ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action3 -吐露-








「――ふむ」

「どうした、青髪?」


「すれ違うクルー達の視線が気になる。どうも私の動向を気にしているように見えてな」


「……俺を連れて歩いているから目立っているんだよ。作戦行動中以外で、一緒に行動していた事はあまりないからな」

「そ、それもそうだな……すまない、むしろ私が他人の視線を気にし過ぎているようだ」


 今日から連携して行動することを決めたカイとメイアは、二人連れ立って行動している。男と女が共に行動する光景は、今のニル・ヴァーナではさほど珍しくはない。

ただメイアがカイと肩を並べて行動するのは珍しい。自覚はあるのか、カイから指摘されて気まずげに肩をすくめた。

珍しく恐縮するメイアに、何でもない事だとカイは苦笑しながらも――すれ違った面々に向けて、厳しい視線を向けた。


カイに睨まれた女性陣は、メイアに見えない位置から両手を合わせる。


"もっと自然に歩けよ、メイアに不審に思われるだろう!"

"ごめーん、つい意識しちゃって!"


 言わずもがな、注目しているのは単に二人が歩いているからではない。サプライズパーティの準備中で、メイアにバレないように過剰反応してしまったのだ。

すれ違った面々は手荷物を抱えており、清掃道具に偽装しているが中身はパーティーグッズ。すれ違った際バレないように、つい意識したのである。

案の定メイアが不審な態度に気付いいたが、カイは咄嗟に不審なポイントをずらしたのだ。これもまた、カイの御役目だ。


メイア本人の監視と行動の制限――敵情視察は、パイロットの基本行動である。


「人の目を気にするなんて、お前にしては珍しいな」

「どういう意味だ。私とて、他人の目くらいは意識しているぞ」

「他人には深く干渉しないのに、他人の目を気にするというのも妙な話だな」

「他人の心にまでは触れず、他人の行動を察する。私は部下を持つ立場、観察くらいは心掛けるものだ」


   話を聞いて、カイはふと考える。メイアを監視するということは、自然とメイアの行動を追うということだ。彼女を知る事にも繋がる。

不要な行為だとは思わない。メイアという人間については、前々から意識していた面もある。対立も多いが、その分彼女と接した回数も多い。

普段何を考えているのか、どう思って行動しているのか。こうした何気ない会話の中で彼女を知っていく事は、今後の監視にも役立つだろう。


仕事だけではなく、興味本位であることもカイは否定しない。


「責めている訳じゃない。単に疲れそうだと、思っただけだ」

「生き方の問題だな。日々心掛けていれば、自然と身につくものだ」


 習慣化されれば疲れない、という事にはならないのではないだろうか? メイアの言いたいことは何となく理解しつつも、カイは内心首をひねった。

単純に我道を歩いているだけなら支障がないが、メイアは部下を持つリーダーだ。部下への配慮なども含めて、気を配らなければならない。

彼女の中で明確な線引が出来ているのだとしても、立場を考えれば精神的に疲労は溜まるはずだ。


発散できていれば何の問題もないのだが――メイアの私生活は傍から見れば、極めてストイックに見える。


指摘したくはなったが、カイは思いとどまった。もし指摘して他人を今意識するようになられても、それはそれで困る。

先程は何とか口先で誤魔化せたが、女性陣の態度そのものは間違いなく不審だったのだ。意識するようになれば、簡単に発覚してしまう。

少なくとも今だけは、不審に思われるのを避けなければならない。自分の意見は心に伏せて、カイは自制心を働かせた。


そうしている間に、メイアは通信機を取り出して誰かと連絡を取り合っていた。話を終えて何やら悩む様子を見せるメイアに、カイが尋ねてみると――


「私の指揮で進めていたニル・ヴァーナ艦内の大清掃と改築工事について、パルフェより指揮権の委託を求められた」

「指揮権の譲渡? 変な事を言い――っ!」


 『ニル・ヴァーナ艦内の』大清掃と改築工事、カイはピンと来た。サプライズパーティの準備を、清掃や改装作業に乗じて行うつもりだ。


誰の発案なのか分からないが、素晴らしい案である。清掃や改装に乗じておけば、荷物の出し入れや整理を行う行為も自然に見える。

