ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action9 -家系-








 マグノ海賊団のオペレーターであり、ニル・ヴァーナに乗艦する母親の悩みは意外と重く、あれこれ論議を尽くしている間に結構な時間が経過していた。

サプライズで誕生日パーティの準備をしている時間を稼ぎたいカイとしては予想以上の成果ではあったが、問題としてはこちらの方が大きくなっているように思えた。

誕生日はメイアにさえ発覚しなければ大成功だが、育児は短時間で片がつく問題ではない。制度の見直しは必要不可欠だろうが、現実問題は早急な解決とはならないだろう。


メイアとカイが我が事のように悩んでくれているのを見て、エズラは申し訳なく思いつつも嬉しかった。


「――私にも経験はないが」


 重い顔を突き合わせて悩んでいた面々を前にして、思いを馳せるようにブザムは口を開いた。カイやメイアも顔を上げて、上司を見つめる。

前置きしたその言葉は少し、逡巡が含まれているようだった。事実、ブザムには出産や育児の経験はない。修羅場を生きるブザムには無縁であった。

解決の糸口を探るかのような彼女の言葉は辿々しく、それでいて親身に話しているように見えた。経験がない分、言葉を選んでいるのだろう。


その視線は悩める母親に当てたまま、そっと語りかけた。


「何が正しいのか分からないが、少なくとも――子供にとって一番大切なのは、親だと思う」


 エズラはハッと顔を上げて、逆にカイは視線を下げた。彼には親がいない、不要なクローン人間として廃棄された過去も思い出せている。

それでも決して、一人ではなかった。育ててくれた酒場の主はぶっきらぼうではあったが、自分の足で生きていく人間にまで見守っていてくれた。

世間的には親とは到底呼べないだろうが、育ててくれたのは間違いなく彼である。血は繋がっていなくても、親代わりの存在には確かに救われたのだ。

メイアに関しては殊更に重く、真剣な表情で耳を傾けている。


「人が育つ上で必要なのは、マニュアルではない。親も子供も試行錯誤を重ねて、絆が生まれる。そうではないか?」


 ――メイアにとって耳の痛い話ではあった。親は確かに試行錯誤をしてくれていたが、自分はどこまで歩み寄れたのか分からない。

気付いた時には、全てが手遅れだった。何もかも、戻ってこない。大切なモノを失って、信じる気持ちが壊れてしまった。

その経験から強さを求めたのだが、今になって形を変えつつある。ならば原点は何処にあったのか、思い出すにはまだ胸が痛い。

そうしたメイアの思いが伝播したわけでもないのだろうが、聞いていたエズラの手が震えてしまっている。


「……でも、不安なんです」


 心の底から湧き出るエズラの吐露は重く、深い。日頃朗らかで思いやりのある女性、その分一人孤独に抱えこんでしまっていたのかもしれない。

思えば常に誰かに相談は受けていたが、誰かに相談しているエズラの姿を見かけたことは誰もいない。育児をする人間もいない、誰にも話せないのだ。

その事実に気づくのが早かったのか、それとも遅かったのか。いずれにしても、彼女は相当なストレスを抱え込んでいたのだ。

ポツリ、ポツリと、言葉少なく吐き出されていく。


「私の育て方が間違ったせいで、あの子が悪い子になったらといつも不安で――誰にも相談できなくて」


 若干不謹慎ではあったが、カイには耳の痛い話だった。人間なんて邪魔だから殺せと無邪気に言う少女が、お姉さん気取りでカルーアの面倒を見ているのだ。

カイにとっては人間嫌いなユメの更生にいいと思っていたが、考えてみると勝手に教材にされた側は迷惑な話である。

ユメは確かにカルーアをこれ以上ないほど可愛がっているが、ユメ本人は理想的な母親でも、模範となるお姉さんでもない。押し付けていた感は否めない。

エズラも決してその点を批判はしていないのだろうが、申し訳なくはあった。


「いつかメジェールへ戻ってあの子のオーマに会わせても、私のせいであの子に嫌われたらと思うと……ううっ」


 メイアの心が痛んだ。故郷へ戻る事、メジェールにある海賊のアジトへ戻る事が、この旅の最初の目標であった。

今でこそ刈り取りの脅威を認識しているが、当初男と女の同盟は故郷へ辿り着く限定であった。故郷へ戻れば安心だという前提があってこそ成立した。

しかしエズラにとっては今、別の意味で故郷への帰参に問題が生じている。故郷へ帰れば何もかも解決するのではない、突きつけられる現実は重く苦しい。


その点を一番認識しているのは、やはりこの艦を管理しているブザムであろう。


  「エズラ、何もかも一人で抱え込む事はない。あの子は、エズラだけの子ではないのだから」

「……えっ?」

「あの子はこの艦で生まれた、初めての子供じゃないか。言わば、我々全員の子だ。育て方に困ったら、他の者に聞けばいい。
皆が、あの子の親なのだから」


 涙に濡れたままの顔を上げるエズラ。カイは堂々と胸を張り、メイアもまた真摯に頷いている――その光景に、出産当時の記憶が重なった。

メッセージポットに仕込まれたウイルスが原因で、停止してしまったエレベーターの中。艦の外から無人兵器が襲い掛かって来て、ニル・ヴァーナ艦内が大騒ぎだった。

悪戦苦闘する中出産が迫り、エズラはエレベーターに倒れこんでしまう。そんな時命懸けで救ってくれたのは同乗していた少年カイと、連れ添っていた少女ミスティだった。


不慣れな状況で手一杯だったのにカイもミスティも決して諦めず、汗水流してエズラやカルーアを救ってくれた。懸命に励まして、赤ん坊は無事出産することが出来た。


自分は決して一人ではない、その通りだった。何故忘れていたのだろうか。あの時カイもメイアも、そして艦内のクルー全員が祝福してくれたのに。

無論、根本的な問題は解決していない。育児に関する問題は、まだ根強く残っている。でも一人で悩むことはない。


カイは、メイアに持ちかける。


「普段から、おふくろさんには色々お世話になっているんだ。こうなったら今日はとことん相談に乗ろうじゃないか」

「うむ、幸いにも我々は今日行動を共にしている。共に協力して、エズラさんの問題を解決しよう」

「ありがとう、二人共!」


 ――この親身なる判断がカルーア本人を危険に晒すことになるとは、神様でも予想できなかったに違いない。























<to be continued>







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