VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 6 -Promise-






Action15 −大切−




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果ても見据える事の出来ない宇宙に、華やかな眩さを持った光が生まれる。

完全に体勢が崩れた敵陣や逆転劇を披露した味方側も、その刹那まるで目を奪われたかのように動きを停止する。

実際には人の目に捕らえきれないほどの僅かな時間であり、次の瞬間には閃光から蒼い巨人が出現した。

背中に巨大なキャノンを搭載した火力重視の人型融合兵器「ヴァンドレッド・ディータ」である。
威厳を重ね合わせてのタイミングのいい登場は、正に真打ち登場といった風格を備えていた。


「やった!やった!!
ちゃんとディータ達合体出来たよ、宇宙人さん!」


 ディータの乗るヴァージョンアップされたドレッドとカイの乗るSP蛮型との合体。

ほんの数時間前に行った時は合体と同時に分離をしてしまった。

あの時は形勢逆転の機会を崩された完全な予想外の事態だった。

後にカイが復帰して作戦を立案した時も考えに考えても原因が分からず、今こうして行ったのも半ば土壇場での賭けに過ぎなかった。

原因が解明できた訳でも、何か解決策を解決策を行った訳でもない。

合体のタイミングや速度は同じ、二人の駆り出す機体に何か特別な細工を行ってもいない。

パイロットも両名とも同一人物であり、敵対する対象者も同じだった。

なのに、今後は何も問題なく自然に今まで通り合体出来たのだ。

はしゃぎまくるディータの背後で、カイが素直に喜べずにいるのも無理はない。


「自分で誘っておいてなんだが、どうして今度はうまくいったんだろうな」


 元々無理だと言われている作戦や可能性を信じているカイにとって、この合体もその延長でしかない。

けれど、急に何事もなく解決してしまった事には疑問を感じざるをえない。

しきりに首を捻っているカイに、ディータは満面の微笑みで言った。


「きっと宇宙人さんが頑張っているからだよ!」

「あん?」


 ディータの言葉の意味が分からずにカイが訝しげに見つめると、ディータは笑顔を崩さずに続ける。


「今の宇宙人さん、リーダーや皆を助ける為に一生懸命頑張ってくれてる。
だから、きっと宇宙人さんの相棒さんが力を貸してくれたんだと思うな」

「相棒がか?」

「うん!
あるいは・・・・神様、かな」


 そう話すディータに、何かを疑うような表情はない。

純粋にカイと合体出来た事を喜び、その現象の正体にカイ自身の頑張りの成果が実ったからだと心から信じている顔だった。

カイはディータの純真な心の持ち様に苦笑しながらも、ポンポンと軽く頭を叩いた。


「相棒が力を貸してくれたってのはありえるが、神様ってのはちょっと違うかもな」

「どうしてぇ?」

「はあ・・・・・・
赤髪、今から俺が言う言葉をその軽い頭に叩き込んどけ」

「軽い頭ってひどいよ〜」

「いいから聞け!」

「な、何?宇宙人さん?」


 戸惑いながらも瞳に期待の光をキラキラさせて、ディータはカイの次の言葉を待った。

カイは笑ヴァンドレッド・ディータ特有の二人乗り用の操縦桿に手を置いて、断言するように言い放った。


「宇宙一のヒーローは神様より強い」

「そ、そうなの・・・!?」

「おうよ。だから、俺は頼ったりはしない」


 カイはキッと前を見つめ、操縦桿に力を込める。

ディータも同じくカイの掌の上に小さな指を絡めると、操縦桿は鈍く青色に輝いた。


「やっぱ、てめえで奇跡を引き起こすからかっこいいんじゃねえか!」


 静かに停止していたヴァンドレッド・ディータの瞳に意思の光が宿る。

身体全体のフォルムにエネルギーが行き渡り、四肢が力強く活動を開始した。

