オレは、その男の顔に見覚えが有った。

「お前……沢口っ!!」
「南だっ!!!」
「あれ…そうだったか?」







  炎の魔術師







「……で、その沢口がこんな所で何してるんだ?」
「み・な・み・だっ! 南 明義! 今度沢口言ったら燃やすぞ!?」

沢口は顔を真っ赤にして怒っている。
何を怒っているのかはさっぱり分からないが……

「だから、何やってんだよ? 人攫いはあんまり感心しないぞ」
「うぐっ!? ひとさらい? ボクさらわれちゃうの?」
「ああ、船に乗せられて、遠い異国の地に売られていくんだ」
「うぐぅ……そんなの嫌だよ……」
「違うっ!! 違うんだ月宮さん! 俺はただ、さ……」
「「さ?」」
「……月宮さんがいなくなったから、その……ある人に頼まれて探していただけなんだ。」
「ある人……って誰だよ?」
「それは…お前には関係無いだろ」
「まあ、そうだな」
「というわけで、月宮さん。俺と一緒に来てくれないか?」
「うぐ……でも……」
「嫌がってるぞ?」
「てめぇはちょっと黙ってろ!  ……な、月宮さん、悪い様にはしないからさ……」
「ふむ、人攫いの常套句だな」
「やっぱり人攫いなんだ……」
「だから違うって……」
「何が違うんだ?」

「おい折原……てめぇ、いい加減にしろよ……」

沢口……ってもういいか。
南の顔から今までのうそ臭い笑みが消え、細い目を更に細めこっちを睨みつけてくる。
声色も、普段の南からは想像できないほど、ドスの効いた物に変わり、辺りに熱気が立ちこめる。
月宮は完全に怯えてしまい、俺の陰に隠れている。

「俺だって暇じゃねぇんだ……お前みたいなアホ相手にしてる場合じゃねぇんだよ」
「うぐぅ……怖いよ……」
「力ずく……ってのは好みじゃねぇけどな、てめぇが引っ掻き回してくれたお陰でどうやら友好的にって訳にも行かなくなっちまった……」
「……結局攫っていく訳か?」
「……しかたねぇだろ? …折原、さっきも言ったけど、俺も暇じゃねぇんだよ……
 ホントはてめぇをぶっ殺してやりたいとこだけどな。そこで黙って見てろ。
 そしたら命だけは助けてやるよ……不本意だけどな。」
「うぐぅ……」

……うーん、どうすっかなぁ……別にこいつが連れてかれてもオレにはあまり関係無いんだよなぁ

南が月宮に歩み寄る……
月宮はオレの後ろに隠れているので、必然的にオレの方へ向かってくるわけだ。

「浩平君……」
「折原……命拾いしたな。  ……さ、月宮さん、悪いけどちょっとの間大人しくしててもらうよ……」

でも、ま…南なんかに見逃してもらうってのもなんか癪だし……
…こいつとも約束した事だしな。

南は小馬鹿にしたような目でオレを一瞥すると、脇を通りすぎ、月宮の方に手を伸ばす。

「残念だけど、そう言う訳にもいかねぇんだよな、これが」
「な!? 折原!?」

すぐ側にいた南を蹴り飛ばし、月宮の前に立つ。

「みず(略)っ!!」

ぱぁぁぁぁ

オレの手の中でみずかの剣が実体化していく……

……
なぜか『つるはし』に変わっていたが……

「月宮、お前は下がってろ! ……こいつぶちのめしたら、すぐ、外まで送ってやるからな」
「う、うん」
「折原、てめぇ……」

月宮を部屋の隅に避難させ、無様な格好で転がっている南と対峙する。

「さぁ……殺れるもんなら殺ってみろよ……沢口!」
「!!っ、ぶっ殺す!

南はオレとの距離を取りつつ起き上がり、
両手で奇妙に動かし、何かぶつぶつ言ったかと思うと……

「燃え尽きろっ!!【火球】!!!」

手の平から数個の火の玉を飛ばしてきた。

「な、なんだっ!? くそっ!!」

何とかかわそうとするが、つるはしを振りかぶったまま南に向かって走っていたため、
いきなり向かってきた火球に対応できず、幾つかの直撃を食らう。

「ぐあっ!! …ってあれ…?」

しかし、その衝撃は思ったほどではなく、大したダメージも無い。

「なっ! 《レジスト》だと!? 馬鹿なっ…そんな高級技術、折原如きに使える筈が……!!」

こいつ、いま『如き』って言いやがったな……
《レジスト》ってのは良く分からんが、なんかムカツクな。

「はっ……なんだ沢口? 大口叩いてた割りにたいしたこと無いな?」
「うるせぇ! 調子にのんなっ!!」

再び南の腕が怪しげな動きをする。

「させるかよっ!!」

ダメージはたいしたこと無いとは言え、やっぱり痛い物は痛いのだ。何度も食らってやる義理は無い。
南に肉迫し、つるはしを振り下ろす。
さすがに殺す訳にはいかないので、峰打ち(と言えるのかは分からん)で……だが。

「遅ぇよ……」

が、オレがつるはしを振り下ろすより早く南は身を屈め、オレの脇腹に掌を抉り込む。

……直後

【炎槍】っ!!」

ゴウッッ!!!

