第二話 魔法の呪文はリリカルとセイブルなの?(後編)
 大好きなはずの太陽の輝きが、今は恨めしく思えるほどにあかねはふらついていた。
 昨晩になのはの兄に車で送ってもらって家にたどり着いたのは十二時少し前。
 そこから本格的なお説教だなんて何時ぐらいぶりかしらとテンションの高い母に巻き込まれ、就寝した時間は覚えていなかった。
 ただしぱしぱと何度も瞬くまぶたの具合から、自分が寝不足だと言う事だけは理解する事ができた。
「おはようございます」
 かすれるような声とともに教室のドアを開けると、自分の席に座りこむや否や倒れこむ様に頭を机の上においていた。
 そのまま瞳を閉じて眠ろうとした所、耳に良く通る声が聞こえてきた。
「そっか、無事でなのはの家にいるんだ」
「でもすごい偶然だったね。たまたま逃げ出していたあの子と道でばったり会うなんて」
 ごろりと机の上で寝返りをうつと、なのはの席にアリサとすずかが集まっているのが見えた。
 偶然の出会いに何か運命的なものでも感じたのか二人が顔を見合わせて声を合わせると、なのはが若干引きつった笑みを見せていた。
 少し考えれば、何故なのはがひきつった笑みを浮かべているのか想像はできた。
 昨晩のジュエルシードの暴走で引き起こされた破壊跡はそれなりにニュースとなっていた。
 自分達がやりましたと言えるはずもなく、なのははユーノと出会った事だけを話して他は上手く誤魔化したのだろう。
 騙すとまではいかないが友達に隠し事をするようで少しの後ろめたさに襲われているようだ。
 ふと、そのなのはがあかねの方を振り向き、共犯者に助けを求めるようにこれまた微妙な笑顔を見せてきた。
『諦めましょう、あれは気にしてはいけない事です。不可抗力でしたし、昨日の事で誰かが傷ついたわけでもありません』
「へっ?!」
 つい慰めるような言葉を念話で届けてしまい、驚いたなのはがこちらを向いたまま立ち上がってしまった。
「急に変な声だしてどうしたのよ? あかねがどうかした?」
「あ、あはは。なんでもないよ、アリサちゃん」
「あかね君、なにかあったのかな? あんな風に朝から寝てる所初めて見た気がする」
 三人の視線が集中してしまい、あかねは寝返りをうって三人から視線をそらした。
 どうやらなのははユーノとあった事は話しても、自分がその場にいたことを話していないらしい。
 単に昨晩の事を誤魔化す事に忙しくて話しそびれただけであろうが、すぐにそのなのはから念話がとんできた。
『あかね君、これが出来るってことはあらかじめユーノ君に聞いてた?』
『高町さんたちが塾へ行ってから一度ユーノさんが目を覚ましたんです。その時に少しだけ事情を聞いてました』
『そっか、そうなんだ。今日ね、時間のある時にユーノ君が詳しい事を教えてくれるんだけど、あかね君も一緒に聞くよね?』
『もちろんです。ただ、今は少しでも眠りたいので、間違ってもバニングスさんに昨日僕が一緒に居た事は話さないでください』
 返答はなかったのだが、なのはがアリサの注意をそらすような言葉を選んくれていた。
 なのは自身も昨晩は寝入るのが遅かったため、気を使ってくれたのだろう。
「ああ、それでね。なんだかあの子飼いフェレットじゃないみたいで、当分の間、家であずかる事になったよ」
「そうなんだ」
「名前付けてあげなきゃ。もう決めてる?」
 なのはの話題転換のおかげで、アリサとすずかの注意はすぐにあかねからそれる事となった。
 特に注意して聞いていたわけではないのだが、あかねは三人のユーノに対する雑談を子守唄として寝入っていった。
 ホームルームに入り担任の先生から注意を受けるまでずっとあかねは眠り込んでいた。





『ジュエルシードは僕らの世界の古代遺産なんだ』
 国語の授業中、先生の話を聞きながらノートをとっていたあかねとなのはの心にユーノの声が響いた。
 まだ念話に慣れていないために、なのはの結い上げた髪の毛が驚きから揺れていた。
 あかねもそれは同様であり、唐突に聞こえた声に思わず鉛筆を落としそうになっていた。
