Ground over 第一章 -始まりの大地へ- その5 世界
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俺達が住む「地球」。
宇宙においては塵にも満たない小さな星の中でも、さまざまな生命が存在する。
動物、植物、そして人間。
一つの生命体に過ぎない人間も群さまざまな価値観、文化は存在する。
協調しえる思考もあれば、否定されし私論もある。
一つの世界の中で、全てが一つに収束される事は決してない。
悲しいが、それが生まれてきた生命の運命なのかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・・」
「ふーむ・・・・」
全ての説明を終えて、俺はコーヒーを一啜りする。
『トランスレーター』を装備する事により気づいた事だが、この世界には俺達の知っている物も存在するようだ。
メニュー覧に書かれている料理は、知らないものもあるが知っているメニューも存在する。
コーヒーやケーキ等がそれだ。
「京介様の世界は、すごいんですね〜」
俺の説明をじっくりと聞いたキキョウの第一声がそれだった。
あまり感心する事もない気もするが、それは俺の知っている世界だからだろう。
知らないものからすれば、立派に人外魔境かもしれない。
親父さんとカスミの表情を見れば、それがうかがえる。
特にカスミは、明らかに信用していないようだ。
「つまり、お前達の世界じゃ、そのカガクとかいうのが生活の中心という事か」
親父さんは、ざらついた髭を撫で回す。
「まあな。詳しい説明は理解してくれるかどうか怪しいから省くけど、
俺達の生活を支えてくれて、未来を明るくしてくれる立派な技術だ」
俺は誇らしげに、胸を張る。
ああ、科学の素晴らしさをこいつらにとことんレクチャーしたい!!
「未来を明るくか。そんな便利なものが存在するのか?」
「なんだよ、俺の言う事を疑うのか?」
カスミは、つん、とそっけなく言った。
「不振人物の言う事を素直に受け入れるほど、私は馬鹿正直ではない」
くそう、こいつ腹立つ〜〜
思いっきり文句を言ってやりたいが、仮にも科学者を目指す俺だ。
自分の説明を受け入れられないからといって、怒鳴っては半人前だ。
相手に納得させる理論を展開してこそ、一人前である。
「信じる信じないは別として、俺達が違う所から来たのは事実だぜ。
そこの虫が証明してくれる」
「うえ〜〜ん、その虫っていうのをやめて下さいよぉ〜」
「まあ京介の説明は、若干自分の妄想を加えているが、我々が違う世界から来た事は本当だ。
京介も説明で言ったが、我々の世界では『科学』というものが存在している。
いさかかこの技術に頼り過ぎているが、この技術が我々の世界を支えている事は確かだ。
浪漫も超常現象も少ない、俺には不満足な世界だが」
「こらこら、お前こそちゃっかり自分の感想を入れているじゃねーか」
葵の説明聞きとがめて、俺は横から横やりを入れる。
「だって、本当に未知的要素が少ないだろう。
徹夜で墓場を張り込んで、心霊写真を一枚も取れなかった俺の気持ちが分かるか!?」
いや、そんな泣きながら言う事じゃないんだろう。
少し哀れになった俺は、それ以上つっこむのはやめておいた。
「まあ、とりあえず俺達からの説明は以上だ。それで、だ」
俺は、いよいよ本題に入る。
「まず、俺はこの世界に興味はない」
「おい!?俺はものすごく興味があるぞ!」
「お前はちょっと黙ってろ。
この世界は何であるかとか、どういう仕組みになったいるのかなんて、俺に意味の無い。
だから端的に聞くぞ。
『ここが何処か?』、『どういうやり方で俺達をよんだのか?』、『どうやって帰れるのか?』
この三つを知りたい」
俺は言い切って、目の前の親父をじっと見つめる。
多分、この人が一番きちんと説明してくれる気がするからだ。
キキョウだと説明に時間がかかりそうだし、カスミに至っては不審者扱いされている。
「そうだな、一からいろいろと説明するのは面倒そうだ。
よし、じゃあ簡単に説明してやろう」
親父さんはそういって、何やらカウンター内をごそごそする。
すると、俺達の前に一つの地図が『映像』として出てくる。