猛烈なブースターによる加速が生じて、ヴァンドレッド・ディータは敵陣に突っ込んでいった。

接近に気づいた敵艦隊の残存兵力である鳥型やキューブ型が攻撃を仕掛けてくるが、かまわずにカイはコックピット内で叫ぶ。


「第三波!全機、展開!!」

『ラジャー!』


 勇ましい戦場の女神達に祝福されたかのように、ビームの真っ只中に飛び込むヴァンドレッド・ディータが一際輝きを見せる。

背中に搭載されたキャノンが起動し、二対の槍が出力を上げて全面に向けられる。

照準は敵艦隊真正面。

ペークシスエネルギーが属性を帯びて輝きを見せて、キャノン全体が光り輝いた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」


 腹の底から全ての気力を吐き出すように、カイは高らかな雄叫びを上げる。

主人の勇ましさに合わせるように、二つのキャノンがそれぞれ左腕・右腕にスライドした。

そのまま手の延長上にキャノンが固定され、カイは両手を真っ直ぐに頭上に伸ばす。

主要武器ペークシスキャノンを両手に掲げたヴァンドレッド・ディータ。

その姿はまるで船という主人を守る騎士のように、崇高なる遵守の思いが込められているようであった。

カイは腕に装着している髪飾りを見つめ、真剣な表情で万感の思いを込めて言った。


「青髪、見てろよ!これが・・・・・・・・
てめえへのけじめだぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!」


 収束されたエネルギーの光は通常束ねられて発射されるのだが、カイが解き放った力は収束ではなく拡散放射だった。

ヴァンドレッドでの主要兵器は、通常のドレッド出力の数十倍。

四方八方に出力されたペークシスキャノンエネルギーは、数百条ものビームとなって敵艦隊に向かっていった。

ではマグノ海賊団ドレッドチームをも凌駕していた艦隊だったが、その数の多さゆえに逆にアダとなった。

規則性のある砲火やまっすぐにしか飛んで来ないビームの一条や二条なら、簡単に回避は出来るだろう。

だが全艦隊数の半数以上に匹敵する拡散キャノンでは、回避行動を取るにはあまりに密集しすぎていた。

加えて、敵総軍周囲にはドレッド全機が蟻の隙間も逃さない鉄壁の包囲陣を保っている。

避けるには間合いが狭すぎて間に合わず、例え避けられたとしてもドレッドのシールドに激突してビームは反射して衝突してしまう。

数で回避を防ぎ、チームワークで逃走を防ぎ、攻撃で防御を防ぐ。

これがカイの作戦の全て――

ペークシスキャノンの圧倒的な火力により、敵艦隊は完全に取り囲まれて次々と爆発していく。

光の網とも表現出来るビームの絶え間ない乱反射に、敵味方最大の加速力を誇った鳥型も逃れる事は出来ずに全機消滅する。

完全に敵を壊滅するために殲滅のみを目的としている為に生まれた弱点。

「守る」というプログラムを与えられなかった無人艦隊の末路だった。
















 周り全てが地平線の広大な草原。

母船内の診療室で手術を受けている筈のメイアがどうしてこのような場所にいるか、当人には何の関心もなかった。

現実での苦しみや悲しみ、恵まれなかった環境に次ぐ環境、戦いに次ぐ戦いで疲れ果てたメイアが望んでいるのは一つでしかない。

二度と覚めぬ永遠の眠り――

現実での過酷な戦いに過去の逃れられない悪夢を見つめ、メイアはたった一つの道を選択した。

今身を横たえているこの世界は自分が求めて止まなかったあの世なのかもしれない。

メイア本人がそう思い、まどろみと安らぎに身を浸していたその時、懐かしい声が聞こえてメイアは身を起こした。

もう動く力も意思もない自分にまだこんな力がある事に驚くと共に、メイアは視線を落とした。

哀しかった。

自分はまだ生きる事に未練がある。

情けなかった。

自分はまだ死ぬ事に感受できない。

何故生きようと出来ないのか?何故死のうと出来ないのか?

