ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 20 "My Home Is Your Home"






Action26 −激歴−








 "不完全生体"、異名が指し示す場所は部屋ではなく区画であった。融合戦艦ニル・ヴァーナを軽く凌駕する規模の母艦は、一つ一つの施設に広大な区画を用意させている。

広さを有効活用する人間のような理念はないらしく、単純に規模単位で施設を割り振っているらしい。その分無駄も多いのだが、刈り取り兵器として機能すればそれでいいのだろう。

マップデータを手に入れたカイ達調査チームはバート・ガルサスが運転する車に乗って、ミスティが希望する施設へと向かった。


到着した目的地は、研究所であった。


「士官学校にもあったよ、こういう所。軍事研究の一環とかで、敵の生態とか調べて――あっ、ごめん」

「我々とてお前達男を目の敵にしていた、気にする事はない。問題視するつもりはないが、今の話は少し興味がある。
お前達タラークは、我々メジェール人について調べていたのか」

「うーん……今にして思うと、研究とは名ばかりの教育だったね。あくまで上から提供された物を信じ込んで、調べていただけだからね。
鬼の細胞とか何とか言ってたけど、実際はどんな代物だったのか知りたくもないよ」


 バートは当時を思い出して肩を落とした。士官学校は軍事国家にとって、最先端教育の場だ。軍事研究の一環で、敵の生態を調べる事は基本である。

ただ本当にメジェール人の生態を調べたりすれば、同じ人間であるとすぐに発覚するだろう。政府側は研究を容認しながらも、研究の捏造を図ったのだ。

士官学校も言わばタラークによる洗脳の場、上巻が絶対であれば上巻の提供された物もまた本物となる。


箱庭の中では、疑う余地もない。


「その口振りからすると、お前は信じていなかったんだな。どうしてだ?」

「鬼の生態とか言われても気持ち悪いじゃないか。深入りなんてしたくもない」

「あー、なるほどね。まあ、お前らしい理由だな」


「……ジュラ達の事を言われているのだと思うと、何だかちょっと複雑なんだけど」

「あはは……運転手さんが信じなくてよかったね」


 気軽に笑い話と出来るのは、男女の垣根を超えられたからだ。本当の意味でお互いを研究して理解した彼らにはもう、嘘の事実は通じない。

自分の目で見て確認し、お互いに話して理解し合う。生態などとみみっちいものではなく、一人の人間として全てを理解しようとする姿勢が関係を育んだ。


今こうして笑い合えるのは、それだけで素晴らしいことだ。


「そうよ、だからこそあたし達は真実を知らないといけないの。敵の事を知る為に、あたしはこうして自分の足で来たんだから」

「よし、ミスティがカッコいいことを言ったところで中に入ってみるか」

「せっかく綺麗に仕切ってあげたのに茶化さないでよ、恥ずかしくなるでしょう!」


 笑い合っていてもそこは歴戦の兵達、油断はしていない。メイアが先導し、カイが後方に回り、子供達を中心として、バートやジュラ達が囲い込む。ピョロとユメが宙に浮かんで、警戒。

最重要施設であろうこの場所は当然厳重なセキュリティが設置されているが、システムがダウンしていては何の意味もなかった。

恐らくカイ達の母艦突入時に封鎖されたのだろう、シャッターが閉じられていたが、セキュリティさえ無ければピョロが力ずくでこじ開けられた。



そして一同は、中へと入った――



「寒っ!?」

「う〜、ブルブル……システムがダウンしているのに、何で空調が利いているんだ!?」

「お前は何を言っているんだ。空調まで止まってしまったら、今頃お前達は酸欠で死んでいる」

「あっ、そうか。生命維持装置は機能しているのか――えっ……!?」


「そうよ、この母艦には生命維持装置が機能している。中央システムまで停止しても、生命を維持する装置だけが別に管理されているの。『無人兵器』しかいない筈の、この母艦に。
その事実に気付いた時からずっと、あたしはこういう施設があることを確信していたの。


