ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action7 -育児-








 人機合体"スーパーヴァンドレッド"の戦略プランを相談すべくブリッジへ訪れたカイ達が、逆にエズラとブザムより相談を持ち掛けられてしまう事態。

カイとしてはメイアの行動を束縛出来るのであれば、相談の内容自体は何でもかまわなかったので、ブザム達の申し出を一も二もなく快諾する。

思いがけぬ展開に戸惑いを見せるメイアではあったが、副長より相談を持ち掛けられては否と言えず承諾。全員揃って、ミーティングルームへ移動した。

作戦会議を行うミーティングルームは会議が行われれば、関係者以外立入禁止となる。情報が表に出ないということは、表からの情報も入ってこなくなる。


思い通りの状況に内心ほくそ笑むカイではあったが、エズラの相談事であれば親身に乗るつもりでもあった。


「おふくろさんからの相談事というのは珍しいな。普段は相談役になってもらっているのに」

「ごめんなさいね、大事ではないのだけれど」


「――カイ、お前は普段エズラさんに相談を持ちかけていたのか?」


 親密に笑い合うエズラとカイを目の当たりにして、メイアは戸惑いを深くする。不思議な話ではないのだが、聞き捨てならない事柄でもあった。

カイは基本的に問題事は自分で解決しようとする傾向が強く、他人にはあまり頼らない。さりとて意固地にはならず、いざとなれば相談する行動力もあるのだが。

ただその相談事をエズラに持ちかけているのは、不思議ではあった。私生活はともかくとして、任務や価値観ではあまり重ならない二人なのだ。


メイアの疑問に、特に何でも無さそうにカイは返答した。


「メジェールの事について、色々相談に乗ってもらっていたんだよ。価値観もそうだけど、文化の違いも多くあるからな」

「ああ、なるほど。私生活においても多くの違いが見受けられているからな」


 タラークとメジェールではあらゆる意味で違いが生じている。その違いを敵視していた双方だが、同じ人間だと分かってカイは溝を埋める努力をしているのだ。

特に私生活では男性と女性の違いも当然あるが、それ以上にタラークとメジェールの文化や価値観の違いでもズレが生じている。

カイ達は母艦戦で部屋を失い、マグノ海賊団の居住区でもよくお世話になっているのだ。私生活の違いが諍いとならないように、彼なりに気を遣っているのだろう。


女性への配慮は嬉しくはあるのだが、メイアなりに不満もあった。


「エズラさんも任務と子育ての両立で忙しいのだ。負担とならないように、時には私を頼ればいいだろう」

「お前、私生活姿をあまり見せたがらないじゃないか。頼っても良かったのか」

「……むっ」

「俺としては相談相手にも気を遣っているんだぞ。同年代に相談しにくいことだってあるんだからな」


 そう言われてしまうと、メイアとしても口を閉ざすしかない。カイはエズラへの気安さだけで、彼女だけに相談しているのではないのだ。

女の子と男の子、同じ年代だと仲が良くても気安く話せない相談事だってある。距離感が掴めず苦労している分、カイも何かと考えているのだろう。

自分の胸に手を当てて考えてみる。カイに同年代の女の子について相談されたら、明確な回答が行えるだろうか――無理だ、即座に諦めた。


納得させられると同時に、落ち込んでしまう。リーダーであるというのに、同僚の相談にも乗ってやれない。


「……何でこいつ、落ち込んでいるの?」

「メ、メイアちゃんも年頃の女の子なのよ。分かってあげて」

「お気遣いには、感謝する」


 相談に乗るつもりが、相談に乗ってもらってしまう。エズラの包容力に感心すると同時に、アベコベの立場に陥っている我が身を戒める。

ふとメイアが視線を上げると、ブザムが興味深そうに見つめられていることに気付く。些細とも言える事に一喜一憂している彼女が、本当に年頃の娘に見えるのだ。

メイアは羞恥心に震えてしまう。何故こんな気持ちにさせられるのか、最近は本当にどうかしている。悩まなくていいことに悩んでいる気がする。


彼女は頭を振って、邪念を振り払った。この話題は置いておいて、本題に入るべきだ。


「すまない、私のせいで脱線してしまった。相談事というのを聞かせて頂けますか、エズラさん」

「そんなに深刻な顔をしなくてもいいのよ。本当に些細な事なの、副長に気遣って頂いているだけで」

「……先程のカイではないが、年代による見解の違いというものがある。私の意見でもいいのだが、彼らの意見も聞いてみるべきだ。
特にカイは、カルーアの誕生を祝福した人間だ。親身になって貰えるはずだぞ」