『本来は手にした者の願いを叶える魔法の石なんだけど、力の発現が不安定で。夕べみたいに単体で暴走して使用者を求めて回りに危害を加える場合もあるし』
 あかねとなのはの頭に浮かんだのは、昨晩ユーノや自分達を襲い、周りを破壊した影の姿であった。
『たまたま見つけた人や動物が間違って使用してしまって、それを取り込んで暴走する事もある』
『そんな危ないものがなんでうちのご近所に?』
 なのはの言う通り、ユーノの世界の古代遺産がこの世界にあると言うのは不可解であった。
 授業の内容への理解を深めるような振りをしつつ考えをめぐらせたあかねが答えを手探りで探す。
 そして思い浮かんだ答えを恐る恐る尋ねた。
『まさか誰かが故意に持ち込んだりと言う事は……』
『違う、僕のせいなんだ』
 意を決してといった感で話したユーノの声は沈んでいた。
『僕は故郷で遺跡発掘を仕事にしているんだ。そしてある日、古い遺跡の中であれを発見して、調査団に依頼して保管してもらったんだけど。運んでいた時空艦船が事故か、何かしらの人為的災害にあってしまって、二十一個のジュエルシードがこの世界に散らばってしまった。今まで見つけられたのはたった二つ』
 悔いを吐き出すようにユーノは一気に喋り始めた。
 気付いているのかいないのか、話を聞く限りではユーノはジュエルシードを発見しただけで何も悪くはない。
 無関係な世界にジュエルシードが散らばったとしても、それは運んでいた船の事故だ。
 発見者であるユーノを責めるような人はいるのか、いたとしても多くはないのではないか。
 ただし自分が見つけばら撒かれるきっかけを作ったユーノ自身が、ジュエルシードを集めようとした気持ちもわかる。
 ただ一つだけ、あかねは気になることがあった。
『ユーノさん、少しよろしいですか? 高町さんとはそのまま普通に話していてください』
『え、それは……良いけれど』
 三人で話していた念話を、あかねはユーノにだけ聞こえるように切り替えた。
 ちらりとなのはを見やり、気づかれていない事を確認してから話し始めた。
『少し事情を聞いてユーノさんの人柄はそれなりにわかりました。たった一人でこの世界に来たユーノさんは、本来なら誰も巻き込みたくはなかった。だけど予期せぬ怪我から僕と高町さんを巻き込まざるを得なかった』
『それは、その通りだよ。でも怪我さえ治れば、魔力さえ戻れば。僕はまた一人で』
『違います、貴方を責めているわけではありません。僕自身は危険なジュエルシードを集めようと思っています。ただ僕もまた女の子である高町さんを巻き込みたくないと考えているだけです。だけれど、高町さんの性格なら確実にユーノさんを助けようとするはずです』
 あかねの予想通り、三人共通の念話の中でなのははユーノへと協力を申し出ていた。
 慌ててユーノが危険を訴えても、なのはの意志は固く退こうとしない。
『君の言う通り優しい人なんですね、なのはは』
『だからジュエルシード集めは僕に任せてもらえませんか? ユーノさんは高町さんが危険に飛び込まないように嘘の情報を教えるだけで良いんです』
『でもそうしたら、君が』
『だから教えてください。ゴールデンサンの使い方を。誰かがやらなければならなくて、それが危険なことなら、出来るだけ僕の手でそれをなしとげたい』
 あかねが思い浮かべていたのは父の背中であった。
 きっと父ならばそう答える、ならば自分はその父に少しでも追いつくために同じ選択をしなければならない。
 だがすぐにユーノからの返答はなく、あかねは大人しく答えを待っていた。
 あかねは昨晩に色々ありすぎて忘れてしまっているのだが、ゴールデンサンは防御に優れたデバイスなのである。
 逆に言えば攻撃力に乏しく、それを補う為のレイジングハートなのであった。
 つまりは昨晩の戦闘のようにあかねが防御を担当し、なのはが攻撃を担当するのが、二人がなりたての魔導師である事を考慮しても自然の考え方である。
 元々体力と魔力さえ回復すれば一人でなんとかしようと考えていたユーノは、返答に迷っていた。
 だが何も知らない女の子を巻き込むよりは、良心の呵責は少なく済んだようだ。
