とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 第百三十一話
                              
                                
	 
 師匠との話し合いを終えて、マンションへの入居手続きも完了。日本での滞在時に使用する部屋の筈なのだが、アリサは正式な契約手続きを行っていたので恐ろしい。 
 
チャイニーズマフィア襲撃事件は犠牲者こそ出さずに済んだが、一歩間違えれば大惨事となっていたテロ事件だ。一日を終えて、俺達は疲労でそのまま休んだ。 
 
次の日以降は表立った行動には出ず、情報収集に務める。マフィア達は撤退したが、依然狙われているのは事実だ。迂闊な行動には出ず、状況をまず見定める事にした。 
 
 
まず事件についてだが全て隠蔽はされなかったが、世界を激震させる程にはならなかった。 
 
 
「日本でテロ事件を起こす計画が立てられていたが、国際的協力によるテロ撲滅の流れで未然に防いだ事になっているようだ。 
ふん、本当は我が父が解決へと導いたというのに調子の良い連中だ」 
 
「実際に防げたのはお前らの力あってこそだからな。師匠の存在も大きかったし、国際的に協力したというのも間違いじゃない」 
 
 
 今日に立派に家政夫をしてくれている娘ディアーチェがエプロン姿で可愛らしく憤慨しているのが、何とも微笑ましい。 
 
ティオレ御婦人が脅迫を受けた事件については、アルバート議員を筆頭に政府関係者が尽力してくれた結果、俺の存在が明るみに出る事もなく政治的解決を行った事になっている。 
 
上海で起きた要人暗殺事件による恐怖も、日本でのテロ防止による報道が全てではないにしろ、緩和してくれるだろう。 
 
 
犯人達はまだ捕まえられていないが、犠牲者を出さずに防げたのはやはり大きい。 
 
 
「ティオレ御婦人のその後の様子はどうだ」 
 
「フィリス先生からもお礼と共に連絡を貰えましたが、事件による影響もなく元気に過ごされているようです。 
精神的な負担になっていなくて、本当に良かったです」 
 
「ふん、このアタシがわざわざ調整してあげたんだから、元気に生きてもらわないと困るわよ」 
 
 
 不治の病で立ち上がるのも困難だったティオレ御婦人を元気にした二人、ユーリとイリスはそれぞれ対象的な印象を語った。似ていないようで似ている姉妹的な関係になっているな。 
 
ティオレ御婦人の容態は二人の言葉そのままで、元気にしたのであって健康になったのではない。ユーリの生命操作能力とイリスの生体解析能力で健康体にしたのである。 
 
つまり不治の病そのものは根治していないので、寿命のロウソクを伸ばしたのではなく太くしたと言った方が正しいか。元気に燃えているけど、時が来ればやはり消えてしまう。 
 
 
まあ少なくとも世界ツアーは元気に歌えるらしいと、フィリスはもう本当に嬉しそうに語っていたようだ。 
  
「父上の世界では、病は気からという言葉もありますが、体が健康になっただけでも前向きに生きていけるでしょう。 
心身共に衰弱していると御本人はおろか、周囲にまで悪影響が出てしまいますからね。 
 
テロ行為はまさにそうした弱みに付け込む活動、今回の事件を防げなければ被害は飛躍的に拡大していたはずです」 
 
「お前が事前に想定して行動に出られたことはやはり大きいな、助かったぞ」 
 
「いいですよ、父上。娘をそうして褒めることで、娘もまた前向きに成長できるのです。 
いずれは親子を超えた愛情を得られることも夢ではありませんよ、父上。さあさあ、頭を撫でれば、俗に言う撫でポを――」 
 
 
「パパ、ボク達も頭を撫でてー!」 
 
「わーい!」 
 
 
「アホを増長させるな!」 
 
 
 ちょっと褒めてやると途端に鼻高々になるシュテルに合わせて、レヴィやナハトヴァールに元気に手を上げる。こいつらは元気というより、現金といったほうが正しい。 
 
子供の時分にテロ事件に巻き込まれたとあればトラウマになっても不思議ではないのに、ユーリ達はワイワイ騒ぎながら事件のことを語っている。 
 
本人達はなんでもないことのように話しているが、実際は本当にお手柄だった。ユーリやイリスが居なければティオレ御婦人は駄目だっただろうし、シュテル達が居なければマフィア達も撤退しなかった。 
 