「ぐ……ぁ!?」
「浩平君っ!?」

オレは吹っ飛ばされていた。
何が起こったか良く分からない。

「ヒャハハッ……流石に零距離から術食らやぁ障壁も意味ねえだろ?」
「く……」
「それに、今の攻撃見て分かったぜぇ……おめぇ、戦闘は素人だな?
 魔術師の俺に接近戦で負けてちゃ世話無ぇよな?
 障壁も恐らくその武器の力だろ? でも使いこなせなきゃ意味ねぇよ……
 ま、どっちにしてもこれで終いだな。ヒャハハハハ……」

ちきしょう……ダメージ受け過ぎたか……やべぇな……
まあ、殺される事は無いだろうが……

「じゃ、止め刺してやるよ……俺を『沢口』と呼んだ事を後悔するんだな……」

南は、両手に炎を纏わせながら、俺に近づいてくる。

……お、おいおい……マジかよ……

「待ってっ!!」
「…月…宮…?」

視線を上げると、南の前に月宮が両手を広げ、立ちふさがっていた。

「ボクは……南くんに付いていくから……これ以上は……」
「ふ、ん……分かった」

手に纏った炎を消し、南が歩を止める。

「良かったなぁ折原……どうやら死ななくて済みそうだぞ?」
「…………う……るせぇ」
「あん?」
「浩平……君?」

オレはつるはしを杖に立ちあがる。
体中に激痛が走るが、そんな事知ったこっちゃねぇ……

「……月宮、お前何勝手な事ぬかしてんだよ……オレは……まだ負けてねぇ……
 それに……言っただろ?外まで送ってやる……ってな。
 …それともお前はオレを嘘吐きにする気か?」

「浩平君……でもっ!!」
「ヒャハハ……せっかく助かった命を無駄にするとはなぁ……
 いいぜぇ……望み通り殺してやるよっ!! 俺の最っ高の炎でなぁ!!」
「浩平君っ!!」

南の手に再び炎が集まり出す……

むぅ…ああは言ったけど……どうするかなぁ、とくに何も考えてなかったしな……

集まった炎が渦を巻き、南の目前で直径数メートル程の球を形作る。
かなりの高熱なのだろう…辺りの景色が歪んで見える。

……あれ、くらったら流石に死ぬよなぁ……
さて、どうしたもんかな……

「消し炭になりなっ! 【火蜥蜴】っ!!」

ゴオォォォォォォォォォッッ!

眼前に迫る極大の炎、オレは為す術も無く只、それを見つめ、

そして……

…………







「はい、そこまで」

ザッッ…

「……何ぃっ!?」

……その炎がオレに届く事は無かった。
南の手から炎が放たれ……俺を包み込もうとした刹那、
横合から飛び込んできた影によって、炎の塊は霧散した。

「バ……馬鹿な……俺の最強魔法だぞ!?」

陽炎が立ちこめる中……

「それを……素手で掻き消す……だと?」

ツインテールを躍らせ……

「そんな……」

オレを庇う様に立っていた少女……

「まさか……」



「「七瀬!?」」





続く


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  【折原 浩平】  へっぽこ戦士 Lv.5

HP   2/100   力 知 魔 体 速 運
MP  0/0     10  5  2 10 12 4
   
攻撃  15(20)       防御  12(16)
魔攻  6(6)       魔防  7(17)
命中  87%       回避  10%

装備  みずかのつるはし
      安全メット
     作業服

所持金  193円


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  【南 明義】  魔術師 Lv.28

HP  335/336    力  知  魔 体 速 運
MP  91/138    18  38  36 28 12 1

攻撃  28(28)       防御  33(36)
魔攻  67(77)       魔防  65(66)
命中  85%        回避  13%

装備  炎の指輪
      ブレザー+1



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魔術メモ


【火球】(ふぁいあー・ぼーる)

  火属性魔術Lv1   対象 敵単〜敵グループ
  基本攻撃力 20  基本命中率 55  消費MP 2〜5
  状態変化 火傷
  こぶし大程の炎の球を数個、敵に向かって投げつける。
  若干威力は高いが、命中率が低く、牽制用として使う事が多い。


【炎槍】(ふれいむ・らんす)

  火属性魔術Lv3   対象 敵単
  基本攻撃力 68  基本命中率 65  消費MP 15
  状態変化 火傷
  炎の渦が対象に向かって飛んでいく。威力は高い。
  が、真っ直ぐにしか飛ばない上、スピードも遅いので使える場面は限られる。
 (距離によっては目視してからでも余裕で躱せる)


【火蜥蜴】(さらまんだー)

  火属性魔術Lv4   対象 敵単
  基本攻撃力 89  基本命中率 96  消費MP 30
  状態変化 火達磨
  極大の炎の塊を対象に向けて飛ばす。威力は高く、対象を追尾するため命中率も高い。
  その上、命中すると、対象を包み込みしばらく燃えつづけるという、性質の悪い魔術。


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2003/07/04  黒川





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