Ground over 第二章 -ブルー・ローンリネス- その3 作戦会議




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「今日づけの新入りさんのようだが、信用できる奴等なんでしょうね、リーダー」


室内に、不穏な空気が漂い始める。

全身を固くする村長とは裏腹に、睨み付けるように席に並ぶ冒険者達はこちらを見ている。

その眼力は、まさに人生を自分で歩いてきた男達の目つきだ。


「信用してくれ、と無茶を言うつもりはないけど・・・」


俺は挙げた手を下ろして、じっと男達と目を合わせる。

正直すぐに逸らしたい程の緊張感があるが、ここで疑われたら放り出される危険性もある。


「自分なりに精一杯やらせてもらおうとは思ってる。
俺、いや俺達にも大切な事情があってね。この仕事をしっかりやらないといけないんだ」


一刻も早く元の世界へ帰る。

そのために、俺も葵も一生懸命頑張らなければいけない。


「手前ら、素人なんだろう?そんなんで何ができるんだよ」

「ふっふっふ、どうやら我らの真の力を知らんと見える」


葵は自信たっぷりにそう言って、がたんと席を立つ。

いや、すまん、葵。俺も知らないんだけど・・・・・


「俺はこちらにおわす妖精、キキョウちゃんに導かれてこの世界へとやってきた勇者!
そして相棒その1だ」


その1って俺の事か、おい。


「妖精だって!?」

「おお、本当だ。じゃああいつらはそれほどすごい奴等なのか!?」

「信じられんが・・・・・」


先程とはうって変わって、室内は困惑のざわめきに転じた。

キキョウは皆に見つめられて、恥ずかしそうに俺の頭の後ろに隠れる。

さっきのソラリスといい、妖精と一緒にいる事はそれほどすごい事なのだろうか。


「騒がしいぞ、静かに」


ざわめきの中を、カスミの凛とした声が通る。

すると、先程まで口々に話していた冒険者達が一斉に口を閉じた。


「彼らの身元は、アール高原案内所の店長と私が保証する。
仕事は彼らには村民の手助けと村の見張り、いざという時は後方支援を担当してもらう。
それで異存はないな」

「前線に出すという事はないんですね?」


頬に傷がある少しきつめの目つきをしている男が、カスミに尋ねる。


「彼等は素人だ。あくまでも援護に徹してもらう」


カスミがきっぱりとそう言うと、彼等も納得したのか黙り込んだ。

人徳があるんだな・・・・・

毅然とした態度、そしてはきはきとした物言いに威厳。

彼女がリーダーに選ばれた理由が、実際にこうしてみる事で納得できた。


「では、続けさせてもらう。お前、何か意見があるようだな」


カスミがこちらをじっと見つめられ、俺は慌てて話し始める。


「先ほど説明してくれた盗賊団の事だが、居場所が見つからないといったよな。
聞いた話によると、奴等は馬に乗ってこの辺りの村を荒らしているんだろう?」

「そうだ、無論全員が全員、騎馬であるという訳ではない。
だが、少なくとも騎馬は十以上は確実に存在する。
恐らく、馬自体は略奪したものだろうがな。それがどうかしたか?」

「そんなに馬がいたら、移動する時でもかなり目立つだろう。
近隣の村をちゃんと調査して目撃情報を照合すれば、位置くらいは掴めないか?
大体連中、馬の世話とかはどうしてるんだ?
俺も詳しい事は知らないけど、馬の世話って場所とか取るんだろう」


馬や牛などの動物を育てるのに、基本的に環境条件はかなり厳しいと聞いた事がある。

敷地は広くなければいけないし、世話にするのも意外に手間も労力もかかる。

盗賊団がどういう組織か知らないが、馬の痕跡まで隠せるとは思いづらいのだが。


「へえ、なかなか冴えてるじゃねーか」


対面に座っている髭面の男が、感心したように俺を見る。

い、いや、こういうのは普通考えるものだろう・・・・


「お前の意見はもっともだ。私も疑問を持ち、調査をした。
近隣をまわって盗賊団に関する情報を求めて、村民の聞き込みや役人達との聞き込みをした。
それで分かった事がある」