 
少しだけ懸念があるとすると―― 
 
 
「元気なのはいいけど注意はしなさいよ、あんた達。 
魔法だろうが、超能力だろうが、テロリスト達には能力者として知られてしまったのは事実なんだから。 
 
テロリスト達にとっては良くも悪くも格好の的になった筈よ」 
 
 
 メイド服で仕事をしていたアリサが、元気な子供達を諌める。家族になってまだ日の浅いイリスもはーいと素直に返事した。メイドのくせにすごい躾だな、あいつ…… 
 
俺が今回魔法を全てHGSによる超能力だと演出したことは、ティオレ御婦人達にとって受け入れやすい要素となったが、同時にテロリスト達には脅威として受け止められてしまった。 
 
異世界ミッドチルダの魔法なんてファンタジー要素でもない限り説明しようがない概念なので、地球上で説明するには超能力というしかなかったのだ。 
 
 
能力者だと認識されるのは一長一短ある、どちらに転んでも異能力者だと見られてしまうからだ。 
 
 
「ティオレさん達はフィリス先生の存在もあるし、治療してくれたから好意的に見られてるけど、医療チームだけではなくあの場に居た警備チームにも見られてる。 
全員倒されていたみたいだけど、それでも知られたことは無視できないわ」 
 
「口止めしてもらうしかないけど、連中だってプロだからな。面白おかしく公言したりはしないとは思うが」 
 
 
「テロリスト達が情報工作で噂ばらまいたらどうするの、あんた」 
 
「げっ」 
 
 
 やばい、そこまで考えていなかった。いやしかし、ユーリ達の力なくしてあの局面は打破出来なかった。使わなければよかったと考えるのは間違っている。 
 
ユーリ達は勿論ティオレ御婦人達の為に頑張ってくれたが、何より俺に頼まれたからこの世界で魔法を使ってくれた。シュテルがさっき言ったように、褒められたかったからかも知れない。 
 
強大な力を持っていたって、ユーリ達はまだ子供なのだ。特にイリスは生意気な態度こそ見せているが、こいつはつい最近父同然だった男に酷く裏切られたばかりなのだ。 
 
 
この子達の頑張りを無駄にしてはいけないし、何より否定なんてしてはいけない。後悔なんて以ての外だった。 
 
 
「勿論、この子達は俺が守ってみせるさ」 
 
「具体的には?」 
 
「それを考えるのがお前の仕事だろう」 
 
「あたし頼りじゃない!?」 
 
「大丈夫、お前も俺が守るから」 
 
「……あんた、それを言えば済むと思ってるでしょう」 
 
 
 アリサは大げさに肩を落としつつも、やれやれと苦笑いしてパソコンに向かっていく。 
 
後始末を押し付けてしまった形にはなったが、本当にいざとなればあらゆるコネを使ってこの子達の名誉は守るつもりだ。 
 
まあ最悪事件を片付けて、ほとぼりが冷めるまで地球から離れてもいいしな。超能力だの何だのなんて、時が過ぎればさっさと風化するだろうし。 
 
 
それに何より連中を叩き潰せばいいだけだ。 
 
 
「それはそうと、あんた」 
 
「どうした、アリサ」 
 
「フィアッセさん、昨日からのあんたの行動を怪しんでるわよ」 
 
「げっ」 
 
 
 流石に放置しすぎたか、恋愛脳の分際で勘繰りやがるなあいつ。 
 
ティオレ御婦人の極秘来日は秘密となっているが、秘密にしていた理由は不治の病だからだ。 
 
元気にはなかったんだから、説明の仕方はあるのだが、そうなると今後は脅迫事件のことをどうにか理由付けないといけない。 
 
 
どこからどう説明するべきなのか、ちょっと苦労するなこれ…… 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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