自分は生きたいのか?自分は死にたいのか?

胸の奥にある自分の心すら、もうメイアは分からなかった・・・・・・・・・

子供のように体を丸めて顔に両手を覆うメイアに、天に満ちている青空から再び声が響く。

まるで微風の様に優しく染み透るその声は、紛れもない母シェリーの声だった。


『母さんはね、弱い人間だから・・・・・
オーマやあなたの様に外に出て行く勇気がないの・・・』


 声に導かれるように、メイアは顔をあげる。

自分の髪と同じ色の空に母親の微笑みが見えたような気がして、メイアは目を細める。


『だから、皆が帰って来たときに安心して落ち着ける場所が欲しかった・・・』


 幼い頃からずっと自分を見守ってくれた母。

誇りとしていた父親が自分の前から姿を消した時も、周りの全ての人間が敵になった時も、常に味方でいてくれた。

いつも優しく微笑んでくれていた。

メイアは母親の夢を聞いて、瞼を震わせた。


『嬉しい時も、悲しい時も、元気な時も、疲れた時も・・・・
どんな時でも変わらずにお帰りなさいって言ってあげられるように・・・』 


 平凡で、どこにでもあるであろう家庭。

他人からすれば平凡にしか見えない夢でも、母親は本当にかけがえのない理想だったのだ。

全てを失った今だからこそ、メイアははっきりと分かる。

時には弱く見えた母の姿に、どれほどの強さが秘められていた事か―。


「違う!母さんは弱くなんかなかった!!」


 メイアは思わず立ち上がって、目に見えない母の面影に向かって叫んだ。

メイアとて、理解はしている。

聞こえてくる母親の声は一時のものだと――

でもメイアはここで素直にならなければ、今度こそ自分は死んでも後悔し続けてしまうだろうと思えてならなかった。

きつく瞳を閉じてメイアは今まで感じた事の全てを、死に逝きそうになって気づいた心の内を告白する。


「・・・・・弱かったのは・・・・・・私の方だ・・・・・」


 強さを求める事。

それは自分が弱いのだという何よりの証拠だ。

ただ自分は認めたくなかった。

決して、認めたくはなかった――

メイアは瞳を閉じて、ポツリポツリと独白する。

儚く消えてしまいそうなメイアの小さな声に、母とは違う別種の強さがこもった声が重なった。





「・・・・人の気持ちを知る勇気がなくて・・・・」





『お前達や・・・・いや、もっと色々な人々の営み、喜び、悲しみ・・・・その全てを俺は理解したい』





「・・・・自分をさらけ出すのが怖くて・・・・・・」





『俺はこれしかできないから。だから精一杯やって、夢を追い続ける』





「・・・・嫌われるのを・・・・・恐れて・・・・・・・・」





『周りの迷惑も考えないで、自分は正しいとか思っているような奴がな・・・・・・
見ていてむかつくんだよ!!!』















生きたいのか?死にたいのか?

生きたい。

なら、どうして死のうとしたのか?

辛かったから。

何が辛いのか?

・・・生きるのが・・・・・辛い・・・・・・・
















『メイア・・・・貴方は本当は気持ちの優しい、心の強い娘なのよ』


 己の内に押し込んでいた真実を知り落ち込むメイアに、母親の声が元気付ける。


『もう怖がる事はない・・・・心を開きなさい・・・・
人は一人では生きてはいけない。
見つけなさい、貴方の帰る場所を・・・・・・・』


 「・・・・帰る・・・場所・・・・」


 誰かに支えられ、自分もまた誰を支えて生きていく。

昔は理解できなかったその意味がようやく分かる気がした。

人は一人では生きてはいけない――

メイアは空を仰ぎ見る。

強いと思っていた、強くなったと思っていた自分は偽りだった。

逆境に陥って、不幸だった過去を思い出しただけで、死のうとさえしたのだ。

自分はこんなにも弱い。

だけど今更どこへ帰れというのだろう?

