ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action12 -神居-








 危険域を突破した、カイやジュラからの報告により操舵手のバート・ガルサスは大きく息を吐いた。

何事もなく終わったのは、久しくなかった事だ。常に想定外の出来事が起こって、身震いさせられる羽目に陥っていた。

磁気嵐で襲撃してきた敵は既に倒しているので、刈り取りの妨害は無いにしろ、どうしても緊張させられてしまう。


何とかニル・ヴァーナを守ることに成功できて、ホッと一安心だった。


『後は俺達がやるから休憩してきていいぞ、お前』

「大丈夫なのか、補佐くらいやるぞ」

『お前がやる気なのはいいことだが、気を抜くべき時もあった方がいい。お疲れさん』


 気を抜けというカイの言葉に、気遣いを感じて頬を緩めるバート。気を使っているのはどっちなのか、と笑わずにはおられない。

苦しいことばかりの旅だったが、得難きものもまた多くあった。彼のような友人が出来たからこそ、苦しい時も耐えられたのだ。

言葉に甘えて操舵席を出ると、途端に肩が重くなった。何だかんだ言っても、疲れていたのだろう。


肩を叩きながら、バートは伸びをする。


「休憩か……ドゥエロ君でも誘ってお茶したいけど、仕事しているだろうしな」


 カイのように友人を休憩に誘ってもいいのだが、それはそれで申し訳ない気もする。

カイ一人が働いているような状況は、ドゥエロも望まないだろう。男三人、揃ってお茶する時間がこの上なく楽しいのだから。

以前はサボりたい気分でいっぱいだったのに、休憩時間になって持て余す今の自分に驚かされる。


充実しているということだろう、働いている時間もまた。


「シャーリーもツバサと一緒にお仕事するのだと張り切っていたからな、僕も頑張らないと」


 自分の家族と休憩しようと通信してみるが、不通。基本的にバートからコールすると、一も二もなく出てくれる家族が通信できない。

一瞬慌てるが、思い直す。親友ともいうべきツバサと、朝から出ていった。多分子供たち同士で遊んでいるのだろう。

ツバサはヘタな大人よりもしっかりとした子供だ、何かあれば必ず知らせてくれる。連絡がないのは、元気な証拠と見るべきだ。


バートはクスクス笑っていたが、すぐに肩を落とした。


「……むなしい」


 男一人、休憩時間をもらって何をするべきか。タバコを嗜む趣味はなく、娯楽にふけるような憩いはない。

カイたちは将来に向けて悩んでいるところなのだが、バートはシャーリーと家族になって人生を生きるのだと決めているので不安はない。

士官候補生の自分よりむしろ、三等民の友人の将来を心配している。いざとなれば、自分のコネの全てを使ってでも立場を確立させてやりたい。


ともあれ、今だ。休憩時間に何をするべきか――



『招待状が届きました』

「うん……?」



 ――通信機には、メッセージ機能が備わっている。


操舵手であるバートはニル・ヴァーナの操縦で忙しく、任務中に通信機は取れない。彼のような忙しい人に役立つのが、このメッセージ機能である。

いわゆる電子的な書き置きだが、メジェールの機能により多彩なオプションが付いている。

招待状機能もその一つであり、単純な書き置きではなくお祝い事などを記したメッセージが届くのである。


ただいきなりのメッセージだったので、驚きつつも招待状を開いた。


「クリスマスパーティーか、いいね!」


 暇を持て余していたところへ、イベントクルーからの招待状。落ち込んでいた気分も吹き飛んで、バートはウキウキ気分となった。

去年のクリスマスは男女がまだ諍いを起こしていた時期で、カイがイベントクルーを手伝って垣根を越えようと悪戦苦闘していた。

今年はもう男女の垣根を超えて仲がいい為、こうして気兼ねのない招待状が届けられたのである。


女性陣よりお誘いを受けて、バートがゴキゲンだったのだが――


「――何だこの最後の一文。『パーティを大いに盛り上げる貴殿の芸に期待しております』、芸ってなに!?」


 完全なる無茶振りに、思いっきり仰け反る。お笑い役を命じられて、バートは目の前が真っ暗になった。

女性陣を笑わせるのではない、彼女達に笑われる為の役目である。嘲笑ではないにしろ、道化を容赦なく命じられている。

ガックリさせられた。多分どんな芸をしても、きっと思いっきり笑われるのだろう。馬鹿にされるのは、目に見えていた。


でもその笑顔はきっと、明るくて楽しいのだろう。


「僕に何を求めているんだ、あいつらは!」


 プンスカ怒りながらも、招待を受ける返信を送った。逃げるという選択肢は、彼の頭にはない。

クリスマスパーティーが行われるのは、磁気嵐を抜けた後である。そこまで来れば、もう憂いはないだろう。

ここまで諦めなかったからこそ、今がある。この一年間頑張ってきたからこそ、男達とも女達とも仲良くなれたのだ。


求められているのがピエロというのであれば――思いっきり、笑ってもらおうじゃないか。


「カイやドゥエロ君も誘って、サンタなるものに扮してみるか」



 ――メリークリスマス。























<END>







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