『解りました。ゴールデンサンに関する知識を、魔法に関する僕が知りうる全てをお教えします』
『ありがとうございます。ユーノさん』
『ゴールデンサンはブーストデバイスと呼ばれるデバイスです。防御が優れているとは言いましたが、その本領は他者や自分への能力補助にあります。派手さ……はありませんが応用力があり、様々な状況に対処する事ができます』
 少しばかり言葉に躓いたユーノは、昨晩のド派手なあかねの防護服を思い出したのだろう。
 なのはとのあかねの二重会話という難易度の高い技をユーノは繰り出しながら、あかねにデバイスと魔法についての知識を語り始めた。
 もちろんたかが数時間で全て話しつくせるわけもなく、まずは基礎から、そしてジュエルシードを集める上で最低限の知識を教え始めた。
 三種類ある防御魔法、増幅魔法、ゴールデンサンの数少ない攻撃魔法。
 魔法についてはゴールデンサンがインテリジェントタイプの為、願うだけで発動するのだが知識としては必要であった。
 授業そっちのけでユーノから魔法の知識を詰め込まれている間に、ホームルームが終わりなのはの声が心に響いてきた。
 かばんに教科書をしまう動作を一時やめてなのはの方を見ると、アリサやすずかたちと今まさに帰ろうと言う所であった。
 教室のドアを潜る直前で立ち止まり、あかねへと振り返っていた。
『あかね君、今日は塾のない日だからユーノ君と一緒にジュエルシードを探しにいこう?』
『その事なんですが、さきほどユーノさんと話して手分けして探そうって事になりました。まだ十九個もあるので、高町さんはユーノさんと探してくれませんか?』
『そっか、一緒に探せないのはちょっと残念かな。昨日は大変だったけど、少しあかね君と仲良くなれた気がしたから』
 本当に残念そうに呟くなのはに罪悪感を抱いたあかねは、ぺこりと頭を下げて教室を出て行くなのはを見送った。
 それから鞄に教科書を詰め終わったあかねも、教室を出て送迎バスではなく自分の足で学校を出て行った。
 向かったのはジュエルシード探しではなく、この街で人気のない場所を探してである。
 今すぐに危険なジュエルシード探しに向かうほど無謀ではない。
 一通りユーノに魔法を教わったが、何が出来て何が出来ないのか一先ず確認し、明日から本格的にジュエルシード集めを行おうと思っていた。





 人気のない場所を思い浮かべてまず出てくるのは、豊富な森林を持った山中であったが徒歩で行ける訳がない。
 ならばと次に出てくるのが、神社やお寺といった特別な行事がある時にしか人が訪れない場所であった。
 鳴海市に存在するそう言った場所の一つである神社の階段にあかねはきていた。
 目の前に映るお社へと続く石段は正面を見たままでは最上段を見る事は叶わず、上を見上げてもまず目に映るのは赤い鳥居のみである。
 この神社ならば問題ないだろうとあかねが石段に足をかけた所でそれは聞こえた。
『誰か、誰か……』
 直ぐ近くで誰かが助けを求める声が聞こえ、それと同時に体の中心にある心臓とは別の何かが震えていた。
 思い出したのはユーノに教えられたリンカーコアと言う言葉であり、魔力を感じると言うのはコレなんだと直感できた。
 あかねは赤い鳥居を見上げながら一段飛ばしで神社の石段を駆け上がり、手首に巻きつけたゴールデンサンに触れる。
 ただの石ではない、温かみを持ったそれへと言葉をつむぐ。
「我、使命を受けし者なり。契約の下、その力を解き放て。光は空に、命は大地に。そして輝ける太陽はこの背中に。この手に魔法を。ゴールデンサン、セットアップ!」
「Stand by ready. Set up」
 良く憶えていられたものだと感心する長いパスワードを言い切ると、ゴールデンサンに文字が浮かび上がった。
 さらにゴールデンサンが生み出していた輝きが膨れ上がりあかねの体を包み込んでいく。
 瞬間的なその光が収まると防護服、またはバリアジャケットと呼ぶらしき衣装があかねの体を包み込んでいた。
