Ground over 第四章 インペリアル・ラース その11 散弾






 船がふら付いて、船内を走り回るのが非常に困難になっている。

船室のあちこちから悲鳴や動揺が漏れて、船員も事情説明に奔走している状態だ。

このまま続けばパニックになって、客の中には暴走する人も出てくるかもしれない。

一人でも犠牲者が出れば、もう取り返しがつかない。

俺は急いで船倉まで行って、バイクと共に置いてきた勢作物を全て持っていく。

酔いそうな船の揺れを頑張って踏ん張り、甲板まで出て行く。

葵やカスミ、氷室さんやキキョウが既に待機していた。


「――説明するぞ。
俺が持っているのは爆裂弾・催涙弾・煙幕弾・照明弾の四種類。
出港前にチェックして使えないのは破棄したから、残存数はそれぞれ一個。
この四つで、俺達はアイツを何とかしないといけない」


 使いたくは無いが、もう贅沢は言ってられない。

キラーフィッシュからの攻撃が何度も続けば、転覆する危険もある。

何としても追い払わないといけない。


「使用は俺がやる。カスミは悪いけど、俺の警護を頼む。
飛びかかられたら対応できない」


 効果的なのは、奴が船に接近する瞬間だ。

奴に衝突して効力を発揮すれば、追い払うのは充分可能だ。

ただ接近した瞬間、甲板にいる俺を襲い掛かる可能性はある。

サメだってそれくらいの芸当はやってのける。

奴の餌になるのは御免だった。


「分かった、それが私の仕事だ」


 剣の柄を握り、カスミは快く承諾してくれた。

カスミの剣の腕はルーチャア村での戦いを見て分かっている。

この船の中で誰よりも心強い味方だ。


「我輩も援護しよう。友との思い出の日々で使い方は熟知している」

「思い出の日々なんて綺麗なもんだったか、アレ?
元々催涙弾とか作ったのは、お前と一緒の行動が危険だったからなんだけど」


 超常現象の噂が立てば、現地へ強制的に連れまわされた日々。

何でか知らないけど、毎度騒ぎが起きて危険に晒されたんだよな……

過去を振り返ると頭が痛くなるので、やめておく。


「後はキキョウと氷室さんか……」

「頑張りまぁーす! 」

「……ます」 


 ――何時の間にそんな良いコンビになったんだ?

キキョウに感化されてか、氷室さんも心なしか表情が凛々しい。

さすがに氷室さんに戦陣に立たせる訳には……

悩んだ末に、二人には別の仕事を与える事にした。


「氷室さんとキキョウは船長の指示に従ってくれ。何かあればこっちに報告」


 豪快な気質の船長を放っておくのも微妙な不安があるので、あっちは二人に任せる。

能天気な妖精と物事に動じない女性の二人なら、相手はきちんと出来るだろう。

二人は了承し、


「……天城さん」

「ん?何、氷室さん」

「――お気をつけて」


清廉な彼女の感情がほのかに伝わってくる。

期待に添えられるかどうかは分からないが、これで腹も決まった。


「大丈夫。やばそうなら逃げるから」


 俺はしっかりと約束すると、氷室さんも安心したような顔をする。


「船の上でどうやって逃げるのだ、友よ」

「水中に逃げれば奴の餌食になるだけだぞ」

「良い場面なんだから茶化すな! 」


 リアリティ溢れる指摘をしてくれた二人に、温かいつっこみをした。















 船長と船員の頑張りか、お客さんのパニックは今の所無い。

不気味に揺れる船内を走る俺と葵、そしてカスミの三人。

横薙ぎに襲い掛かる水しぶきに服を濡らし、船尾へと辿り着く。


「……酷い有様だな」


 葵はポツリと感想をこぼす。

明らかに強烈な体当たりをした痕跡があり、激しい裂傷が船に刻まれている。

抉られていないのは不幸中の幸いだが、万が一穴をあけられたら船は加速的に沈んでいく。

奴の姿は何処にもないが――


「此処は我々が対処する。
貴方達は船底と船腹の見回り、破損箇所の修繕を急いでくれ」

「よ、よろしくお願いします! 」


 必死で修繕作業していた船員達を一旦下がらせる。

キラーフィッシュを退散させるのに使用する武器系統は、多かれ少なかれ周囲に影響を及ぼす。

至近距離に近づいたキラーフィッシュを撃退する予定だが、問題は船に被害が出ないかだ。

そう言う意味では爆裂弾が避けたいのだが、有効的な攻撃力を持つのはこれしかない。

船員達を下がらせて、俺と葵は前に出る。


「友よ、先に使用するのはどれだ? 」

「――」


 そう――第一波、ここが大切だ。

恐らく奴は次攻撃する時はまだ油断している。

最初体当たりしてきた時迎撃が無かったので、気を良くしていると見ていい。

全くの無警戒とまでは言わないが、十分な効果は期待できる。

問題はどれを使うか――?

煙幕弾は対象が動いていれば充分な効果が望めるか怪しい。

照明弾は敵が水中、しかも魚眼にどれほど有効的なのか分からない。

残りは――


「催涙弾と爆裂弾――先に催涙弾を使おう」

「敵を倒すのなら爆裂弾の方がいいのではないか? 」

「至近距離で使用するから、爆発の余波が船にもろに食らう。
投擲するやり方もあるけど、水中を泳ぐ魚に俺達の技量じゃまず当てられない。
避けられて海に落ちるのがオチだ」

「もっともだが――敵は水の中だぞ、友よ」

「俺の催涙弾は目に入れば激痛が襲いかかる。
その刺激に魚が耐えられないだろうから、敵がパニックになった隙に逃げる」


 効果は盗賊団で立証済み。

脳みその無い魚に冷静な対応なんて無理だ。

思いっきりぶつけて、奴の目を故障させてやる。


「分かった。どちらが使用する? 」

「俺がやる。俺の言い出した作戦だからな。
もし失敗すれば爆裂弾で撃退してくれ、葵」

「了解だ。健闘を祈る」

 手荷物から二種類の爆弾を取り出し、一つずつ手に取る。

俺の一歩後ろに立って、葵は慎重に爆弾を掴んで待機。

催涙弾を手に、俺も警戒を強めて水中を覗き込んだ。

何処だ・・・・・・

何処だ・・・・・・

何処だ・・・・・・

何処――っ!



突然、水辺が激しく揺れる!


「もらった! 」


 激しい水音が襲来し、巨大な水柱が目の前に立つ。

俺はすかさずフルスイングして、催涙弾を叩き付けた。

波立つ水の壁と反響する爆音――

無数の水飛沫と圧倒的な速さで広まる白い煙に、周囲が激しく乱舞する。

俺はとっさに目を伏せつつ、前方を厳しく見つめる。

当たった―――か?


「キョウスケ! 」


 女戦士の厳しい声に、俺はようやく気付いた。

自分を覆う魚影――しまったっ!?

顔を上げると、宙高く飛び上がった魚・・・・・・・がこっちへ急降下するのが見えた。





































<その12に続く>





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