ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action52 −安留−
ブザム・A・カレッサこと浦霞天明は軍部を掌握するべく、まず現状を探る。
スパイ活動において現状把握と情報収集はお手の物であり、マグノ海賊団捕縛の功績を立てて出世した彼からすれば容易いことだった。
非合法的な活動に従事していた彼ではあるが、人望は厚い。存在は明るみにはなっていたが、軍人なんてそんなものである。
軍隊に、英雄なんて求められていない。必要とされるのは、国を守る志とスキルを持っているかどうかにある。
「軍艦イカヅチについては事故で片付けられたのか」
「はっ、マグノ海賊団が起こした爆破事故で処理されております。
我々タラーク軍によって追い詰められたマグノ海賊団が逃走を図るべく、暴走を起こしたとの見解です」
部下の報告に浦霞天明は重々しく頷きつつも、内申で苦笑いを浮かべていた。
どういった処理をされたのか、彼なりに推測は立てていたが、なかなか上手い言い訳を考える。
決して的外れではない。暴走が起きた事自体は事実だし、当時あの現場はカイの奮戦によりマグノ海賊団が撤退も考慮していた。
この判断について考える。
(責任追及を逃れたい軍部と、真実を明らかにしたくない国の思惑が一致した結果か)
恐らくタラーク国家は、当時の暴走事故がペークシス・プラグマによって引き起こされたワームホール事故だと把握している。
だが公になってしまえば、ペークシス・プラグマへの追求が始まってしまう。
地球が現在もう一つのペークシス・プラグマを使用していることから考えても、この結晶体の存在が絶対明らかにできない。
だからこそ、暴走の原因をマグノ海賊団にすり替えた。
(軍艦イカヅチにペークシス・プラグマが眠っていたのは偶然だったのか、意図的に封印していたのか)
ペークシス・プラグマの意思が精霊という存在である事は、カイより伺っている。
ニル・ヴァーナのペークシス・プラグマはソラという精霊、地球のペークシス・プラグマにはユメという精霊が存在している。
ソラ達の話ではオリジナルのペークシス・プラグマに宿った意思であり、精霊化したのはカイというマスターと接触した影響であるという。
そのオリジナルが軍艦イカヅチに眠っていたのは、国による判断かどうかは読み取れない。
(いずれにしても暴走事故でオリジナルの存在が確実に明らかとなっている。
タラークとメジェール国家に伝わった可能性が高く、地球も既に知っていると考えるべきだ。
カイが居なければ事実を知った後で、事態が悪化していた可能性もある)
マグノ海賊団が無条件降伏し、ニル・ヴァーナは拿捕されてしまった。
もしカイとの接触によりソラが誕生しなければ、ペークシス・プラグマは結晶体のまま奪われていたかもしれない。
幸いにもソラが管理している事で、事実上の所有権はこちら側にある。
結晶体を封印したところで、ユメがいる限り再稼働はいくらでも可能だ。
(加えてユメも明らかにカイに味方していることで、地球のペークシスも主導権を握っている。
今結晶体がどういった状態なのか、カイを通じてユメに確認を取る必要があるな。
オリジナルの存在が、この戦争の鍵を握っているといっていい)
軍艦イカヅチが起こした事故と原因を知り、浦霞天明はここまでの現状把握と未来予測を立てる。
カイ達やマグノ達がそれぞれ行動に移す中で、二重スパイというどちらにも顔が利く状態であるからこそ自分なりの考えと行動が出せる。
ユメはスパイだった自分を信頼などしないだろうが、カイが仲介に立てば渋々であろうとも協力はしてくれるだろう。
そして、そのカイがスパイであると判明しても自分を糾弾しなかった。
(カイ――お前は、記憶が戻ったのではないか)
――そんなカイの様子から、浦霞天明はカイの現状まで把握していた。
過去のない少年はかつてヒーローを目指し、宇宙へ旅立って海賊と戦った。
あの時の危うさが、今の彼にはもうない。英雄願望は現実味を帯びて、志新たに戦おうとしている。
そんな彼の懐の深さが、彼自身の現状を物語っていた。
(奴が何者であろうとも、仲間であることには違いない。
オリジナルであるソラとユメ、彼の精霊たちを守るために私が動く必要がある)
子供達の立場を守ることが、大人の役目である。
タラークとメジェールがオリジナルを狙うのであれば、まずはそこから崩していこう。
二重スパイとなった彼は、タラークとメジェールの絶対性を崩すべく、大人の世界で立ち回る。
<to be continued>
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