ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action34 -杏次-








 ――引鉄は引けたという確信は、あった。


最後に確認は出来なかったが、敵は恐らく倒せた。随分と苦戦させられたが、あれほど強い敵を一人で倒すことが出来た事は誇らしい。

今でも、敵と戦う事は少し怖い。どうやって戦えばいいのか、どうすれば倒せるのか、どのようにすれば仲間を守れるのか。ハッキリとした答えは今もない。

ただ今日は、やり遂げられたという実感はあった。それだけで誇らしく、心地良い。初めて自分で戦い、自分で勝てた。乗り越えられたのだという実感はあった。


それで十分だと、思う。


"それで死んでしまって満足だというのかしら、蒼きカチナ"

"……誰?"


 問い返しても、返答はない。問うてみても、意味はない。とても不機嫌そうな声、ふてぶてしい問いかけ、他人のように思えなかった。

自分が怒らせたのだと、今の自分なら分かる。どうして怒っているのか分からないが、怒られているのならちゃんと向き合わなければならない。


自分はリーダーとして、任せれたのだから。


"死にたくはないよ。でも、死なせたくはもっとないの"

"自分が先に死ぬのよ"

"先に、大切な人に死んでほしくないから"

"自分よりも仲間の方が大切なのだと、気持ち悪いことを言うのかしら"


"大切な人を失うことが、一番痛くて辛いの"

"……"


 もっと不機嫌になった。気に入らない回答だったのではない、心当たりのある回答だったらこそ機嫌を悪くする。納得させられた証拠だった。

声の主が誰なのか、思い出せない。知らないのではなく、思い出せない。考えることがとても億劫で、口を開くのも難儀させられている。


本当に、疲れた。


"そのまま寝たら死ぬわよ"

"みんなは大丈夫かな"

"自分の心配を少しもしないのね"


"ディータは今、皆のリーダーだから"


 ――ディータ・リーベライは今、自分の答えを口にした。リーダーの資質によるものではなく、リーダーとしての自覚を持った意識。

職務意識なのか、プロ意識なのか、どうでもいい。今まで悩みに悩んできたが、彼女は死闘を経てようやく自らリーダーであると名乗った。

聖人を気取らず、博愛主義を歌わず、あくまでもリーダーとしての答え。流されるままだった彼女が、自分の生き方を決めたのだ。


その回答がなければ、彼女はディータを救わなかった。


"だったら、ユメがあんたを救ってあげる。だってユメも、ナビゲーターチームのリーダーなんだから"


 同僚であれば、是非もない――ユメは仕方がないと、投げやりに笑った。















 奇蹟の種は手品と同じく、単純である。他の機体ならいざしらず、ディータ機はペークシスによるカスタマイズが行われている。つまり、ペークシス・プラグマによる干渉が行える。

大怪我して気を失ったディータを機体ごと、ニル・ヴァーナまで運ぶ。崩壊した機体を丸ごとユメがコーティングして、崩壊を防ぐ。後は、仲間達に回収させればいい。

死にそうだったので精神に働きかけて、死なないように話しかける。気を使いたくはないが、死なれては無駄骨だ。渋々ユメが力を使って、ディータと機体を守ったのである。


綺麗事や理想論をほざけば容赦なく見捨ててやったが――リーダーだからと言われてしまえば、同じリーダーとして助けない訳にはいなかった。


「今回は、大活躍だったね。お前さんには、感謝しているよ」

「ちょっと――ユメも、リーダーなんだけど?」

「おっと、そうだったね。それじゃあ――良い働きだったよ、ナビゲーションリーダー」

「ふふん、当然。なんだったら、副長くらいになってやってもいいわよ」

「おやおや、ライバルが現れたよ、BC」

「新米に負けないように、私も職務に励むとしましょう――ユメ、カイとメイアが無事に救出された」

「! カ、カルーアは!? ユメの妹は無事なの!?」

「カイとメイアが守り抜いた。お前の主が、お前の妹を救ったんだ」

「やーん、さすがユメのますたぁー! どんな所にいても、ユメのために頑張ってくれるのね!」


 大はしゃぎするユメの姿こそが、平和が訪れた何よりの証だった。本人は気付いていないが、彼女はニル・ヴァーナにおける平和の象徴になりつつある。

日頃はとても物騒な発言が目立つが、マグノ達とて海賊だ。殺伐した世界に、覚悟を持って生きている。ユメの警戒など、彼女達にとってはそよ風に等しい。

強大かつ不可思議な力を持っているが、カイやカルーアがいる限り、その力がマグノ海賊団に振るわれることはないだろう。


ユメはきっと、分かっていない――彼女は今日、大切な人だけではなく仲間達を守ったのだということを。


「ディータの容態はどうなんだい?」

「ドクターが治療中です。深手を負っていますが、命に別状はないとの事。メディカルマシーンで休養すれば、起き上がれるようになるようです」

「あの子もよくやってくれたからね……何とか、間に合ってほしいものだよ」

「彼らが企画していたサプライズ――ですね」

「あの子達全員が築き上げた結果だよ。本当に、頼もしくなったもんだ」


 ディータだけではなく、ユメも仲間を守るべく必死だった。カルーアだって自意識はなくても、懸命に生きようとした。

必死で努力する子供達の姿を見ていると、大人の自分達も励まされる思いであった。彼女達の懸命さは、思いがけない奇蹟を生み出している。

新型であった敵の脅威も、実質ディータが一人で退けた。敵はまだまだ強大な力を持っているが、希望は見えてきている。


ならば後は――



「最後の関門、"磁気嵐"だね」

「此度の敗戦で、敵も追い詰められた。優位は逃さぬでしょう」



 ――カイがリズやラバットとの取引により手に入れた情報、故郷の前に立ちふさがる磁気嵐の壁。

子供達が賑やかに祝う中で、大人達は子供達を守るべく次なる脅威に備える。


この船は、全員が戦っている。























<to be continued>







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