先程のようにメイア本人とすれ違っても、余程不審な行動を取らない限り咎められることもないだろう。当然、カイがフォローしてやる必要もなくなる。

問題を挙げるとすれば今現時点で起きているこの不審な提案をどう正当化させるか、である。仲間達のバトンを受け取って、カイは懸命に頭を働かせた。


「今日からしばらく俺との共同だろう。いいタイミングじゃないか、パルフェに仕事を任せておけよ」

「共同作業については了承したが、それはあくまで我々に関する話だ。私情で公務を疎かにする訳にはいかない」

「お前は俺と、掃除がしたいのか?」

「そうはいっていない。ただ私にも役目があって――」

「その役目がある事を察して、パルフェが提案してくれたんじゃないのか」

「何を言っている。私とお前の共同作業はまだ誰にも言っていない」


「お前こそ何を言っているんだ。『パイロット』としての任務があるお前に、いつまでも清掃だの改装だの任せるのは心苦しいと思ってくれているんだよ。
お前の本職は清掃員じゃないだろう。パルフェは機関士で、ニル・ヴァーナ全体のシステムや構造を把握している。改装作業もお手のものだ」

「そ、そうだな、お前の言う通りだ――今日の私は本当に、どうかしている。い、意識することはないんだ、うむ」


 カイに指摘されて、メイアは羞恥と共に白い頬をほんのり染めてパルフェに承諾の意を伝えた。メイアの了承に、カイはホッと息を吐いた。

自分でも言っているが、今日のメイアは確かにぎこちない。共同作業を過剰に意識してしまって、冷静な判断能力を鈍らせていた。

今言ったカイの指摘はごもっともな面もあるのだが、メイアの不信そのものを解消する程ではない。


そもそもパルフェがメイアの指揮権を無理に求めてまで、改装の指揮を取る必要はない。一技術者として、メイアの指揮下で作業すればいいだけなのだ。


パルフェのそうした過剰な働きかけこそが不審なのだが、行動理由のみ伝えられてメイアは単純に納得してしまっている。

冷静に考えれば少しは疑念を持つはずなのだが、今回ばかりは上手く頭が働いていないようだ。

思いがけずメイアの内心が吐露されてしまって、カイは本心から苦笑いを浮かべてしまった。


「ひとまず、パルフェに指揮権の委託を承諾した。お頭と副長にも連絡を行うので、もうしばらく時間を貰えるか」

「ああ――いや、直接相談すればいいじゃないか」

「わざわざブリッジにまで足を運ぶ必要はないだろう」

「バアさんと副長に、戦術の相談もしておきたい。俺達二人で考えてもいいが、ベテランの意見も交えるべきだろう。
特にスーパーヴァンドレッドは、対刈り取り戦の切り札となる。奪取した母艦や無人兵器との共同運用も示唆しておきたい」

「なるほど、そうなると母艦や無人兵器を連携に組み込んだ大掛かりな戦術訓練となりそうだな……分かった、直接相談に行こう」

「話が早くて助かる」


 ――嘘である。確かに共同運用試験は必要だが、カイが今求めているのはメイアをブリッジへ行かせることだけだった。

メインブリッジでの相談となれば、会議室が使用される。関係者以外立入禁止の会議室は、言い換えると気密性が高い部屋ということだ。

戦術会議となれば、当然長時間の打ち合わせとなる。その間メイアを会議室に閉じ込めておけば、他のクルー達が非常に動きやすい。


退屈な会議もメイアの行動制限に必要とあれば、長時間はむしろありがたく感じられる。


「――ふふ」

「何だよ、意味ありげに」

「いや、私との共同連携を前向きに考えてくれているお前の気持ちが嬉しかっただけだ。他意はない」

「お前……」


 ――他意がないということは、本心の吐露なのではないか?


どこか弾んだ調子で歩いて行くメイアに、カイは怪訝な顔をする。段取り自体は上手くいっているのだが、妙に腑に落ちない。

メイアの心情がこれ以上ないほど理解できるのに、自分の心の中が何とも読めなくなっている。


他人を理解できるのに、自分が分かっていない――本当に、腑に落ちない。























<to be continued>







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