Ground over 第一章 -始まりの大地へ- その4 出会い




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「アルチ、ヘルレケアハソウカ!」


シルバーブルーに輝く鎧(と言っても胸のみ覆う部分鎧であるが)に、

腰に一振りの剣を提げた女性が、こちらをじっと睨んでいる。

見た目は大体俺と同じか、やや年上の感じの女性で、

セミロングの空色の髪にブルーの瞳、そしてはっとする程の端整な顔立ちは、見る者を惹きつける程だ。

特に瞳には意志の強さを宿しており、それがさらに彼女の魅力を高める要素となっていた。


「アルメリア、ヘルシカメルトイウノレア」


そんな彼女は俺達、いや俺に対して何か非難しているように言葉を紡ぐ。

だが、怒っているという気持ちは伝わるものの、彼女の意志はまったく聞き取れなかった。


「・・・・・・何て言ってるんだ、この人?」

「いや、俺に聞かれても困る。彼女に通訳してもらってはどうだ?」


葵は、困ったようにおろおろしているキキョウを指差す。

確かにそうでないと話は出来ないな。


「おい、そこの人外の生き物」

「京介様、いつも私にはきついですよぉ〜。
とそれより京介様、あの方京介様に怒ってらっしゃいますよ」


それはこっちをじっと睨み付ける彼女を見れば分かる。


「何で怒ってるんだ?あいにく俺は彼女が何を言っているのかさっぱり分からないのだが」


俺達が話している間にも、彼女はこちらにくどくどと何かを言っている。

俺が返事をしないのが不満なのか、どうやらエスカレートしているようだ。


「えーとですね・・・『貴様か、さっき私を笑ったのは?』って言ってますよぉ」


なるほど、どうやらさっき俺が笑った事に対して何か誤解をしているらしい。

合点がいった俺は、キキョウに通訳してもらう事にした。


「じゃあ『違う、俺はお前に対して笑った訳じゃない』って言ってくれ。
それと言葉が分からない事も含めてな」


「分かりました!お任せ下さい」

キキョウは小さい胸を張って、目の前の女性に向かって話しかけた。

彼女は言葉を聞いて驚いたようにこちらを見て、今度は不振げな視線を向ける。

やがて、キキョウはこちらへ戻ってきて、


「京介様、えーと・・・・
『言葉が通じないだと?貴様ら、この国の者じゃないな。どこから来た?』
って言ってますぅ。それと『見慣れない怪しい格好をしている』とお二人を疑っているようです」


いや見慣れない格好をしているというのなら、俺にとってお前の方が充分怪しいのだが。

。 何しろ俺にとっては蒼い髪にブルーの瞳、そして言葉が通じないという時点で立派な外人なのだ。

ましてや鎧姿なんて、ゲームの世界か遊園地のショーでしか見た事がない。


「怪しい格好とは失礼だな。私のこの姿はトレードマークなのだぞ!」


葵は怪しい呼ばわりされたのが不満なのか、堂々と胸を張って見せ付ける。

ちなみに今の俺達の服装はというと、俺は長袖の紺のセーターにジーンズ。

目には眼鏡をかけて、愛用しているリュックに科学発明に使う材料や工具を入れている。

葵はというと、上はブルーのTシャツに黒のジャージ。

トレンドマークと本人が自慢している額の紅いバンダナに、黒の鞄を持っている。

葵は怪しいというのは分かるが、俺が怪しい呼ばわりされるのは納得がいかない。


「じゃあ『俺達が怪しいと言うのなら、お前だって怪しいじゃないか』っていってやれ」

「ええ!?そんな事を言ったら怒ると思いますよぉ」

「人を怪しい呼ばわりしておいて、言い返さないのは俺のポリシーに反する。
ほれ、さっさと通訳してこい」

「は、はあぁ・・・・・」


しぶしぶといった感じで、キキョウはふよふよと女剣士(仮名)に近づいていく。

彼女はキキョウの言葉を聞いて、きっとこちらを睨み、ずかずか近づいて来る。


「キシモレル、ナダイテルノカア!」


ものすごい握力で、俺の胸座を掴みあげる。

く、苦しい・・・・・


「いきなり何をしやがる!こら、その手を離せ!!て、言葉通じないんだったーー!?」


じたばた暴れてみるが、彼女はよほど怒ったのか手を離さない。


「こら、葵!!見てないで助けるよ」

「いや、とばっちりを食うのはごめんだからな。頑張れ、京介」


完全に面白がっている様子で、葵は端から見物している。

この野郎・・・・ 後でお前の鞄を改良して電気が流れるようにしてやる!


