とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百二十九話



 墓参りも済ませて、良い話風に一日が終わろうとしているが――俺は誤魔化されなかった。


「故人との誓いを終えたところで、高町家にご挨拶に行きましょうよ」

「ちっ、面倒な奴だな……」


 何か師匠の態度に遠慮が無くなってきた気がする。墓参りを終えて師弟関係が深まったのだと、好意的に見るべきか。

多分墓参りにおける故人への誓いを果たし、改めて復讐とその後の再起を約束して、務めを果たしたのだという空気にさせたのだろうが誤魔化されないぞ。

俺がその点に追求すると、師匠は露骨に舌打ちをして俺を睨む。普通に怖いが、怯えているようでは師弟は務まらない。


とはいえ、及び腰になってしまったのは許してほしい。


「無理強いする気はないですけど、本当にこのままでいいんですか。折角日本に来たのに」

「日本に来たのはあくまでもクリステラの護衛と香港警防の任務、そして復讐の為に過ぎない。
まあ一応、お節介な弟子の顔を見に来たのもあるが」

「くっ、師匠も結構言いますね……」


 意趣返しと言わんばかりに俺を気遣う発言をする師匠の意地悪な顔を、俺は睥睨する。たまにそういうところを見せるので、この人は怖い。

師匠に嫌な顔をさせたくはないのだが、弟子の立場から言わないといつまで経ってもこのままだろう。

友人や知人、家族の立場では言えないことだ。距離感が適切な師弟くらいがちょうどいい塩梅だろう。


俺は咳払いをして、改めて述べる。


「家族円満に和解といかないのは分かっています。事情も複雑でしょうし、俺も他人なので深入りも出来ません。
ただいつまでもこのままというのは良くないんじゃないですか。

師匠だって墓の前で言ってたじゃないですか、今は復讐だけではないと」

「捉え方を間違えるな、良介。確かに私はお前と出会う前のように、復讐のためなら何でもする心境ではない。
ただ復讐という一点について、私は揺るぎはない。
お前と出会ってかつての温情を思い出したのは事実だが、それでも私は奴らを許せない。

矛盾しているように聞こえるかも知れないが、私はお前には人を殺してほしくはないが、私は必ず奴らを殺すつもりだ」


 師匠の視線を見つめ返すが、揺るぎはなかった。やはりその一点は何者にも変えられないか。

俺としても正義感なんぞ微塵もないし、倫理観も持ち合わせていない。まして悪人が相手であれば、復讐しても何も思わない。

そもそも俺だって理不尽な逆恨みで、あのマフィア共に狙われているのだ。あんな奴らさっさと死ねばいいと思っている。


ただ今の話を聞いていて、ふと疑問に思ったことがある。


「そもそも師匠、今は香港特殊警防隊に所属しているんでしょう。
任務の内容を一般人の俺が聞き出せませんが、マフィア達を捕まえる命令が出たらどうするんですか」

「なるほど、そう言えばその点については言及していなかったな。
結論からいうと、任務には可能な限り従うつもりだ。お前との出会いにおける心境の変化は、此処にも影響を及ぼしているな。

捕まえれば社会的にあっても制裁されるし、ましてチャイニーズマフィアの龍ともあれば抹殺されても不思議ではない」

「何が何でも自分の手で殺すつもりはないんですね」

「復讐という見方によるが、私としては根絶できればそれでいい。
……死んだあの人達も私には本来それを望んでいるようにも思っているしな」


 まあ今の国際社会、香港の事件で逆風が吹いてしまったとは言え、マフィア撲滅の流れになっているからな。

チャイニーズマフィアの龍は長年裏社会を支配していた巨大組織、全てを根絶するのは裏社会への影響もあってこれまでは難しかった。

しかし今は夜の一族、そしてディアーナとクリスチーナのロシアンマフィアが繋がって動いているし、連中の目的もチャイニーズマフィアの殲滅である。


表裏問わず世界が動き出している今であれば、法による裁きであっても厳しい報いを受けるだろう。


「捕縛なり抹殺なりを果たしたら、その後師匠はどうするつもりですか」

「事後処理もあるから、少なくとも年単位で香港特殊警防隊に務めることにはなるだろうな。
厳しい任務ではあるが、裏で動くよりも今の私の性にはあっている。

少なくとも今の私が真っ当に生きるのは難しいからな」

「そんな事はないですと言いたいところですが、私も似たような立場なので耳が痛くなりますね」

「お前のほうがよほど表社会に復帰できるだろう。まあ平和な日本の国で生きる他の若者たちとは違うだろうが」


 師匠は夜の一族と契約しているので、今の俺の立場はよく分かっている。

俺は別に特別でもなんでもないが、マフィアに命を狙われているという点において一般人とは少し異なる。

あと学歴や職歴もない孤児で、日本や海外でテロ事件に関わっていた日本人ともなると、顔や名前が表に出ていなくても更生には時間がかかるかも知れない。


この点は俺もあまり師匠のことは言えないな。


「日本に住むのは少なくとも今は考えられず、頻繁に連絡も取れない。だから今の段階で高町の家にも顔が出せないということですか」

「それもあるが……まあいい。いい加減追求されるのも嫌なので、腹を割って話そう。
そもそも高町の者達に合わせる顔がない」

「うーん……」

「私の事情は精通せずとも理解はしているだろう。お前ならノコノコ顔を出せるのか、彼らに」

「……うーん……」


 正直アリサと出会う前の俺なら余裕で顔を出せるけど、ユーリ達がいる今の俺ならちょっと気が咎めてしまう。

この点は正直指摘されると思っていたし、説得するにあたって難航するのは目に見えていた。そりゃそうだろという話だしな。

だからといってこのまま日本を離れたら生涯会わないだろうし、平行線のままで人生が終わってしまうだろう。


別に俺が困る話ではないのだが、師匠には世話になっているので人生を取り戻す手助けをしたい。


「段階を踏むのはどうです、師匠」

「お前は本当にめげないな……それで、段階とは何だ」

「確かにいきなり高町の家を訪ねるのは気が咎めるし、一生分の勇気がいるでしょう。
だから直接本人を訪ねるのではなく、少しずつ段階を置いて接していくんです」

「そうはいってもな……お前がいう最初のステップは何だ」


「美由希に合わせる顔がないと言ってましたよね。
あいつの保護者である桃子に話すのはどうです?」

「……高町さんに? いや、しかし――」


「養育義務の放棄は流石に謝るべきだと思いますよ、俺」

「ぐっ……」














<続く>








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