 重くも軽くもなく、体に引っかかり一つ覚えないそれをなびかせ、まだ頂上まで遠い階段をあかねは見上げた。
 早く駆けつけなければと気持ちがはやる。
「Amplify leg」
 あかねの気持ちに応えたゴールデンサンの増幅魔法が発動し、足が石段を割る勢いで踏みしめ体をゴムボールのように押し上げる。
 階段を上ると言う行為によりゆっくりと流れていた景色が一変し、景色が吹き飛ばされたように感じた。
 少しばかり転びそうになりながら一気に駆け上がった先に待っていたのは、意識を失い倒れこんだ女性と、その目の前で唸り声を上げる巨大な犬であった。
 黒光りする体躯と、血に濡れたような瞳、頬を突き破って飛び出したかのような牙。
 もはや犬とすら表現できない生物が、女性から目を離し新たに現れたあかねへと警戒の声をあげていた。
『ユーノさん、これからジュエルシードの封印に入ります。高町さんの方は、なんとか誤魔化してください』
『解ったけど、何時まで誤魔化せるか。なのは、ジュエルシードの発動にすぐ気付いた。悪いけれど、魔法の才能は君よりずっと上だ』
「Look, Brother. The enemy doesn't wait」
 ゴールデンサンの声にハッと気がつくと、念話に気をとられた一瞬の隙を突いて巨大な犬が跳びかかってきていた。
「Round shield」
 左手を上げ、魔方陣の盾を作り上げ巨大な犬の一撃を受け止める。
 盾と巨大な犬との接触面が轟音を響かせ、バリアジャケットの一部である靴が石畳の上で滑る。
 そのまま体をひねり、巨大な犬をいなしきるがさすがに相手は動物を取り込んだジュエルシードであった。
 攻撃の切り返しが速く、あかねは殆ど背後をとられていた。
「くっ、ゴールデンサン!」
「Amplify leg」
 増幅魔法がかかったかどうかの確認もままならない状態であかねは高く跳んだ。
 靴底を掠めるように巨大な犬が通り過ぎ、今度は逆にあかねが上空から背後をとった形になり、右手を巨大な犬目掛けて伸ばす。
 イメージしたのは突き刺すような太陽の光、鋭利な刃物であった。
 筋肉から力を込めるのとは違う、熱い熱のようなものがグローブの甲にある宝玉に集まる様に思えた。
「貫け光の刃、シャインナイフ!」
 何処まで効くかは定かではなかったが、確実にダメージは見込めるはずであった。
 だが次の瞬間あかねの耳に届いたのは、ゴールデンサンの無常な声であった。
「Error. Shine knife is fails」
「えっ、エラー?!」
 ビープ音とでも言えば良いのか、なんとも情けない音がゴールデンサンから発せられる。
 後半はわからなかったが、エラーの意味ぐらい知っている。
 だがエラーとはどういうことなのか。
 確かにユーノはゴールデンサンの攻撃魔法は少ないと言ったが、エラーなんて起こすなんて一言も言っていなかった。
 何が、一体、どうして。
 そればかりが頭に浮かび、意識の中に空白を作り出していた。
 魔法は使えても、あかねはそこが戦闘の素人であった。
「Round shield」
 ゴールデンサンの声に意識を戻してみれば、飛び上がった巨大な犬がその口を開き今まさに自分へと噛み付こうと、自分を噛み千切ろうと迫っていた。
 目の前に迫った脅威を前に体が硬くなる。
 防御そのものは間に合ったものの、ラウンドシールドは受け流し型の防御魔法である。
 あかねがいるのは空中であり、なおかつ互いの体重差は大きかった。
 たった一瞬の接触で車にでも轢かれたかの様に今いる空よりさらに高く跳ね飛ばされた。
 灰色の石畳と青い空が交互に視界におさまり、そこに緑が増えたかと思った時には神社内の木の幹に体を背中からぶつけていた。
「がッ……あ、あ……」
 痛みに視界が白黒したまま地面に落ちて、這い蹲る。
 唯一の幸運は、相手から意識を外すことや、ミスが危険を招くと言う戦闘の初歩をあかねが学習していたことだ。
 巨大な犬の視線、息遣い、気配、それらがする方角へと片手を伸ばした。
「Protection」
 正確な方向がわからない事と、まともに動けない状況で選んだのは全方位を囲む防御魔法であった。