「ユビリアウン、レイヲシテヤリマスネリマス」


それにしても女なのにどういう握力をしているんだ、こいつ。

こっちは両手で離そうとしているのに、まったくびくともしない。

くそ、どうするか・・・・・


「京介様!レイヲシマコロテリ、フリシテレレバ」


キキョウは女剣士に、必死で何かを話しかける。

すると彼女は少し力を緩めたので、俺はぱっと彼女の手を払い、距離を取る。


「ゲホ、ゲホ・・・まったく殺す気か、こいつ」

「ははは、兄ちゃん災難だったな。ほれ、これをつけな」


顔を上げると、そこに先ほど女剣士が話していた店の親父が手をさしだしている。

その大きな手の平には、小さな腕輪がのっていた。


「あんた、俺の言葉が分かるのか?」

「ああ、この仕事をしている以上『トランスレーター』は必需品よ。
ほれ、サービスしてやるからつけな」


ごつい体格に似合わず優しい笑顔で、親父はそう言ってくれた。

親父さんの好意に感謝して、俺は腕輪を受け取り右腕に着けた。

すると腕輪はシュッと小さな音が鳴り、俺の腕にすっぽり収まった。

すごい!まるで重さを感じないぞ・・・・・・

まるで自分の体の一部のように、自然に『トランスレーター』は俺の腕に装着された。


「ふーん、変わった素材だよな。一度ばらして調べてみたいぜ」

「おいおい、いきなり壊さないでくれよ。それ、結構高いんだからよ」


店の親父は苦笑して、再びカウンターに戻った。

残されたのは俺達と、そして・・・・


「えーと・・・ 俺の言葉、きちんと分かるか?」

「いやでも分かるさ。 これで話は出来るな。お前、何者だ?その衣服からしてこの国のものではないだろう」

「俺は人間。こう見ても科学者を目指して頑張っている17歳だ」

「カガクシャ?意味の分からん事を。聞かれた質問に答えないとためにならんぞ」

端正な顔を一層険しくして、女剣士は詰め寄る。

何で俺がここまでいわれないといけないんだ・・・?