散々突っぱねて、独立した強さを求めて、自分の弱さにも気がつかずに他人を拒絶し続けたこんな自分の身の置き所はない。

そしてまた、委ねるのも怖い。

信じて、信じ続けて、裏切られる事の絶望は幼い頃散々味わった自分が一番よく知っている。

母のかつての主張を拒んだのも、今にして思えば自分の脆くなった心の叫びだったのかもしれない。

メイアは草原に佇んで、孤独な自分に涙しそうになる。

かつて自分の変える場所は、大切な人がいたその場所は我が家だった。

生まれ育ったその家には強く雄大な父と優しい母がいた。

でも、今はもう何も・・・・・・・・










『俺が宇宙一のヒーローになって、お前を幸せにしてやる』










「・・・・・カイ・・・・・・・・・・」


 自分に置かれた孤独な世界の中で、メイアが思い浮かべたのは一人の若き男だった。

反発すればするほど、否定すればするほど、常にカイが浮かんで来る。

こうして死の淵に立って何度も死のうと思っても、まるで目の前に立ちはだかる様にカイの声が聞こえてきた。

自分と反する考えを持っていた者。

男だからだと思っていた、自分とは生きて来た世界が違うからだと思っていた。

本当にそうだろうか?

ならば何故相容れない人間の言葉がこんなにも響くのだろうか。

どうして自分はいつも痛切にその言葉を否定したがっていたのだろうか。

答えはすぐ目の前にあった。










自分が弱かった。

そして、

カイが強かった。

ただそれを認めなくなかっただけ。

自分の弱さを、カイの強さを受け入れられなかっただけなのだ・・・・・・・










『お前の全てを、俺が守る』





 メイアはそっと空から目を離して、背後を振り向いた。





『皆も、お前を待っている』





 どこまでも続く草原を―





『だから、帰って来い。メイア』










 その先に広がる彼方を見つめて――










 生まれ出でた気持ちを肯定するように、上空に一羽の白い鳩が舞う。

唇を噛んで戸惑うメイアを、母親の声がそっと背中を押した。


『・・・貴方の大切な人が待っている・・・・・・』


「母さん・・・?母さん!!」


 もう一度振り返って、メイアは叫んだ。

何度も、何度も、母親に呼びかける。

焦燥を露に叫ぶメイアに対して、もう母親の声が返ってくる事はなかった――

もう、二度と・・・・・・


「母さん・・・・」


 捜し求めたかった。

母にはまだ話したい事がたくさんあった。

お礼を言いたい事が、謝りたい事が、それこそ山のようにあった。

それこそ駆け出して追いかけたい。

でもメイア頭を振り、迷いを吹っ切った。

その足が、その声が、母を求めようとはしなかった。

自分が進むべき場所はそこではないと分かっているから。

母親は帰れと言ったのだから――


「・・・・ありがとう、母さん・・・・・」


 メイアは最後に一言そう言って後ろを振り返り、歩き出す。

視界の先の先まで遠いその景色に終わりがあるのかどうかは分からないが、メイアにはきちんとした道標があった。

そっと耳を澄ませば聞こえてくる・・・・・・





『青髪!しっかりしろ、青髪!!』





必死さが伝わってくる呼びかけ。

メイアは歩きながらため息を吐くが、その口元には小さな微笑みが浮かんでいた。


「・・・お前がいる限りゆっくりと寝てられないな、私は・・・・・」


 哀愁が生み出した束の間の安らぎが消え行く。

今まで守り続けてくれた懐かしい母親は夢と共に消滅し、メイアは現実へと歩いていった。

そんなメイアを青緑色の光が照らし、導いていく。

本当の、帰るべき場所に・・・・・・















帰りを待つ大切な人の元へ――






















<Action16に続く>

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