 あかねを中心に球状の障壁が張られた直後、巨大な犬がぶつかってきた。
 何とか突進そのものは防ぐことは出来たが、以降も地を蹴り押しつぶそうとする巨大な犬を前にいつまで持つかわからない。
 痛みを今は忘れるように務め、息を整え、自分の防御魔法を食い破ろうとする相手を睨む。
 攻撃魔法は不安が残る。
 もしかしたら今度こそエラーがでないかもしれないが、保証はない。
 どうすれば、何か手はないかと思考をめぐらせていると、力強い意志を持った声が聞こえた。
「ディバインシューター!」
 桃色の光を放つ光弾が視界を横切り、巨大な犬の横っ面で小さな爆発を引き起こして吹き飛ばした。
 防御魔法を解いたあかねがゆっくりと立ち上がった視線の先に、シュンとしたユーノを肩に乗せレイジングハートを突きつけた姿のなのはがいた。
 ただその顔は何時もの笑みにあふれたものではなく、眉毛を精一杯釣り上げてご立腹感を際立たせていた。
「ごめん、隠しきれなかったよ」
「正直助かったので、ユーノさんを責められません」
 そう言いながらなのはをみると、ぷいっと顔を背けられてしまった。
 やはり怒っているようだ。
 ただし謝るのは後だと、あかねはなのはに頼んだ。
「高町さん、恐らくは犬を取り込んだ奴は異常に素早いです。僕が奴を防御魔法で足止めするので、そこをすかさず先ほどの魔法で撃ち抜いてください。お願いします」
「……わかった、けど。後でお願い聞いてもらうから。絶対に、絶対」
「一つだけ、何でも言うことを聞きます。だから、お願いします」
 ダメージを引きずっていた為に出足は鈍かったが、あかねは吹き飛ばされたことで怒りを倍増させた巨大な犬へと向かっていった。
 巨大な犬も走り出したが、その狙いがなのはである事は目を見れば一目瞭然であった。
 邪魔するものは全て吹き飛ばして突き進もうとする巨大な犬へと、あかねは両手を突き出した。
 自分が抜かれればなのはに攻撃が及ぶ、守らなければとあかねの瞳が据わっていった。
「ゴールデンサン、奴を止めます。攻撃は失敗しましたが、防御に優れた貴方の力を見せてください!」
「OK, Brother. There is a Golden sun to defend all the people. Protection」
 互いに走りながらぶつかりあうが、より大きなダメージを背負っていたあかねの方が若干押され気味であった。
 少しでも長く止めなければと思って直ぐにゴールデンサンが魔法を唱えていた。
「Amplify brother」
 全身に力がみなぎり、巨大な犬を押し返すように力を込める。
 そして攻撃と言う面でなくてはならないパートナーから声が飛ぶ。
「お待たせ、あかね君。ディバイーン、シューター!」
 先ほどよりも大きく輝く光弾があかねをかわすように曲線を描いて巨大な犬を貫いた。
 大きな体が横倒しになったまま吹き飛ばされ石畳を削っていく。
「ジュエルシード、封印!」
「Sealing mode. Set up」
 強力な攻撃魔法を使った後のなのはよりは、増幅魔法によって力がみなぎっている自分の方が早いとあかねが声をあげた。
 防御魔法を解除し、右手の甲を向けるとそにある黄玉から尾を引く炎が噴出した。
 その炎が何本も噴出して巨大な犬へと向かっていく。
 昨晩のなのはの封印と同じように炎が巨大な犬を包み込み、動けないように縛り上げる。
 苦悶の声を挙げた巨大な犬の額に十六のシリアルナンバーが浮かぶ。
「Stand by ready」
「セイブル、マジカル。ジュエルシード、シリアルナンバー十六封印!」
「Sealing」
 完全に炎に包まれ、巨大な犬の姿は灰となって消えていった。
 残されたのは淡く輝く青い石、ジュエルシードとそれに取り込まれていた子犬の姿であった。
 あかねはジュエルシードに近寄り、ゴールデンサンの宝玉を近づけた。
「Receipt No. XVI」
 確保が完了して安心したのか、変身を解くと同時に増幅魔法が切れたあかねは倒れこんだ。