そう言って、カスミはキッと村長を見る。


「な、何ですか、カスミ様・・・・」

「盗賊団は夕暮れ時から夜にかけて移動し、村の略奪を開始する。
そして深夜から明朝にかけて村を出て、そのまま何処かに消える。
各地の村の役人達や村民も、皆口を揃えてそう言っていた」

「え、ええ、私もあなたにはそう話したじゃないですか・・・・」


村長がカスミの視線に脂汗を流し、落ち着かない様子で話している。

なんだ、このいきなりの変化は・・・・?


「・・・・それは事実ですか?」


その言葉に、村長は驚愕に満ちた顔をする。


「な、何故そんな・・・・・ワシは嘘など・・・」


顔色を真っ青にして弁解してもあまり意味はないぞ、村長。


「どういう事だよ、リーダー?さっぱり分からないぜ」

「つまり、今まで我々が聞いてきた盗賊団の情報には偽りがあるという事だ」


カスミの言葉に、冒険者達の間で波紋のように動揺が揺れ動く。

当然だろう、当の依頼者に嘘をつかれたんだ。これで黙っていられるはずが無い。


「おいおい、これはどういう事だよ、村長さんよ!
場合によっては、この仕事降りさせてもらうぜ!!」


列席しているメンバーは、次々に文句を言い始める。

村長はそんな彼等に何も言う事が出来ない様で、真っ青になって縮こまっている。

おいおい、いくら何でも・・・・


「か弱い老人を寄ってたかって責め立てるというのは感心しないな」

「んだあ?新入りが口出すんじゃねえ!!!」

「新入りに口を出されるほど、お前達の態度が大人げないと言っているのだ」


葵はきっぱりと、男達にそう言った。

誰であろうといいたい事を言う、それがこいつの長所でもあり短所もである。

昔から教師とか親とか関係なくずばずば言ってたからな・・・・・

俺は口元を緩める。


「俺達はなあ、命を懸けてこの商売をやってるんだ。
だからこそ、事件や依頼に関わる場合はより一層の詳しい情報が必要なんだよ!
それを裏切られて黙ってられるか!」


先程の髭の男が、葵に向かって八つ当たり気味に怒鳴る。

葵は黙ってその男をその男をじっと見つめる。


「け、喧嘩はやめて下さいよ、二人とも!仲間同士争ってどうするんですか!」


見かねたのか、ソラリスが二人の間を割って入る。

お、なかなか正義感が強いじゃないか。


「手前は黙ってろ!」

「俺はこいつと仲間になった覚えはない」

「ご、ごめんなさい・・・・・」


二人に同時に反論されて、ソラリスは頭を下げる。

弱い、弱いぞ、ソラリス!?

男ならもっと強気で責めるんだ!


「どうしましょう、このままじゃ、あうあう〜・・・」


キキョウは大きくなる喧燥におろおろとしている。

仕方が無いな・・・・・・


「・・・・・・理由があったとしたらどうだ?」

「あん?どういう意味だ?」

「村長、いや近隣の村の人間が全員口裏を合わせなければいけない事情があったとしたら?」


俺は全員を見渡し、カスミに視線を向ける。

するとカスミは「話してみろ」と視線で訴えかける。


「よく考えてみろよ。おかしいと思わないか?
これだけ被害が出ているのに、あいつらの動向はまったくつかめていないんだぞ。
人も殺されている、村の被害も一つに止まらず多数に広がっている。
行動範囲が広いと言っても、被害は大きければ大きいほど奴等は尻尾を出しやすいはずだ。
にもかかわらず、手がかりはない」