「こ、これ、立体映像か!?」
俺の達の視線よりやや上に浮かぶ大きな地図の映像。
その映像には、一つの大きな大陸が描かれていた。
縮尺はどれほどなのかちょっと判別できないが、ヨーロッパ大陸の地図を連想させる形だ。
その映像は、テレビの画面を切り取ったような精巧さがある。
「どうやら驚いたようだな。
これは『コンティネル・エナジー』を利用したアイテムの一つ、『ビジョン』だ。
俺達の世界ではこの『ビジョン』で連絡を取り合ったり、このようにいろいろな情報を見せる事が出来る」
親父さんは、カウンターの中から長方形の小さな箱を見せる。
それは全体を金色で覆っており、箱の先に蒼い結晶のようなものが張り付いている。
どうやら、この結晶から光が発して、『映像』は大きく表示されているようだ。
「つまり、俺達の世界で言う携帯電話みたいな感じか」
葵は、納得したように頷く。
「そっちの世界にも似たようなのがあるようだな。
まあ、その辺の詮索はやめておこう。
じゃあ次に、お前さんらが今、何処にいるかを説明するぞ」
親父さんが『ビジョン』を弄ると、地図は更に拡大されて、大陸が大きく表示される。
「この大陸の名は『セイロン』。
俺達やお前さん達がいるのは、大陸の西に位置する『フレーバーティ』という国内だ」
『ビジョン』が輝き、地図は大陸の西に縮小される。
「それで、その『フレーバーティ』国の中央に広がる『アール高原』。ここが現在位置だな」
「なるほど、この世界はこの大陸だけなのか?」
俺は地図に出ている大陸の外側を指差して、質問する。
「大陸の外は、海に覆われている。そこから先は、誰も知らない事だ」
「ほう・・・・それはすなわち未知の領域であると?」
好奇心を多いに刺激されたのか、葵は身を乗り出す。
「禁断の領域ともいえるな。外海に出る事など無謀の極みだ。
今まで多くの冒険者達が外海に挑戦したが、帰ってこなかった」
それまで黙っていたカスミが、静かにそう言った。
この世界じゃ、まだまだ人間が知らない場所があるという事か。
「とりあえず、現状位置については分かった」
「そうか、じゃあ次にお前さん達がどうやって来たか、だな。
これは、そこの譲ちゃんに聞いた方が早いだろう」
親父さんがキキョウを指差すと、待ってましたといわんばかりに話し始める。
「京介様達をここへお呼びしたのは、実は私が高原を散歩してましてぇ〜・・・」
「そこをモンスターに襲われて、魔法とかで呼び出したんだろ?」
「すごいですぅ!?どうやって分かったんですかぁ?」
「お前がさっき話したんだろうが!そうじゃなくて、どうやってよび出したんだ?」
真剣に感心しているキキョウに、俺は頭を抱える。
「あ、京介様は『術』について何も知らないんでしたねぇ〜
ではでは、きちんと説明しますねぇ」
「おお、それはぜひ俺も知りたいところだ!!!くう、生まれてきて良かった!」
キキョウの説明は「ですからぁ〜」とかいらない単語はある上に、分かりずらいので俺が要約すると、
『術』というのは、『コンティネル・エナジー』という力を利用した一種の『超能力』であるらしい。
『コンティネル・エナジー』とは、この世界全体を構成する一要素らしく、
人間のみならず、植物、モンスター、そして無機物にまでこの力は備わっているらしい。
この力は「地球」でいう「資源」にあたり、この世界の「生命」とも言えるそうだ。
世界に蔓延するこの力を使用する場合、まず使用者がこの力を自分で「感知」する。
そして「感知」したエネルギーを、己の精神で「イメージ」、「具現化」し力は発動される。
「具現化」されて発動したその「力」こそが、「術」と呼ばれるらしい。
「つまり、その『コンティネル・エナジー』はこの場所にもあるわけか?」
俺は説明を聞き終えて、きょろきょろと周りを見渡す。
「はい、空気と同じようなものですねぇ」
「なるほど、まあ理屈は分かった。聞いてみると、結構応用がきく力だな」
「はい、『コンティネル・エナジー』を利用する「術」は使用者の「イメージ」により変化するんですぅ。
『火』をイメージすれば火になりますしぃ、『水』をイメージすれば水になりますぅ」
「なるほど、なかなか素晴らしい力だ。いかなる変換も可能とは!
