙げた上で、俺に問題点が何か気付かせたのである。 
 
一番間違えてはいけない部分を分かっていれば、少なくとも最悪の事態を回避することは出来るかもしれない。 
 
 
その上で最善は何か、考える。 
 
 
「人間関係に完璧な答えはないけれど、この場合だと一番いいのは桃子さんとまず二人っきりで話す事からじゃないかしら」 
 
「桃子と二人で?」 
 
「曖昧にぼかして桃子さんを美沙都さんに会わせようとするのは駄目。 
だからといって桃子さんに率直に話しても、拒絶される可能性もある。 
 
話し方には注意がいるけど、美沙都さんがあんたの恩人である事をまず話すのよ」 
 
「それはえーと、馴れ初めを話せってことか」 
 
「そうそう、本題である美沙斗さんへの仲介を話すのではなく、今の美沙都さんがどういった人なのかまず説明するのよ。 
だって桃子さんの中の美沙都さんは、我が子を捨てた人のように思われているかもしれないもの。 
 
彼女の中の人物像を現実と同じように修正してから、事情を説明すればいいのよ」 
 
「おお、なるほど」 
 
 
 いきなり会わせて昔と今の彼女が違うのだと説明しても、聞き入れてくれない可能性がある。 
 
桃子の中の師匠が我が子を捨てた薄情な実親だという誤解を、まず解いてから合わせればいいのか。 
 
そのためにも本人の居ないところで、桃子と落ち着いた場所で話し合う必要がある。 
 
 
まあ実際我が子の育児をしていないのだから、薄情に思われても仕方がない面はある。とはいえ、少しでも修正できるのであればやってみる価値はある。 
 
 
「分かった、助かったよ。桃子に早速連絡を取ってみる。しかし、長話になりそうだな」 
 
「だからこんな大事な時期にやるなって言ったのよ」 
 
 
 アリサの正論パンチは相変わらず切れ味抜群だった。 
 
とりあえず激励されたと思っておくことにして、桃子に連絡を取ってみる。 
 
 
喫茶翠屋で、時間をとってもらえることになった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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