「つまり、何がいいてえんだよ?」

「奴等が行動する上で必要なのは、当然衣・食・住だ。
でも、それにプラスして馬の餌や置いて置く場所もとかも必要だろう?
となると、ちょっとこれを見てくれ」


俺は懐から、先端に蒼い輝きを放つ四角い箱を取り出す。

これは親父さんにこれからの旅に必要だろうといただいた『ビジョン』だ。

俺は『ビジョン』を起動させて、会議室のテーブルの中央上に地図を映す。


「これはこの辺り一帯の地図だ。で、これはそのおん・・・・リ、リーダーに聞いた襲撃された村だ」


映し出された地図のあちこちに、赤いバツ印が浮かぶ。

『ビジョン』の立体投影ができる機能として、蒼く輝いている先端の『結晶』にあるらしい。

この『結晶』の力が『ビジョン』同士の通信を可能にしたり、地図を入力、具現化も可能とする。

何でも『コンティネル・エナジー』が結晶化したものとか何とか聞いている。

まあそれはともかく、説明の続き。


「奴等の行動範囲は広いが、場所的にみると限定されている部分がある。
距離的に見て、全方位100キロ辺りといった所だろうな。
この辺りは平野が広がっていて、山岳地帯も少ない。
もし辺りの山に隠れてもすぐにばれるだろう。
じゃあ、連中はどこにいつも隠れているか?
常にこの辺りを襲撃しやすい場所にいて、馬も休める広い場所。
となると、結論は一つだ」

「一体どこに隠れているのだ、友よ」

「連中は襲った村の中のどこかにいる。そうだろう、村長さん」


俺の発言にメンバーは一斉に驚愕に満ちた顔をし、村長は青ざめる。

倒れないだろうか、この人・・・・?

自分で言っておいてなんだが、不安になってきた。


「あ・・・あ・・・・・・」

「連中に脅されたか、それとも連中が居直って図々しく住んでいるのかそれは分からない。
でも、屈服するしかなかったんだ。
役人は頼りないし、国もなかなか助けに来てくれない。
限られた選択肢の中で、村長も他の村も最善の選択をとったにすぎない。
それを責めるのは筋違いだろう・・・・」


俺は説明を終え、地図を消す。

やりきれない、そして沈鬱な空気が室内に漂っていた・・・・・・


「村長、一つ聞きたい」

「・・・はい・・・・」

「何故我々に依頼を?雇った事がばれれば盗賊団の怒りを買い、村は危険になります。
その危険を冒してまで退治を求めた理由をお聞きしたい」


カスミはただ静かに、村長に尋ねた。

しばしの沈黙が漂う中で、村長はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。


「・・・・我々はもう・・・・限界だったのです。
奴等に襲撃され、もて遊ばれ、不安に脅える毎日。
金や女を要求されて黙って差し出すしかない、耐え切れない痛み。
・・・・もう・・・・限界だったんです・・・・・うううう・・・・」


村長は悲痛と、そして押え込まれていた苦痛を交えた慟哭を漏らす。

その姿に、俺は自分がどういう世界に来たのかを改めて知った。

そして・・・・自分が如何に恵まれていたのかを・・・・痛感した。


「村長」

「・・・え・・・?」

「盗賊団は必ず退治する。依頼を受けた限り、我々はそれに応える義務がある。
あなた達は安心して、普段通りの生活をしてくれればそれでいい」


あ・・・・・・・・


「・・・ありがとうございます、ありがとうございます・・・!!」

「それが仕事だ」


あいつ、ああいう顔も出来るんだな・・・・・

はじめて見たカスミの優しい、心のこもった眼差し。
それは今までのどんな表情よりも温かく、そして奇麗だった・・・・


「そう!悪は必ず滅びるのが鉄則!!
我々は必ず奴等を蹴散らして、平和をもたらす事を約束しましょう。
正義は我らにあり!」

「俺らは雑用係だぞ、葵」


盛り上がる葵に、苦笑して水を差す俺。


「私も頑張りますぅ!悪い人達にお仕置きですぅ!」

「おお、可愛い妖精さんも味方だ。俺らにこええものはねえな!」


不謹慎であるかもしれない。

だが、会議室に初めて満ちた明るい笑い声は、この仕事の未来をさしているように俺は思えた。















<第二章 ブルー・ローンリネス その4に続く>

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