ここは一つ、この俺も学んでみるかな」
葵はさっそく何やらむにゃむにゃと呟いて、変な動作を繰り返している。
「・・・葵様、何をやってらっしゃるのですかぁ?」
「・・・どうやら、さっそくその『術』とかを使ってみようとしてるんだろう」
「何を馬鹿な。たやすく使える力なら苦労はない。
力の「感知」、「イメージ」、「具象化」、全ての制御に数年は修行が必要なのだぞ」
カスミは呆れた様子で、葵を見ている。
とりあえず、トリップした葵はほっておこう。
「それで俺達を呼び出したのも、その『術』か?」
「そうですぅ、『術』には、その不変な力により体系があります。
その中で『召喚』と名づけられているのは、『コンティネル・エナジー』を利用して、
世界の壁、いわゆる空間に穴をあけるんですぅ。
そして別世界にチャンネルを繋いで、助けを呼びますぅ。
ただ、別世界にリンクするには、特殊な単語を唱える事が必要なんですけどねぇ」
あの時、頭の中で聞こえた声は、特殊な言葉とやらだったのか。
「キーワードって奴か?」
「はい、その言葉を唱える事によって、この世界と別の世界を繋げる訳ですぅ」
「ふーん、でもよ、お前は俺の世界を知らなかった訳だろう?
何で俺の世界にコンタクトをとってきたんだ?」
お陰で、俺がこんな目をあってしまったんだ、まったく・・・
「えーとぉ、それが〜〜〜〜〜〜」
?何やら歯切れが悪いな。
俺はいやな予感がして、キキョウに重ねて尋ねる。
「おい、ちゃんと説明しろよ。ここからが重要なんだろうが」
「えーとですねぇ、通常は『召喚』は『スプリット・ハイド』にコンタクトを取るんですぅ」
スプリット・ハイド?
そういえば、さっきカスミがそんな事を言っていたような・・・・
「『スプリット・ハイド』とは、人間以外の異種族の楽園といわれている場所だ。
さまざまな聖獣や妖精達が住んでいる」
俺の視線に気がついたのか、カスミは淡々と話す。
「ふんふん、つまりそこから助けを呼ぶ訳か。じゃあ、何で俺の世界に?」
「それがその〜〜〜〜〜失敗したんですよぉ」
「何だと?」
俺は眉をひそめる。
「うぐぅ・・・私は実は半人前でしてぇ、きちんと『術』が使えないんですよぉ。
でも、でもモンスターさんに追いかけられて、恐くて、咄嗟に使ったんですぅ〜」
・・・・・・・・・・。という事は、ひょっとして・・・・・
恐ろしい事実に気がついて、俺は顔から血の気がひく。
「え、え−とぉ〜〜、京介様の世界とコンタクトをとれたのはぐ、偶然でして・・・」
おーーーーーい!?
「じゃ、じゃあ俺達を帰す事は・・・・」
「ご、ごめんなさいぃ!!私じゃできません!!!」
ガァァァァァァァァァァァァァァンーーーー!
あまりに衝撃事実に、俺の頭の中で崩壊の音が鳴り響く。
「嘘だろう!?しゃれになってないぞ、おいーーー!!」
カウンターをバンと叩いて、俺は絶叫した。
<第一章 始まりの大地 その7に続く>
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