「もしかして――カルーアに何かあったのか、おふくろさん」


 カイは顔を上げる。大袈裟には捉えていない。カルーアにはピョロとユメが付いている。何かあれば即騒ぎ出す、過保護な連中だ。

ナビゲーションスタッフという職についておきながら、新しいクルーの育児に忙しいという困った連中である。

人外が人を愛するという特殊な状況は、もしかすると赤ん坊だけではなく母親にも影響をあたえるのかもしれない。


ユメについては、カイに保護義務が生じている。問題が起きているのであれば、放っておけなかった。


「ええ、その……最近あの子のお世話を、ピョロちゃんとユメちゃんにばかり任せてしまっていて」

「職務熱心なのは結構なのだが、やはり育児となれば母親も大切だと思ってな……余計なお世話ではあるのだが、先程話をしたのだ」

「あー、なるほど、確かにうちの問題でもあるな……」


 ピョロはともかくとして、人間の子供がよほど珍しいのかユメもすっかりカルーアを溺愛してしまっている。無邪気に甘えられるのが、とても嬉しいようだ。

ピョロのように母親気取りではないので、余計に始末に困る。お姉さんというのはつかず離れずの立場であり、時に母親よりも距離が近い関係となる。

邪気のない子供は、人間嫌いなユメにとっては理想の存在なのだろう。特にユメは人間との距離感が今もつかめていない。だから、変に慕ってしまうのだ。


カイはユメのそうした変化を良い傾向だと捉えていたのだが、その分問題視しておらず放置してしまっていた。


「難しい問題ですね。我々は多くの難民を抱えている上に、これから先は男達との関係も視野に入れなければならない。
その中で女性の育児問題は、海賊業にも大きな影響を及ぼします。この際、育児休暇も検討するべきではありませんか」

「……カルーアは良いケースとなるかもしれないな……ふむ」


 メイアの指摘は女性問題であると同時に、男達との新しい関係も含めて職場の改善を訴えている。これもまたカイ達との関係で生まれた変化なのだろう。

その変化を今後に生かしていく上でも、メイアの提案は一考に値する。育児が疎かになれば、生活環境の悪化に繋がりかねない。

海賊業は危険な職業であり、法を犯す生業。平和な家庭は求められないが、さりとて疎かにしていい問題ではない。


メイアの意見にブザムも検討するが、カイは理解しつつも首をひねっていた。


「カルーアの面倒を見るために休暇を取るのは賛成だけど、そもそもおふくろさんの仕事って今そんなに忙しいのか?」

「重要な任務ではある。ただ育児放棄とならないように、職場でも協力している。私の意見も言わば、その一端だ」


「お心遣いは、本当に感謝しています――問題は、私自身にあるのです」


 労働環境が問題ではないという点が、カイやメイアには大きな意外であった。他者にも優しいエズラは、さぞ赤ん坊を大切にしていると思っていたからだ。

いや、話を聞いた今でも育児を疎かにしているとは思っていない。ユメやピョロの過保護であるというのであれば、カイも口出しするつもりなのだ。

だが、エズラの顔色は誰かのせいにはしていない。深刻な表情は、何処までも自分自身へ向けられている。


その痛々しさに二人は息を呑み、静かに話を聞いていた。



「――時々、分からなくなるの。どう扱っていいか」



 カイとメイアは、お互いの顔を見やる――聞き違いではない、エズラは今確かに"扱う"と口にした。

断じて、我が子に向ける言葉ではない。まるで未知のものに触れるかのような、恐怖。自分の子供を道具のように持て余しているのだと、彼女は口にしたのだ。

我が子であれば、無条件に愛されるとは二人も思っていない。カイもメイアも、両親と呼べる存在が居ない。子には、親の気持ちが分からない。


男女がお互いの事をまだまだ知らないのと同じく、エズラもまたカルーアの事が分からないのだ。


「大事に思っていても、大切にするのは難しい」

「――我々が取り巻く状況と、同じ問題だな」


 カイは女性との関係にまだまだ戸惑っており、メイアはカイとの関係について右往左往させられている。

男女関係が悪かった頃は衝突して、人間関係が改善されればどう扱っていいのか悩んでしまう。単純に、仲が良くなればいいのではない。

取り巻く人間関係は変化し続けているというのに、なかなか上手く安定しない。些細な事で、こうして悩ませてしまう。


本当に分かり合える日は、来ないのだろうか?























<to be continued>







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