 次にあかねが目を覚ました時に目に入ってきたのは、自分と同じ名前をもつあかね色の空であった。
 その空を遮るようになのはが顔を覗かせ、ニコリと笑いかけてきた。
 だが良く見てみれば若干頬っぺたが膨れており、瞳の中にしっかり怒ってますと書かれている様であった。
「もう、起きても大丈夫だよ。怪我はたいしたことなかったし、倒れたのはむしろ増幅魔法が切れた時の副作用だから」
 ユーノの言葉にあかねが体を起こそうとすると、問題ないねとなのはが言ってきた。
「そっか、それじゃあ。まずは二人ともそこに座りなさい」
 そうなのはが指差したのは、神社の石畳の上であった。
 逃げ出そうにもあかねはまだ体が動ききらないし、先ほどなんでも一つ言う事を聞くと言ってしまったのだ。
 ノロノロとした動作で石畳の上に正座で座ろうとすると、筋肉痛になったかのように両足の筋肉が張っていることに気付いた。
 恐らくこれも増幅魔法の副作用なのだろうと考えながら座り、ユーノを膝の上に置いた。
 さあ何時でも怒ってきなさいと堂々とした格好で、なのはの言葉を待つ。
「別に正座までしなくても……痛くなったら崩してね。それでユーノ君から聞いたんだけど」
「昨日は唐突で対処できませんでしたが、僕とユーノさんは高町さんが危険な目にあうことを望んでいませんでした」
「でも私はユーノ君を助けてあげたくて、助けてあげられる力があるから。同じ力を持ったあかね君と一緒に、ジュエルシードを集めるんだって決めたの」
 あかねはユーノと二人してはいと頷く事しかできなかった。
 現実問題として、生物を取り込んだジュエルシードの強さは、昨晩のジュエルシード単体の暴走の比ではなかった。
 その強さはユーノ自身の想像をも上回っており、なのはとレイジングハートの攻撃力は不可欠であった。
「だからもう二人で勝手な事をしないこと、いいよね?」
「それがお願いですか?」
「へ、違うよ。これはあかね君とユーノ君が当然として守るべきこと」
 何を当たり前の事をという顔をしたなのはが、何をお願いしてくるのか少しビビるあかねであった。
「私のお願いは、あかね君が私を名前で呼ぶこと。なのはって」
「それは、どうにか別のおねが」
「ダメです。ほら、呼んでみて」
 お願いの変更を願い出るも即座に却下され、さらに顔を近づけ笑いかけてくる。
 一見簡単なお願いのようで、それは酷く難しかった。
 なのはが望んでいるのは今日以降ずっと名前で呼んで欲しいということなのだろう。
 心のどこかで苦手だと思い込んでいるなのはを名前で呼ぶことに抵抗がある。
 さらに普段頑なに苗字で呼んでいただけに、いきなり名前に切り替えるのは大変恥ずかしい。
「あのさ、それぐらい良いんじゃないかな? とりあえず名前を呼んで、この状況を何とかしたほうがいいかなって。石畳の上に正座だなんて、一応さっきの子犬と飼い主さんは帰したけど誰かに見られたら奇妙に思われるよ」
「ユーノさんは黙っていてください。これは僕の心の問題なんです。くっ……どうしてもですか?」
「どうしてもです」
 緊張しすぎて嫌な汗を書き出したあかねは、ギュッと拳を握り締めて口を動かした。
 ぎこちない動きながらも、口からは声が絞り出されていく。
「な……なのは、さん」
「ぶー、さんはいりません。はい、もう一度」
 せっかく搾り出した声に気の抜けた不正解音を鳴らされ、ムッとしたあかねであった。
 だが今のなのはに何を言っても勝てる気がせず、今度は搾り出すようにではなくまくし立てるように素早く言い切った。
「なのは」
「うん」
 満面の笑みで返事をされ、あかねの中で何かが切れた。
「なのは、なのは、なのは!」
「うん、うん、うん!」
 やけになって名を連呼すれば、なのはが笑みを絶やさず律儀に答えていた。
 この二人は一体何をやっているんだろうか。
 半眼になって二人を見上げるユーノを一人置いて、名を呼び返事を繰り返す二人の行動は続いた。





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