刈り取りの、施設。生体の維持――人類より奪った臓器を、保管する施設の存在を!」


 冷気に満たされた、白亜の空間。研究所と錯覚するほどの清潔感に満たされた、保管庫。臓器の保存と研究に従事する、"不完全生体"フロア。

母艦や無人兵器のシステム全てよりも優先度の高い、隔離施設。無人兵器も、母艦も、その全てが地球のために――刈り取りの為に、製造された兵器。


地球を狂気に駆り立てた全てが、この施設に眠っている。


「このフロアで刈り取りが行われてたってのか!?」

「ち、地球の連中って臓器を奪っているんでしょう!? 何か、そんな風にはとても見えないんだけど……」

「血とか臓器とか飛び散っていたら、清潔感が保たれないでしょう。彼らが欲しているのは、新鮮な臓器よ。
不衛生な場所で管理していたら、臓器なんてあっという間に腐っちゃうわ。セキュリティは臓器保管の為でもあるのよ」

「れ、冷静だね、ミスティ……怖くないの?」


「――覚悟を決めて、あたしは此処に来たのよ。此処が、あたしにとっての戦場なの」


 カイやジュラがパニックになる中で、ミスティはあくまで平静。恐る恐る聞いてくるディータに対しても、表情を険しくしながらも冷静に答えた。

人間の臓器は、温度的条件に保管条件が異なる。凍結させておけばいいのではなく、常温や冷却を含めた多種多様な保存を行わなければならない。

昔から臓器移植に限らず、生体を保存するのであれば、凍結ではなく低温にする方法が用いられてきた。


カイ達が寒いの一言で済んだのは、低音調節がされていたからである。


「なるほどな。ミスティ、お前が懸念しながらも子供達の同行を許したのは、この保存状態を知っていたからか」

「今も反対ではあるんですよ、お姉様。冷却保存されているとはいえ、子供達を連れてくる場所じゃありませんから」


 ミスティの説明に、バートがハッとした顔で子供達に向き直る。連れて来たのは自分だ、こんなえげつない施設とは知らずに同行を許してしまった。

バートは慌てて、シャーリーの顔を覗き込んだ。


「だ、大丈夫かい、シャーリー!? 気分が悪いのなら、すぐにでもここから出よう」

「う、ううん。びっくりしたけど平気だよ、おにーちゃん」

「えっ、でも――」


「わたしは今までずっと、病院で寝ていたから」

「……あっ」


 ――病の星で生きてきたシャーリーにとって、人の死は身近であった。病院とは病人が集まる場所、病気とは体の内部を悪くした者達が集う。

生々しい臓器こそ直接見ていなくても、彼女は人体というものによく触れている。死が間近である少女にとっては、地球の狂気も恐怖の対象にはならない。

今怖がらずに済んでいる何よりの理由は、こうして心配してくれる家族がいる為なのだが。


「ツバサ、お前は平気か?」

「……アタシのいたミッションでは、野垂れ死にする奴も平気で出てきたからな。あんな掃き溜めに比べれば、此処はまだ清潔だよ」

「うえええ、気持ち悪いピョロよ〜」

「何でロボットのあんただけが気分悪くしているのよ、バーカ」


 ツバサは案ずるカイに機嫌よく笑いかけているが、逆にピョロは気分悪く蹲っていてユメから馬鹿にされていた。幻想の少女に、恐怖の感覚はないようだ。

ジュラも気分悪そうにはしているが、清潔な雰囲気と冷たい空気により何とか持ち直している。ディータはミスティの手を握って、何とか落ち着いていた。


メイアとミスティは厳しい視線で、保管庫を見渡した。


「"不完全生体"とは、つまり私達の事か」

「臓器のみを指しているのか、それともあたし達の生体を指し示しているのか――いずれにしても、不愉快ですね」

「何としても暴き立ててやりたいが、子供達がいる今では難しいな」

「あたし一人でも――」

「駄目だ。逸る気持ちは理解できるが、少なくとも医者のドクターは必要だ」


 此処に在るのは、真実。地球の狂気は隠されている、という閉ざされた事実。何もかも暴き立てれば、その狂気に飲み込まれてしまいそうな闇が秘匿されている。

ミスティは向き合う覚悟は固めている。だが暴き立てるには、強さも必要だ。力がなければ、重すぎる真実に潰されてしまう。


カイ達にとって無人兵器が強敵であるように――ミスティが倒すべき敵は、"刈り取り"なのだ。























<to be continued>







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