ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action33 -論治-








 ピョロが宇宙に廃棄されていたポットを発見出来たのは、本当にただの偶然だった。死に物狂いで探し回ってはいたが、そのポイントで発見出来る保証があった訳ではない。

しかしながら、ピョロが探しに行かなければ間違いなく発見出来なかった。何の作戦も戦略もない無鉄砲が、結果として本日の最大の成果を生んだのだ。

幸運と言うべきか、奇跡と言うべきか、あるいは運命と言うべきか。一つだけ言えるのは誰かが諦めていたら、この結果は訪れなかった。


誰もが命を諦めなかったからこそ、すべての命を拾う事が出来た。


「本当に、間に合ってよかったピョロ!」

「ゲホ、ゲホ……間に合って、ねえよ、ガハ、ゴホ……!」


 脱出ポットの酸素量は皆無、酸欠寸前で救い出された形。当然だがニル・ヴァーナまで戻る余裕は全く無く、ピョロが発した救難信号でレジ機が迎えに来たのである。

人間は酸欠状態に陥ると、あらゆる身体的障害を引き起こす。無人兵器に殺されるよりも遥かに恐ろしい苦痛に苛まれるのだ。新鮮な空気が、逆に毒に感じられてしまうほどに。

酸素ボンベで吸入されていたカルーアは無事だったが、カイとメイアは酸欠死寸前でその場にへたり込んでいる。レジ機内に何とか格納されたのだが、立ち上がる気力もなく横たわっていた。


レジ機を駆り出したバーネットが急いでレジクルーを連れてきて、二人に救命処置を施した。


「フゥ、フゥ……こんな事言いたかないが、本当に死ぬかと思った」

「ハァ、ハァ……まさに、九死に一生を得たな」


「本当に無事でよかった……今度から出かける時は、ひと声かけてよね」


 二人して自分達よりもカルーアの救命を急がせる。自分より優先に保護していたからと知って、無事だという保証はどこにもない。

自分達が死にかけたと言うのに仲間の子供を優先とする二人に、バーネットは苦笑しつつも誇らしく思った。助けられてよかったと、心の底から思う。

我が子のようにカルーアを可愛がるピョロでさえも、今回はカルーアを優先に救ってくれた二人の介護に努めている。それほどまでに、感謝していたのだ。


そんなピョロとバーネットをメイアが救命処置を受けている間に、カイがこっそり手招きする。


(そっちはどうだった?)

(敵が奇襲を仕掛けてきたけど、ディータがチームを率いて戦ってる。残りは新型一機、今のあの子なら倒せるでしょう)

(誕生日パーティの準備に影響は出てないピョロ。ただ色々バタバタしちゃったから、全部片付くまでここで大人しくして欲しいピョロ)

(了解、幸い青髪にはまだ気付かれていない。ドクターを呼んで、俺らの治療を出来るだけ丁寧に長引かせてくれ。
不幸中の幸いだったな、治療の名目なら幾らでも閉じ込められる)


 廃棄処分の救命ポットに放り出されたのは不幸以外の何物でもないが、災いが転じれば福となす。

サプライズパーティにおける最大の障害だった本人を、治療の名目で隔離させられるのだ。本当に死にかけたので、仮病も何もない。

酸欠死寸前だった身体に酸素を吸入する程度では、回復しない。弱った身体は静養しなければ治らない。日頃吸っている空気のありがたさを思い知らされる。

職務熱心なメイアも流石に平気だとは到底言えない。入院もちゃんと受け入れてくれるだろう。


これで、サプライズパーティは確実に実現できる。


(カイはどうするピョロ?)

(俺だけ退院したら怪しまれるだろう、一緒に入院するさ。最後まで手伝えなくて悪いな)

(あんたは十分よくやってくれたわよ。メイアの相手をしてくれていたんだもの、文句なしよ。後はアタシ達に任せて、休んでなさい)


 ピョロとバーネットに快諾されて、カイも一息ついた。何も戦っていないと言うのに、戦闘している時よりも疲弊した気がする。

メイアと一日一緒にいた事自体は窮屈でも何でも無かったが、彼女の一挙一動に神経を尖らせるというのは消耗が大きい。

彼女本人を仲間だと思っているからこそ、仲間の監視をすることへの抵抗もあった。誕生日を無事迎えれば、この気苦労も晴れるのだろうが。


二人が去って救命処置を受けていると、メイアがやって来て隣に座った。


「お前の言う通り、全員助かったな」

「ギリギリだったけどな、正直。本当に死ぬかと思った」

「でも、死ななかった。お前が、正しかったんだ」

「お前だって、間違っていた訳じゃないさ」


 メイアが取ろうとした自己犠牲は到底受け入れられないが、状況が変われば自分もどう判断するか知れたものではない。

戦闘中仲間を庇った事だって、何度もあった。仲間が危うくするくらいならば、自分が危うくなった方がいい。そういう気持ちくらいは、持っている。

今回そうしなかったのは、メイアがそうしようとしたせいだ。客観的に見れば、間違えているのだと分かる。だが、主観的になれば悩んでしまう。


結局、蓋を開けてみなければ分からない。


「それでも、お前のおかげで救われた。本当に、ありがとう」

「俺はお前を止めただけで、お前を助けた訳じゃないぞ」


「ならば、わたし達が救われたことに感謝するか」

「そうだな、俺達を救ってくれた全てに感謝だ」


 二人並んで座り、いつの間にかそっと手を握り合っていた。共に感謝するという思いが、二人を優しく繋いだのかもしれない。

言葉を並べず、想いを共有して、肩を寄せ合っている。不快でも何でもなく、ややくすぐったくも心地良い感覚が体と心を癒やしてくれる。

男と女の関係、メイアとカイの関係。想いを無理に形にしようとせず、あるがままに自分達の心に素直になっている。


論ずる事の出来ない感覚が、何より自分達を治してくれた。


「カイちゃん、メイアちゃん! あの、本当に――」

「おふくろさん……俺達のことはいいから、カルーアに付き添ってあげてくれ」

「あの子を救えるのは、母である貴方だけだ。もう手放さないで下さい」


「っ……本当に、ありがとう……! 私はもう、母であることを決して諦めたりしないわ!」


 ――育児ノイローゼには様々な要因があるが、我が子への想いが深すぎるのも原因の一つとされている。

想いが重荷となってしまうその前に、自分の想いに素直になる事。彼女に必要だったのは思い煩うのではなく、自分の想いに正直になる事だった。

救命ベットに寝かされたカルーアを目の当たりにして、エズラは号泣している。無事だったことへの安堵と――生きていることへの、喜び。


人は嬉しい時、笑うとは限らない。嬉しいからこそ――泣く時だってある。


「ベビーシッターも一日で終わりとなりそうだな」

「名残惜しいのか?」

「……まあ、ちょっとな」


「私が、お前の子供を産んでやろうか」


「俺の子か……俺の子!?」

「ふふ、何をそんなに慌てている。私だって女なのだぞ」


 そして、生きているからこそ――微笑んでいられる。

冗談なのか、本気なのか、この際どうでもいい。メイアはただ、笑っていた。


生きている事が嬉しくて、生きていられることが楽しくて、心から笑っていた。























<to be continued>







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