俺は彼女の迫力に恐怖するより、怒りが勝った。


「別に誰だっていいだろう。大体見知らぬ他人にどうしてそこまで言われないといけないんだ?」

「そこまで怪しいと誰でも尋ねる」

「生憎右も左も分からない人間なんでね、文句ならそこの妖精に言ってもらおうか」


俺がびしっと、先程から不安そうにこちらを見ていたキキョウを指差す。


「ええぇ!?私ですかぁ!?」

「この世界に連れてきたのはお前だろうが。責任とってこの女に言い返せ」

「うう〜、だってだって・・・」

「この世界?どういう意味だ?」


空色の髪をふっと揺らして、女剣士は静かに尋ねる。


「だから、俺はここがどういう世界でどういう場所なのか全然分からないんだよ。
召喚・・・何とかで、無理矢理ここに来させられたんだよ」


店内に、それまでのざわめきにうってかわった静寂間がよぎる。


「友よ」

「何だよ!こっちは今話している所・・・・」

「お前がいいが、俺にはお前達がなにを話しているかさっぱりわからんのだが」

『あ・・・・』


そ、そう言えばすっかり忘れてた。

葵は困ったように、俺と親父さん達を見比べていた・・・・
















「なるほどね、つまりそこの可愛いお嬢ちゃんが『術』をつかって失敗した訳か。
はははは、そりゃあ難儀だったな」

「あぅ〜〜、本当にごめんなさいですぅ」

「いやいや、おかげでこうして我らは美味いコーヒーにありつけた訳だ。
あながち全てが不幸とは言えませんよ」

「お、言うね、バンダナの兄ちゃん。よかったらケーキも食べるかい?」

「お腹が空いていたので助かります、ぜひいただきましょう」


俺達は今店内のカウンターに座って、コーヒーを飲んでいた。

お客さんは俺達以外にいないので、比較的がらんとしている。

そこで親父さんが「取り合えず落ち着け」と、わざわざコーヒー入れてくれたのだ。

葵も親父さんと話が合うのか、しきりにいろいろな話をしている。

まったくこいつは呑気なもんだ・・・・


「ほい、ショートケーキ お待ちどうさん。それであんたら二人がここへ辿り着いた訳か」

「んぐんぐ・・・そういう事だ。それでとりあえずいろいろと聞きたくてな」


皿にのったケーキをあっというまに平らげて、俺は口のまわりを拭く。

品がないというなかれ。腹が減っては戦が出来ぬというものである。


「お前達の話が本当だとすると、一体お前達は何処から来たんだ?」


俺の隣で紅茶を飲みながら、先程の女剣士は質問をしてくる。


「それはだな、えーと・・・・そういえば名前を聞いてなかったな」

「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀だ」


なかなか生真面目な性格のようだ。

でも道理なので、俺は自分からきちんと名乗る事にした。


「俺は『天城 京介』。そっちのケーキを食べている男は『皆瀬 葵』。
俺の肩にとまっているこの虫が『キキョウ』だ」

「うえ〜〜〜ん、京介様、ちゃんと紹介して下さいよぉ〜〜」


小さな羽をフルフル動かして、キキョウは涙目で懇願する。


「『スプリット・ハイドの華』とよばれる妖精を虫扱いとはあきれた男だな」

「スプリット何とかの華?よく分からないけど、こいつが華とかよばれるたまか?」


手で捕まえて、ピンクの髪をちょいちょい引っ張る。

まあ確かに愛らしい顔をしているし、日本で存在すれば子供に人気が出そうではあるが。


「それはお前の美的感覚に問題があると思うぞ。俺から見てもそれは奇麗だからな」

「うるさいぞ、葵。で、こっちは名乗ったぞ、お前の名前は?」

「・・・カスミ。カスミ=メルレイトだ」

いかにもしぶしぶといった感じに、女剣士−カスミ−は答えた。

キキョウもそうだけど、名前は「名前=性」なのだろうか?


「分かった。さてと、じゃあ早速だけど聞かせてもらおうか。
ここが何処の世界で、俺達がどういう所にいるのかを」


コーヒーを一啜りして、俺は親父さん、そしてキキョウに話を促す。

どうやらカスミにはあまり好かれていないようなので、俺は二人に聞いた。


「うーん、何処の世界といわれても説明が難しいな。
自分の世界がどういう所なんて普段考えたりしないからな。
お前さん達だって自分の世界に疑問を持ったり、どういう所かなんて考えたりしたか?」

言われてみると、確かに俺は日本に住んでいて世界に疑問を持った事はない。

日常に不満はなかったし、世界のあちこちで戦争などが起こったとしてもそれほどの関心もなかった。

何故なら自分の視野に入る場所から、あまりにかけ離れていたからだ。


「確かにこの親父さんの言う通りだ。
友よ、ここは我々の世界がどういう所なのかを話してからにしよう。
そうすればこの世界との違いが分かるはずだ」

葵は至極もっともな事を言う。


「正直、わたしもまだお前達の言う事を信じた訳じゃない。聞かせてもらおう。
幸い仕事までまだ時間はある」


カスミはちらっと親父さんを見る。


「ああ、迎えまでまだ時間はある。すまねえな、待たせちまって」

「今後はこういう事はないようにしていただきたいものだ」


親父が苦笑いをすると、カスミは呆れたようにため息を吐く。

どうやら先ほど話していた口論と何か関係があるらしい。

まあ、俺には関係はないが。

「とりあえず、かいつまんで俺達の事を話すことにするか。
まず、俺達がいた所は・・・・」


俺は「地球」の事、「日本」の事それらを含めて話し始めた・・・・
















<第一章 始まりの大地 その5に続く>

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